でも、そうやって驚かせてくれるのがジープベニザクラ。
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「ジ、ジープベニザクラここで仕掛けた!?」
実況だけではない。
周りのウマ娘も観客も、石原トレーナーですら驚愕の表情を隠せない。
「あんな位置からスパートを!?」
「おい石原!あれが息をするような仕留め方か!?」
小原トレーナーですら予想外の展開に石原トレーナーを小突く。
傍からはどう見てもヤケクソ以外の何物でもない。
「俺に聞くな!だが……!」
こうなってしまった以上、石原トレーナーには手を合わせるしかない。
間違いなくスタミナは足りない。レースが終わるまで限界をぶち破る必要がある。
それも1回や2回じゃない。
だが、トップクラスの根性と精神力を持つジープベニザクラなら。
やってくれると信じるしかない。
「!?」
実況の声がアールライズの耳に入った時には。
既にジープベニザクラは大外を回ってアールライズの真横に並んでいた。
「--追いつきましたよ!!」
既にジープベニザクラの赤い目はより血走ってアールライズを睨みつけている。
あんなに上品で穏やかな表情を崩さなかったジープベニザクラの今の鬼気迫る表情と視線は、おそらく気弱な何人かを失神させられるレベルにまで来ている。
これが、自分の返り血で染めるようなジープベニザクラのラストスパートか。
これが、"ブラッドブロッサム"なのか。
その気迫は、G1に勝っても虚無しかなかったアールライズですらたじろいでしまうほど。
「この……!」
アールライズもそこでラストスパートを始めた。
だが、ようやく速度が上がり始めたアールライズと既に最高速に達しているジープベニザクラ。
残り400mが近づくにつれ、ジープベニザクラはアールライズを追い抜き、じりじりと差を広げ始める。
「最終コーナー曲がって最終直線だ!」
「--先頭にいるのはジープベニザクラ!初めてっ!初めてアールライズ以外のウマ娘が最終コーナーで先頭に立っている!!」
実況が絶叫を張り上げる。
この場にいる誰もが待ちわびていた光景。
ついに、下剋上のチャンスがやってきたのだ。
だが、310mの中山の直線に比べて、中京の最終直線は411mと長い。
それに加えて集団からうまく抜け出したアールライズに比べ、ジープベニザクラは2倍近く外に膨れてしまっている。
状況は全然良くない。
「後ろにいるアールライズとの差は1バ身!気を抜けばあっという間に追いつかれてしまう距離!」
残り400mを切る。
この時点で、ジープベニザクラのスタミナは既になくなっていたのかもしれない。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……!!」
自分の呼吸がおかしい。
もうまともに喋ることすらできない。
前だって良く見えない。
自分がどこを走っていて、残りは何mなのかすらよくわからない。
苦しい、苦しい、苦しい。
このまま走り続けていたら、きっとゴールする前に心臓が破裂して死んでしまう……!
「(だったら……)」
「(だったら!!何だって言うんですか!!!)」
脳裏に死がよぎってなお、ジープベニザクラは自分の脚に鞭を打つことをやめなかった。
ジープベニザクラは限界を超え続けられるはずの自分自身を信じている。
ただ、限界を超えても、ジープベニザクラに領域は発現できない。
あんなものは時代に名を残すような、神の領域に至ったウマ娘だけがかろうじて手にできるものだ。
ジープベニザクラ程度の凡才では領域など縁がない。
だから、どうするか?
バカほどある気合と根性で走るしかない。
「200…………!」
「……ラ!な……に……いわ!」
既に自分のおかしくなった息遣いにかき消されそうになったが。
かろうじて、ジープベニザクラはすぐ後ろから聞こえるアールライズの声を聞き取った。
きっとこういったのだろう。
"200mを切った!"
"ベニザクラ!あなたなんかに、G1は渡さないわ!"
きっと普段なら「渡してもらわなくても、無理やり奪いますので」とかいってジープベニザクラは飄々と返しただろう。
だが、命と引き換えにしてでも限界を越えようとしている今のジープベニザクラではその言葉が。
……いや、アールライズの声そのものが。
血管がブチ切れるほどムカついて聞こえた。
「(ッ!!イヤです!!)」
「あなたなんかには絶対に渡さない!渡す、ものか……!!)」
「わ た す も の か ァ ァ ァ ー ー ー ー ー ッ ッ ッ ! ! !」