偽典・蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ106期小話 作:マーケン
今日から期末テストが始まった。
可も無く不可もなく、まぁどちらかといえば出来た手応えの方が大きい。やることが明確にある以上、夏休みを少しでも無駄にする訳にはいかないのだ。
ただ集中と緩和を往復すると中々疲れるので、少しラウンジでダラダラしてから勉強をしようと思っていたところで寮母さんが荷物を抱えているところを見かけた。
「こんにちは寮母さん。提灯、ですかそれ?」
「こんにちはセラスさん。そういえばセラスさんは長野からでしたね。これを初めて見ますか?」
そう言って寮母さんは紙と薄い板で出来た家、みたいな形の灯篭ともちょっと違うものを見せてくれた。
「南無阿弥陀仏、ってことはお墓参りですか?」
「これはキリコ、って言うんです。金沢のお盆で使う道具ですね。金沢だとお盆の時期が早いんですよ」
「金沢の文化なんですか?」
「他では聞かないのでそう言っていいと思います」
なんでもお盆のお墓参りの時にはこれを持っていき、中のロウソクに火を着けてお墓の前に吊るすのだそうだ。
そういえば長野ではきゅうりで馬を作ってたりした。あれも今思えば長野独自の文化だったのかもしれない。
親しい人を亡くすという経験がないからまだピンと来ないけれど、喪失から生まれるものがあるというのも不思議な感じだ。
「でもなんでまた?」
「山にある家のお婆さんが腰をやってしまったみたいで頼まれたの」
蓮ノ空のある山には数軒の民家と墓地がある。交通の便を考えると大変そうだとは思うけれど思い入れのある場所は便利とかそういう話ではないのだ。それを私は瑞河で学んでいる。
「ご近所付き合いあるんですね」
ご近所、というには距離があるけど。
「お年寄りが多いからね。何かあるといけないでしょ?」
私達よりもずっと長くこの山にいるわけだしね、としみじみと言っていた。
「私も手伝いましょうか?」
「お気持ちは嬉しいですが、あなたは期末テストの勉強をしてください。それが私にとっての一番のお手伝いですよ」
ピシャリと言うと寮母さんはキリコを持って颯爽と玄関へと向かっていった。
歩き姿はシャンと背筋が伸びていて、しっかりした大人って感じだ。
自分が大人になったとき、そんな姿勢の良い大人でありたいなとぼんやりとそう思った。
「寮母さんとお話とは何をやらかしたんだいセラス?」
「何それ!私が怒られてる前提?それよりも知ってる泉?金沢のお盆は早いんだよ」
私は早速寮母さんが教えてくれたことを泉にもお裾分けした。
泉は知っているのか知らなかったのかは分からないけど、うんうんと聞き役に回っていた。