このタイトルの答え合わせと行きましょう。
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チャンピオンズカップの後に。
石原トレーナーのトレーナー室のカーペットに、ジープベニザクラは寝っ転がってリラックスしていた。
もう当たり前のようにジープベニザクラは石原トレーナーのトレーナー室を第2の家のようにしてくつろいでいる。
まあ、同棲する恋人というよりは……家で放し飼いされているペットに近いが。
「ちょっといいかベニザクラ。渡したいものがある」
「なんでしょうー?」
机の引き出しをあけて探し物をする石原トレーナーをみてジープベニザクラは興味ありげに近寄ってきた。
「1つプレゼントをやろうと思ってな」
「私にですか?」
「ああ。"アールを倒したら渡そうと思っていた"」
石原トレーナーは机の引き出しに隠していたプレゼントをジープベニザクラに見せる。
それは、純白のティアラだった。
最高級品とまではいかずとも、ブライダルなどでも使われるようなパールやクリスタルが散りばめられた美しい品だ。
ウマ娘の世界ではティアラとはすなわち女王・頂点・勝利の証。
勝負服として着用する者もいれば、普段使いで着用する強者なウマ娘も珍しくない。
もちろん、こういう風に勝利した暁の記念品としてトレーナーが贈ることも。
ただ、それこそティアラ路線を進むウマ娘ならよく見られる光景だが、ダートでは少々珍しいかもしれない。
こんな砂埃まみれの世界に純白のティアラなど、少々もったいない。
「まあ、これを私にですか?とっても嬉しいです!頑張った甲斐がありました」
まさかこんな素敵な品をもらえるとは想定外だったのか、尻尾を振って嬉しそうな顔をするジープベニザクラ。
「チャンピオンズカップのお前の頑張りに比べればこれでも全然足りないくらいだ。受け取ってくれ」
「ありがとうございます!……私が、着けていいんですよね」
「ああ」
「……私のモノでいいんですよね?」
「ああ……?」
ティアラを受け取ったジープベニザクラは不自然に繰り返し石原トレーナーに確認した。
ジープベニザクラのために用意したのだからジープベニザクラの物に決まっているだろうに。
「では」
そう言うとジープベニザクラは。
なんと、受け取ったばかりのティアラを後方へ投げ捨てた。
ティアラは宙を舞うと、カーペットではなく硬いフローリングに叩きつけられ。
カシャッ、カラカラカラ……という音を立ててトレーナー室の隅っこで止まった。
もうこの時点でティアラに値打ちはなくなった。
投げ捨てられて床を転がったティアラなどキズまみれで見るに堪えない。
2年前の石原トレーナーがこんな光景を目の当たりにしたなら「何するんだ!ティアラだぞ!?雑に扱うんじゃない!」とだいぶキツめなお説教を入れただろう。
だが、ジープベニザクラとの付き合いも長くなった。
何か意味があってわざとティアラを投げ捨てたのだと石原トレーナーは察する。
「やはり、普通には受け取ってくれんか」
すると、ジープベニザクラは部屋の端っこに向かい、キズだらけになったティアラを拾い上げると。
それを頭の上に着けて満足そうな表情をした。
「--私にピカピカのティアラなんて過ぎた代物ですから」
「私には、ブレミッシュド(傷のついた)ティアラが相応しい。そうだと思いませんか?」
Blemishedとは傷ついた、傷のあるという意味の英単語。
ただし、傷ついたという意味ならWoundedでもDamagedでもScratchedでも一応意味は通る。
あえてジープベニザクラがこの単語を選んだ理由は。
ブレミッシュ、と言えば美容では肌のシミなどを、宝石ではクラリティ(宝石の質)に影響のある細かい傷のことを指す。
つまり、モノがダメになるような傷ではないがこのせいで完璧とは言えない。そんなごくごく小さな傷のことだ。
この時点でのジープベニザクラの戦績は8戦7勝と2着が1回。
まさに"ごくごく小さな傷のついた"戦績だ。
それが今の自分といわんばかりに、あえてジープベニザクラはティアラを放り投げて傷をつけ。
自らの頭にかぶったということなのだろう。
そう察した石原トレーナーの首は縦に動いていた。
「そうだな。人前で見せて良いものではなくなったが……」
「これほどジープベニザクラというウマ娘には相応しい飾りもないだろう」