全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
第二話 ビースト&ブレイド
「おまたせ!アイスティーしかなかったけど、いいかな?」
――野獣先輩――
「獣人? ってなんだ?」
エフティが首をかしげる。
名前通り獣の要素を持った人間のことだよ。猫耳とか牛の角とか尻尾とかあるやつ。
外見だけ見れば角のあるおまえも獣人だろう。
「あー、そう言えば昔そんな事言われた気もするなあ」
存外お前も先祖に獣人がいたりする可能性はある。
かなり珍しい種族だけど王都にコロニーがあったはずだし、どっかで血が混ざってる可能性は否定出来ない。
「下町の方に行くとそれなりに見ますね。
確か南西部のスラムに一万人近い人数が集まって暮らしているとか」
「いちまんにん!? そんな沢山いたんだよ?」
目を丸くするシル。
まあこいつはお嬢様だからな。そう言う下町の方には余り行かせて貰えなかっただろう。
「そりゃそうですよ。御当主様はそう言う所はキッチリした人でした」
とは一緒に食卓を囲むロウの言。
普通に娘を案じる父親ではあるんだが、あの人のビジュアルを考えるとお姫様を閉じ込める悪い魔法使いみたいなイメージがどうしても・・・
そう言うとロウが苦笑する。否定しきれないらしい。
「大事にされてたのは間違いないんだよ。そう言うイメージを他人に植え付けたのは100%自業自得だけどなんだよ」
「あの人の場合自分の悪評を利用してるところもありますからね。
ぶっちゃけあの顔じゃ、にこやかに振る舞っても限度があるでしょう」
食卓に苦笑が満ちる。
うんまああの顔じゃな。
「私もお使いの時にたまに見かけることはありました。
親方の知り合いの工房に牛の獣人さんがいるという話も聞いたことがありますね」
「へーえ。そいつらってやっぱり妖精なのか?
何つったか確か、猿の妖精とか魚の妖精がいたろ」
俺の聞いた話じゃ獣人は妖精・・・つまり、古代に神様が人間に力を与えて生まれた種族ではないらしいが。
ジューニャは何か知ってるか?
「あ、はい。人間から生まれた種族という意味では同じなんですが、獣人は〈百神〉ではなく古代の真なる魔術師たちの魔術結社が生み出した種族だそうです。
『人間より優れた人間』を生み出すための実験の一環だったそうで」
まあ獣人は総じて人間より優れた身体能力を持ってるらしいからな。
しかし人間が生み出した種族か。何か面白くない流れになりそうだな。
そう言うとジューニャの目が泳ぎだした。
「あー・・・まあ・・・そうなったかもしれないんですが・・・」
・・・どうなったの?
「それが魔術師たちは派閥に分かれて争いはじめまして・・・」
察するに獣人を人として扱う良識派と、奴隷として扱う連中に分かれたってところか。
「いえ、狐耳萌え派と猫耳萌え派の内輪もめによって滅びたそうです」
滅びてしまえそんな結社!
「だから滅びたんですってば」
おほん。まあともかく話を元に戻そう。
ここはメットーで最近評判の中華料理レストラン。もちろんオリジナル冒険者族の(ry
俺達がここに集まっているのは、ロビンの事件の時に約束して、あれこれで先延ばしになっていた会食のため。
で、デザートの甘くて黒くて四角いゼラチン(「仙人の草」というらしい)を食べている時に、ロウが獣人の話を持ち出してきた訳だ。
「それで、獣人が何かロウの商売と関わってくるんだよ?」
「関わってくると言うか、既に取引先ではあるんですが・・・向こうの方で若様をご指名なんですよ」
どゆこと?
「今言った王都南西部のスラムに獣人が住んでるんですけど、やっぱり獣人の中でも派閥というのがありまして。
犬系、猫系、鳥系、爬虫類や蛇などの鱗系、草食系など、氏族ごとに集まってるそうです」
ふむふむ。
ん、魚系とかはいないのか?
「魚とか両生類とかはいないみたいですね」
「地上で活動することを想定するなら、その辺は外すでしょうね」
そういうことかな? 話の腰を折って悪かった、続けてくれ。
「はい。向こうさんの話によれば、ある獣人の娘が殺人事件を目撃しまして。
お上に届けたら、面通しをしてる最中に襲われたと。捜査に当たっていた巡査がかばってくれたそうですが、重症で入院。
先ほど申し上げた派閥の関係も微妙で、全面的に頼るのは怖い。
その娘を保護して、できれば事件も解決してくれないかというのがあちらの意向です」
裏は取れてるのか?
「はい。少なくとも殺人を目撃したのと巡査が入院してるのは事実のようです」
それで何で俺に・・・内部の人間が黒幕、ないしは内通者ってことか?
「おそらく」
厳しい顔でロウが頷く。
「そんな事が!?」
驚いているのはジューニャ。ロビンも同じく。
フジやタチバナ、シルやエフティと言った多少なりとも社会の裏を知ってる面々は「ま、そう言う事もあるだろうな」って顔。
ただ、事が犯罪絡みなら確かに俺を頼るのは正解だな。
「ああそのそれが・・・」
どうした? 何か済まなさそうな顔だが。
「今回はそちらのツテは余り使えそうにないんです。
事が麻薬関係なので」
「ああ、なるほどなんだよ」
今回頷いたのは俺とシルだけだった。
「どういう事でしょう、カエラ様?」
フジも知らないのは意外だったが、まあ普通はそうか。
昔、麻薬がひどく流行したことがあってな。
内務省管轄の警邏隊に加えて、大蔵省に麻薬専門の捜査部署である麻薬特捜局、通称麻特が増設されたんだ。
そして内務省と大蔵省は官庁比べのワンツーフィニッシュを決める巨大官庁同士で死ぬほど仲が悪い。後は分かるな?
「察しました」
「まあ『せくしょなりずむ』っていうのは官僚がいる限りなくならないんだよ」
ともかくその娘に会ってみよう。麻薬絡みって言うなら、潰せるだけ潰しておきたい。
「ありがとうございます。さっそく連絡を取ります」
「しかしこの話を何故カエラ様に? 向こうの指名とは言えまがりなりにも1500人の村の領主ですよ? その様な方に依頼する事ではないと思うのですが」
「確かに、今のロウならそれなりの冒険者も雇えるんだよ」
まあ、確かにそれはそうだな。
俺としてはひたすら農作業と土木作業と選別作業と事務仕事な現状が正直辛くて現実逃避したくはあるのだが、それを口にするとタチバナにお説教を食らうのでお口にチャック。
「まあそれはおっしゃる通りなんですが、何せ事が獣人のコミュニティ内部の話ですから、信頼されてる人間じゃないと難しいんですよ。獣人の冒険者はやはり少ないですし」
じゃあますます何で俺に? 『飛竜殺し』のネームバリューか?
「それもありますがもう一つ理由がありまして」
へえ、なんだ?
そう聞くとロウがちらっとエフティの方を見た。
「獣人の娘を愛人にしているから、だそうです。
どうも若様とエフリーティさんが屈託なく話しているのを見たらしく」
あー。
「あー」
「好色漢の噂も役に立つもんだな」
肩をすくめるエフティ。うるせえよ。
しかしそう言う所で選ばれたって事は、獣人を差別する人間も相応に多いんだろうな。
ちょっと面倒な予感がするわ。
>狐耳と猫耳
ケモミミ萌えの二大派閥(偏見による独自調査に基づく)。
>仙草ゼリー
黒くて四角いゼリーみたいな何かで、食べてると口の中の脂がすっと流されていく感じがするデザート。
香りはちょっとミントっぽい感じ。
ぐぐるさんによると仙草というのはシソ科のハーブで解熱効果があるとか。
>麻薬専門の捜査部署
厚生省の麻薬取締部、通称マトリがモデル。
麻薬警察。必要なら拳銃も撃てる。