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石原トレーナーにとって原崎トレーナーの名前はうろ覚えだったが、アルマダクロックという名は忘れようがない。
スレイプニルステークスの勝者であり、もしジープベニザクラにとって強敵となるならこのアルマダクロックだ。
差し出された手を石原トレーナーはがっちりと握ろうとするが。
突然横から、ジープベニザクラが割り込んだ。
差し出されたアルマダクロックの手は、ジープベニザクラが握る。
「あなたの相手は私です。どうも、ジープベニザクラです。以後お見知りおきを」
「……ベニザクラ。噂は聞いてる」
アルマダクロックは言葉少なに答えて2人は固い握手を交わす。
しかし、その手が社交辞令であることは明らかで。
バチッ、と2人の目線の間に火花が散ったような気がしたのを、石原トレーナーも原崎トレーナーも見逃さなかった。
大井レース場まで、ジャパンダートダービー出走者御一行様はしばらくバスに揺られることになる。
「それにしても石原さん、よく合宿所とJDDが被っているのに気がついたな」
「お前こそ。夏は合宿だなんて思い込みはよくないと思い知らされたよ。アルマダはここまで1戦も落としていないな、大したものだ」
「アンタのベニザクラだってそうだろう。格上挑戦になるが、絶対足元すくってやるぜ」
石原トレーナーと原崎トレーナーが会話を繰り広げている間。
アルマダクロックは原崎トレーナーと離れるどころかぎゅーっと抱き着くようにくっつきっぱなしでいる。
「あのー…アルマダさん?なんでトレーナーさんにずっとくっついてるんですか?」
「一緒にいたいから。ダメなの?」
アルマダクロックは何がいけないんだという風な表情で答えた。
どうやら、アルマダクロックはかなりの寂しがりというか甘えん坊というか。
できれば信頼する人にずっと引っ付いて回りたい性分のようだ。
「ハハッ、可愛いモンだろ、アルマダは?」
原崎トレーナーはアルマダクロックの頭をポンポンと叩き、それにアルマダクロックはご機嫌になる。
気軽に頭を触らせているあたり、2人の信頼関係、絆の強さは相当なものだとみられる。
「それに比べて、アンタらのコンビはまるで傭兵みたいだぜ?」
契約期間内はきっちり働き、仲の良いフリでも従順なフリでもしてやるが。
契約期間が終われば他人、後はどうなろうが知ったこっちゃない。
アルマダクロックとの仲を深めることを最優先してきた原崎トレーナーにとって、石原トレーナーとジープベニザクラのコンビはそれほど淡泊に見えると冗談交じりに言い放った。
「そういうドライな関係も悪くないかもしれませんが……」
ジープベニザクラはそう言った後、石原トレーナーの手にぎゅっと抱きついた。
「今回は張り合わせてもらいます。私とトレーナーさんは仲いいですから」
「お、おい。まあ事実だがな」
「……ん」
石原トレーナーの腕を掴んだジープベニザクラを見たアルマダクロックは原崎トレーナーの腕をより一層強く握った。
アルマダクロックも、どれほどトレーナーと仲がいいかを張り合っているらしい。
「いててて、張り合わんでいいアルマダ。お互い好きなのは言うまでもねえだろ」
「そうだね」