今後いつ本番が行われるかも分からない中練習をやり続けて、ようやくお披露目と思うとクるものがありますね。
ーーー91ーーー
レース後のウイニングライブは、ダートレースならすべてUnlimited Impactという曲になる。
クラスが何であろうと、どのレースであろうと、曲は変わらない。
ここ1年近く、シニアダートの世界はウイニングライブが開催されていなかったが。
ジープベニザクラ、アールライズ、その他のウマ娘も含め、Unlimited Impactの振付けと歌詞は身体に刻みついている。
誰が言ったか寝てても寝言で歌える、という冗談があるくらいには。
周囲は真っ暗だ。
それこそ、石原トレーナーの隣にいるはずの小原トレーナーの顔が見えないくらいには。
しばらくすると、砂嵐のテレビが映り、メロディーが始まった。
スモークからだんだんと明るくなっていき、3人のシルエット状態のウマ娘が前に出てくる。
そして、一気にバッ、と青白い照明が付き。
シルエットだったジープベニザクラとアールライズ、3着のウマ娘が観客席に手を伸ばして、手慣れた振付を始めた。
後ろにはバックダンサーも同じく手慣れた感じで踊っている。
長い間ライブなんてやらなかったから少々ぎこちないライブかも、と思っていたファンもいたかもしれないが、杞憂に終わったようだ。
「視界全部奪うような 打ち付けるスコールの中でも♪」
3人が三角形のようなフォーメーションを取り、まずはセンターのジープベニザクラから歌いだす。
「きっと攫われ流れるのは 言い訳と迷いだけよ♪」
続いてアールライズもスラスラ歌い、慣れた様子で踊る。
1年近いブランクがあるとは思えない。
「アールがライブをしているところなんて始めて見たが……なかなかサマになってるじゃないか」
石原トレーナーはヒソヒソ言いながら小原トレーナーを小突いた。
「こういう時のために練習はさせていたんだ。ムダにならなくてよかったぜ」
「ぬかるんだ現状に足をとられて 陰鬱な空気が喉塞いでも――♪」
Unlimited Impactのテーマは逆境、反逆、不屈。
比喩じゃなく本当に泥水で口を洗わされたジープベニザクラが誓ったリベンジを果たした証として。
そんなジープベニザクラに敗北を喫し、後1回のリベンジチャンスに賭けなければならないアールライズにとって。
そして2人への一発逆転を狙う他のウマ娘たちにとっても。
「この声は絶やせないでしょう この足は止まらないでしょう♪」
自らを表現する曲はWinning the SoulでもなければNext Frontierでもなく。
Unlimited Impactただ1曲しかない。
「いのちのかぎり!♪」
照明が一気に明るくなり、メロディーがサビに入る。
「どうか全力で射抜いてよ 瞳で私を♪」
「焼き付けていこう それは約束の進化系♪」
「傷を痛がって投げ出す程度の想いじゃない♪」
「君は目撃者だよ♪」
「Yes…Unlimited Impact!♪」
「見せてあげる Evolution♪」
最後に、アールライズは片手を。
ジープベニザクラは両手を突き上げ。
観客に向けてグッと握った。
「Go Ahead! 未来 DAYS!♪」
観客席から大きな拍手が響く。
薄暗い夜のステージで観客たちの顔はよく見えなかったが。
どんな表情だったかは察してほしい。