追われているんです。1人を除いて全員にね。
ーーー79ーーー
気が付いたら終わってた。
観客や実際に走ったウマ娘の中にはそういう感想を漏らす者もいるほど、短距離戦とはあっという間に終わるレースだ。
30秒ちょっとなど普通のレースならようやく身体が暖まってきた、くらいの進行度だが。
1200mのスプリントではもう終盤だ。
「--さあここから!」
全体の集団が一気に速度を上げる。
ジープベニザクラは逃げウマ娘に牙を剥いて食らいつくように、急激に近づく。
ミスった、いくらスプリントだからって飛ばしすぎた!という逃げウマ娘の表情を横目にジープベニザクラは1位に躍り出た。
それでもジープベニザクラの加速は止まらない。
今や後ろ10人に"ブラッドブロッサム"の花吹雪を散らし、残りわずかとなった距離を駆け抜けていく。
一方、メティキュラスはほとんど最後尾で先頭を取ったジープベニザクラの位置をマークし続けている。
全日本ジュニア優駿では先行VS差しだったが今回は先行VS追込だ。
「あの時よりも遠い……」
追込戦術とはうまくハマれば格上すら倒せる爆発力がある一方、ハマるタイミングはシビアだ。
離されたからと慌てて追いかけた奴は、10秒後にその選択を後悔する羽目になる。
ましてや今回は1200mのスプリント戦。
定番とは大きく違うこのレース、なおさらベストタイミングは判別がつきづらい。
「ベニザクラさんは、しくじったりしない」
ヤンキーに憧れたトレーナーに影響されたからと言って、ヤケクソで特攻(ブッコ)むのは自滅行為だ。
「だから、私は……!」
メティキュラスは。静かに闘志を燃やす。
そのシビアなベストタイミングを見逃さないように。
「……ここです!」
メティキュラスは一気に砂を踏み込み、集団の差を一気に縮めていく。
「ジープベニザクラ先頭!しかし、その差はわずかだ!」
「ッ!わずか……なんですか……!?」
1度先頭を奪えば、このままどんどん突き放せると思っていたジープベニザクラ。
しかし、それはさすがに考えが甘かった。
スプリントでマイルや中距離と同じように相手を突き放せるわけがない。
その油断をついて追い上げを仕掛けた場合の効果は絶大だ。
「ベニザクラさん!11か月……11か月です!」
「G1を捨ててまで、スプリンターに転向してまで、あなたを追いかけた!」
「やっと、やっともう1度、目の前まで来れたんです!」
「今度は逃がすかァ!!!」
メティキュラスは口調すらも豹変させ、ジープベニザクラをいつもの10倍くらいの声量で怒鳴りつけた。
もちろん、ジープベニザクラはそんな怒号くらいで怯むウマ娘じゃない。
「させるものですか!!」
「ここは私の場所!咲く場所を自分で決めた場所なんです!!」
それを聞いたジープベニザクラは歯を食いしばって力を振り絞る。
ギリッ、と歯が欠けたようなきしんだような良くない音がかすかにした。
「後続襲い掛かる!抜け出したのはメティキュラス!」
「メティキュラス、悲願のライバル撃破によるG1制覇か!?」