いや、そういうわけでもないようです。
ーーー62ーーー
……と思っていたのだが。
アルマダクロックはジープベニザクラが振っている手を掴んで止め無理矢理下げると。
悔しそうに首を横に振る。
「ベニザクラ。今日のキミの相手は……ボクじゃない」
そっち見て、とアルマダクロックは小さく顎で方角を指す。
その先にいるのはアールライズ。
「ホームのG1だからどうしても外せないレースだったけど……正直、ボクじゃフロック(まぐれ)でも勝てるわけが……!」
震える声でボソボソとジープベニザクラに耳打ちするアルマダクロック。
まるでアールライズに会話を聞かれたくないかのような様子で話しかけてくる。
アルマダクロックもまた他のウマ娘と同じように、アールライズを恐れているのだ。
「……アールを倒せるウマ娘がいるとしたらキミだけだ、ベニザクラ。どうか」
完全にアールライズのオーラに圧され、諦めと妥協のムードに入っているアルマダクロック。
仮にもジープベニザクラに2位まで食い下がったほどのウマ娘がここまで委縮してしまうとは。
「……そうですか。エモノを譲っていただけるなら、遠慮なくその権利頂きましょう」
それを聞いたアールライズは小さく頷くと、スッとジープベニザクラから離れて、周囲のウマ娘に溶け込んだ。
相変わらず、他のウマ娘とアールライズには5m程度の隔たりがある。
そんな5mほどの空間を。
ジープベニザクラは、あっさりとぶち破ってズカズカとアールライズに踏み込んでいった。
「アールさーん!」
初対面なのにジープベニザクラはまるで友達感覚でアールライズを呼びながら歩み寄る。
呼ばれたアールライズは言葉を返すことなくジープベニザクラの方向だけをちらっと見る。
気弱なウマ娘なら泡を吹いて倒れそうな鋭い眼光がジープベニザクラに向けられたが。
強メンタルのジープベニザクラは意に介さずアールライズと2人きりで話す距離まで近寄った。
こうして話すくらいの距離まで近寄ってみると、アールライズは意外に大きいことが分かる。
ジープベニザクラも165cmと小柄ではないのだが、アールライズはジープベニザクラよりも明らかに目線が高い。
目測では173,174cmくらいだろうか。
長いダスターコートが良く似合うわけだ。
「……意外と大きいですね。初めまして、アールさん。お噂はかねがね」
そう言いながら、ジープベニザクラは握手のための右手を差し出した。
「ジープベニザクラです。どうぞ本日はよろしくお願いしま―――」