全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
奇妙な場所に俺はいた。
SF的なつるつるした床の真ん中に粗末な街道が通り、抽象芸術のようなデザインの橋をオンボロの傭兵馬車が渡る。未来的な建物と粗末な村。土壁の屋内に古代文明の魔導機械がずらりと並び、機械仕掛けの鍛冶師達がハンマーで金床の金属を叩く。
その中で二人のロビンが取っ組み合っていた。
革のエプロンをつけて、鍛冶屋姿のいつものロビン。
体にぴったりした宇宙服のようなものを着た無表情なラダッソ=ロビン。
ラダッソ=ロビンが鍛冶師のロビンの上にのしかかり、首を絞めている。
「消えなさい、イレギュラー。貴方は存在すべきではなかったのです」
「・・・が・・・は・・・」
呼吸を断たれたロビンの抵抗が弱々しくなっていく。
だがそれを許す訳にはいかない。
助けると言ってしまったからな。
俺は「それ」を拳に握り込み、反対側の拳でラダッソ=ロビンの背中を打つ。
ガイア・インパクトォ!
ラダッソ=ロビンの体が一瞬分解されかかり、慌てて元に戻ろうとする。
その隙に俺は手の中のものを体内のコアらしき部分に叩き付けた。
「がっ!」
「げほっげほっ・・・領主様!」
ラダッソの手が離れ、せき込みながらもロビンが俺を認めて笑顔になる。
再生しかけたラダッソが痙攣した。
俺の拳は奴の背中を突き抜けて、心臓にまで届いている。
ここは精神の世界。意志の力があればできない事はない。
「や・・・め・・・」
震えながらもこちらを向いて何かを言おうとするラダッソ。
その体が光になり、渦巻いて俺の手の中に吸い込まれる。
開いた手の中には、ぼんやりと光る正二十面体のクリスタルがあった。
そう、ここはロビンの心の中だ。
シルの心話の術ともう一つ、ラダッソ対策として盗賊ギルドから調達したこの「十二角の水晶」の力で一時的に俺とロビンの精神の間にリンクを繋げている。
リンクを繋げてロビンの心に干渉出来るようにして、精神力で奴を打ち負かし、この水晶の中に封印する。それが俺の策だった。
有線直結のラダッソに対してWi-Fiですらないモバイル程度の通信量で太刀打ち出来るのかと思ったが、何とかなった。
恐らくロビンにかかりきりになって、こちらに回せるリソースがなかったのだろう。
周囲の風景がノイズになって消えていく。俺も、ロビンもだ。
雑音と砂嵐が周囲を覆い、何も見えなくなり聞こえなくなる。
それでも、礼を言うロビンの笑顔と声だけははっきり聞こえた気がした。
接続が断たれると同時に、俺は現実世界に復帰していた。
いや、俺の意識がロビンの心に入ったと言うよりは、俺というパソコンからロビンというパソコンにアクセスして、内部のウィルスを遠隔操作で除去したとかそういう感じか。
先ほどまで透明だったクリスタルに、赤黒っぽいモヤがうごめいているのを確認。
腕の中のロビンが顔を上げた。涙の残る顔で笑みを浮かべるのを確認して立ち上がる。
ジューニャ! これを頼む。
「え? は、はい!」
放り投げたクリスタルをジューニャがキャッチ。
ロビン、動けるか? あのカマキリどもをばらせ。魔力がないならジューニャから疲労回復の呪文を貰うんだ。得意分野だろ。
「はい、領主様!」
振り向いて前に進む。
背後でカマキリのパーツがバラバラと落ちる音。歓声。
それを聞きつつ、俺は戦場の真ん中を通ってトーマ・マーガセン・・・ラダッソ9973の前に立った。
「お見事。どうやったのかね?」
それを話すと使命に支障が出る可能性があるのでね。秘密とさせて貰おう。
そう言うと9973が苦笑する。
「それではしょうがないな。ともかく君の目的は達した訳だ、おめでとう。
それで、約束は守って貰えるのかな?」
何度でも言ってやる。武士に二言はない。
さあ、突け。
心臓の上を再び親指で指す。
「カエラちゃん!」
「カエラ君!」
「カーヴェ!」
女たちの叫び。
その中でフジだけは俺の方を無言で見つめている。
どちらにせよ、まだカマキリが生き残っている以上こちらのフォローに入る事は出来ない。
「それでは失礼して」
その言葉と共に、9973の剣が無造作に俺の胸を貫き、背中まで貫通する。
「!!!!!」
シル達の言葉にならない悲鳴。
俺の胸を貫いた9973の剣が止まる。
奴の表情がゆるみ、「ああ、やっぱり」という顔になった。
同時に俺の右手が奴の顔面をとらえている。
「ガイア・インパクトぉ!」
直接脳髄を揺さぶられ、奴は物も言わずに昏倒した。
あいててて・・・シル、治療呪文を頼む。
肺や大動脈は傷ついてないと思うが、それでも痛いものは痛い。
俺はそっと剣を引き抜いて胸を押さえた。
「
それとほぼ同時にロビンの《加護》が最後の機械カマキリを解体している。
カマキリのパーツが床に散乱すると、女たちが俺に駈け寄って来た。
「カエラ様!」
フジが真っ先に駈け寄って来て、俺の胸に手を当てる。
「動いてる・・・心臓を貫かれたのに」
シルが呪文を唱えて俺の胸に手を当てると傷が塞がり、血が止まった。
「・・・一体どうやったんだよ? どう考えても心臓を直撃してる傷なんだよ」
シルの言葉に頷くフジたち。
まあ、それほど難しいことじゃない。
俺がよく波動防御!ってやってるだろ。エフティ言うところの「ツルツル」。
「ちょっと待て、お前まさか・・・」
うん。
その結果、心臓は剣に貫かれるのではなく、はじかれて位置をずらすだけに留まった。
背中の大動脈が切られないかとひやひやしたが何とかなったわ。
ん? なんだ。どうしたみんな。
「まったく・・・心配をかけないで下さいませ、若様」
タチバナが重い溜息を吐き出し、他の連中が(傭兵たちまでも)一斉に頷いた。
サーセン。
取りあえずラダッソ9973を武装解除・拘束する。
服や鎧は見事なまでにバラバラなので全員ジューニャの《
床に散らばったバラバラのあれこれもジューニャに《念動》でまとめて運んで貰おう。
それで働かせてばかりで悪いが、この遺跡の操作方法はわかるか?
「ふふん! 私は優秀ですからね! しょうがありませんね!」
はいはい優秀優秀。それでどうなんだ?
「カエラ君が素っ気ないです・・・結論から言うと、これもやっぱり研究が必要ですね。すぐにどうこうはできそうにないです」
ロビンは?
「私に聞かないでください・・・」
まあ町の電器屋にスパコン見せるようなもんだからな、これはしょうがない。
こうしてる最中にも地上では「
シル、《
「え? ああ、わかったんだよ」
「またですか・・・」
この際しょうがない。ジューニャは調整頼むぞ。
「何をするんですか?」
首をかしげるロビン。
俺とお前の初めての共同作業さ。
二十分後、《
俺達はそれをMMR号の窓から眺めていた。
さ、帰るぞ。俺達の村に。
「「「「「「「はい!」」」」」」」
七つの返事が一つになるのを聞きながら、俺はマット村への降下軌道にMMR号を乗せた。
>大動脈
背骨に添って走る大動脈は頸動脈を遥かに凌ぐ血流量があり、万が一切られると大量の血が瞬時に吹き出し、内出血で即死する。
1960年、暴漢に刺された社会党の浅沼稲次郎がこれで死んでいる。
オウム真理教のナンバー2であった村井秀夫が刺殺された時も、大動脈から繋がる腎動脈(これも頸動脈以上の血流量がある)を何度も執拗にえぐられたらしい。