なんて思うのは負けてからです。
ーーー66ーーー
残り300m。
既にジープベニザクラの視界に写っているのは、2バ身先にいるアールライズだけ。
「ーー私はここから!」
ジープベニザクラは周囲には分からないように歯を食いしばった。
彼女が底なしに持っているのは、その強靭な精神力だけ。
後のことは考えるな。
今、どうにかしろ。
その美しい桃色の桜、自分の血でビシャリと染めて。
ひたすらがむしゃらに走り切れ。
「くれないの桜、咲かせます!」
「私の紅いサクラ、アールさんに見せてやります!!」
ブラッドブロッサム。
ジープベニザクラもまた、3位以下のウマ娘たちを引き離して、アールライズを追いかける。
その紅きサクラ、後ろにいてはアールライズからは見えない。
見せつけるには、アールライズよりも前に行くしかない。
「ジープベニザクラ必死に追いかける!」
「しかし差が縮まらない残り2バ身で200m!厳しいか!?」
近づけない。
差が埋まらない。
ジープベニザクラは既に限界の先すら超えている。
これ以上出せるものなんかない。
「ハァッ……!ハァッ……!!」
「アールッ……さんッ……!!!」
脚も腕もちぎれそうなほど必死に振り回して前に進んでいる。
呼吸は苦しいを通り越してもう何が何だか分からない。
目は血走って、前すらぼやけてきて、アールライズすら良く見えない。
それほど命懸けで前に進んでいるのにアールライズとの差は縮まらない。
それでも、限界は、超えようと必死で思って超え続けるしかない。
アールライズとの差は、残り2バ身。
「残り100!……やはりダメだ!勝負が決まった!」
それでも近づけない。
それでも差が埋まらない。
ならあと少し超えるだけ……!
あと少しだけ……!!
「1着はアールライズ!2着にジープベニザクラ!」
「クラシックの赤き桜、健闘こそしましたがやはりアールライズという壁を越えられず!!」
最後まで諦めず、その根気で走り続けたジープベニザクラ。
しかし、その勝負は実況によって無慈悲に宣言されたことで決着がついた。
ジープベニザクラは公式戦で初めての敗北を喫し、6戦5勝となってしまった。
逆にアールライズは今年に入って6戦6勝、38戦31勝目の常勝街道は未だ崩れない。
ジープベニザクラにも実況による決着の声が聞こえ、スピードを緩める。
しかし、限界の限界、ありとあらゆる力を使い果たしてしまったジープベニザクラには。
最早ゴールした後に2本足で立つ気力すらも残っていなかった。
「……!」
ジープベニザクラはどうにか安全な速度までスピードを落とし切った後。
水たまりのできているダートの泥濘に顔から突っ込んだ。