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これ以上ツッコんでも無駄だと悟ったエスポワールシチーはため息をついて、今度は聞きたかったことに入る。
「テメェ、なんでそんな強えんだよ」
この言葉の真意は「なんで強いって思われるんだよ」のほうが近い。
エスポワールシチーのこの性格は悪く言えば虚勢を張っている。
病気がちになった母に頼られるようになりたくて。
弱さを認めろと見下された父を見返したくて。
孤高の一匹狼となるべく、誰にでも噛みついていれば一応誰かからは恐れられるようにはなる。
だが、吠えても噛みついても全く動じないような実力ある奴が現れてしまったら。
途端にその一匹狼のガワが剥がれて取るに足らない小物に成り下がってしまう。
「……ダサく見られるなんざ、あーしは死んでもゴメンだからな」
だから、エスポワールシチーは今度は逆にジープベニザクラの在り方を参考にしようとした。
ジープベニザクラはウマ娘全体の世界から見ても間違いなく大物だ。
実際に結果を残しているのももちろんだが、オーラが違う。
どうすればジープベニザクラのように大人しいのに強く見せることができるのだろうか?
大人しそうに見えてとてつもない根性を持っているからだろうか?
あるいは決して折れることのない強い心を持っているからだろうか?
それとも、あえて王道から外れたアウトローなローテーションから来ているのだろうか?
「ふふ……」
それを聞いて、ジープベニザクラは思い出し笑いをしてしまった。
「何笑ってんだ!こっちは真剣な話してんだぞ!」
「いえすみません、去年いた愉快な方を思い出しまして」
ジープベニザクラが思い出した相手というのは。
模擬レースの時にジープベニザクラの顔に砂をかけてきた不良ウマ娘の1人。
確かに奴は不良ぶっていてもジープベニザクラにとって取るに足らない小物でしかなかった。
テメー、なんでそんなに強いんだよ……!?
たしかその時も同じように言われたはずだ。
それに対して「さあ?」とか言ってとぼけたような気がする。
まあ、一応自分を目標にして憧れている目の前のエスポワールシチーにそういうのもかわいそうだとジープベニザクラは思って。
1つだけ答えを言ってみることにした。
「自分らしく、自分がやりたいようにやるから、でしょうか」
「自分らしく、か……」
ジープベニザクラは自分を強く見せようなどとは思っていない。
大人しく見えて、その実わがままを振りかざして自分がしたいことをしているだけ。
そのわがままを振りかざすために、命すら使い捨てる覚悟で立ち向かっているだけにすぎない。
「そうかよ」
エスポワールシチーは肯定的な呆れ笑いを返した。
虚勢を張っているとはいえど、別に演技で不良をやっているわけではない。
自分がやりやすいやり方を、死ぬ気で、死んでもいい気でやってやる。
上等、あーしに向いてるぜ!
と心の中でエスポワールシチーは決意を固めた。
「ってかなんでテメェ昼時だってのに手ぶらなんだよ。もう食ったのか?」
今度はジープベニザクラが「あ」という表情をして、自分の両方のてのひらを交互に見つめる。
「……忘れていました」
「忘れたぁ?ったく、思ったよりおっちょこちょいな奴だな。待ってろ、あーしの――」
「いえ、今が昼であることを」
「なんでだよ体内時計までイカレさせてんじゃねーぞ!?」
エスポワールシチーはため息をつきながらも自分のカバンに手を突っ込むと。
焼きそばパンを1つ取り出してジープベニザクラに投げつけた。
「あーしのやるよ。礼はいらねえ。さっきもらったからな!」