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ゲートが開いた。
いつも通り、緊張していた数人の出遅れがややばらけたスタートを作った後。
自分の位置を決める序盤戦に入る。
今回はかなり前へ前へと攻めたレースを展開するウマ娘が良く目立つ。
先行であるはずのジープベニザクラが真ん中くらいの位置になってしまうくらいには。
アールライズに勝つのはもう無理だ。攻めて1秒でも前にいてやろう、だとか。
5人くらいで囲めばアールだって前に出られない!きっと私と同じことを思っている人は5人くらいいるはず!
だとか思ってこうなっているのだろうか。
「アールライズ前方集団6番手の位置にいます。ジープベニザクラは後方集団の先頭、9番目と言ったところでしょうか」
「お前ら、俺たちに勝つ為に何かやってきたのか?」
トレーナー席で小原トレーナーは石原トレーナーに耳打ちする。
この前へ前へ行くハイペースな展開。
せめてアールに一矢報いようと他のウマ娘たちが対策として作り上げた展開だ。
9番手にいるジープベニザクラはいつも通りの走りをして、ハイペースに置いて行かれたように見える。
つまり、何もやってないように小原トレーナーは感じている。
確かにアールライズに勝つには小細工や多少の努力でどうにかなる物ではないかもしれない。
だが、無対策でただ数だけを打って、フロック(まぐれ勝ち)を狙っているというのなら。
それは少々ベテラントレーナーらしくないマヌケ野郎の作戦だ。
「ベニザクラに今更作戦を伝えたところで耳を貸さん」
とはいえ、難儀なことにジープベニザクラは理論立ててレースを走るのはあまり得意ではないし。
データ派トレーナーが考えた細かいレースプランなど嫌いだ。
だから石原トレーナーは「どうにでもなれと思いながら走れ」だの「アクセル全開で行ってこい」だの。
とにかくジープベニザクラをやる気にさせる言葉や動作で支えてきた。
「だから、息をするようにアールを仕留めてこい、と言って送り出した」
その対策とも呼べない対策を小原トレーナーは鼻で笑い飛ばした。
「ハッ。ベニザクラがヒットマンってガラか?」
「お前が合わんと思っているのなら、アイツは喜んでスーツ着て拳銃を構えるぞ」
「だとしてもだ、俺のアールを息をするように仕留めるだ?ナメたこと考えやがる」
「800mを通過、タイムは48.3!早い、かなりのハイペース!」
アールライズありきでこのハイペースが作られているなど露ほども考えていない実況は、驚きの声を上げて後半戦を宣言する。
ジープベニザクラの位置は6位。
3つ順位を上げたと言えど、今のジープベニザクラの位置は混戦状態で位置的にはわずかに前に行っただけだ。
対してアールライズは3位。
すでに前は逃げウマ娘を残すのみとなっており、南部杯と同じベストポジションを既に取っている。
ジープベニザクラの視界には、まだ6のハロン棒がある。
まだ残り600m以上ある。
こんなところで速度を上げるとすれば、差し・追込ウマ娘がロングスパートをかけるときだけだ。
もちろん、先行のジープベニザクラにロングスパートなんて芸当できるはずがない。
それに、全日本ジュニア優駿でメティキュラスがこの時点で急加速して、結局4位に終わった前例があるではないか。
先行ウマ娘なら、残り400m前後がセオリーだ。
「……あの時と立場が逆転するなんて、運命でしょうか」
ジープベニザクラは少しだけ右に逸れて外側を走りだす。
この位置なら、多少の距離ロスと引き換えだが集団であっても抜け出しやすい。
アールライズは、まだスパートをかけていない。
出し抜くなら今だ。
「--私は私を信じます」
「私"だけ"を信じます」
ジープベニザクラは誰にも見えないように歯を食いしばると。
砂を強く踏みつけた。
残り620m。