お嬢さまが、ちびっ子可愛い悪役令嬢   作:デチャウ

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第六話 その六 予知とサウナと青春と

《アカシックに連なる眷属、ギフト白沢がレベル突破しました。規定に基づきデータベースアカシックへのアクセス深度を一段階引き上げます。管理者権限の承認業務の為の呼び出しです》

 

(そういえば、そんな設定あったわね。全てを記録してるデータベース『虚無の泉(アカシックレコード)の唯一無二の管理者(アドミニストレーター)とかなんとかなんだったわね)

 

《大事な役割ですので忘れないでください。承認の為にアカシックに接続します。データベース『アカシック』アクセス》

 

 時間が無限に引き延ばされる感覚、精神(こころ)が肉体を離れ反転し世界の裏にたどり着く。

 

 なんか、お酒が回るわ〜。

 

 ほの暗い空間をゆっくりと落ちていく。天空には電子回路を思わせる幾何学模様がランダムに明滅して空間を照らす。

 

 眼下に目を向ければ同じように幾何学模様が明滅している。けど少し揺らめいてます。上空の光を反射してるのですね。

 

「水面?」

 

《……コネクト『虚無の泉(アカシック)』:着水(コネクテッド)!》

 

 水面(みなも)に触れた爪先から、波紋が広がる。

 

 水面に映るわたしは、バッチリと悪魔モード。

 

 だけど、いつもよりもツノが長く湾曲して本気で悪魔っぽいです。

 

 背中にも翼が生えてるし。

 

 こちらは悪魔っていうよりシルエットは天使の翼。でも羽根の一枚一枚が白銀の刃。凶々しい悪魔の(はがね)の翼です。

 

 チャプン……

 

 水面に映るわたしの姿が別の波紋で揺らめく。水音の方に顔をあげる。

 

 水面に立っていたのはシャムロック。

 

 でも、いつものシャムロックじゃない。

 

 ツノは大山羊の時と同じく湾曲して伸びてる。髪は逆立ち、額の魔石も赤く光ってる。

 

 手足は山羊の毛で覆われて指には鉤爪、足も蹄のある山羊の後脚。背中からも大山羊の時と同じツノが生えてます。

 

 お嬢さまが言ってた魔族のもう一つの形態『魔人モード』っていうやつなのかな? 魔神というより悪魔っぽい。そして怖くて強そうです。

 

「ん、白沢。どこだここ? あれ、メイドさん?」

 

『透香、酔っ払ってないで。お仕事する』VR空間で猫耳ルナリアに怒られた……

 

 やることは〜エヘヘ、白沢のアクセス権の引き上げと能力の説明にチュートリアルね。

 

 アカシックに来る間にプラムがリンクしてくれた、「よくわかるアカシック管理者業務マニュアル」を確認と。

 

「ようこそ。アカシックの眷属、ギフト白沢とそのマスターシャムロック」

 

 シャムロックから、ポンと子山羊が飛び出してこっちに走って来る。

 

「メェェェ!」

 

「よく頑張りましたね。アカシックの愛し子、白沢。えらい、えらい」

 

 走ってきた子山羊をしゃがんで抱きしめてあげる。

 

 ひとしきり撫で撫でして、よしよしです、ヒック!

 

 立ち上がって、シャムロックに視線を移す。呆けているシャムロックの元に白沢もポンと中に戻っていく。

 

「おめでとうございます、レベルアップです。データベースアカシックのアクセス深度が一段階引き上げられました」

 

「何してんの、メイドさん。ちょっと雰囲気違うけど、メイドさんだよね?」

 

「はい、メイドのルナリアで間違いないですよ〜。ウェーイ! でも今はデータベース『虚無の泉(アカシックレコード)』の管理者(アドミニストレーター)のお仕事中なのですよ」

 

「本当に白沢の言ってたとおり偉い人だったんだ……ポンコツじゃなくてよかったねメイドさん」

 

 ぐぬぬ、山羊男(ゴートマト)のくせにポンコツ扱いしやがってです!

 

 込み上げる怒りはごっくんして、仕事を続けますね。次は能力説明ですか。

 

「アクセス権が上がったことにより、今までの敵意のある相手の行動予知に加えて、戦闘時限定ですが1秒後の未来予知機能が追加されました」

 

 (ねえ、ねえ。プラムこれってわたしの予知と同じやつ? 弾道予測とかはできるけどそんなに役に立つ機能でもないような……)

《当躯体の身体能力では、有効に運用するのに適していません》

 

 そんなものなのか〜よくわからんにゃ。次はチュートリアルね。

 

「では、実際に試してみましょう。習うより慣れろです」

 

 って、シャムロックと戦うって、秒で壊されるわよわたし!

 

 《当該空間は躯体能力の制約を受けません。精神(こころ)が直接強さに結びつきます。安心して戦闘してください》

 

 いや、わたしメンタルも豆腐だよ。どこを安心すればいいのよ。

 

 でもチュートリアルだから、まずはこちらから行かないとダメなのか……イヤすぎる。

 

 とりあえず、SSSを抜いてっと、リーン! と鈴音を響かせて刀身を抜き放つ。

 

「おっ! いつもと違って肌がひりつくぜ。強いぞ! 気を抜くなよ白沢!」

 

 なんで本気になってんのよ。強くなんてなってないですよー

 

 仕方ないな、まあ精神世界みたいだから切られても大丈夫でしょう。

 

「では、まいりまーす。チュートリアル、スタート」

 

おおー、確かにいつもと違ってイメージどおり体が動く。なんか気持ち良い。

 

 シャムロックは素手の格闘スタイルですね。

 

 なんかお祖父様との修行を思い出すわ。「おまえのような未熟者には刀など不用、拳骨(ゲンコツ)ひとつありゃ充分だって」笑ってたっけ。懐かしいな。

 

 でも、お祖父様と比べると、シャムロックってば隙が多いですね。突ついてやれ、ニシシシ!

 

「あぶねー。相変わらず殺気ひとつ出さずによくそんなエグい業使えるな! でも良いぞコレ、殺気がなくても『視える』。白沢、いけるぞこれ!」

 

 戦闘自体は、普通なんですけども、ここでは予知がね視覚化されるんですよ。

 

 まるでゲームです。

 

 予知が始まると足元の水面に未来の画像が泡のように浮かび上がってくるの。

 

 選んだ未来が発光し評価まで色分けしてあるんです。綺麗ですよ。

 

 【Bad】【Good】【Cool】、おまけにコンボカウンターまであるし。

 

 もはや音ゲーならぬ予知ゲーです。

 

 あらま、シャムロックって本当に勘がいいのですね。もう予知を使いこなし始めてますね。

 

《30コンボ達成チュートリアル、クリアです》

 

 テレッテレー♪

 

 軽快な音楽が流れる。虚空に『GAME CLEAR! VERY COOL!』の文字と花火のホログラム。

 

 そしてその下に、【Extra mode Y/N】の点滅。

 

「オモシレー! もちろんイエスだ。どうなるんだ? メイドさんが増えるとかか?」

 

 ……いや、何それです。 わたしが知りたいわよ!

 

『透香、ボスキャラの腕の見せ所だね!』

《Extra modeでは透香の自動予知がマニュアルに切り替わります》

 

 マニュアルモードなんてあるんだ。要は未来を予測して、最適解を選ぶのね。楽勝ぽい。

 

《未来は本来不確定です。逆説的にいえば想像する全てが実現できる可能性を、秘めています》

(また、難しいこと言い出した。プラムちゃんはすぐ語りだすんだからー。透香さんは難しいことわかんないんです〜よ)

 

 エヘヘって笑ってます。なんか可笑しいですね。

 

《理性の鈍化、本能、感情の活発化を計測。アルコールによる一時的麻痺状態と推測。shit!》

 

 (アッハハ! プラムが「shit!」とか言ってる。酔ってんの、可笑しいんですけど!)

 

『透香も酔ってるけどね……』

 

 ウンザリ顔でネコミミルナリアに突っ込まれる。

 

(にゃにをー!透香さんは、ちっとも酔ってませんよーだ)

 

《You are drunk! ……理性が麻痺してる方が、有利と判断しこのまま続行します。透香、未来を予知することにおいては、観測も予測も想像も等しく可能性の創造だと覚えておいてください》

 

エキストラモードのスタートのカウントダウンが始まった。

 

(難しいことはわかんないけど、一番いい未来を思い浮かべて選べばいいのよね。楽勝、楽勝ですよ〜)

 

 カウント0

 

「いくぜ! って、えっ! これ無理だろぉがぁぁぁー!」

 

【管理者《アドミニストレーター》WIN】

 

 水面に座り込んだ姿勢のシャムロックの喉元にSSSの切先がピタリと当てられてる。

 

「こんなの、どうやって処理できてんだよ。白沢、おい大丈夫か、おい!」

 

「演算処理が間に合わなくて、ハングアップしてるだけなのですぐ復帰しますよ。ハイ!」

 

 座ってるシャムロックに手を差し出す。

 

 ちょっと躊躇したけど、軽く頭を掻いてわたしの手を掴んで起き上がる。

 

「おっ! 白沢も起きたみたいだな。謝んなって、相手が人外の化け物すぎただけだろ」

 

 わたしの視線に気づいてシャムロックが慌てて訂正する。

 

「あっ、人外とか言ってごめん、メイドさん。でもあれは反則でしょう。予知っていうか、未来ってたった一秒であんなに分岐するのかよ」

 

 その驚きには激しく同意です。わたしも同じくらいびっくりしてます。

 

 ゲーム開始のカウントダウンが0になって、わたしは酔いに任せて楽勝気分で、自動予知からマニュアルモードに切り替えた。

 

 その瞬間に、水面全てが沸騰したみたいに未来が溢れ出したのです。

 

 湖面はもう、未来が重なりあってモザイクアートのピッカピカです。

 

 シャムロックなんて、圧倒されて腰抜かすは、白沢は先程話したとおり処理間に合わなくなってプシューとハングアップ。

 

 とにかく溢れ出す未来、「ひゃー」ってなりながら必死に選んでなんとか勝利を掴み取りです。

 

わたしえらい! けどこれなんか酔う。予知酔いなんてあるのかしら、グルグルです〜。

 

《マニュアルモード稼働時間6秒》

《予知解析数 12億パターン/フレーム》

《最適予知取得率 100%》

《予知解像度秒間フレーム(FPS)については、ほぼプランク時間です》

《透香、予想以上というよりも理論値に近いです》 

 

 矢継ぎ早に数字並べられても透香さんには理解不能ですよ〜

 

 《躯体負担が大きいので、現実世界でのマニュアルモードは使用禁止処理になりました》

 

 使えと言われて頑張ったら禁止されました。理不尽!

 

 まあ、シャムロックに一泡吹かせられたし、もうポンコツ呼ばわりできないでしょう。これぞまさにザマァですね。

 

「アカシックの管理者のチカラ侮ってもらっては困りますね。いいですか、観測も予測も想像も等しく可能性の創造だと覚えておいてください。想像で創造なんてね! ウプッ! ダメ!」

 

ドヤ顔で固まりました。

 

「オゲゲゲー」

 

 リバースです。

 

 酔ってるところに予知酔いの相乗効果で限界突破です。

 

「……うぇ、気持ち悪いです〜」

  

「大丈夫か、メイドさん」

 

 シャムロックに背中をさすられて心配されてるし。

 

 管理者の威厳も一緒に流れていっちゃった。無念!

 

《管理者が汚してどうするのです。綺麗になるまで帰れませんよ》

 

 踏んだり吐いたりでございます。

 

「ご迷惑おかけしました。もう大丈夫です。とにかく、これでレベルアップ特典の説明は終わりです。お疲れ様です。これからも精進してください」

 

「大丈夫、メイドさん? あんまり飲み過ぎちゃダメだよ」

 

「お心遣いありがとうございます。この場であったことはアカシックの眷属だけの秘密なので口外はしないでくださいね」

 

「おう、絶対言わないから安心しなって、お嬢さまに酔っ払ってゲロ吐いてたとか知られたら一大事だからな」

 

「それも、もちろん言わないで! あと、わたしが強いのはこの空間だけなので、間違っても現実世界で攻撃しないでくださいよ」

 

「へー、そうなんだ。向こうで試してみていい?

 」

「ダメです。わたしが壊れます。絶対ダメですからね」

 

 危険を感じます。絶対やりそうです。

 

「元の世界に戻しますね。シスターとの戦闘も頑張ってください、シャムロックさま」

 

 シャムロックが軽く手をあげて消えていきました。

 

《アカシックの清掃を開始してください》

 

 神秘の泉で、自分の吐瀉物を掬い続ける哀れなメイドです。

 

 また気持ち悪くなってきた……ウップ!?

 

 いいだけ時間をかけて綺麗にしたけど、現実世界に戻ってきたら一秒も経ったかって状態です。

 

「さーて水風呂で整えますかっと」

 

 * *

 

 修行も三日目です。

 

 そろそろ、午後のマリー様の「ゴージャスグランドエリアヒール」の時間ですね。

 

 洞窟に持ち込んだ、リクライニングチェアでまったりと寝転がってます。リラックスしてバケーションです。

 

「やっと会得したわね、セシリアちゃん。さすがおかあさんの娘ね。さあ、確かめの儀よ。やってみせなさい!」

 

 お嬢さまが地下湖の水面に指をそっとつける。

 

 水面が指を中心にさざめき立つ。

 

「秘拳『醒宇無(サウナ)』!!」

 

 地下湖の水がお嬢さまの下から迫り上がる。

 

「すごい! 水の龍です!」

 

 地下湖の水面から水でできた龍がお嬢さまを乗せて現れました。そのあとも水の龍が次から次と鎌首を持ち上げてます。

 

「そうよ、全ての流れを支配する水龍『八岐大蛇(ヤマタノオロチ)』。見事よセシリアちゃん!」

 

 お嬢さまを乗せた、水龍の首がこちらに顔をもたげてお嬢さまを降ろす。

 

 お嬢さまがそっと指を離すと、パシャっとただの水に戻って流れ出す。

 

「わたくし、整いましたわ!!」

 

 お嬢さまの、サウナ修行これにて完了ですね。

 

 おめでとうございます。

 

 ドヤ顔してますけど、スッポンポンですよ。

 

「さあ、治療の時間だわ。着替えて戻るわよ」

「ハイ、マリー様。お手伝いいたしますね」

 

さて、マリー様には、聖女の白銀のシスター服。お髪も整えまして、完了です。

 

 スッポンポンのお嬢さまには、マリー様が修行が終わった時に着せるようにと用意してた浴衣です。

 

 白地に金魚柄の浴衣です。ちょっと子供ぽいけどプリティーです。

 

 すっかり取れてしまった縦ロールの代わりに髪はアップでまとめましょう。

 

 後れ毛をわざと垂らして浴衣の襟からのうなじを強調。

 

 三日もサウナ漬けで老廃物なんて微塵もない透き通る白肌です。

 

 白い肌に浴衣に黒髪。やっぱり映えるよね。

 

「いつもよりも、セクシーですよ、お嬢さま」

「何言ってらっしゃるの、馬鹿!」

 

それでもまんざらじゃないとばかりに姿見の前で回ってます。カワイイ♡

 

「さあ、いきますよ」

 

 マリー様と一緒に洞窟を出る。

 

「よお、お嬢さま、三日ぶり。修行は済んだか?」

 

 シャムロックがそう言いながら、悪魔じみた『魔人モード』を解いて微笑みかける。

 

「ええ、バッチリ整いましたわ」

 

 お嬢さまがニッコリとお答えです。嬉しそうですね。

 

 マリー様が周りの惨状を見て目を見張る。

 

「おやまぁ、これだけ頭数揃えてガキ一人にやられちゃったのかい、情けないねー」

 

 マリー様が寝転んでるシスターの一人を起こす。あら、最後尾シスターじゃないですか。

 

「四天王最強の一人、最終防衛線(ラスト ライン)がこの様ですか?」

 

「マリー様申し訳ございません。昨日の夜からもう触れることさえ叶わぬくらいに強くなって手も足も出ずこの様でございます!」

 

そんなに強い方だったのですね。最終防衛線(ラストライン)でしたか最後尾(エンドライン)だと誤解してました。ごめんなさい。

 

 マリー様が、シャムロックをじっと見る。

 

「ふーん……なるほどね」なんか納得したように頷いてます。

 

「ガキなんて言って悪かったね。どうしたんだいもう立派な『(おとこ)』じゃないかい。こりゃ勝てる道理がないね。ハッハハ!」

 

 そして、振り返ってお嬢さまに肩組して耳元で囁く。

 

「こりゃ、本当にいい漢を捕まえたね。さすがおかあさんの娘だよ。セシリアちゃん逃しちゃダメよ」

 

「お母様、何言ってるんですか!」

 

「顔が浴衣の金魚と同じになってるよ。じゃおかあさんちょっとお祈り言ってくるわね。今夜は宴会よ」

 

 残されたシャムロックとお嬢さま……

 

「なんとかやったぜ! おまえもお疲れ様」

「おまえじゃないわよ。わたくしを呼ぶ時は……セシリアよ」

 

「えっ? ああ、そうだな。その服すげー似合ってるな、セシリア」

 

 顔を真っ赤にしてそれでも嬉しそうないい笑顔。

 

「プッ! ありがとう」

 

 お嬢さまも、恋する金魚でございます。

 

 青春(アオハル)すぎて見てられません。わたしも宴会の手伝いに行こ〜っと!




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