ーーー73ーーー
06:00。
ジープベニザクラがJBCスプリントに行くと宣言してから、周囲からは驚かれたかもしれないが。
ジープベニザクラと石原トレーナーの日常が大きく変わるわけではない。
石原トレーナーは今日もまた同じく、いつもの日課として熱いコーヒーをすすりながらウマ娘毎日新聞を広げて情報をチェックする。
この時期、1面記事に大きく載っているのは秋華賞の特集。
メジロラモーヌのトリプルティアラとその対抗ウマ娘についての特集がかかれている。
続けて2面、3面とめくっていくうちに菊花賞、秋の天皇賞の記事がどんどん出てくる。
石原トレーナーはそこまで見ると今度は逆に一番後ろの30面から新聞をめくりだす。
ここに書かれてあるのはまだデビューしていないウマ娘についての記事だったり、未勝利戦の結果だったり。
まさに取るに足らないがとりあえず載せておこう、という程度の情報が綴られてある。
そして、20面くらいまで行くと、お目当てのダート情報が出てくる。
"ジープベニザクラ:次走:JBCスプリント"
ジープベニザクラの情報も最新情報に置き換わっている。
「ん?こいつは……」
新聞を眺めていると、石原トレーナーはふと気になる情報を見つける。
それはジープベニザクラ本人の情報ではなかった。
20:55。
「今日の21時、俺のトレーナー室に来てくれ。見てほしいものがある」
そう言われたジープベニザクラは言われた通りトレーナー室にやってきたが。
「……どれが、見てほしいものなんですか?」
ジープベニザクラはあたりをきょろきょろする。
今のトレーナー室にある物は見慣れた物ばかりで、特に変わった何かが置いてあるわけではない。
「来たかベニザクラ。見てほしい物は2つだ。まずはこいつ」
石原トレーナーは今日の朝6時に見ていた新聞の1ページをジープベニザクラに放り投げる。
ジープベニザクラが受け取ると、そこには石原トレーナーが赤ペンで四角く囲んだ場所がある。
「囲んであるのは、東京盃の結果、ですか?」
ジープベニザクラは赤ペンで囲われた箇所を指でつつく。
東京盃とは南部杯と近い日程に行われるダートレースだ。
東京レース場、1200m。格付けはG2。
OPクラスの短距離ダートレースならいくつかあるが、G2はこれしかない。
つまりは、この後行われるG1の短距離ダートレース、JBCスプリント。
そのトライアルレースにあたる。
東京盃の制覇者はJBCスプリントへの優先出走権を得られるとともに、最有力候補として見られるのだ。
「JBCスプリントへのトライアルにあたるのは東京盃と南部杯の優勝ウマ娘だけだ」
「それで、南部杯の優勝ウマ娘であるアールさんはJBCクラシックに行くので、ここの優勝者だけが最有力候補というわけですか」
「……見てみろ。お前も知っている名だ」
ジープベニザクラは指をなぞり、東京盃の結果のところまでたどり着く。
"1着:メティキュラス"
「メティさんが……!?」
全日本ジュニア優駿でジープベニザクラと対戦し、己の無力さを痛感してジャパンダートダービーを回避したあのメティキュラスが。
東京盃という重賞の場で1着を取り、再び2人に名前を現した。
前走を見ると、レパードステークス:1着となっている。
「確か、メティさんはあの時レパードステークスに行くと……」
1月、ジャパンダートダービーを回避したメティキュラスがハードルを下げ、着実な目標として選んだ先がG3のレパードステークスだった。
まだG1こそないものの、メティキュラスはどん底に自らを落としながらも少しずつ実績を積み上げ。
G3,G2と階段を上がってきたことになる。
しかし、ここでジープベニザクラには1つ疑問が浮かんだ。
「しかし、なぜメティさんはさざんかテレビ杯やレディスプレリュードではなく、東京盃に?」
短距離のダートG2は東京盃しかないが。
短距離という条件を除いたただのダートG2であればさざんかテレビ杯(船橋1800m)やレディスプレリュード(大井1800m)が存在する。
全日本ジュニア優駿を走ったことからも、メティキュラスはマイル適性のはずだが。
「まだ俺の予想でしかないが、おそらくお前に影響されたんじゃないかと思ってる」
「私に?」
「答え合わせと行こう。見てほしいもの2つ目、こいつだ」
石原トレーナーはトレーナー室のテレビをつけ、ローカルチャンネルに合わせた。
時刻は、ちょうど21:00。