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パンッ、と乾いた音が盛岡レース場の雨音を貫いて響いた。
アールライズは無言のまま、左手でジープベニザクラの右手を払いのけたのだ。
考えうる行為の中で最悪の、スポーツマンシップもへったくれもない、明らかな敵対行為。
その行為から言いたいことは。
「いいレースにしましょう!」なんて綺麗事なんぞ微塵も必要ない。
踏みにじって、それこそ泥濘と化した盛岡レース場のダートに塗れさせておけばいい。
そして、所詮クラシックから出てきたお前たちなど眼中にもない。
もし眼中に入れてほしければ、挨拶などいいから少しでも実力を見せてみろ、ということなのだろう。
そんなことを知ってか知らずかジープベニザクラは跳ね除けられた右手に視線を落とすと。
アールライズのことを軽く鼻で笑った。
さあ、社交辞令は終わりだ。
「……握手するときに出す手は逆ですよー?緊張で間違えちゃったんですかー?」
ジープベニザクラは右手を振りながらアールライズを煽り始めた。
しかし、アールライズはその挑発に乗ることなく、ゲートインを済ませる。
……済ませた位置で。
「……"エンジンの空ぶかし"なんて品がないわね、ベニザクラ」
と初めてジープベニザクラにドスの利いた低い声で返事を返した。
アールライズはエンジンの空ぶかし、などと"ジープ"ベニザクラに対してシャレた返事を返したが。
ここでいうエンジンの空ぶかしの例えとは、レース前に行う"無駄なおしゃべり"という意味。
つまり、「余計なこと言ってないでさっさとゲートに入れ、ベニザクラ」という意味だ。
「あら、お気に召しませんでした?」
ジープベニザクラはひらひらと手を振り、自分のゲートに向かって歩きながら言い放った。
どうやら、アールライズに挑発の応酬をしたところで冷たくあしらわれるだけらしい。
とはいえ、さっさとゲートに入れというアールライズの言葉はごもっともだ。
大外にもかかわらず、先にゲートに入ったアールライズはさらにジープベニザクラに睨みを利かせる。
「ヒッ……!」
いや、睨みを利かせた相手はジープベニザクラではなく、その後ろで震えていたウマ娘たち。
いつまでもアールライズから距離を取ってばかりでゲートに入ろうとしないウマ娘たちを。
アールライズはひと睨みするだけで恐怖でゲートに入れさせた。
「えーと、手こずっていた子もいたようですがゲートインは完了のようですね。では……コホン」
全ウマ娘がスタンディングスタートの姿勢を取り、係員がスターターハンドルに手をかけたことを確認してから。
実況は軽く咳払いをして、準備を整えた。
「……スタートです!」