ーーー59ーーー
「最初から芝を投げ捨てた奴がお前のベニザクラだけだとでも思ったか?」
突如、小原トレーナーはアールライズの過去について話し出した。
中央トレセン学園にいるダートウマ娘の多くは、落ちこぼれ組。
つまり、適性や実力の問題で芝に挑戦することを諦めながら、トレセン学園を去ることだけは諦めきれなかったウマ娘たちが集まる場所で。
このステップを踏まずにいきなりダートに来たジープベニザクラはむしろ珍しい存在だ。
だが、珍しい存在ではあるがそういうウマ娘はジープベニザクラ1人だけではない。
石原トレーナーが今知った、いきなりダートに来たウマ娘2人目が。
アールライズというわけだ。
「アイツは大井の生まれだ。そうだよ、あの大井レース場がいつでも近くにあった」
イナリワンと同じく、アールライズはもともと大井レース場でデビューしたらしい。
「……それだと、大きなダートレースには馴染みがあっただろうな」
「ああ、それこそ、クラシック3冠よりそっちに目が行ってこの世界に来た」
そして、幸か不幸かとんでもない才能と努力でもって。
何年か前のジュニアとクラシックを地獄の様相に変え。
今はシニア級ダートを繰り返し地獄に変えているというわけらしい。
……ここまでアールライズを紹介してきて、スターだとか英雄だとかそんな輝かしい称号をアールライズは賜っていたと思うだろうか。
いいや、繰り返し"地獄の様相"と言っているように。
アールライズのことはウマ娘だけでなく、知る者全員が地獄をまき散らす災厄のような存在だと思っていることだろう。
「……とんだ"伯爵様(Earl)"だな」
皮肉たっぷりに石原トレーナーは言葉をこぼしたが。
「ありがたいね、そう言ってもらえるのは」
ジープベニザクラがレースでの妬み恨みを褒め言葉と捉えるように、小原トレーナーもまた、その皮肉を嬉しそうに受け取った。
「……だが、怖気づいたとは一言も言ってない」
そこまで聞いて、強い意志で石原トレーナーはもう一度南部杯の文字を叩いた。
「アールの5連勝はたいしたもんだが、ベニザクラだって現在5連勝中だ」
「それに、連勝を止めてくれるような奴がいたら、アールライズとしても望むところだろう?」
小原トレーナーはニヤリと挑発的に笑う。
「アールが今年の帝王賞の優勝レイ投げ捨てた事件は知ってるか?」
「そろそろG1にすら退屈してんだアイツは。ベニザクラにかかって来いと伝えておけ」
「承知した」
そこまで言うと、小原トレーナーは立ち上がり、トレーナー室を後にする。
「キャンディごっそうさん。楽しみにしてるぜ、南部杯!」