IS <インフィニット・ストラトス> ヘカトンケイルの名を持つ者   作:一ノ原曲利

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第12話 一夏vsセシリア/デビュー戦(後半)

 

 

「―――27分。持った方ですわね。褒めて差し上げますわ」

「そりゃどうも……」

 

 シールドエネルギーの残量は二桁台に突入し67。実体ダメージ中破。武器はかろうじて使えている。

 ―希空が危惧していたのは、このことだった。

 中距離射撃型のIS相手に刀一本というディスアドバンテージがあれば、嫌でも冷静にならざる得ない。一夏が刀を出してから冷静さを取り戻したセシリアは案の定、精細を欠かない腕で一夏を射抜いていた。

 

「このブルー・ティアーズを前に、初見でこうまで耐えたのはあなたが初めてですわね」

 

 フィン状の自立起動兵器はややこしいことに『ブルー・ティアーズ』というらしい。希空曰く、実験機体として初めて積んだ機体だから名前もそのままにしたとかなんとか。

 

「では、閉幕(フィナーレ)と参りましょう」

 

 セシリアの命令により、ブルー・ティアーズ―――以降ビットもしくはBT兵器―――が二機多角的な直線機動で一夏に迫ってきた。

 

「くっ……!」

 

 上下に回ったそれらビットがレーザーを放ってくる。一夏はそれをかろうじて防御、回避する。しかし、

 

「左足、いただきますわ」

「(―――まずい!)」

 

 BT兵器のレーザーの雨を掻い潜ったその先は、セシリアの射撃範囲だった。誘い込まれていたのだ。装甲を失っているそこに攻撃を喰らえば、必ず『絶対防御』が発動する。そうなれば一夏のシールドエネルギーは残量0になり負けてしまう。なら、一か八か―――。

 

「ぜああああっ!!!!」

 

 一夏は咆哮して、セシリアのライフル銃身に正面から衝突した。その衝撃で砲口が僅かに逸れ、とどめの一撃を免れる。

 

「なっ……!? 無茶苦茶しますわねっ! けれど、無駄な足掻きっ!」

 

 セシリアは距離を取り、空いている左手を横に振る。するとそれまで周囲の空間に待機していたBT兵器が一夏へ向けて飛んできた。

 

「(――よし、わかってきた)」

 

 レーザーをくぐり抜け、刀を一閃。派手な破砕音と共にBT兵器の一機を撃墜した。

 

「なんですって!?」

 

 驚愕するセシリアの隙を突き、一夏は上段打突の構えで斬り込む。

 

「くッ……!」

 

 苦悶の声を漏らしながら、後方に回避するセシリア。そしてまたそのまま右手を振るい、BT兵器2と3が飛んで来た。

 ――確信した。

 間違い無いと心の中で確信した一夏は口元に笑みを浮かべ、声を張り上げる。

 

「この兵器は毎回お前が命令を送らないと動かない! しかも―――」

 

 一夏は軌道を先読みし、BT兵器2の後部推進器を破壊して撃墜。

 ―――残り、二機。

 

「その時、お前はそれ以外の攻撃が出来ない。制御に集中させているからだ。そうだろ?」

「…………!」

 

 隠し切れない動揺の色が、セシリアの表情に浮かび上がった。図星だ。残りのBT兵器は二機。

軌道も読めた。あれは必ず一夏の反応が一番遅い角度から狙ってくる。そして初期のBT兵器四機を相手にしていた時より遥かにラクだ。一夏はやっと見え始めた勝利への道筋に、僅かに胸を躍らせた。

 

 

 

 

 

「はぁぁ……。すごいですねぇ、織斑くん」

 

 ピットでリアルタイムモニターを見ていた山田先生は溜息混じりに呟いた。しかし希空は3人の後ろで、少し気難しい顔をして頭をポリポリ掻いていた。

 

「一夏馬鹿だよバカバカ。あれほど序盤戦で武器は出すな確認すなって言ったのにー」

「どういうことですか? 希空くん」

「おっ、下の名前で呼んでくださいましたねー♪」

「はあぁうっ!?」

 

 ポロッと思わず言ってしまい、山田先生は顔を真っ赤にして口を塞いだ。

 ―ドスドスッ。

 傍らにいた千冬は容赦無いチョップを2人の脳天に叩き込み黙らせると、希空に聞く。

 

「なぜ私まで……」

「どういうことだ、説明しろ」

「いいいったぁいー…………いやぁ、ねー。一夏が出る前に僕が最終調整したでしょ?」

「ああ」

「そん時にさー、ハイパーセンサーが少しオカシカッタんだよねー」

「…何がおかしかったんだ? 希空。システムに異常は無かったんだろう?」

()()()()()()()()、ね」

 

 3人の女性に迫られて希空は苦笑した。顔を覗き込む辺り、3人のたわわな胸が強調されて眼福眼福だなんて、一寸たりとも思って無いー!

 

「実はね、《白式》のハイパーセンサーには絶対についている筈の『センサーリンクシステム』が無いんだー」

「「………え?」」

 

 あっけらかんと言う希空の言葉に、箒と山田先生はポカンとした。唯一千冬は鋭い視線を、モニターの奥で奮闘している一夏に向ける。

 

「本来『センサーリンクシステム』は銃とかミサイルとか、とにかく射撃用の武器とISがリンクすることでより正確な精密射撃を可能とするシステムだよねー。で、一夏のIS《白式》にはそれが無い」

「えっ…それはおかしいですよ。だって『センサーリンクシステム』は訓練機にすらついているISの標準機能じゃないですか!?」

「そー、()()()()()()()()()でさえ、ねー」

「!!」

 

 ここで箒がハッとしたようにおもむろに顔を上げた。

 

「…まさか、《白式》には射撃武器が武装されていないのか…?」

「いえす、箒ちゃんビンゴなのです。僕はソレを予想して、見事に当たったということー」

 

 希空が一夏に『早めに武器を出すな』と警告したのはこのことだった。

 『センサーリンクシステム』が無いなら、《白式》には射撃武器が武装されていない、いわば近接戦オンリーのISなのではないか、と。そして見事にその予想は当たったという訳だ。だがそこは一夏の腕の問題なのか、中距離射撃型ISに刀一本で、痛快なほど優勢に戦っている………ように見える。

 

「あの馬鹿者。浮かれているな」

「だよねぇー」

「えっ? どうしてわかるんですか?」

「さっきから左手を閉じたり開いたりしているだろう。あれは、あいつの昔からのクセだ。あれが出るときは、大抵簡単なミスをする」

「へぇぇぇ……。さすがご姉弟ですねー。そんな細かいところまでわかるなんて」

「えへへー、それほどでもー」

「ま、まあ、なんだ。 あれでも一応私の弟だからな……」

 

 希空はモニターを見ながら隠し切れない照れ隠しをしていた。そして残念ながら千冬も上手く隠れてない。

 

「あー、照れてるんですかー? 照れてるんですねー?」

「…………」

 

 ぎりりりりっ。

 ――千冬の ヘッドロック!

 こうかは ばつぐんだ!

 山田先生は 苦しんだ!

 

「いたたたたたたっっ!!」

「私はからかわれるのが嫌いだ」

「はっ、はいっ! わかりました!わかりましたから、離し―――あぅぅぅっ!」

 

 悲痛な叫び声がピット内に響く。千冬がパッと解放すると山田先生は目をクラクラさせて痛む頭を押さえていた。

 

「うぅ…痛いです……」

「あー可哀そーに真耶先生。だいじょーぶですか? よしよーし」

 

 希空は痛む山田先生の頭を優しく撫でた。右手の指にサラサラした緑色の髪が絡む。

 

「よーし、痛いの痛いのアラスカ方面まで飛んでけー」

「……希空くん、もうちょっと医学的にお願いします」

「あ、また名前ー」

「ッ!?」

「…………」

 

 ―ガシィ。

 無言の千冬の右手が希空の顔面を掴んだ。そのままミシミシと軋ませながら指に力を入れていく。

 ――千冬の アイアンクロー!

 こうかは ばつぐんだ!

 希空は 苦しんだ!

 

「何気マジでポケモンの技っぽいってェいだだだだだだだだだだだだだだだー!?」

「担任をからかうな、馬鹿者」

「わかりましたー!! わかったから手外してくださいませ織斑せんせー!!」

「ふん………」

 

 パッと千冬は万力の如きアイアンクローを解いた。所々変形した部位がないか、涙目の希空が顔をペタペタ触っていると、モニターの奥で戦っている一夏達に変化が見られた。

 

「はぁ……。でもまあ、よくここまで持った方だな」

 

 モニターを見ると、一夏は展開されていたビットを撃墜、大本命のセシリアに接近していた。

 

『――かかりましたわ』

「あ、」

 

 希空が気の抜けたような声を出す。モニターの向こうでは、セシリアの腰部から広がるスカート状のアーマーの突起が外れ、動いていた。それは『弾道型(ミサイル)』のビットだ。

 

『おあいにく様、ブルー・ティアーズは六機あってよ!』

 

 ―ドカァァァンッ!!

 けたけましい爆発音に包まれた一夏は、煙に紛れて見えなくなった。

 

()()だー」

「―――ふん。機体に救われたな、馬鹿者め」

 

 煙が吹き飛ばされ、その中心には、純白の機体があった。裏でも表でも無い、真の姿で―――。

 

 

 

 

 

 ――フォーマットとフィッティングが終了しました。確認ボタンを押してください。

 

「(な、なんだ……?)」

 

 爆発なんかものともせず、一夏はただ目の前に現れたウィンドウに目をぱちくりさせていた。中央に『確認』と書かれたボタンがある。押した瞬間、さっきまでごちゃごちゃになっていたISの膨大なデータが整理される感じがした。高周波な金属音と共に、ISが光の粒子に包まれる。

 

「ま、まさか……一次移行(ファースト・シフト)!? あ、あ、あなた、今まで初期設定だけの機体で戦っていたって言うの!?」

 

 一夏の専用機となった《白式》は、滑らかな曲線とシャープなラインが特徴的などこか中世の鎧を思わせるデザインへと変わっている。そして、何よりも変わったのは、武器。

 ―――近接特化ブレード『雪片弐型』。

 太刀に近いフォルムは日本刀、鎬にある溝からは光が漏れている。

 ―――雪片。

 かつて千冬が振るっていた刀の名称。刀に型成した形名。それが、雪片。

 

「俺は世界で最高の姉さんと兄さんを持ったよ」

 

 3年前も、6年前も、そしておそらく15年前も。

 

「(あの人はいつでも俺の姉だ。そして―――)」

 

 一夏は僅かに瞼を閉じる。

 数年経った今でも思い出せる。

 煉獄のような鮮烈な光景。

 錆れた床に散る、アカ。

 スローモーションに堕ちて行く、左腕。

 腕の代わりに噴き出す、世界で一番赤い、アカ。

 そして、兄の笑顔。

 一夏は助かった。兄の左腕と、右目という代償を払って。でもそろそろ、守られるだけの関係は終わりにしよう。これからは―――。

 

「俺も、俺の家族を守る」

「……は? あなた、何を言って―――」

「とりあえずは、千冬姉と希空兄の名前を守るさ!」

 

 元日本代表の、その弟。

 そして世界最高峰の弟。

 それが不出来では格好が付かない。そう、あの格好いい千冬姉が格好が付かないなんて、冗談もいいところだ。しかも、笑えない。

 

「というか希空兄は微塵も気にしないだろうな………でも『世界一』にさせたいんだっけか」

「だからさっきから何の話を……ああもう、面倒ですわ!」

 

 弾頭を再装填されたBT兵器が二機、セシリアの命令で飛んでくる。だが、

 

「(見える……!)」

 

 ギンッ―――!

 横一閃。両断されたビットは、けれど慣性のまま一夏の横を通り過ぎて、そして爆ぜた。

 

「おおおおっ!」

 

 そのまま突っ込む。もはや止める術を持たないそれは、一発の弾丸のよう。一夏の手の中でエネルギーが、その密度を増していくのを感じる。刹那、『雪片弐型』の刀身が光を帯び、より強い力の存在が一夏の腕を通して伝えてきた。

 

「(いける……!)」

 

 懐に飛び込んだ一夏は、下段から上段への逆袈裟払いをセシリアに放つ。

 ―――が、その斬撃が当たる直前に決着を告げるブザーが鳴り響いた。

 

『試合終了。勝者―――セシリア・オルコット』

 

「あれ……?」

 

 一夏はセシリアへ斬り掛かる寸前で停止し、全力で「なんで?」という顔を浮かべていた。

 それは一夏のみならず、ギャラリーも「なんで?」と言う表情をしていた。

 ただ千冬は「やれやれ」という顔を、希空は「あほー」と馬鹿にしたような顔をしている。

 何が起こったかわからないまま、試合は終了して、結局一夏はデビュー戦に黒星がついた。

 

 

 

 

 

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