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自らの走りが数多の人々の記憶に刻まれるのなら、メジロアルダンは命を賭ける覚悟もあった。
だが、例え命を賭けた走りで勝利を掴んだとしても、ジープベニザクラは誇り高く扱われることもなければ、多くの人々の記憶に残ることすらない。
たった"一瞬"すらも。
それが、メジロアルダンにとっては恐怖に感じた。
そんな世界で見返り1つないのに命を賭けているジープベニザクラが。
それに対して何の疑問も持たないジープベニザクラが。
話をすべて聞いたジープベニザクラはわずかに首をかしげた。
どうやら、今のメジロアルダンの恐ろしさというものにピンと来ていないらしい。
「……生きた証。考えたことありませんでした、そんなこと」
見返りなどいらないどころか、欲しいと思ったことすらない。
その言葉に、メジロアルダンは絶句した。
と同時に、このままジープベニザクラを帰すわけにもいかなくなった。
「……そんな残酷な話があってたまるものですか!」
あれほどの走りが認められもしない、報われもしない、覚えてすらもらえないなど。
ジープベニザクラがよくてもメジロアルダンが許さない。
大衆とまではいかずともせめて誰か有名で影響力のある者に知ってもらう必要がある。
不毛な砂漠に、くれない色の美しい桜が咲いているのだと。
幸い、メジロアルダンには心当たりのある人物が1人いる。
メジロアルダンはジープベニザクラの手を取って、懇願するように声を絞り出した。
「次の東京大賞典。姉様を……メジロラモーヌを、連れてきます」
「せめて私の姉様にだけでも、あなたの"今"を目に焼き付けていただきたいのです!」
メジロラモーヌはあの後、見事にトリプルティアラを達成し、間違いなく今年最強、今年を代表するウマ娘となった。
そんなメジロラモーヌにジープベニザクラは輝いているのだと示せば、わずかばかりでもジープベニザクラの生きた証が刻まれるのではないかと、メジロアルダンは考えたのだ。
両手を握られたジープベニザクラは、きょとんとしながら、メジロアルダンを見つめていた。
「……あの、やはり、ご迷惑でしょうか?」
「いえそんな!ラモーヌさんと一緒に見ていただけるのならこれ以上嬉しいことはありません。ただ……」
思っていた以上にメジロアルダンに詰め寄られたジープベニザクラは飄々と振舞う余裕がなくなったのか照れた様子で口元を隠した。
「私のレースをそんな本気で見ていただけるなんて……これまでなかったもので。どう喜べばいいやら……」