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「ーーアールライズさん、ですか」
あれよあれよという間に、南部杯の日はもう今日になってしまった。
既に盛岡レース場に現地入りし、ジープベニザクラは勝負服まで着終わってさあこれから本番というところまで来ていたが。
どうも、ジープベニザクラ本人はピンときていない様子で首を傾げた。
「ああ、今回の南部杯の最大の敵……とはいうが、その気持ちも分からんでもない」
石原トレーナーは首を傾げたジープベニザクラに対して頷いた。
「ーー"お会いしたことがないんです"。名前こそ聞きますが、噂、噂で」
そう、ジープベニザクラはアールライズとレース直前の今になっても実際に会ったことがなかった。
ダートの世界で地獄を作り上げている張本人だというのに。
避けられているのか偶然なのか、2人とも学園内でもグラウンドでも全く姿を見かけたことがなかった。
「俺も小原とは何度かあったが、アール本人とはさっぱり会わん」
「災厄は起こる前にこんにちは、なんて言いに来ないということでしょうか」
ジープベニザクラは椅子から立ち上がると、控室の扉の目の前まで来た。
「とはいえ、アールさんが実在するウマ娘である以上は、ただ先にゴールする、それだけです」
だが、恐ろしい噂ばかり流れて来ながらも、ジープベニザクラはたじろぐ様子をこれっぽっちも見せない。
「ああ、誰が来てもやることはシンプル。好きに走れ。そして追い抜いてやれ!」
そう言うと、石原トレーナーは固い握り拳を作り。
ジープベニザクラの背中を強く2回叩いた。
「準備完了だ、キーを回せ!」
「はい、行って参ります!」
ジープベニザクラが地下バ道を進んでいくと。
パドックへの道から雨音が聞こえてきた。
ここ数日は連続で雨が降り続いており、どうやら今日も分厚い曇り空は耐えられなかったらしい。
ウマ娘の勝負服は荒天でも走りのパフォーマンスは低下しないようなデザインにはなっているが、多くの場合撥水性はあまりない。
そして原則としてレインコートの着用は認められてない。
つまり、今日みたいな雨の日はずぶ濡れになって走ることになり、当然雨を嫌がってウマ娘本人のパフォーマンスは低下する。
そんな中雨天でも問題なく走れる、というのはウマ娘の強さの1つともいえるだろう。
そして連日の雨ということは、盛岡レース場の砂はこれでもかと水を含んで、間違いなくバ場状態は不良の判定が出ているだろう。
芝でもそうなのだが、不良バ場のダートを例えるとしたら戦場の泥濘。
そんな最悪なところを走るなんてたまったもんじゃない、なんてウマ娘も多くいるだろうが。
「雨だなんてツイてます」
ジープベニザクラは環境変化に強いウマ娘だ。雨程度でパフォーマンスは下がらない。
むしろミスターシービーといっしょにずぶ濡れになるようなジープベニザクラだ。嫌がるどころかちょっとウキウキしながら地上へと上がっていった。
本人にとっては、荒天など苦にしないと証明するいい機会になる。