魔力を操ることで大地を支配する貴族の嫡男ウィルクは、閨の相手として購入したエルフの奴隷娘イブがいつまでもぎこちないことから、懐柔するための一計を案じる。
クオルデンツェ侯爵家の嫡男クオルデンツェ・ウィルクは今日もやりたい放題であった。
ちなみにやりたい放題とはエロい方向でのヤりたい放題である。
地球世界であれば身分や財力を盾に女性に関係を迫るのは眉をひそめられるようなことであったが、ここは地球世界とは違う異世界であり、異世界のエルオ大陸では魔力を伴う力こそが正義であって、特に大貴族の嫡男ともなればその魔力は他の追随を許さず、魔力を持たぬ力無き平民はこうべを垂れて平伏し、女性たちはその力の一端を子種という形で分け与えられることを熱望し、進んで身体を投げ出してくるものがほとんどだった。
だからウィルクはエロ解禁となってから股間のモノが乾く暇もないほどにヤりたい放題だったのだが、その中で約一名、やや思い通りにならないものがいた。
それはウィルクの脱童貞のための最初のお相手として、大金はたいて性奴隷として購入したエルフのイブだった。
エルフは、エルオ大陸の中でも北の辺境に位置する霧の大地に住まう少数部族であり、貴族を中心とした社会体制には全く馴染みがないようで、奴隷狩りに遭い故郷から引き離され売り飛ばされてきたイブは、脱童貞に逸るウィルクによってかなり強引に扱われた結果、ウィルクを逆らってはいけない相手だと認識はしても、媚びを売れば得になる相手だという理解は薄いようで、ここしばらくのウィルクがイブではない他の女性を相手にしていると『よかった。私が恥ずかしいことの相手をしなくていいんだ。助かった』とほっとしている様子があからさまだった。
脱童貞に逸り、雑な扱い方をして初手で大きくマイナス点を稼いだ結果なので仕方がないが、それでもせっかく身体の関係のある間柄なのだ。もうちょっと距離感を縮めたいものだと、金と権力で従えた結果の関係でしかないにも関わらず、そんな贅沢な願望を持つウィルクだった。なにせ傲慢上等のお貴族様のご嫡男なので。
それなので、使用人づてでイブに自分の置かれている立場を言い聞かせておくことと並行して、ちょっとした小芝居を仕込んでおくことにした。
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イブはニューネリーの城勤務ではなく、そこから見下ろす城下にある高級住宅街のクオルデンツェ家所有の別邸に住み、さらにそこから開拓結社の事務所に通って雑用を務めていた。
実のところ性奴隷として購入されたイブは、閨事だけに専念していればいいはずなのだが、貴族の嫡男にも関わらずどこか貧乏性なウィルクが、イブを遊ばせておくのももったいないと、自身が所有する開拓結社にて写本の仕事でもさせておけと指示して現在に至る。
なまじ簡単なことであっても仕事が与えられていることにより、イブに取ってはこれさえこなしておけば安泰なのだと思わせることに繋がったようで、この仕事だけをして過ごし、ウィルクとの房事をできればやりたくないなと内心で忌避する結果になっていた。
イブはすっかり忘れているが、開拓結社に勤め始めた頃はろくに名前も呼ばれない文字通りの下層の奴隷扱いで冷遇されていて、ウィルクとの二度目の閨を経てからようやく開拓結社での地位が安定しているのだ。
これはウィルクの守役が気を利かせ、開拓結社の従業員に命じて行わせた仕込みであり、買われてきた奴隷であっても貴族の嫡男の寵愛を受ければ尊重されるのだと待遇で理解させようとしてのことだったが、残念ながらイブに取っては待遇改善とウィルクとの房事という点と点が線で繋がらなかったようで、開拓結社の従業員の態度が変わったのも、単に時間を経て自分が受け入れられただけとしか感じていないようだった。
買われてきた奴隷としてはイブの境遇はかなり恵まれている方なのだが、彼女自身にその自覚がないのは困りものだった。
もっともイブにしてみれば、故郷で平穏に暮らしている自分が最善の状態であり、それ以外は全くもって恵まれていない状態なのだから自覚に薄くて当然ではあった。
そんな当然を当然として受け入れたくないお貴族様のウィルクとしては、イブの態度を改善させるためにも再度開拓結社に仕込みを入れることにした。
だからと言ってまた結社の従業員に冷遇させるのは芸が無いし、従業員の一人であるミモンあたりは子沢山の子持ちとして、我が子の年齢に近いイブを演技とはいえまた冷遇するのは気が進まないだろう。だから別の人間を仕込みに入れることにした。
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その日、開拓結社に雑務隊の副長のモックがやってきた。
これ自体は特に珍しいことでもない。ウィルク直属でちょっとした思い付きの命令を受けては実行にあたる雑務隊は、やはりウィルク直属で新商品の開発と販売を請け負っている開拓結社の手伝いに来ることもあり、結社と雑務隊は顔見知りの仲だった。
しばらくモックは開拓結社社員のスリッツと当たり障りなく仕事の話をした後、用事が一段落した素振りで社内をぐるりと見まわした。
「ところでイブって娘はどの子だ?」
「ん? イブを知っているのか? それならあそこにいる若い方だが?」
モックの疑問にスリッツが答え、近くでミモンと仲良く話し込んでいるイブを指差した。
自分が話題に上ったことをエルフ特有の尖った耳で耳聡く聞きつけたイブが、なんだろうとモックたちの方に視線を向ける。
すると視線が合うか合わないかのうちに、モックがずかずかとイブに近づいてきて、そのまま不躾にじろじろと見つめてくる。
「な、な、な」
大して面識もない相手から舐め回すように観察されて、イブは軽くパニックになったし、隣にいたミモンも目を丸くしていた。
「ふうん。見目は悪くないな。いや極上と言っていい。こりゃ楽しみだ」
品定めするような言葉に、イブよりも先にミモンが反応した。
「モックさん、失礼ですよ。この子は…」
「ウィルク若様のお手付き、だろ? 知ってる」
ミモンの咎めにもひるまず、モックは何でもないかのように言葉を返した。
「分かっているのなら…」
色めいた目で見るのを止めなさい、と続けるミモンの声は遮られた。
「でも最近はご無沙汰って話が流れてきてな。こりゃ近々お払い箱になってどこかに売り飛ばされるか、あるいは気前のいい若様のことだから、俺らに下げ渡してくださるんじゃないかって、軍部の若い連中の間で盛り上がっているんだぜ」
「え…」
モックの言葉に、イブもミモンもそろって絶句した。
「お、お払い箱って、私、どうなるんですか?」
恐々と問いかけるイブに対し、モックはと言えばあまりにも当然のように、それでいて女性に言うには酷な内容を告げる。
「そりゃあ、あんたは奴隷なんだから、飽きられて捨てられたらよそに売られて、また別のやつに可愛がられるか、軍部に下げ渡しとなったら希望する若い連中全員の相手をしてもらうことになるだろうな。俺としちゃあ下げ渡しを期待したいところだから、もしそうなったらその時はよろしくな、お嬢ちゃん」
ストレートに性的なお相手として期待していますという欲望を隠しもしないモックに、イブはわなわなと恐れおののき、ミモンも顔を青ざめさせていた。
「モックさん、下げ渡しというのは確かなのですか?」
ミモンの問いに、モックはがしがし頭をかきながら軽く首を傾げる。
「さあなぁ? 下げ渡しの件はあくまで軍部の若い連中の願望でしかないからな。
ただ、そこのお嬢ちゃんが若様のお手付きになっても数えるほどしか相手を務めていなくて、城のメイドの方がよほどご寵愛は深いって聞いたぞ?
俺は城の下級使用人とは面識があるからそこからの伝聞だが、上級使用人の間ではそのお嬢ちゃんの評判はあんまり良くないって話だ。
大金積んで買い取ったが、若様が大してご執着でなくお気に召していないようなら何のために置いているのか分からない。
最初のお手付きの際にもヤキモキさせられたとかで、さほど役に立たないのなら外に出してしまいたいと考える文官が何人かいるようでな。
このまま若様のご関心が薄れたままなら、よそに売るとか下げ渡しとかは全く現実味のない話じゃないって感触はある」
「………」
さらりとなんでもない事のように言われたとんでもないことに、イブもミモンも絶句している。
「…お払い箱になったら、下げ渡しかもって…。じゃあ、ミモンさんも…?」
呆然となりながらも隣にいるミモンを気遣ったイブだが、それは見当違いの懸念である。ミモンも相手からの気遣わしげな視線を受け、否定のために黙って首を横に振ってみせた。
モックも論外だと笑い飛ばす。
「おいおい、奴隷のお嬢ちゃんとニューネリーの市民権持ちで開拓結社社員のミモンさんが一緒なわけないだろ」
まあミモンは大丈夫であっても、イブの状況は悪いままなので、彼女にまとわりつく重い空気が晴れることはない。
ミモンもイブのようにウィルクのお手付きではあるが、彼女は子持ちの未亡人で二十代後半とはいえ十代のウィルクの相手ができるとは思っておらず、彼からのアプローチには戸惑ったが、どうせ年増の自分はすぐにお払い箱になるだろうと割り切ったし、それならそれで一時の寵愛をうまく使い、お相手を務めたことで渡された賞与を貯めておいたり、息子の就職の口利きを頼むなど、少しでも家計を良くする足しにしようという方向に切り替えた。
だからミモンはウィルクからお払い箱になったとしても、開拓結社社員兼愛人からまた元の一社員に戻るだけであり、生活はそうそう変わることはないだろう。
しかしミモンと違ってイブはレヴィオス軍に捕まって奴隷として売り飛ばされた時点で自由も権利も失っており、市民権など端から無く、彼女を金銭で贖った者だけが彼女の行く末を決めることができるのだ。イブ自身に決定権は無い。それが奴隷という身分だった。
「私を毎日ここに送り迎えしてくれるメイドさんが教えてくれたんですけど、私が毎日おいしい食事を食べられたり、寝起きするための個室を与えられたり、小奇麗な服を着て重労働せずにいられるのはウィルク様に買われたからであって、もしそうでなかったら、今よりずっと悪いところに買われていて、娼館みたいなところで大勢の男の人の相手をしていたかもしれないって…」
イブはそう言って絶望に青ざめ、これって本当に本当の事なんですか? 嘘だって否定してくださいと言いたげな表情でミモンとモックを見つめる。
小刻みに震えるイブの哀れな様子に、憐憫の情を覚えないでもなかったが、ミモンたちも気休めの嘘は言えない。
「そのメイドさんの言う通りでしょうね…」
「まあ、順当なところだ。仕方ないな、お嬢ちゃんは奴隷なんだし」
ミモンは目を伏せながら、モックは当然と言わんばかりの態度で、その仮定が現実になりかねない可能性をも肯定してみせる。イブの絶望はますます深まった。
「イブちゃん。嘆いても仕方が無いわ。買われた奴隷である事実は動かせないんだし、そこから少しでもましな境遇を掴み取れるようにしないと」
そう言ってミモンがイブに教え諭す。
ミモンは大黒柱の夫に先立たれ、年老いた母と四人の子供たちを抱えてギリギリな状況を、ウィルクのお手付きになったことで改善できた経験があるため、その言葉には含蓄があった。
「で、でも、私はどうしたら…」
「とにかく、社長…ウィルク様に少しでも気に入られるように努めなさい。あなたは若くて可愛いんだから、常ににっこり笑いかけるだけでも随分違うはずよ」
「…は、はい…」
全力でウィルクに媚びを売れと勧めるミモンの提案に、イブは戸惑いながらも頷いてみせる。
二人の必死で深刻な様子を横目で眺めながら、モックはひっそりと肩を竦めた。
(お嬢ちゃんの危機感を煽るってこんな感じでいいんですかね。若様)
そう。モックの言う『イブが軍部の荒くれ男たちに下げ渡されるかもしれない』というのはイブの危機感を煽り、ウィルクに縋らせるように誘導してくれと、ウィルクからモックに下された指令であった。
ウィルクとしてはもうちょっとイブと親密になりたいと願っているのだから、用済みとしてよそに売り飛ばしたり、ましてや男たちに下げ渡すなんてするわけがない。ウィルクは寝取るのは大好きだが、寝取られるのは大嫌いなのだ。
そしてこの仕込みによってモックはイブから警戒されたり苦手意識を持たれるかもしれないが、開拓結社と雑務隊という職場違いのため、そうそう顔を合わす機会もないので、もし嫌われてしまったとしても特に不都合は無かった。
その後、メイドからの忠告とモックからのタレコミの二重の仕込みにより、危機感を煽られたイブがウィルクの寝所を自発的に訪れることになったが、それでも内心の脅えはやはり見え隠れしていたようで、ウィルクが望むラブラブエッチへの道のりは遠かったのであった。
(あとがき)「侯爵嫡男好色物語」の二次創作でした。閨事に関する会話劇なので一応R15にしております。
原作はなろう系R18版のノクターンノベルズ掲載で、WEB漫画掲載サイトであるマグコミでコミカライズがされています。
主人公ウィルクが様々な美女や美少女たちとエロいことをしまくるとてもHなお話なのですが、ファンタジー戦記ものとしてもかなりおもしろいんですよ。
設定が作り込まれていて、魔力を持つ人間が居る事で社会体制がどう変化していくかの歴史の流れや、ほとんど怪獣としかいえない強力な魔獣の存在など、様々な要素が絡み合う一代戦記としての側面もあり圧倒されます。
そんな決める時は決めるけど、常日頃はHのことしか考えていないウィルクとその周辺の日常の隙間を二次創作してみました。
ウィルクに親しまないイブに対してメイド伝手で自分の境遇を分からせる話が原作本編にあるのですが、そこを読んでいてそれだけでは弱いような気がしたので、雑務隊のモックが仕込みで適当なことをイブに吹き込む要素を盛り込んだ話となりました。いかがでしたでしょうか。