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もしかすると、彼女の人生を賭けたリベンジマッチで世紀の大逆転が見られるのではないかと。
怒涛の追い上げを見せたことで、そう思ってしまった実況だった。
実際のところ……。
メティキュラスは、ジープベニザクラを追い抜いていた。
追い抜き"は"した。
「--これはメティキュラス間に合わなかった!」
ただし、ジープベニザクラがゴール板を通過した方が、わずかに先だった。
「1着でゴールしたのはジープベニザクラ!」
掲示板には無慈悲にもⅠの枠にジープベニザクラの番号、1/4の着差、そして確定のランプが点灯した。
「すげえぞ!ベニザクラがスプリントでもやってくれたぜ!」
「ギリギリでも勝ちは勝ちだぞベニザクラ!」
マイル、中距離、そして短距離と3階級でそれぞれ1つずつG1を制覇したジープベニザクラに、ファンからは歓声の声が次々と届く。
「……やり、ました」
ジープベニザクラはよろけながら減速しつつも、なんとか膝を突いたり倒れることなく立ち止まった。
相変わらずまともに喋れないほど息は苦しいし、限界を超えた反動が来たようなめまいがする。
それでも、ジープベニザクラというウマ娘は。
キッチリ自分の足で立って、余裕そうな表情を貼り付けて、ファンの前に立って。
小さく観客に手を振った。
「やりましたよ、みなさん……!」
ウマ娘のレースで熱狂する人は何十万人、何百万人といる。
でも、この瞬間を見られたのは。
この不毛のダートに咲いた、美しき紅色の桜は、果たしてその中の何%の人が目にすることができたのだろうか。
見られた人は、きっと幸運だっただろう。
そんなジープベニザクラよりも前に、レースが終わった後は1番前にいたメティキュラス。
1度深呼吸して、先ほどのレースを振り返った。
ラストスパートのタイミングはきっと間違っていなかった。
実際、ジープベニザクラの影は踏むくらいの位置にまでは追い上げた。
それでも、ゴールの前に追い抜きだけはさせてくれなかったところが、ジープベニザクラの強さなのだろう。
「ベニザクラさん。私は、あなたのライバルになれましたか……?」
惜しくても負けは負けだから、立場をひっくり返してくれなんて図々しいことは言わない。
せめて、落ちこぼれがここまで這い上がれた。
そう思ってくれればと、メティキュラスは心の中で願った。
そんなメティキュラスの心中を知ってか知らずか。
いつかの時のように、ジープベニザクラはメティキュラスの腕を握った。
「何を当たり前のこと言ってるんですか……」
「私にとってメティさんは……アールさんやアルマダさんの横に並べるくらいにはライバルです」
メティキュラスは一瞬、掴まれた自分の腕をきょとんと見つめて。
「わ、私が!?わわわわ私なんかがですか!?」
とそう願っていたはずの10秒前とは打ってって変わって慌てて首をぶんぶん横に振った。
芝でコケて、ダートのメイクデビューでもコケて、結局今もG1を取れなかったような自分が。
サクサクと連勝してきたアルマダクロックやアールライズの横に立つなんて畏れ多すぎて……
と言いたいところをあわあわしているだけで言葉が出ないメティキュラスに。
「だって、私をビックリさせるなんて、アルマダさんにもアールさんにもできないんですから」
メティキュラスの腕を掴んでいない左手だけで、ジープベニザクラは肩をすくめた。
アルマダクロックやアールライズはどちらもジープベニザクラと同じく先行だ。
勝負の仕方を例えるとしたら鍔競り合いに近い。
だが、メティキュラスは差し・追込。
勝負する際に後ろから槍で貫かれるような恐怖感は彼女にしか出せないのだ。
本人たちにはあまり自覚がないだろうが。
メンタルが強すぎて図々しいまで行くジープベニザクラを驚かせられるメティキュラスは、もっとそれを誇ってもいいくらいだ。
「そ、そこまで思っていただけたのでしたら」
「光栄です……」
メティキュラスには恥ずかしくてそういうのが精いっぱいだったが。
人生を賭けてまで、あなたを追いかけてよかった。
もっと勇気があったら、それくらい言ってもよかったくらいの気持ちだった。