てんてーのおしごと!   作:神近 舞

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ストックが無いので常に苦心しながら書いてます…。
今日もまた将棋界は面白いことになってて楽しいですね。
頑張れ某先生!


第3譜 小学5年生の日常

 

 〔一〕「三段リーグ最終節」

 

 2007年3月17日。第40回三段リーグ最終節。最後の一局を残して現在の状況は以下の通り。

 

1位:天宮 結理三段(前期36位)15勝2敗

2位:城ヶ崎 藤清(じょうがさき ふじきよ)三段(前期8位)14勝3敗

3位:帝ヶ原 健(みかどがはら たける)三段(前期9位・次点1)14勝3敗

4位:鏡州 飛馬(かがみず ひうま)三段(前期1位・次点1)13勝4敗

5位:桐嶋 香太郎(きりしま こうたろう)三段(前期6位)13勝4敗

(以下省略)

 

 現状、この5人に昇段のチャンスが残っている。ちなみに僕の2敗は帝ヶ原三段と桐嶋三段に付けられたモノである。この内、鏡州三段と桐嶋三段が直接対局、僕が11勝6敗の勝ち越し勢と、城ヶ崎三段と帝ヶ原三段は共に8勝9敗の負け越し勢との最終対局が残っている。現状1位とはいえ油断はできず、仮に城ヶ崎三段と帝ヶ原三段が勝ち、尚且つ僕が負けた場合は昇段お預けとなるため、決して負けられない対局である。

 

「それでは対局を始めてください」

『お願いします』

 

 プロ入りをかけた最後の戦いが始まる。戦型は相手の居飛車に対して、僕のダイレクト向かい飛車となった。力戦の意向に対し、持久戦を得意とする対局相手は強引に穴熊を構築。膠着状態となる。

 

「負けました…」

「…ありがとうございました」

 

 先に聞こえたのは帝ヶ原三段の対局相手の投了宣言。

 

「…負けました」

「ありがとうございました…」

 

 次に聞こえたのは鏡州三段の嗚咽と桐嶋三段の安堵。これで鏡州三段は今期昇段の可能性が絶たれた。

 

「負け…ました…」

「ありがとう…ございました…!」

 

 その後聞こえたのは城ヶ崎三段の対局相手の降伏。城ヶ崎三段はこれで四段昇段確定。残されたのは僕たちの対局だけ。縺れに縺れ、粘りに粘り、実に358手にも及ぶ長手数の果てに勝利したのは———

 

「ちくしょう…負けました…」

「あ…ありがとうございました…!」

 

 僕、天宮 結理新四段であった。最終結果は以下の通り。

 

1位:天宮 結理四段  16勝2敗(1位昇段・1期)

2位:城ヶ崎 藤清四段 15勝3敗(2位昇段・3期)

3位:帝ヶ原 健四段  15勝3敗(次点2獲得によりフリークラス編入・3期)

4位:桐嶋 香太郎三段 14勝4敗(次期リーグ1位)

5位:鏡州 飛馬三段  13勝5敗(次期リーグ2位)

(以下省略)

 

 尚、今期の三段リーグで降段点が付いたのが36名中6名、降段点2により降段したのが2名、奨励会退会者は8名という甚大な被害が発生した。彼らの無念を背負い、僕は戦う。その思いを心に誓った。

 

 余談だが、今期昇段した3人は僕が小4(10歳)、城ヶ崎新四段が高1(16歳)、帝ヶ原新四段が高2(16歳)であり、昇段者が全員学生であり、尚且つ昇段者の平均年齢が14歳という珍事が起こっていた。

 

 

 

 

 

 〔二〕「女性陣と結理」

 

 とある日の清滝邸の日常。

 

「けいかさん、きょうはおね…おにいちゃんになにをきせるの?」

「そうねぇ…私の学校のセーラー服はどうかしら」

「ぜったいにあう!」

「お二人さん?僕は着せ替え人形じゃないし、女でもないんだけど?」

「結理くん、自分の顔を鏡で見たことある?」

「……」

 

 …分かってる。分かっているんだ。僕は現在10歳。いくら幼いとはいえ、肩まで伸びた黒いストレートヘア。大きな黒い瞳。女顔とも形容できる可愛らしい顔。135cmという比較的低めな身長。…ここまで言えばもう分かるだろう。何も知らない人間からすると、可愛い女児にしか見えないのである。

 

「はい、これお姉ちゃんの学校の制服。早く着てね?」

「…はぁい」

 

 桂香お姉ちゃんのソレと比べて二回りほど小さい制服。この状況下で僕に拒否権は存在しない。仕方ないので素直に従う。僕の部屋に集合していた2人は桂香お姉ちゃんの部屋に移動し、それを確認した僕は着替え始める。女性服やスカートは何度着ても慣れない。なんと言うか…下がスースーして変な気分になるのだ。桂香お姉ちゃんや銀子ちゃんはよくスカートを着ることが出来るよなぁ…と2人を尊敬。

 

「…着たよ」

『はぁい、入ってきて』

『わくわく…』

 

 桂香お姉ちゃんの許可を受け、彼女の部屋に入る。そこで受けたのは女性陣からの黄色い声であった。

 

「「きゃー!」」

「流石夜空くん!やっぱり似合うと思ったのよ!」

「やっぱり、おにいちゃんはおねえちゃん…!」

「男としてのプライドが…ズタボロだ…」

 

 清滝家の女性陣の間では、僕はただの着せ替え人形である。…男としては完全に見られていないのであった。

 

「やっぱり結理くんは可愛いわ…独り占めしたいぐらいに」

「おにいちゃんはわたしのもの…けいかさんにもゆずらない」

「「ふふふふふ…」」

 

 2人が何か言った気がしたが、良く聞き取れなかった。そのことを、大人になってから僕は心底後悔することになることも知らずに。

 

 

 

 

 

 〔三〕「4人の子どもの日常」

 

 将棋の清滝 鋼介一門には、4人の子どもがいる。次女、清滝 桂香。年齢で言えば長女に相当するのだが、清滝一門という見方だと次に紹介する者たちより後に弟子入りした(一度師弟関係を解消した上で再度師弟関係を結んだ)ため、扱いは末っ子になる。現在、高校1年生。次男、九頭竜 八一。僕たちの中で唯一関西出身ではないのだが、師匠の将棋に惚れて北陸から遠路遥々弟子入りした逸材。現在、小学1年生(僕と同じ小学校に通っている)。長女、空 銀子。年齢で言えば次女に相当するが、先に紹介した人物よりも先に弟子入りした関係上、清滝一門として見た場合、長女という扱いになる。現在、幼稚園年長。そして長男たる僕、天宮 結理。史上初の小学生プロ棋士であり、現在は師匠と共に将棋を3人に教える立場にある。そんな中の休日。僕と師匠が考えた今回の指導は———

 

「桂香、銀子、八一。お前らには真剣将棋をしてもらう」

「真剣将棋?」

「「って、なーに?」」

「簡単に言うと、賭け将棋のこと。お互いや僕たち以外にも対人経験を積むこと、そして様々な戦術を磨くことを主体に学んでもらおうと思って、師匠と相談した結果、僕が引率で3人に真剣将棋を教えることになった」

「おもしろそう!」

 

 先に賛成したのは八一君。

 

「わたしはおにいちゃんたちとたたかうだけでじゅうぶん…」

「僕は銀子ちゃんにも強くなってほしいんだけどなー」

「むっ…いかないなんていってない」

 

 その気にさせて銀子ちゃんの賛成を得る。

 

「私もその真剣将棋?を潜り抜けば強くなれるかな?」

「桂香お姉ちゃんなら出来る。僕は信じているよ」

「…!分かった、私もやる!」

 

 桂香お姉ちゃんも賛成。これで今回の指導内容は真剣将棋に決まった。

 

「せや、結理。お前は顔が知られとるから、変装しておくんやで」

「結理くん!」

「おにいちゃん!」

「あっ、嫌な予感…」

 

 変装という二文字を聞いた瞬間、桂香お姉ちゃんと銀子ちゃんが持ってきたのは———

 

「どうしてこんな目に…」

「最高!」

「かわいい!」

「お…おにいちゃん…?」

「なんや、結理。お前女装のノウハウがあるんか」

「違います!」

 

 茶髪のロングヘアのウィッグと白いワンピース。要するに女装である。

 

「その格好なら結理だとバレんやろ。行ってこい!」

「ちょ、僕はこの格好認めたわけじゃ———」

「「「いってきまーす!」」」

 

 …泣きたい。

 

 新世界。そこは、大阪の中でもディープな場所であり、様々な黒い存在がいるとかいないとか…。そんな場所のとある建物に、僕たち清滝一門の子どもたちは足を踏み入れようとしていた。

 

「ここで真剣将棋ができるんだよ」

「「「へー…」」」

「ここに入る前に…はい、コレ」

 

 僕は3人に千円札を筒状に巻いたモノを10個入れたタバコの空箱を渡した。

 

「これは…タバコ!?結理くん!貴方なんてことを!」

「違うよお姉ちゃん!中身をよく見て!」

「ん…?コレって…」

「そう、お金。対局の際にコレを1つ賭けるんだよ。真剣師は皆大人だからね」

 

 ちなみにコレは僕のポケットマネーである。合計3万円ぐらいなら大したことは…ある。地味に痛い出費である。

 

「今回は16時になるか、全て使い切るまで対局すること。16時になった段階で余ったら、そのお金はお小遣いにしてヨシ!」

「「「やったー!」」」

 

 遂に僕たちは真剣師のいる地に突入。

 

「よう。って、ここはお嬢ちゃんたちが来る所じゃねぇ。さっさと帰るんだな」

「いいえ。(わたくし)たちはしっかりココに用があって参りましたのよ?」

「あ?」

「この子たちが…(わたくし)姉弟妹(きょうだい)たちが賭け(・・)たいとのことでして」

「…来な」

 

 こうして真剣将棋を指すことになった。

 

「…結理くん、女の子の演技が上手くない?結構サマになってたんだけど?」

「…ハイテンションにならないとやってられないんだ。ただでさえ恥辱の限りなんだから」

「おにいちゃんはやっぱりおねえちゃん…」

「おにいちゃん…どんまい」

 

 その後、3人は真剣師にボコボコにされた。その復讐心を刃に今後、3人は戦い方を磨き、指導開始から1年が経った頃になると、3人とも最初の所持金(1万円)を倍以上にするレベルにまで成長した。その後の3人の活躍は今後語ることにしよう…。

 

 

 

 

 

 〔四〕「護身術と結理」

 

 ハッキリ言って僕は弱い。…将棋のことでは無い。将棋のことに関しては最強とまで言うつもりは無いが、決して弱くは無いと思っている。では何が弱いのかと言うと、僕の肉体である。僕は将棋棋士である以前に小学生である。大人と比べたら打たれ弱いし、筋力も体力も無い。それを改善するためにどうすれば良いのか?そう考えた結果、近所の合気道道場に通うことになった。色々護身術を調べた結果、合気道ならあまり力を使わず、相手の力を利用する護身術であることから、自分に最適であると判断した。

 

「今回は杖を使った合気を教える」

『はいっ!』

 

 僕が通うことになった道場は「古き良き合気道」を大切にするらしく、体術を中心に剣術や杖術も学ばせていただいている。学校の放課後や、対局も学校も無い日にほぼ必ずと言って良いほど指導を受けている。

 

「天宮さん、今日も調子が良いですね」

「皆さんの指導のおかげです。技を身につける度に達成感を感じているんですよ」

「ふふっ、このまま合気を極めません?」

「それも魅力的ですが、僕の第一義はやはり将棋ですので」

「それは残念」

 

 師範や門下生の方々とも良好な関係性を築けており、真剣に指導を受ける姿勢が評価され、それを見ていた皆さんが僕に色んな技を教えて下さるので、気付けば入門半年未満にも関わらず5級の免状を允許(いんきょ)されていた。この合気道をすぐに活用することになるとは、この時の僕はまだ一切思っていなかった。

 

 それは、とある対局の終局後のことだった。その日は師匠が関東で、僕が関西で対局があった日であった。持ち時間の長い対局であったため、終局時点で満月の見える綺麗な星空が広がっていた。その日はやけに不気味だった。何故なら———

 

「…誰かついてきてる?」

 

 ねっとりとした嫌な気配。背中から感じたその違和感は、人の気配が薄れるに連れて鮮明になってくる。…狙われている。そう直感的に理解するのは容易であった。…迎撃するしか無い。そう思った刹那、気配が急接近してきて———

 

「———シッ!」

「なっ…ぐわっ!」

 

 自分の身を翻し、護身用に携帯している警棒を使って迎撃。不審者相手には効果覿面だったようで、予想外の一撃を腹部に受けた不審者は即座に逃走。僕は急いでその場を離れ、近くの交番に駆け込む。中にいた警察官の方に事情を話し、覚えている限りの不審者の特徴を伝えた。その後、不審者の情報が出回り、僕の周辺に再び安寧が訪れた。ちなみにこれを聞いた師匠からは———

 

「よくやった…と言いたいところやがな、無茶はするな!もしかしたら結理が誘拐されたり、殺されたりしたかもしれへんと思って、ワシは怖かったんやからな!何かあったら近くの大人を頼るんや!自分一人でどうにかしようとするんやない!」

 

 と、珍しく説教を受けた。師匠の言葉は正しい。これからは自分だけでどうにかするのは止めようと思った一件であった。

 

 

 

 

 

 〔五〕「2007年度の将棋界」

 

2007年度タイトル戦並びに一般棋戦結果

 

・タイトル推移

名人戦:神代 智之(かみしろ としゆき)名人→「名人」(奪取)

棋帝戦:「名人」(防衛)

帝位戦:「名人」(防衛)

玉座戦:「名人」(防衛)

竜王戦:間宮 彰(まみや あきら)竜王(防衛)

玉将戦:「名人」(防衛)

盤王戦:生石 充(おいし みつる)盤王(防衛)

 

・一般棋戦及び新人棋戦優勝者

毎朝杯:天宮 結理六段

星雲戦:於鬼頭 曜(おきと よう)七段

公共杯:「名人」(公共杯選手権者)

SB杯:間宮 彰竜王

新鋭戦:高山 透(たかやま とおる)六段

 

第35回将棋大賞(表彰対象:2007年度)

 

最優秀棋士賞:「名人」

(名人・帝位・玉座・玉将・棋帝)

特別賞:天宮 結理六段

優秀棋士賞:間宮 彰竜王

敢闘賞:生石 充盤王

 

勝率一位賞:天宮 結理六段(0.968)

最多勝利賞:天宮 結理六段(60勝)

最多対局賞:天宮 結理六段(62局)

連勝賞:天宮 結理六段(36連勝)

 

新人賞:天宮 結理六段

最優秀女流棋士賞:釈迦堂 里奈(しゃかんど りな)女流二冠

女流棋士賞:花立 薊(はなだち あざみ)女流帝位

東京記者会賞:山岡 博忠(やまおか ひろただ)九段

 

升田幸三賞:ダイレクト向かい飛車 天宮 結理六段

名局賞:第65期名人戦第五局

神代 智之名人(当時)VS「名人」




賞金王シリーズSB杯、それは、十五世名人の提案により設立した、事前に選抜された上位棋士たちによる最強決定戦である。一般棋戦の中でもとにかく持ち時間が短く、40手目までは事前に指してそこで封じ手。41手目から対局を再開して非常に短時間で決着のつく棋戦である。参加資格があるのは、前期優勝者たるSB杯覇者、タイトルホルダー、獲得賞金額上位者である。
by 結理
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