だがこの短距離戦は例えるならケンカだ。1ラウンドで決まる。
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「……あいつら、殴り合ったりしないよな、打出」
関係者席でジープベニザクラとメティキュラスが胸ぐらを掴みあっている様を見て、石原トレーナーは苦笑いを隠せずにいた。
「ベニザクラさんがメティの気合の入れ方に乗っかってくれて助かります。さて時間はかかりましたが約束通り、借りを返しに来ましたよ」
「ここまで上がってくるのに11か月か。長いな。いつでもリベンジを受けると言ったのはこっちだ。"スジは通そう"」
あまりアウトローな発言に乗り気ではなかった石原トレーナーだったが、最後のわずかな言葉に打出トレーナーは少し顔がニヤッとなった。
そう話しているうちにJBCスプリントの出走ウマ娘たちのゲートインが完了する。
「石原さん、短距離の経験は?」
「あまりない。ベニザクラが言い出したのも急な話だしな」
「では僭越ながら僕から1つ。レースはいつも以上に意識して見たほうがいいでしょう」
「レース時間は約70秒。あっという間です」
ゲートが開いて、ウマ娘たちが飛び出した。
「ジープベニザクラは2番手、ちょうど逃げウマ娘たちの後ろをつくように走ります」
「メティキュラスは最後方、11位の位置」
序盤の展開を見て石原トレーナーはメティキュラスの走りにピンときた。
「追込にシフトしたか?」
確かにメティキュラスには差しと追込の両方に適性があったはずだが。
全日本ジュニア優駿では差しだったはずだ。
「ええ。言いたいことは分かりますよ石原さん」
打出トレーナーはお見通しだという風に、自慢げな顔で人差し指で空中を叩く。
セオリーという話で見ればだが、短距離戦と追込戦術はあまり相性が良くないだろう。
と石原トレーナーは言いたかったことを打出トレーナーは見抜いていた。
追込ウマ娘、というか"追込という戦法を取らざるを得ない"ウマ娘はズブい、要はスロースターターである傾向が多い。
スロースターターなウマ娘が短距離戦を走れば、トップスピードに到達する前にレースが終わってしまう。
もちろん、これは全ての追込ウマ娘が短距離に出るべきではない、という話ではない。
追込戦術を得意としながらスプリントとして名をはせたウマ娘の名を、石原トレーナーは何人も知っている。
「仮にメティがズブくなかったとして、追込スプリント戦術を作り上げるのは簡単ではないだろうに。それもこんな短い期間で」
「アンタに1発返すためです」
打出はパシッと音を立てて自分の右手の拳を左手で受け止めた。
「この世界じゃアールライズなんてウマ娘が暴れてるみたいですが、どうでもいいです」
「僕が。メティが。どん底からずっと見ていたのは。睨みつけていたのは」
「ジープベニザクラ、ただ1人です」
「600m通過タイム33.8!まもなく3コーナー通り過ぎて最終コーナー!」
JBCスプリントは遅くても1分10秒程度の短いレース。
メティキュラスは追込で走ってるのか?
ええ、ジープベニザクラへのリベンジのために。
と話してるだけで、レースは既に後半戦だ。
「メティキュラスここから上がってくる、ジープベニザクラも前を狙っている!」
ジープベニザクラの順位は2位。
メティキュラスの順位は10位だ。