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聞いたことのないようなジープベニザクラの絶叫が中京レース場に響いた。
「ジープベニザクラ……先頭です……!」
実況は涙交じりに最後の実況を締めくくった。
スローカメラで確認する必要すらない。
残り400mで1バ身離したジープベニザクラとアールライズの差は。
終ぞその根性と精神力だけで400mの間差を保ち続けた。
「ジープベニザクラ……1着です!!」
「ついに赤き桜が、災厄を打ち破りました!!」
「これで……暗黒時代が終わったのですね!」
実況と解説の涙声に一瞬、中京レース場が静まり返る。
やがて、全員が状況を理解すると。
中京レース場が、人数以上の大歓声に包まれた。
「すっげえ!!やったんだな、やっちまったんだな!!」
「俺、いまだに信じられねえよ……!あのアールが、負けたなんて……!」
「これが赤い桜の走り、か……なんて美しい……」
観客席は立ち上がって雄叫びを上げるもの、すすり泣くもの、開いた口が塞がらない者など感極まった観客だらけだった。
「ありえねえ……」
小原トレーナーは瞬きも忘れて、最終直線の一部始終を見つめていた。
掲示板にはⅠにジープベニザクラの番号、Ⅱにアールライズの番号。
着差は1。しっかりとした差だ。
もう1つ、小原トレーナーの目に映ったありえないものがある。
"レコード"。
誰がどう見ても、本人ですらムチャクチャだと思える走り方なのに、中京1800mの最速記録までジープベニザクラは塗り替えてしまったのだ。
隣にいた石原トレーナーは、何かを悟ったように上を見上げ、目を閉じていた。
きっと、今の瞬間を繰り返し脳裏で再生しているのだろう。
「--ベニザクラ。お前の走りは酷く美しく……」
「"酷く気色悪かった"」
こんな言葉が、ジープベニザクラにとっては最大級の賛辞だ。
ジープベニザクラはレース後も自分の脚で立って観客に手を振る。
どれだけ苦しくても、どれだけ辛くても、余裕そうな表情を貼り付けてファンサービスを欠かさなかった。
だが、今回はゴールしたジープベニザクラは虚ろな目でよろよろした後、膝をついて。
糸が切れたかのように顔からダートに突っ込んで倒れ伏した。
それほど、今日のジープベニザクラは奥の手も限界も、根気すらも使い果たし。
使い果たしてなお、狂気すら原動力にして走り切ったということなのだろう。
遠目に見れば命すら使い果たして死んでしまったようにすら見える。
一方、アールライズは荒い息遣いこそしているが、ごくごく普通の疲れ方。
ただ一生懸命に走り切ったの域は出ていない。
それでわずかコンマ数秒の差しかつかなかったというのだから。
やはり地力そのものはアールライズに分があったのだろう。
ジープベニザクラが勝ったのは、その強靭なメンタルのおかげとしか言いようがない。
アールライズは呼吸を整えると、ジープベニザクラに近づき。
未だうつ伏せで倒れているジープベニザクラを脚で転がして仰向けにさせた。
「ゼェ……ゼェ……ヒュー……」
ジープベニザクラはされるがままに転がされ、苦しそうな表情をしていたが。
まあ、一応、生きてはいる。
限界の先の先を超えたような、ちょっとおかしい息の仕方ではあったが。
ジープベニザクラがどうにか喋れるくらいまでようやく息が整った後。
ジープベニザクラは顔だけをアールライズに向けた。
「あなたのせいで……ゲホッ、ガラでもないことを……ゴホ、して、しまいました……」
本来、ジープベニザクラ勝負強いとはいえ大声で相手を脅すようなウマ娘じゃない。
本当はゴールした後もいつものように冷静に、余裕そうにいたかった。
だが、今日のチャンピオンズカップはそんな余裕などどこにもなかった。
持っている力などとっくに使い果たし、精神論でどうにかできる範囲すらも超えて。
それでもなお勝ちたくて、脚を止めたくなくて。
それで出たのが、あの想像を絶する叫び声だったわけだ。
おかげさまでジープベニザクラの喉はだいぶおかしくなってしまった。
「何を言ってるのベニザクラ。そっちが"猫かぶり"でしょう」
アールライズはそんなジープベニザクラの言葉を鼻で笑った。
「作戦って言えないイカれた走り方で、壊れても走り続けて、追い抜かれそうになったらブチギレて怒号を飛ばす」
「それがあなたの"ガラ"よ」
「……あなただけですよ、こんなみっともない姿見せるの……」