直訳すると「傷ついたティアラ」。
「あー、ダートで泥水啜って手にするティアラって意味だな」と思ったそこのあなた。100点満点中80点差し上げます。
Damaged TiaraでもBroken TiaraでもScratched Tiaraでもなく、あえてBlemishedという単語を使ったのには理由があります。
第82話
ーーー82ーーー
9月に小原トレーナーが言った言葉を覚えているだろうか。
ダートの後半戦のG1は最大で4つのレースに出走できる。
今はそのうち、南部杯、JBCクラシック系の2つが終わった。
残り2つ、チャンピオンズカップと東京大賞典は、12月の初めと終わりに開催される。
……あと2つだ。
ダート世界を無差別爆撃し続けるアールライズを止めるチャンスは、あと2回しかない。
JBCスプリントから数日後。
今日の正午、ジープベニザクラはなぜか階段裏の雑多な物置スペースに足を運んでいた。
なぜそんなところに?という問題はとりあえず置いておこう。彼女は恐らく気分で動いている。
別に階段裏は進入禁止ではないのだが……。他のウマ娘に聞くと大半が訪れるにはオススメしないと答えるだろう。
なぜなら、そこはトレセン学園の中で特別治安が悪い場所だから。
「おい!」
さっそくジープベニザクラは先客にいたガラの悪そうなウマ娘に歓迎されていなさそうな声をかけられた。
ジープベニザクラと同じく金髪で、強気そうなのが一目でわかるつり目のウマ娘。
やはりそこにいるだけあってパンクな髪飾りがあちこちに散りばめられており、右耳にはピアスがついている。
ウマ娘の名はエスポワールシチー。
ダート全盛期を築いたウマ娘の中の1人で、逆境に立ち向かい、多くのG1を制覇した……
というのはまた別の話で、この時点ではただのデビュー前の問題児でしかない。
「あーしのこと見下してんじゃねえぞ?エラそうにしやがって!」
……エスポワールシチーとジープベニザクラはお互いに突っ立っているだけだ。
165cmが153cmを見るために目線を下げているだけにすぎない。
「そう言われましても……。はい、これでどうでしょう」
ジープベニザクラはいきなりガンを飛ばされたことに苦笑いしつつも。
しゃがんでエスポワールシチーを上に見上げた。
「そうだ、分かってんじゃねえか……ってそれはそれであーしのことガキんちょ扱いしてんだろうが!」
「難儀な方ですね」
「テメェみてーなイカレた奴に言われたかねえよベニザクラ!」
次の瞬間、エスポワールシチーは、「あ」と言葉を漏らした。
エスポワールシチーはベニザクラという名前も知っていれば、"イカレた奴"と呼べばジープベニザクラがむしろ喜んでいることも知っていた。
ということは?
「あー!そうだよ!見てたよJBCスプリント!やんじゃねえか!」
「まあ、ありがとうございます」
エスポワールシチーはジープベニザクラに憧れていることを悔しそうながらも認めた。
ジャパンダートダービーとかでもいいはずなのにわざわざJBCスプリントまで見ているあたりかなり強火なファンかもしれない。
「私を応援してくれるのは嬉しいのですが、なぜ?」
ジープベニザクラは自分を優等生と思っていない。
まあそんなところが反骨精神ありまくりなエスポワールシチーには通じたのかもしれないが。
ただ強さだけで見ればアールライズを応援するはずだ。
「……あんなに大人しそうに見えるのに、テメェは強く見えたんだよ」
エスポワールシチーの反骨精神はある意味強がりでもある。
ナメられてたまるか。弱く見られてたまるか。
そう思って周囲に当たり散らすように吠えて、噛みついて、不良のレッテルを貼られてきた。
だけど。そんな時、ダートの世界にいた赤い桜の髪飾りをしたウマ娘は。
お嬢様みたいな佇まいで、誰に対しても敬語で、人付き合いも普通にして。
それなのに、砂ぼこりまみれ、泥まみれにすらなることもあるダートで本物の強さを見せつてきた。
「それに比べりゃ、あーしなんかキャンキャン吠えてるだけのちっちぇー子犬みてーに見えてきてよ……」
「私はエスポさんのこと、小さいワンちゃんみたいだなーとは思ってましたが?」
「ぶっ飛ばすぞ!!テメーの辞書には空気読むって言葉ねーのか!?」
「お探しの言葉は見つかりませんでしたー」