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「おい大丈夫か!?なんて素行の悪い……」
ジープベニザクラが砂をかけられた瞬間、石原トレーナーはフェンスを飛び越えて自分も仲裁に入ろうとしたが。
本人が係員に手出し無用と遮ったことで石原トレーナー自身も飛び出すのをこらえていた。
「ここは手の付けられん奴や気の強い奴も多いからな。あれはただの阿呆だが」
「ベニザクラさんは強い子です。まずは見守ってあげましょう」
隣にいた打出トレーナーに諭され、石原トレーナーは元の位置に戻って観戦を続ける。
やがて、観戦席側でもゲートインが完了したのが分かり。
ゲートが開いてウマ娘たちが飛び出す。
先ほどの気性の荒い問題児たちが数人逃げとして飛び出した中。
ジープベニザクラは4番手の位置をキープしていた。
どうやら主に4つの脚質の中、ジープベニザクラは前から2番目の先行を得意とするらしい。
走っていくうちに、石原トレーナーはあることに気が付いた。
「ジープベニザクラの走り、歩幅が広い。ストライド走法か!」
ストライド走法(大跳び)とはウマ娘の特殊な走法の1つ。
この走法で有名なウマ娘にゴールドシップやウオッカがいる。
脚の回転こそ遅いが1歩1歩の歩幅を大きくし、飛ぶように走ると言われることもある。
擬音にするならトーントーントーン……、というイメージだろうか。
ジープベニザクラの歩幅は他のウマ娘に比べて1.2~1.3倍ほど広い。
「ストライドの広く取って走るウマ娘は安定感があるからな、大きな武器になるぞ」
石原トレーナーは満足そうに頷きながら分析する。
三冠路線の制覇者にはストライド走法を取っていた者も多い。
1歩1歩の歩幅が大きくなるため、結果的にゴールまでの歩数が少なくなり、スタミナの消費が抑えられ、スピードにもムラが出にくい。
安定した走りになりやすいため、石原トレーナーのようにストライド走法を取るウマ娘を好むトレーナーは多い。
「おいマヌケ野郎。それは芝に限った話だ」
しかし、隣の小原トレーナーから横槍を入れられる。
よそ者からマヌケ野郎にランクダウンしてしまった。
「なんだって?芝に限った話?」
石原トレーナーはベテランと言えども芝でしかウマ娘を走らせたことがないため、ダートではどうなのかは分からない。
聞き返された小原トレーナーは返事の代わりに脚でダートになっている地面を擦った。
「ダートは芝に比べてグリップが効かねえんだ」
ターフコース、特に晴れて良バ場の地面はしっかりと土と芝で固まっている。
故に、しっかりと踏み込めば反発力が効いて遠くまで跳ぶことができ、結果としてストライド走法は安定した走りになる。
だが、ダートのサラサラの砂は芝ほど固まっておらず、柔らかく滑りやすい。
しっかりと踏み込んでも芝ほどの反発力が返ってこないため、歩幅を大きくしても思ったより前に行かないのだ。
そうなってしまうと、ストライド双方の利点である「ゴールまでの歩数が少ない」という利点を上手く活かせない。
それどころか歩幅を大きく取ると急な角度で足と地面が設置する分、滑りやすくなって逆に走りが不安定になりやすい。
「だから、一般的にダートコースは歩幅を小さくして足の回転数を上げる"ピッチ走法"のほうが有利と言われています」
「じゃあ、ダートでストライドが大きいことは逆に不利になってしまうということか。なるほどな……」
石原トレーナーは腕を組んで頷く。
「しかし、走法はウマ娘の走り方のクセみたいなものだろう。直すことは、できなくもないのかもしれんが……」
ダートでこそ学び始めの石原トレーナーだが、ストライド・ピッチ走法そのものについては芝でも使うため熟知している。
ダートでストライド走法が不利だというのならピッチ走法に矯正すればいいではないか。
とさっきの話だけ聞けばそう思うだろうが。
そう単純な話でないことは3人のトレーナー全員が分かっていた。