にこやかに微笑んでいるように見えて内心死にそうだったのかもしれませんね?
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一方、ゴールした後の関係者席で一部始終を見届けた石原トレーナーと打出トレーナー。
そこには。
曲げた膝に手をついて頭を下げた打出トレーナーと、その様に少し引いている石原トレーナー。
打出トレーナーのポーズはまさに、ヤクザが見送り・出迎えをする際の挨拶のポーズのそれだった。
「--アザっした、兄貴。勉強させていただきました!」
「俺はお前の兄貴じゃない」
とりあえず話がしたいのでヤクザ映画の真似事をしている打出トレーナーの頭を上げさせると。
「……勉強になったのはこっちのほうだ。久しく忘れていたかもしれんな、這い上がったやつの覚悟など」
ここ数年、石原トレーナーは期待のウマ娘ばかり担当しており。
メティキュラスが羨ましがっていたように、今の担当のジープベニザクラだって総合的に見ればかなりの実力を持っている。
そんなエリートと天才である自分たちに対して新人と落ちこぼれとして立ち向かってきた打出トレーナーとメティキュラス。
2人がどれほど苦労し、対策を重ね、覚悟をもって、自分たちに勝ちに来たか。
勝ったとはいえ、このレースで思い知らされることになった。
「リベンジならいつでも受け付ける。また挑みに来てくれ。全力で相手してやろう」
「ええ。その時は、キッチリタマァ取らせていただきますんで、よろしくお願いします!」
その後、石原トレーナーは、地下バ道へジープベニザクラを迎えに行っていた。
彼女はすぐに見つかった。
全日本ジュニア優駿の優勝レイをまるでこれから洗濯機にぶちこむタオルか何かのようにぐしゃぐしゃにつかんだ状態で引きずりながら。
何と戦ってきて帰ってきたんだと言いたくなるような、ボロボロで歩いているような様子だったからだ。
ジープベニザクラもまた、石原トレーナーに気づくと。
「……取ってきました、トレーナーさん。飾っておいてください」
と、すでにしわだらけになった優勝レイを乱暴に石原トレーナーに投げつけた。
石原トレーナーはぐしゃぐしゃの優勝レイを受け取ると、それをまじまじと見つめる。
優勝レイそのものの出来栄えは格式高い八大競争と何ら変わらない。
そして格式が及ばないとはいえG1の優勝レイだ。
物理的にではなく、その価値としての重さもズシリと石原トレーナーに響く。
そんな優勝レイを使い終わったタオルか何かみたいに投げてくるとは。
これがダート流の優勝レイの渡し方なのか。
それとも、これ1つだけではタオル程度の価値しかない。
もっと多く奪ってきてやるという意思表示なのか。
……どっちもだろう。