約束を果たしましょう 作:燈台
読んでくださる方が増えて嬉しいの極みです!
評価をつけてくださる方とか、感想を送ってくださる方とか(etc……)めちゃくちゃ嬉しいです。
※前回と前々回の話、大きい(?)変更点があるのでご注意ください。
「――ナナ、ナナオ! 勝手に逃げてごめん。『人類の敵』に殺されたく、なかったんだ……」
雑草がチクチクと体に当たる痛みに耐えながら、目の前の光景を、ナナはじっと見つめる。
息を荒くしながら、道を走るスバルの咆哮が森中に鳴り響く。
――何故、ナナとナナオがここに来ていたことを知っている?
眠っていたスバルに伝えた覚えも、伝えられるはずもない。昨日、ナナが海を見に行こうと誘ったことから推測したのだとしたら、勘が鋭すぎる。だとしたら、犯行現場を知っていたとしか――。
「『人類の敵』が来てる、かもしれねぇ。今すぐ、その崖からにげてくれ――ッ!」
――『人類の敵』だと?
スバルが『人類の敵』が襲撃したと思い込んでいるのは何故だ?
彼が『人類の敵』が来たと判断する材料は、ナナが油断させるために嘘をつくこと以外ない。――そして、ナナオを殺すにあたって『人類の敵』が来たと言った覚えはない。
「……はぁっ。はぁ。お願いだ、聞いてく――」
彼はナナが横にいることにも気付かず、崖の上の光景をだけを見て奥歯を噛んだ。
大声を出して泣き崩れることもない。ただ、間に合わなかったのだと、事実を受け入れているようだった。
――何故ナナオが崖から海へ突き落とされたことを知っているんだ。
手を握る瞬間、誰もいなかったはずだ。細心の注意を払い、ナナオを突き落とした。『討伐』の瞬間を見られるようなことをした覚えはない。
それどころか、ナナも崖から落とされたと思っている――?
「――俺は、みんなと居たい」
思案している間に、彼はどうやら崖の先端に立っていたらしい。先程見た彼の顔とは違う、何か覚悟を決めたような表情を浮かべている。
「――嘲笑いたいなら勝手にしろぉ? ま、俺星好きだからやんねぇけど」
星を見上げ、スバルは笑う。
スバルは何をしようとしているんだ。崖の先端に立ち、まるで自殺でもするかのような雰囲気を漂わせている。覚悟を決めたような表情をして、誰かを救う英雄のような表情をして、今からすることが、
――自殺?
自分が待っていれば、こいつは崖から飛び降りて死ぬ。『人類の敵』の死亡数が、一つ増えるだけの話だ。
そうして、スバルは崖の先――海へと片足を踏み出し、
「―――ッ」
――声にならない悲鳴を上げて、後ろへ座り込んだ。
* * *
「……ひ、はは」
嗤い声が、スバルの口から零れる。
今の一瞬、何があったのだろう。
覚悟を決めたような表情をしていたのに、ナナが瞬きをした瞬間、彼は押し潰されそうな表情に切り替わった。
「……もう、戻れない」
戻、れない?
「――あああぁぁぁぁぁああああ!!」
彼の咆哮は学校の方まで届きそうな勢いだ。痛みに声を上げたのではない。彼の叫びの行く先は、きっとそれではないだろう。
ゆえに、自傷行為とも言えるそれは止まることなく、スバルはもっと深く掌に爪を食い込ませる。
「……俺は」
倒れ込む前、歪んだ覚悟をした彼が放ったものとは、言葉は同じでも声色がまるで違う。弱々しく、現実に頭を抱えるただの高校生だ。
今、ナナオを殺害したことを知っているのは、目の前にいるこいつだけだ。スバルを崖から突き落とし、証言する機会を与えなければ、『人類の敵』を『討伐』を遂行しやすくなる。
潜んでいた場所から道へ出て、彼の後ろ――二メートルほどまで接近して崖から突き落とそうと――。
「―――っ?」
――ナナオだけでなく、ナナのことも逃がそうとした?
そもそも、そこがおかしい。
ナナオが殺されたことを知っているなら、何故ナナの安全も求めたのか。
スバルが、ナナオが『人類の敵』に殺されたと思っているなら、その対象であるはずのナナまで助けようとしたのは何故だ。
いや、今はいい。それよりも、現状の把握を優先しろ。
スバルは今、ナナオもナナも死んだと思っている。今駆け寄ったら、何故生きているんだと問われるだろう。
疑われるかもしれない。
だが、駆け寄らない理由はない。生きている理由なら、後からどうにでもなる。
何故なら――、
「菜月さん!」
今、柊ナナには、ナツキ・スバルにとって、絶対の信頼があるのだから。
* * *
「――菜月さん!」
後ろから駆け寄ってくる銀鈴の声音に、スバルは「わっ」と彼女を驚かせるぐらいの速度で振り向いた。
――気のせいだと、思わなかったわけじゃない。
だが、二回『死に戻り』をして、彼女たちの未来は途絶えてしまったのだと、運命から突きつけられた。
――もしかしたら崖の下で、二人とも生きているんじゃないかと、浅はかな考えを抱いた。
でも、五回落ちたこの崖で、スバルの死亡率は百パーセントだった。その望みを抱くにはあまりにも確率が低すぎる。
「……ナナ……?」
「はいっ、柊ナナです」
「ナナ! お前生きて……!」
彼女の名乗りを聞いて、自分が幻覚を見ていたのではないことに安堵する。泣き喚いたときとは違う理由で、自分の目端から涙が零れ落ちる。
彼女が生きているんだったら、もしかしたら――、
「――! ナナオは、ナナが生きているんだったらナナオも……」
「――ごめんなさい」
「――――」
願望が漏れないように唇を噛んだ。
やはり、自分は馬鹿だ。ナナオを殺した犯人になりたくないからと縋った。一番辛いであろう彼女に、縋った。
どれだけ時を巻き戻ろうと、自分は殺人犯だ。
「俺の方こそ……。――?」
「……菜月さん?」
『人類の敵』は複数人でナナたちを取り囲んでいたはずだ。だから、どちらかが囮にならなければ延命はできないし、延命できていたとしても、生き残ることは難しいだろう。――だから二週目、ナナはスバルを崖から落として死なず生き残ることに賭けた。
ならば今回、ナナでも生き残ることができたのは、スバルの能力――『死に戻り』で体験した情報を彼女が能力で読み取ったからではないのか。
今まで思い至っていたところに、いつからか落っこちていた。
もしも、スバルが気付かなかった『人類の敵』の死角に、彼女が気付くことができたのなら。
「――ナナは、俺の『死に――能力を読んで逃げれたってことか?」
座り込んでいた体を起こし、ナナの目と向き合う。
ナナがスバルの『死に戻り』を見てこられたのは事実だろう。だが、それはスバルの『死に戻り』の代償――他人に明かしてはならないということがナナに適用されないわけではないかもしれない。
今まで、彼女に理解を求めようとしたことはあったが、情報共有のために伝えたことはなかった。それをすることができたなら、スバルが取り零したナナオのような命は減るだろう。
上陸した『人類の敵』に立ち向かうことができる力は増す。
しかし――、
「……能力を、読む? 何のことですか?」
――そう上手くはいかないのだと、運命は言った。
「――ぇ?」
「すみません! わたしには確かに心を読むことができる能力があります。ですが、今わたしがここに立っていられるのは……中島さんが囮になって、森の方に逃がしてくれたからです」
「でもそれじゃあ、森に隠れてる大勢の『人類の敵』は……?」
「……大勢?」
「だってそうナナが言って……」
『死に戻り』で多少、スバルが経験してきた流れが変わったとしても、襲って来る『人類の敵』の数など、スバルには変更不可能だ。スバルの能力が及ぶ範囲ではない。
ならば何故――。
「寮に行きましょう。『人類の敵』の声は聞こえなくなりましたが、ここより安全なところにいた方がいいと思います」
森の方に数歩ナナが歩いて、右手を差し伸べた。
「……ごめん。俺がもっと、もっと早く立ち上がっていれたら――」
ナナは、スバルが『死に戻り』で見た情報は読み取ることができない。
希望だったが、だからこそ決闘のとき、彼女はわからないと答えたのだろう。
だか『死に戻り』での醜態は見られていなくとも、彼女にはみんなと同じように『急に喚いて逃げ出したナツキ・スバル』と見られている。彼女がいくら優しくとも、スバルが不可解であることには違いない。
もっと頭の中を整理して、一秒も無駄にせず『人類の敵』に立ち向かうべきだった。ナナオもナナも命を張って、一番張るべきであるスバルは何も出来なかった。
『死に戻り』の能力が、もし他の人にあったなら――ナナオやナナにあったなら、もっと上手く立ち回れていたのではないか。
前にもした同じ後悔を、スバルはもう一度――、
「――それは違います。菜月さんのせいじゃ、絶対ありません」
「そ、そんなわけねぇだろ。俺は、これが起こるって、ちゃんとわかってたはずなのに」
「菜月さんがすごい能力を持っていたとして、結果とイコールになるわけじゃないんです。だとしたらわたしだって、崖に向かう前に気付けませんでした。全部わたしのせいじゃないですか」
「違う! だってナナはあのとき……」
二週目、ナナは能力で『人類の敵』が来たと確認してくれた。あのとき来たのが大人数で、それを把握できなかったこと全部を、彼女に押し付けるなんて冷酷すぎる。
「なら、菜月さんだって、それに当てはまりません」
「でも、」
「――だって」
ナナは差し伸べていた右手を胸に当て、身長差のあるスバルの目を見つめた。
それから彼女は目をつむり、深呼吸をしてから光を強めたエメラルドグリーンの瞳で再度スバルの目を見る。
「――だって、菜月さんもわたしも、ただの高校生なんですから」
「――――」
「英雄になろうとする必要はないんです。まず、わたしたちにできることをしましょう」
「……いいのか」
わかっている。ナツキ・スバルが世の中にいる『高校生』という人たちにすら届いていないことなど。
だから、人一倍頑張って『英雄』になれるくらい努力したら、『高校生』に届くかもしれない。そう、思っていたけれど――、
「菜月さんはそのままで、『高校生』でいいんですよ」
彼女は、スバルを最初から『高校生』として見てくれていた。
「その前に、涙を拭いてくださいっ」
「――ぇ?」
いつから泣いていたのか。ナナの言葉を聞いた時にようやく気付いた。青い制服のジャケットで乱暴に吹いて、スバルは目端を赤くしたままナナに向き直った。
「――行きましょう菜月さん、『人類の敵』が戻ってくるかもしれません」
「あぁ。ありがとう、ナナ」
スバルは再び差し伸べられたナナの右手をとって、森の中へと歩いて行った。
「ごめんナナオ」
枯れた声で、スバルは呟いた。
「俺が必ず」
――お前の敵をとってみせる。
自分にできることを、精一杯やってみるから。
* * *
――ナツキ・スバルには、英雄となり得る素質があると、そう思った。
だから彼が英雄となる前に、『高校生』という枷に嵌める必要がある。『高校生』になれても、世の中の『高校生』というイメージから抜け出せないよう、救った演技をした。
スバルの手を引っ張る。寮に向かい、今日のことはまだ誰にも言わないでくれと頼んだ。快く受け入れた彼の姿を見て、ナナは女子寮へ向かう。
――その一連の流れを、一羽のカラスだけが見つめていた。
* * *
ほとんど教職員がいなくなった職員室で、銀髪の少年が生徒名簿を見ていた。
「小野寺くん、昨日もその名簿を見ていたけど……一応個人情報だからね?」
「氏名と能力しか書いてない名簿のどこが個人情報なんだ?」
嘆息して、それから続けた。
「小野寺くんは何をしに?」
「いや、昨日は仕方がないと思ったが、菜月の欄だけ能力が空白でな」
「それは君もだろう?」
「異質だ。俺の欄は『明かされてない』だが――菜月の欄はまだわからないようだからな」
最後まで読んでくださりありがとうございます!
第二章は、いつ投稿するかわかりませんが、おそらく水曜日でしょう。
プロット作らなきゃ……そもそもどうやって作るんですか?
この先も、どうか読んでいただけると嬉しいです!