異世界迷宮に行く筈が~銀河英雄伝説~(中編化)   作:高島智明

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最終話 伝説が終わり 歴史がはじまる

和約成った銀河帝国と自由惑星同盟に於いて「新たなる異なった戦い」が続いていた。

 

この戦いに於いて、帝国側で誰にも否定出来ない功績を上げたのはパウル・フォン・オーベルシュタインである。

この義眼の参謀は、全宇宙と言って好い広範囲において全ての医療記録を地道に追った。

そして遂に、不治の脳腫瘍を患っていた「前」フェザーン自治領主である黒狐を捕縛したのである。

 

やがて黒狐は、帝国軍に監視された病院で無為に絶命し、同時に検挙されていた息子と嫁は父親の棺(ひつぎ)とともに辺境の惑星に送られた。

同盟との戦乱の時代には「矯正区」と呼ばれた惑星だった。

同盟側でも「元」国防委員長ヨブ・トリューニヒトが遂に捕縛された。

全ての基盤を失い、かつての支持者に裏切られての末路だった。

共犯者たちの後に残る地球教団の主導権を握っていた大主教ド・ヴィリエも、先手を打たれることが重なって教団内部から突き上げられたこともあって、遂に義眼の参謀の陽動作戦に乗る様な無謀なテロリズムを自ら指揮した挙句、帝国軍の返り討ちにあった。

 

かくて「新たなる異なった戦い」は銀河に新たなる秩序を建設しようとする側の勝利に終わったかに見えた。

だがしかし、それを喜ぶ余裕を覆す様な凶事に帝国は見舞われた。

 

即位以来、数度に渡って高熱を発して病臥していた皇帝ラインハルトが、遂に重体に陥った。

そして、不治どころか正確な病名さえ不明、治療法も此れから研究するしかないという奇病だと診断されたのだ………。

 

……。

 

…これに先立って、皇帝の将来を憂慮した皇帝の姉と「我が友」に強く勧められ、ないしは諫めれて、遂に皇帝ラインハルトは旧姓ーヒルデガルド・フォン・マリーンドルフに求婚した。

そして、皇嗣と成る皇子アレクサンデル・ジークフリード・フォン・ローエングラムが誕生した。

 

だがしかし、皇子アレクの誕生とまるで入れ替わる様に皇帝ラインハルトは倒れたのである………。

 

……。

 

…皇帝ラインハルトが倒れて以来、皇帝の姉と皇妃は交代で乳児の育児を、あるいは「我が友」を加えた3交代で病者の看護に当たった。

 

そして、最高行政者にして全軍の大元帥の不在に何とか対処しようとするかの様に、文武の臣下たちは其々の職務に邁進していた。

あるいは、邁進したかったのかも知れない。

 

その中で義眼の参謀は、黙々として残務処理と引継ぎの準備を進めていた。

これまでの、特に直近の「新たなる異なった戦い」に於ける功績を誇ることも無く。

 

冷徹にして知性を持つ参謀には分かっていたのだ。

このまま皇帝ラインハルトが逝去すれば、幼帝と言うにも幼過ぎる新皇帝の母后として新たなる執政者に立つであろう皇妃ヒルダの治政に於いて、自分は「平治に乱を呼ぶ」要因に成るだろう、と。

 

それならば、身を引くべきと結論付けていた。

果たして、皇帝ラインハルトへの殉死を思っただろうか。

何れにせよ、義眼の参謀には、老犬と執事と共に過ごす年金生活が待っていた。

 

この義眼の参謀の「No.2不要論」の持論にも関わらず、ラインハルト・フォン・ローエングラムとジークフリード・キルヒアイスの友情に楔を打ち込むことは叶わなかった。

だがしかし、この「No.2」は「No.1」に取って代わる気配を見せることも無く、只、友人の看病を交代制で務めていた………。

 

……。

 

…そんな、とある日。キルヒアイスが看病の「当番」を務めていた時。

ふと目覚めたラインハルトが枕元の「マイン・フロイント(我が友)」に話しかけた。

 

「考えてみれば、ホンの何年かしか経(た)っていない。あの頃は、お前と2人だけだった…」

ラインハルトは、思い出話をする様でいて、突然に話題を変えた。

歴史上の人物の遺言に言及したのだ。

 

「キルヒアイス。あわてるな。

仮にも皇帝である以上、内乱を放置して死んだフリードリヒの様な愚かな皇帝には、俺は成らない。

皇帝としての遺言は、臣下を集めてキチンと残す。

だが、お前だけに言いたかった…有り難う…」

 

「…ラインハルト様…」

「どんな遺言を遺(のこ)した処で、俺が無責任な皇帝だ、と言う事は変わらんな」

ラインハルトは、例え病床でもキルヒアイス以外には皇妃ヒルダにすら見せない自分を見せた。

「アレクは幼い。

エルウィン・ヨーゼフやカザリン・ケートヘンと比べても余りにも…あんな赤子に銀河を任せるまでも無い。

この帝国を繁栄させる力を持ったものが皇帝に成れば好い」

「…ラインハルト様…」

キルヒアイスはハッキリと宣言した。

「私は、ジークフリード・キルヒアイスはラインハルト様と同様、皇帝アレクサンデル・ジークフリード陛下にも忠誠を誓約致します」

「無用だ。キルヒアイス。俺はもう、何もお前に要求する資格は無い。

アレクに対しても父親が友人だった、だけで好い。

お前の自由だ」

「好きにさせて頂きます。マイン・フロイント」

その場には、友人たち2人しか居なかった。

同盟領イゼルローン要塞。

ヤン・ウェンリーと「ヤンファミリー」も「その時」を待っていた。

 

そう、ヤンには『原作』知識が教えられていた。

その『原作』からは、同盟の命運も変わり「新たなる異なった戦い」の結果も変わっていた。

その為、ヤンに対する暗殺は巧まれなかった。

そして今、歴史家志望者は「歴史の目撃者」に成ろうとしていた。

新帝国暦3年7月26日。

その時は、近付きつつあった。

 

皇宮には文武の高官が次々と参上していた。

ただ、双璧と呼ばれる両元帥だけは、ひとまず私邸に戻って妻子を連れて来る様に希望された。

 

ミッターマイヤー夫妻と息子のフェリックスを連れたロイエンタール1家が戻って来ると、親友同士の家族は皇帝の病室に招き入れられた。

 

「わが子アレクサンデル・ジークフリードに友人をつくっておいてやりたいのだ」

皇帝ラインハルトは自らの親友を振り返り、そして双璧と呼ばれた親友同士の間で視線を往復させてから、自分の息子である皇子アレクを見返した。

「帝国などというものは、強い者がそれを支配すればよい。

だが、この子に、対等の友人をひとり残してやりたいと思ってな。

勝手な願いだが、承知していただけるだろうか」

 

それぞれの生母の胸に抱かれて、生後2ヶ月の乳児と1才2ヶ月の幼児が互いを見詰め合った。

見守る誰も滑稽(こっけい)だとは思わない。

やがて幼児の父親が乳児への忠誠の誓約を勧めた。

その意味を理解したのだろうか、フェリックスがアレクへと手を伸ばし、幼児と乳児は互いの手を取り合った。

俺は、皇宮の1室で、その時を待っていた。

呼び出された同盟高等弁務官の随員の1人として。

 

間もなく「知っていた」物語は終わる。

それは俺にとっても物語の中の人物では無く自分としての「現世」を生きる事が、改めて始まる事を意味していた。

…そして「その時」が来た………。

 

帝都の星空を背景に「白鳥」の宇宙戦艦が浮かんでいた。

乗り手をいたむ愛馬の様に。

 

その戦艦を、皇宮の庭から「手国軍の双璧」と呼ばれる親友同士の2つの家族が見上げていた。

「先帝」の大喪の準備と、新皇帝の即位に向かって、悲しみの中にも多忙に騒(ざわ)めく皇宮の屋内を暫しの間だけ離れて。

 

フェリックスが母親の胸の中で、父親の名を呼んだ。

それは、彼の生涯に於ける最初の言葉だった。

 

その事実に、喪失感の中にもささやかな幸福を見出した「手国軍の双璧」は、家族とともに星空に浮かぶ戦艦に背を向けて、皇宮の方へと歩み出した。

未来へと………。

 

……。

 

…伝説が終わり、歴史がはじまる。

 

 

                「異世界迷宮に行く筈が」(『銀河英雄伝説』2次創作)完結




ここまで読み続けて頂いた皆様方には、改めて厚くお礼を申し上げます。 作者:高島智明
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