そんなレースって、いったいどんなレース?
第70話
ーーー70ーーー
ジープベニザクラは南部杯で2着の結果となり、初めての敗北を喫してしまった。
しかし、ジープベニザクラの物語はまだまだ続く。
2着以上を表す連対の獲得率は未だ100%を維持している。
そして、その次にジープベニザクラが走るレースというのはもう決まっている。
今日は閑散としたダートの世界に珍しい来客が来た。
「ベーニちゃーん!待ってー!」
体操服やジャージが良く似合いそうな小学生くらいの背丈の小さなウマ娘。
ピンク色のポニーテールを振り回して練習コースを走っている。
ピンクのウマ娘といえば何もメティキュラスだけを指す言葉ではない。
まだデビューは先だがこのウマ娘もイメージカラーはピンクで間違いない。
そう、ハルウララだ。
今日、ジープベニザクラはハルウララと一緒に併走をしているのだが。
ご存知の通り、ハルウララはウマ娘の強さで言えばどう取り繕おうとしても最下位としか言いようがない。
いくらダートの世界が落ちこぼれ組だと言っても、正直ハルウララの実力ではそんな世界ですら全く歯が立たないだろう……。
実際、ジープベニザクラは軽いジョギングくらいのペースで走っているのに。
ハルウララは全力疾走でヒーヒー言いながら走っているのにどんどん突き放されていく。
「はーい!私についてきてくださーい」
とはいえ、ジープベニザクラはそんなハルウララの遅さを気にすることなく。
さらにスピードを落としてハルウララがどうにか後ろについていけるようにする。
「追いついたー!私頑張るよベニちゃん!」
「もう少しですからねー!」
しっかりハルウララを後ろにつかせつつ応援するジープベニザクラだったが、その速度はジープベニザクラにとって走るというか最早競歩の域だ。
それでもしっかりとハルウララを誘導するようにジープベニザクラはハルウララにペースを合わせてゴールまで走り続け……。
いや、歩き続けた。
併走が終わり、ハルウララはスポーツドリンクを流し込んでクールダウンお行っている。
……ジープベニザクラは歩いていただけなので何もいらないのだが。
「お疲れ様でした、ウララさん」
「ぷはー!楽しかったー!ありがとうベニちゃん!」
「ふふ、それならよかった」
スポーツドリンクを飲み干したハルウララはすっかり回復し、先ほどまで走っていたダートの練習場を指さす。
「ねえベニちゃん!私ね、こんどクラスのみんなとレースするんだ!」
「あら、ついにウララさんもデビューですか?」
「でびゅー?はまだ先っていわれたんだけどね!みんなと楽しく笑って走れたらいいなって!」
「ですね。レース距離……えっと、ながさはどれくらいですか?」
「えーっとね、1200m!」
ハルウララは自分の両手を横一杯に広げた。
おそらく1200mのジェスチャーだろう。
その距離を言われて、ジープベニザクラはふと顎に手を当てて考え込んだ。
「1200……」
よくよく今までのレースを振り返ってみれば。
デビューからジープベニザクラが走ってきた距離は。
1700m,1600m,1600m,2100m,2000m,1600m。
1200mは走ったことがない。
まあそれもそのはずだ。
日本のウマ娘の認識では短距離、スプリントという世界はサブ・特殊・おまけ的な存在を受けがちだ。
これもまた、あまりにクラシック・ティアラという伝統の道が輝きすぎているため。
芝の戦線ですら短距離G1は高松宮記念、スプリンターズステークスの2種類しかない。
ましてやダートの短距離など。
「どうしたのベニちゃん?1200mを走るのはイヤなの?」
急に真剣に考えこんだジープベニザクラにハルウララは疑問に思ってジープベニザクラの顔をのぞきに来る。
それに気づいたジープベニザクラはすぐに考えるポーズをやめた。
「いえ。ウララさん、そのレース、楽しみですか?」
「うんっ!今ね、すっごいワクワクしてるの!」
ハルウララはニコニコしながらガッツポーズをジープベニザクラに見せた。
「それなら準備はバッチリでしょう。楽しんできてくださいね」
ジープベニザクラはハルウララのガッツポーズに自分の握り拳を軽くあてると。
自分自身でも、とある決心を固めた。