それはそれとして勝負は別だ。
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大井レース場行きのバスの車内は和気あいあいとした雰囲気が流れている。
見知った顔もそれなりにいるし、ここで初めて会うウマ娘やトレーナーも今後お世話になることが多々あるだろう。
良い関係を築いておくに越したことはない。
「合宿所のビーチ、すごく広いみたいですよ。早く泳いでみたいです」
「ベニザクラは泳ぐの得意?合宿所についたら、ボクと遠泳しよう」
「望むところです、そちらの勝負も受けて立ちましょう」
「アルマダとはどこで会った?」
「盛岡のトレセンからスカウトしたんだ。俺の観察眼も悪くないだろ?」
「認めよう」
ジープベニザクラとアルマダクロック、石原トレーナーと原崎トレーナーだけでなく。
他のウマ娘・トレーナー同士もそんな雑談をしていると。
「見えてきたぞ、大井レース場だ」
バス内のどこかにいたトレーナーが声を上げた。
窓の向こう側には大井レース場が遠目に見えている。
すると。
「ベニザクラ知ってる?合宿所のかき氷ってはちみー味が……」
アルマダクロックは、ジープベニザクラとしていた他愛のない話を急に止めた。
「…………」
さっきまで楽しそうに話をしていたジープベニザクラはアルマダクロックに返事を返さない。
周囲を見てみると、2人だけでなく。
急にバス内が静まり返っていた。
和気あいあいとした雰囲気は一変。ピリピリとした殺気に包まれだす。
多くのウマ娘とトレーナーは間もなく到着する大井レース場を数秒間眺めた後。
眺め続ける者、腕を組んで瞑想する者、ライバルを睨みつける者などが多くみられた。
ジープベニザクラとアルマダクロックは一番後者。
2人は無言でお互いをチラっと見た後、無言で視線を外した。
ジープベニザクラとアルマダクロックは日常や練習では今後もお互いお世話になるのだろうが。
今からはレースの時間だ。
レースにおいて2人の関係は、蹴落とすべき敵でしかない。
発走日の夜。
ジープベニザクラはコンバットブーツの靴紐を固く結んで勝負服を着終えた。
着終えたらすぐにでも出れる。
ジープベニザクラに精神集中のコツだとかルーティンだとか、そういうものは特にない。
そんなことをしなくても、ジープベニザクラは平常心で最大出力を出せる。
「これでよし。少し準備が早すぎましたかね?」
「なら2つほど話をしよう。1つはアルマダについて。得意なペースは同じく先行」
「長所はレースセンスと"粘り強さ"」
粘り強さ、と聞いてジープベニザクラは少しだけ目を見開いた。
「……試させてもらうとしましょう」
レースセンスは譲ってやるが。
最終直線での粘り強さはジープベニザクラの一番の強み。
その点だけは譲るわけにはいかない、と心の中でジープベニザクラは決意を固める。
「あと1つは?」
「これは俺からのアドバイスなんだが」
「"勝とうと思うな"」