ターフがない場所にも、情熱はあると思うか?
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今年の東京大賞典は、異例づくしのレースとなりそうだ。
「なんであの人がこんなところに……」
「そっくりさん、なわけねえよな……」
まず、大井レース場に入場する前の玄関から周囲の入場客は噂話によるざわめきが絶えなかった。
噂にされている人物はただ道を歩いているだけなのに。
その人物とはすなわちメジロラモーヌ。
そして隣でメジロラモーヌを引き連れてくるように手をつないだメジロアルダン。
前人未踏の完全トリプルティアラを達成し、今年のMVPは満場一致で彼女に決まるだろうと言われた、それがメジロラモーヌというウマ娘だ。
そして、彼女はレースのことを"ターフ"からの愛と称し、勝利のことを"ターフ"へささげる情熱と称するようなウマ娘だと。
道行く人100人に聞けば100人がそう答えるであろうウマ娘だ。
だから大井レース場に現れるのは不可解なのだ。
大井レース場には、そもそも"ターフがない"のだから。
「--どういう風の吹き回しかしら、アルダン」
やはりメジロラモーヌ本人はあまり気乗りしない様子で左手でサングラスを外した。
右手はメジロアルダンの両手で繋がれている。というより引っ張られている。
おそらく妹にどうしても一緒に見てほしい、と言われて渋々ここに来た。いや連れてこられただけであって。
そんな機会がなければ眼中にも入れなかったことだろう。
「何時ぞやに申し上げたと思います」
「"ベニザクラさんが、姉様にも匹敵するほど、レースへの情熱をお持ちならば"と!」
メジロアルダンは、ジープベニザクラがレースにかける熱意というのはメジロラモーヌと同じくらい。
いや、いつものメジロアルダンらしからぬ口調の強さから、メジロラモーヌ以上だと言いたいのだ。
メジロラモーヌは信じがたいと言いたげに眉をひそめる。
ダートなどにいるような「落ちこぼれ組」が?
"指で砂場に落書きしているだけの、幼稚な子"が?
「……ありえないわね」
選抜レースの時と一言一句違わぬ感想をメジロラモーヌは漏らす。
だが当時、同時にこうもメジロラモーヌは思っていた。
"でもね、アルダン。ありえないことが起こるからこそ、レースは面白いのよ。"
きっとメジロアルダンも当時、自分の思っていたことを察していたはずだ。
ジープベニザクラとは、ありえない存在だと?
だからこの東京大賞典はきっと面白いと?
「……ええ、ありえません」
またも姉の心を読んだのか、妹は姉の心中の続きの言葉を呟いた。
何に影響されたのやら、メジロアルダンはずいぶんおかしなことを言うようになってしまった。
そうメジロラモーヌは思っている。
「……そう」
だがメジロラモーヌはサングラスをまたつけ直すと。
今度は逆にメジロアルダンを引き連れていくように大井レース場に向かって歩き出した。
実の妹だ。メジロアルダンのことくらい知り尽くしている。
何に影響されたかは知らないしどうでもいいが。
メジロアルダンのウマ娘を見る目だけは信じて良い。
そうメジロラモーヌは思っている。