全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
体を入れ替え、ラダッソと切り結ぶ。
ロビンは両手を下ろし、無表情のままこちらを見ている。
冷たい目は人間ではなく、機械カマキリのそれに似ている。
今俺と切り結んでいるラダッソ9973のほうがよほど人間らしい。
不意に、そのラダッソ9973が間合いをとってロビンに呼びかけた。
「おいお嬢さん! 仲間のようだが何者だ! 手助けはしてくれないのか!」
「私はラダッソ■■■■。オルランディア様の命を受けて協力しました。物体解体以外の能力はなく、戦闘技術もないのでこれ以上の手助けは不可能と判断します。
貴方の指揮下に入るように命令されておりますので、別途命令がおありならどうぞ。
以上です」
俺には発音も聞き取りも出来ないような言語で名乗る「ラダッソ」。
・・・おい、なんだそりゃ。
ジローに続いて、また俺の友人にあんなもんを憑依させやがったことか!?
「それは違います、カエラ・ヴィクトリアス・ヴォロディア・ヴァレンタイン・ニシカワ。
私は生まれた時から『ラダッソ』でした」
思わず俺の動きが止まった。
この瞬間に目の前のトーマ=ラダッソに斬りかかられたら、やられてたかも知れない。
だが何故かラダッソ9973のほうも信じられないことを聞いたような顔になっていた。
「どういうことだ、ラダッソ・・・ええと、ラダッソ=ロビン。
お前はロビンに憑依したラダッソじゃないのか?」
質問。
この瞬間、動きを止めたラダッソ9973に斬りかかれば倒せたかも知れない。だが俺もまた動かなかった。
機械カマキリと戦うフジたちを挟み、俺と9973、ロビンとが見つめ合う。
「ラダッソとは本来、霊体と肉体をセットで運用する
切り離せるようになっているのは、どちらかが損傷したときに容易に交換出来るようにするため。
つまり、意識を持つ人間に憑依させる貴方のような運用がむしろイレギュラーなのです」
・・・つまり、本来はソフトとハードを組み合わせて運用する規格だが、
あるいは霊体のプラントだけがあって、肉体のプラントは手に入れてないのかもしれん。
「一方で私は霊体と肉体を備えて作られた完成品のラダッソです。
完成して以降放置されていたのを、オルランディア様が起動信号を送って下さったことで意識が覚醒し、こうして使命を遂行しております」
ちょっと待て。じゃあ「ロビン」はなんなんだ? お前とは違うのか!
「使命の遂行の妨げになる恐れがありますのでお答え出来ません」
「指揮官権限で命令する、ラダッソ=ロビン。その質問に答えろ。場合によっては俺の使命遂行に影響する」
・・・!
思わずラダッソ9973の方を見る。
奴は僅かに俺に視線を返しただけで無反応。
「わかりました、ラダッソ9973。
『ロビン』なる人格は元々この肉体に存在していません。
ただ
何らかの理由で霊体が休眠している間に肉体だけが覚醒し、活動・成長している間に擬似的な人格を作り上げたのではないでしょうか。
つまりお尋ねのロビンなる人格は・・・」
おい。待て。それは。
「ただのバグ。消去すべきエラーです」
「・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
機械カマキリ以外の全員が絶句している。
俺と相対するラダッソ9973までもが。
「ふざけるなっ!」
思わず出た怒声。
だがもう止まらない。
「いいか、あいつはなあ! ただの女の子なんだよ!
家族といるのが好きで、たわいないおしゃべりをするのが好きで、美味しいものを食べるのが好きで、女らしい格好をしたら恥ずかしがって!
何よりあいつは鍛冶が好きなんだ! ものを作り出すのが好きなんだよ!」
脳裏に浮かぶのは、MMR号の部品を打っていた姿。
この上なく真摯に、全身全霊を金属に打ち込んでいた姿は、思わず背筋を伸ばすほどに美しかった。
もちろん才能はあるんだろう。だが、好きでもないものにあれほど打ち込める人間なんていやしない。
あいつは心の底から物作りが好きなのだ。自分の全てを捧げてもいいと思うくらいに。
「それが、ただのバグだと? 消去すべきエラーだと?
黙ってろよ、十数年も寝てたくせに! その体はもうロビンのものだ!
カビの生えた人工霊体なんかじゃない、自然に生まれたロビンの魂のものなんだよ!」
「意味不明です。これは私の体。私と接合するために作られたボディです。
現状こそがあるべき姿であり、貴方の知る状態は修正すべきバグでしか・・・しか・・・」
ラダッソ・ロビンががくがくと震え始めた。
肩を抱いてうずくまるロビン。
どうした!?
「りょうしゅ、さま」
上げた顔には表情があった。
・・・ロビン。ロビンなのか?
「わたし、もっとかじがしたいです。いろんなものをつくりたいです」
たどたどしい、呂律の回らない舌で、ぽろぽろと涙を流して訴える。
「たすけて、ください」
わかった。必ず助ける。思う存分鍛冶をさせてやる。
だから待ってろ。俺が助けるまでがんばれ。
「は、い」
泣き笑いのまま、またロビンがうずくまり、身体を震わせ始める。
恐らくあの身体のなかでロビンと古代のラダッソが戦っているのだろう。
放っておけばどうなるかわからない。急がなくては。
9973に向き直る。
そう言うわけだ。取引をしよう。
「・・・なに?」
9973の顔が一瞬呆けて、すぐに真顔になる。最低限耳は傾けると思ったぜ。
今からすることを見逃せ。その代わりその後で「ここ」を突き刺させてやる。
そう言って俺は心臓の上を親指で突く。
奴が笑みを浮かべた。
「なるほどなるほど、それならば私の使命も達成に近づく。少なくとも損にはならない。
交換条件としては悪くないな。だがいいのかね?」
助けると言ったんだ。武士に二言はない。
「ふむ。ならばもう一つ。君が約束を守る保証は?」
今言ったろう? 武士に二言はない。
奴の笑みが満面に大きく広がる。
「いいだろう。やってみたまえ」
交渉成立だな。
シル! 心話の術を俺とロビンに!
「・・・カエラちゃんのバカッ! 後でひどいんだからね!」
分かってる。今は急いでくれ。
「う~~~っ! ~~~~~~~!」
地団駄を踏みながらも、シルが手早く呪文を詠唱。
俺は散らばった荷物からあるものを拾い上げ、ロビンに歩み寄る。
「~~~~!」
膝を突いてロビンと額を合わせる。それと同時に完成するシルの呪文。
視界が暗転した。