解説:「終盤で前方にいるなら加速度と速度を少し上げる。残りスタミナが十分ならどちらもさらにちょっと上がる。」
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G1レース日の夜はウイニングライブだ。
ファンサービスの一環でもあるレース後のウイニングライブは、ダートレースならすべてUnlimited Impactという曲になる。
石原トレーナーもUnlimited Impactの存在くらいは知っていたが、実際に見に行くのは初めてだ。
「ほう、これはまた斬新な」
「僕はここしか知らないのですが、斬新なんですか?」
ライブ会場で再会した石原トレーナーと打出トレーナーはウイニングライブについて語り合っている。
「そうだな、Special RecordやWinning the Soulはもっと華やかだ」
Unlimited Impactのステージは金網や鉄骨に脚立、複数のテレビといった装飾が目立つ。
その様はまるで工事現場だった場所をどうにかしてライブステージに改装したかのようだ。
「なるほど、やっぱりダートはライブも小っちぇんですか」
「……いや、そうでもないさ」
少しのイラつきを含んだ打出トレーナーに対し、石原トレーナーも予想外という風に言葉を漏らした。
実はウイニングライブの観客数はともかく、会場の規模そのものは芝のライブとそう変わらない。
やはりダートウマ娘にとっても晴れ舞台、ということで採算度外視で用意してくれたのかもしれない。
石原トレーナーは秋川理事長に心の中で感謝しつつ、赤色のサイリウムを両手に持った。
それを打出トレーナーは恨めしそうに見ている。
「……畜生め。僕のメティの分をもって来て上げられれば良かったのですが」
Unlimited Impactは3位までのウマ娘が壇上で歌うことができる。
4位のメティはバックダンサーだ。
「フッ、まだ最初の1戦だろう。最下位じゃないんだから、いずれ立つ機会もあるさ」
「ええ、励みます。センターの座も譲っていただければ嬉しいんですがね」
「それは断じてやらん」
照明が消えた。夜なこともあり、隣すら見えない暗闇になる。
しばらくすると、砂嵐のテレビが映り、メロディーが始まった。
スモークからだんだんと明るくなっていき、3人のシルエット状態のウマ娘が前に出てくる。
そして、一気にバッ、と青白い照明が付き。
シルエットだったジープベニザクラと2着3着のウマ娘が観客席に手を伸ばして、初めてとは思えないほど手慣れた振付を始めた。
後ろにはメティキュラス、そして5着以下となったバックダンサーも同じく手慣れた感じで踊っている。
どいつもこいつもあえてレース直後の砂を落とさず、汚れたままの格好でのライブだったが、みんなむしろその姿を誇らしそうにしていた。
「視界全部奪うような 打ち付けるスコールの中でも♪」
3人が三角形のようなフォーメーションを取り、まずはセンターのジープベニザクラから歌いだす。
「きっと攫われ流れるのは 言い訳と迷いだけよ♪」
続いて2着のウマ娘も歌いだす。次は3着のウマ娘だ。
……正直なところ、カッコイイベースが流れるこの曲はジープベニザクラのイメージには似合っていない。
他にも似合ってない服装で歌っているウマ娘が何人かいる。
この曲に合わせるなら、服装はワンピースなどではなく、もっとロックでクールな服装を着てくるべきだ。
「ぬかるんだ現状に足をとられて 陰鬱な空気が喉塞いでも――♪」
だが、Unlimited Impactのテーマは逆境、反逆、不屈。
変わり者を自称し、それを自分らしさとするジープベニザクラにとって。
そして格式も気品もない場所に堕ち、蔑まれながらも走り続けることを選んだ他のウマ娘たちにとっても。
Unlimited Impactこそが似合っている曲なのだ。
実際、観客側からしても、かわいらしいウマ娘がカッコイイ曲を歌うことがUnlimited Impactの見どころの1つだったりする。
「この声は絶やせないでしょう この足は止まらないでしょう♪」
「いのちのかぎり!♪」
照明が一気に明るくなり、メロディーがサビに入る。
「どうか全力で射抜いてよ 瞳で私を♪」
「焼き付けていこう それは約束の進化系♪」
「傷を痛がって投げ出す程度の想いじゃない♪」
「君は目撃者だよ♪」
「Yes…Unlimited Impact!♪」
「見せてあげる Evolution♪」
最後に、ジープベニザクラは両手を突き上げ。
観客に向けてグッと握った。
「Go Ahead! 未来 DAYS!♪」