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ちょうどよく、石原トレーナーの目に通行ウマ娘に紛れてジープベニザクラが歩いている姿が目に留まった。
「いた。おーい、ベニザクラ!」
石原トレーナーがジープベニザクラの名を呼ぶと、すぐにジープベニザクラは振り向いて。
「あらトレーナーさん。今の時間に遭うのは奇遇……です……ね……」
石原トレーナーの後ろに鎮座しているピックアップトラックを見て固まった。
まさか、自分のトレーナーが馬鹿でかいピックアップトラックに乗っているとは思いもしなかったのだろう。
「ト、トレーナーさん!これ、トレーナーさんのですか!?」
ジープベニザクラは露骨に避ける周囲のウマ娘とは真逆で一気にピックアップトラックに駆け寄ると。
過去一キラキラした目で石原トレーナーのピックアップトラックを指さした。
普段あまり揺れないジープベニザクラの尻尾もご褒美を与えられたペットよろしくブンブン振り回されている。
その喜びようたるや、G1を制覇した時以上ではないだろうか。
「俺のだ。ほう、やはりベニザクラにはこのカッコよさが分かるか」
「ええ、それはもう……!すごい、お父さんが憧れてたやつだぁ……!」
とうとう敬語すらも忘れてジープベニザクラは石原トレーナーのピックアップトラックの周囲をぐるぐる回りだし。
車体やタイヤ、荷台や中のインテリアを観察してはしゃぎまくっている。
石原トレーナーとしても、大枚をはたいてロマンを求めた趣味で担当ウマ娘に喜んでもらえるならこれほど嬉しいことはない。
ふと、石原トレーナーはメイクデビューの時に会ったジープベニザクラの両親を思い出す。
ジープベニザクラの父は愛車の軽自動車を何時間と乗り回して可愛い娘のメイクデビューへと訪れていた。
母もそれにノリノリだったことから察するにドライブ大好き一家なのだろう。
それこそ生まれた我が子のウマ娘の名前にジープと入れてしまうくらいには。
そして、父は自分は軽自動車しか買えない、本当はジープみたいなSUVに乗ってみたいが、そんなことは夢のまた夢だとこぼしていた。
「(あの時はちゃんとトレーナーとして接してしまったが、プライベートについても語り合えばもっと盛り上がれたかもな。)」
ドライブ大好き一家の子として生まれ、今まさに夢のまた夢の車が表れて大喜びするジープベニザクラをよそに、石原トレーナーはそんなことを思うのだった。
「そうだ、本題を忘れるところだった。すまんが、出張で数日トレセンを空けることになってな」
我に返った石原トレーナーは出張日数分のトレーニングメニューをジープベニザクラに渡す。
「その間はここに書いた自主トレを頼む。そう長くはかからんから……」
芯の強いジープベニザクラなら自分が数日いなかったところで問題はないだろうが。
これまで平気そうに振舞ってきたウマ娘がトレーナーの出張で急に駄々をこねだした話を何度も聞いてきた石原トレーナー。
もしかするとジープベニザクラも平気ではないかもしれない、と思い少し申し訳なさそうに話す。
ジープベニザクラは練習メニューが入ったクリアファイルは素直に受け取ったが。
「……私も、ついていったらダメですか?」
「ダメだ、連れては行けん……お前、俺の車に乗りたいだけだろ」
「はい」
トレーナーと離れ離れになるのが寂しいから一緒に行かせてくれ、ではなく。
トレーナーの車に乗りたいから一緒に行かせてくれという斜め上の理由で駄々をこねだしたジープベニザクラ。
残念ながら、意見交換会にウマ娘が出席することは認められていない。
「ドライブなら別の日に連れてってやるから。頼むぞ」
「……約束ですよ?約束ですからね!」
このやりとりを周囲にいたウマ娘たちは、「ああ、また出張関係で揉めてるんだな」という目をしながら通り過ぎて行った。
とはいえ、今後一緒のドライブを約束することで納得したジープベニザクラはまだ手のかからないいい子と言えるだろう。
その後、ジープベニザクラは渡していたメニューをきっちりとこなしており、調子が崩れることも寂しがることも一切なかったそうだ。