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この時期のトレセン学園では、連日模擬レースが開催されている。
今日も芝の模擬レースが開催されており、ゲート前には数えきれないほどの体操服とゼッケン姿のウマ娘が並んでいる。
観客席には今年の有力候補を射止めようとこれまた多くのトレーナーと記者が詰めかけていた。
石原トレーナーもまた詰めかけるトレーナー陣の1人として腕を組み、難しい表情をしながらレースを眺めている。
「今年デビューの有力はやはりメジロラモーヌか?」
ふと石原トレーナーの耳に、トレーナーと記者の下馬評が耳に入ってきた。
「ああ。トリプルティアラも狙えるほどの逸材だが、なんでも担当トレーナーは新人だとか。なんで新人を?」
「なんでも、ラモーヌ側からその新人を逆スカウトしたらしい。彼女には響く何かがあったんだろうさ」
今から数日前の模擬レースを経て、名門メジロ家のメジロラモーヌがトレーナーを決めたことは石原トレーナーの耳にも入っていた。
事実、石原トレーナーもメジロラモーヌは1つで偉業とされるティアラ路線のレースをを3つ一気に獲得するトリプルティアラも不可能ではないと踏んでいる。
「(ラモーヌは俺も狙っていたんだが……どうやら俺では不釣り合いだったんだろうな)」
石原トレーナーは悔しさを言い訳で誤魔化して目の前のレースに集中することにした。
本日の芝コースの模擬レースが終了した。
模擬レースを走った新入生ウマ娘がクールダウンする中、トレーナーたちはお互いに意見を交わし始める。
「石原さん、俺はアイツ狙ってるんですがどう思います?」
「基礎は整っているな。少し走り方に癖があるからそこをどうするかはお前次第だ」
「そう言われるとやる気出て来るぜ」
「あの子、走っても息が乱れていませんでした。スタミナには秀でていると思うんですが、石原トレーナーはどうお考えで?」
「俺も同意見だ。ロングディスタンスのロングスパート向きじゃないだろうか。本人は前目を狙っていたが追込でやらせてみたらどうだ?」
「ありがとうございます。参考にさせて頂きます」
石原トレーナーも同じく周囲のトレーナーたちと意見交換を行う。
というより相談に乗ってあげている、と言ったほうが正しい。
やはりベテラントレーナーたる石原トレーナーを参考にしようと多くの若手トレーナーたちが意見をもらいに来ている。
石原トレーナーからお墨付きをもらった若手たちが目を付けたウマ娘に走っていく中で。
肝心の石原トレーナー本人はその場から1歩も動かず、静かに首を横に振った。
「やはりピンと来んな……」
この目で確かめてはみたが、「これだ、この子と共に歩みたい!」というウマ娘は終ぞ現れなかった。
自分より若いトレーナーたちは続々と担当を決めており、このままでは自分は売れ残ってしまいかねない。
しかし、自分に合わないウマ娘をしぶしぶ引き受けるのも……
「誰か、俺の情熱を沸き起こさせてくれるスーパーウマ娘がいないもんかね」
苦笑いをしつつ石原トレーナーは持ってきた模擬レースの日程表をもう1度見直す。
すると、今終了した芝の模擬レース以外にもう1つ、まだやっている模擬レースがあることに気がついた。
「ダートの模擬レースはまだやってるのか……」
石原トレーナーは目を閉じて唸るように考えこむ。
ではダートに行こう!と簡単に決めるには、石原トレーナーのプライドが邪魔をする。
石原トレーナーが今まで担当してきたクラシック戦線・ティアラ戦線はトレセン学園において最高ランクの格付けだ。
八大競争をはじめとするG1には輝かしい歴史と伝統があり、国際的にもその価値を高く認められている。
1つでも勝利すれば未来永劫、その名が歴史に刻まれるだろう。
それに対し中央トレセン学園において、ダート戦線とは格付けにおいて最低ランクに位置し、明らかに冷遇されていると言っても過言ではない。
例えG1を勝ったウマ娘でも、その名が歴史に刻まれるどころかそもそも覚えてもらえないことすら珍しくない。
ダートというのは芝で走れない落ちこぼれが仕方なくいく場所と言われ。
そこを走るウマ娘は"泥ウサギ"だの"2軍のドサ周り"だの"砂遊びしてる連中"だの散々な言われようを受けるほどだ。
芝とダートというのはそれくらい大きな格差がある。
クラシック・ティアラのエリート街道をまっしぐらに突き進んできた石原トレーナーにとってダートウマ娘を担当するなど。
屈辱的な左遷、といっても過言ではないのかもしれない。
「うーん……まあ、見てみるか……」
担当ウマ娘の決まらない石原トレーナーは幸いこの後の予定がフリーだ。
左遷であっても担当がいないよりはマシだろう。
最終的な判断はこの目で見てから。
落ちこぼれの行くダートに、ピンと来るウマ娘がいることに賭けて。
石原トレーナーはダートコースへと足を運んだ。