ウマ娘 コノハナレッド   作:takapon960

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雨が嫌でダートが走れるか!


第61話

ーーー61ーーー

 

ジープベニザクラが盛岡レース場の砂を踏むと、ジャクッ、という嫌な音が下から聞こえてきた。

 

既にダートの砂は水を含んで"泥"と化しており、踏むと足跡ができて汚い泥水が染み出てくる。

 

同時に大粒の雨がジープベニザクラの顔を叩きつけた。

 

ジープベニザクラは泥水が貫通する気配のないコンバットブーツに心の中で感謝しつつ。

 

雨が目に入らないよう少し目を細めつつも、ジープベニザクラはしっかり顔を上げ、前を向いて雨に打たれながらパドックを歩いていく。

 

「--5枠10番ジープベニザクラ、2番人気です」

 

「ここまで5戦5勝のパーフェクトでこのアールライズ一強体制に挑みます」

 

ジープベニザクラはそこで耳を澄まして、雨音の奥に聞こえる観客の声を聞こうとする。

 

確かにジープベニザクラは歓声で迎えられはしたが、その歓声の意図は全日本ジュニア優駿やジャパンダートダービーとは少し違った気がしたのだ。

 

「頼むぞ!アールに勝てるのは、もうベニくらいしかいねえよ!」

 

「バカ言え。確かにベニザクラはクラシックじゃ最強かもしれんが、アールにとっちゃ小娘もいいトコだ」

 

どうやら、この地獄のシニアダートに一石を投じてくれる最有力候補としてジープベニザクラが選ばれたらしい。

 

とはいえ、アールライズは既にシニア級を複数繰り返したベテランウマ娘。

 

ようやくこの場所に上がってきたクラシック級のウマ娘など、ジープベニザクラもひっくるめてまとめて未熟者にしか見えないだろう。

 

 

「さて本命来ました、6枠12番大外アールライズ、やはり不動の1番人気!」

 

「ジープベニザクラが彼女を打ち破らなければ、この様相はまだまだ続くでしょう」

 

パドックには暗い赤色のダスターコート、黄色のスカート、青いケープを羽織ったウマ娘が同じくしっかりと正面を向いて歩いていた。

 

アールライズもまた、雨や不良バ場ごときで調子を落とすウマ娘ではないことが分かる。

 

赤、黄、青、そして緑のイヤーカバーのわかりやすいカラーリングを見た観客たちの歓声……

 

いや、むしろどよめきに近い声が盛岡レース場に広がる。

 

「いくらベニザクラが強いって言ってもな……」

 

「あと1年くらいはこの調子だろう」

 

「クソッ。アールが出たレースは全部2着決定戦になっちまう」

 

アールライズのようなあまりに強すぎるウマ娘が人々に届けられるものは夢というより恐怖と諦めだ。

 

「……」

 

そして、そんなどよめきのような声が広がっていることを、アールライズ本人は気にも留めない。

 

故郷の大井レース場で走りたいがだけに、最初から自分でダートの世界に入ったアールライズだ。

 

誰かに夢を届けたり、誰かの憧れになるつもりは最初からない。

 

 

パドック紹介が終わり、出走ウマ娘が盛岡レース場のゲート前に集まる。

 

ダートウマ娘たるもの、芝のウマ娘以上に悪天候や悪条件になど負けていられないと奮起したいものだが。

 

それでも無意識に雨を背中で受けるような向きで立っていたり、下を向いて雨がかからないようにしているウマ娘がちらほらといる。

 

そして、それよりも目立つのが。

 

出走ウマ娘、総勢12人のうち、ほとんどがアールライズと露骨に距離を取っていたことだ。

 

アールライズはゲート前でポツンと1人残されて腕を組んでいる状態にされている。

 

あまりに化け物すぎる"ウマ娘のような何か"には、誰も近づきたがらないのだ。

 

「……ベニザクラ」

 

ふと、近くにいたウマ娘から急に声を掛けられ、ジープベニザクラが振り向くと。

 

真後ろに、顔を伏せ気味にして怪しい情報提供者みたいな耳打ちをしてくるアルマダクロックがいた。

 

「アルマダさん!あなたも南部杯に出ていたんですね」

 

ふと見知った顔にジープベニザクラは顔を明るくしてアルマダクロックに手を振る。

 

アルマダクロックは岩手県出身のウマ娘。

 

盛岡レース場はアルマダクロックにとってホームであり、盛岡レース場のG1である南部杯に出走してくるのは。

 

よくよく考えれば自然なことだと言える。

 

ジープベニザクラはアールライズだけでなく、リベンジをしてくるアルマダクロックにも気を使わなくてはならないようだ。

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