IS <インフィニット・ストラトス> ヘカトンケイルの名を持つ者 作:一ノ原曲利
「織斑弟、オルコット、急降下と完全停止をやって見せろ。目標は地表から10cmだ」
地上からの千冬の指示に従い、セシリアが先に降りて来た。
「織斑兄、計測しろ」
「はいはーい」
「返事は『はい』一回だ」
「はいー」
希空はケラケラ笑い、上空から急降下してくるセシリアをじいっと見つめた。地面ギリギリで急停止し、風圧を感じさせないような調整力でセシリアは止まった。希空の瞳孔が地面との差を正確に捉える。
「地面から9.3cmで停止をかくにーん」
「(えっ!? 本当にわかってるんですか!?)」
計器1つ使うこと無く目視のみで正確な数値を叩き出す希空に山田先生は驚いていた。
しかし希空の数値は正確だったらしく、セシリアもセシリアで誤差0.7mmというのはかなりの操縦レベルであるとわかる。クラス内で歓声と拍手が上がった。
「セシリアさんスゴーい!!」
「お見事ー」
「この程度でしたら当然ですわ」
ほほほとセシリアは上品そうに笑った。希空は空中にいる一夏に手を振り、降下の合図を送る。一夏が空中から降下している間に、山田先生は一夏を見上げる希空に耳打ちした。
「き、希空くん…どうやって計測してるんですか?」
「へ? そりゃぁ『眼』で―――」
その先の言葉は、希空の口から出ることは無かった。いや、出さなかったと言うべきだろうか。
何故なら、希空が山田先生を押し倒したから。
「ええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?」
驚きあまり、山田先生は一般的な悲鳴をあげる。だが幸か不幸か、
―ギュンッ――――ズドォォンッ!!!!!!
次の瞬間に、一夏が地上目掛けて落下した時の響いた轟音によって掻き消されてしまった。
「うっぷ…土煙けむいー」
「…ッたたた……」
「あ、大丈夫ですか真耶先生ー? 一応頭打たないよう手ェ出しておいたんですけどー」
「だっ…大丈夫ですよ希空く……………」
と、ズレた眼鏡を掛け直した山田先生は目の前の光景に目を見開いた。希空が押し倒したおかげで一夏の落下による衝撃は軽減、被害はほぼゼロと言っていい。だが、希空が押し倒したせいで必然的に希空が山田先生の上に乗った態勢になっていた。
丁度、顔の真横に手がつくくらいに。
更に付け加えれば、希空は頭を地面から守るべく後頭部に手を差し込んでいた訳であって。そりゃもう、互いの顔と顔との間はセシリアの着地誤差より近かった訳で。
「きっ希空くんっ!? イヤイヤダメですよあなたはまだ未成年なんですからっ!!」
「えー? あ、ああ確かに僕はまだ未成年ですねー。でも
「ええええぇぇ!? た…確かにそうかも……ってダメですよ!! 教育的に!!」
「??? …山田先生何の話してるんですかー?」
両者全く噛み合っていなかった。
希空が言っているのは『人助けに年齢云々は関係無い』のであって、山田先生は―――ナニがナニである(ご想像にお任せしよう!)。立ち上がって埃を払った希空は山田先生も立たせようと手を伸ばすが、地面に座り続けてうわごとのように延々と言っていたので放置。土煙も晴れ、視界の端に千冬を確認すると共に爆心地(一夏が墜ちた所)へ走った。すると案の定、大穴の中央で一夏が激突の衝撃に目を回している。千冬は呆れたように深く溜息をつき、希空は今自分が浮かべられる最高のスマイルを向けた。
「……織斑兄、この馬鹿に記録を教えてやれ」
「りょーかい。いっちかー、記録は地面からマイナス1.3mでげきつーい」
「本ッ当に容赦ねぇな………!!」
未だ体に乗る瓦礫を退かしながら、一夏は2人の態度に対しぼそりと愚痴を溢した。
「馬鹿者。誰が地上に激突しろと言った。グラウンドに穴を開けてどうする」
「……すみません」
一夏はPICでふわりと浮かび上がりながら頭を下げる。ISのシールドバリアーのお陰で純白の《白式》にはホコリの汚れ一つ無い。もし汚れがあったら希空が目を怪しく光らせてすぐさま着手してただろう。
「…え、えっと……」
「?」
希空が注意深く《白式》を見ていると、後ろから山田先生が申し訳なさそうな目でこちらを見ていた。若干顔が赤いのは風邪だろうか?
「え…えっとですね…」
「どうかしましたー? 真耶先生?」
「ふひぇっ!? …えっと……あの…………さっ、さっきはありがとぅ…ござぃます………」
「へ? さっき……?」
さっきと言われて希空は首を傾げた。
さっきと言われても、一夏が月のクレーター並の穴を作ってしまったことが強烈過ぎて、他のことはあまり覚えていなかった。
「(………ななななななーんだっけー?)」
ふざけ半分真面目半分に希空は過去へ記憶を遡る。だがそれでもうんうん唸る希空に山田先生は慌てて言った。
「えっ、ええとですねっ…! さっき私を守ってくれたことですっ!」
「あーそれでしたかー。いえいえ、とーぜんのことをしたまでですよー、山田先生みたいな女性ならば尚更ですしー」
山田先生みたいな『おっちょこちょい』な女性なんて特に―――とは、言わなかった。単に言うのが面倒なだけだったのだが。するとやはりと言うべきなのか、山田先生は再び茹で蛸のように真っ赤になってしまった。
「???」
相変わらず人が赤くなる理由がわからない希空だが、とりあえず宥めればいいだろうと頭を撫でる。触れた瞬間びくっとされてしまったが、ちゃんと右手だよねー? と思い再び撫でると、だいぶ緊張らしきものも和らぎ、表情も穏やかに戻っていた。
「(………はぁ、こっちもこっちで面倒極まり無いな)」
2人の後方で1人の人物が呆れて深い溜息をついたことは、2人は知らない。
その後、紆余曲折はあるものの(主に一夏の)グラウンドのクレーターと一夏を残し、訓練は終わった。
そして物語は新たな方向へと動き出す。
「ふぅん、ここがそうなんだ……」
夜。
IS学園の正面ゲート前で小柄な影が揺れていた。
手には大きなボストンバッグを提げている。夜風に流れる黒髪には、左右それぞれ高い位置に金色の留め金で結ばれていた。
「えーと、受付ってどこにあるんだっけ」
少女は頭の記憶を探りつつ、上着のポケットから1枚紙切れを取り出して広げた。紙切れがくしゃくしゃな状態であった時点で、少女の性格は大方理解出来る。
「本校舎一階総合事務受付……って、だからそれどこにあんのよ」
吐き捨てるように文句を言うが、当然紙切れが返事をするわけもなく、小さく溜息をついて少女は再びくしゃくしゃに丸め、上着のポケットにしまう。くしゃくしゃにしたのは内心イラついているせいだ。
「自分で探せばいいんでしょ、探せばさぁ」
少女はぶつくさと口を動かしながら歩き出した。思考する前にまず動く、そういう主義だ。暗い中を蛍光灯から溢れる光を頼りに歩きながら思考する。
「(誰かいないかな。生徒とか、先生とか、案内できそうな人)」
少女は敷地内をうろうろ歩きながら人影を探す。しかし時刻は既に8時過ぎ。生徒は寮で休んでいる時間帯。
「(あーもー、面倒くさいなー。空飛んで探そうかな………)」
と思ったのだが、入国前に読まされた電話帳3冊分くらいありそうな学園内重要規約書を思い出してその考えはすぐに止めた。
正式な転入手続きが済んで無い今、学園内でISなんか起動させたら間違い無く本国へ強制送還。最悪ISの剥奪、なんてこともあり得ないことは無い。本国から出発する前に政府高官が土下座していた姿を思い出し、ざまぁと少女は笑った。
「(ふっふーん。まあねー、私は重要人物だもんねー。自重しないとねー)」
べろりと少女は真っ赤な舌を突き出す。ISが出る前とは正反対な関係になった男女。特に少女は、そんな時代の狭間でのさぼっていた『男って言うだけで偉そうにしている子供』が大嫌いだった。
「(――でも、アイツ等は違ったなぁ)」
顔が似た2人の兄弟を思い出す。少女にとっては
「(――元気かな、アイツは)」
同い年の弟の方を思い浮かべる。最後に会った時も元気だったし、問題無いだろ、と少女は1人納得した。
だが、
「(…アイツの方は……元気以前の問題よ……!!)」
ギリッと奥歯を噛み締めた。額には四角マークが浮かび上がり、日本に来て早々キレそうだった。
「だから……でだな……」
ふと声が聞こえて少女は握った拳を解いた。こんな所で八つ当たりしては元も子も無い。暗がりで眼を凝らすと女子がIS訓練施設から出てきた。
「(――ちょうどいいや。場所聞こっと)」
声を掛けようと女子は小走りに会話の方向へ駆ける。
しかし、
「だから、そのイメージがわからないんだよ」
耳に入った男性特有の、しかも聞き覚えのある声に足が止まった。
「(――どっち!? いや語尾が間延びしてない!? ならこっちは――)」
咄嗟に少女は物陰に隠れた。息を殺し、少年の会話に耳を傾ける。
「一夏、いつになったらイメージが掴めるのだ。先週からずっと同じところで詰まっているぞ」
「あのなあ、お前の説明が独特すぎるんだよ。なんだよ、『くいって感じ』って」
「……くいって感じだ」
「だからそれがわからないんだよ…希空兄だって『イメージしろー!』とか叫んでどっか行っちまうし―――っておい、待てって箒!」
すぐ近くを2つの足音が通り過ぎる。次第に遠くなっていく足音に少女は止めていた息を吐き、深く深呼吸する。
「はぁ――…やっぱり一夏か。でもさっきの女の子は誰?(それにしても―――)」
少女は再びボストンバッグを持ち、歩き出す。
「(やっぱり、希空は
パカッと少女はポケットから取り出した携帯電話を開く。『マイピクチャ』の欄にある『カメラ』を開くと画像がパッと写し出された。その中でも最新の撮影データ。
自分のモデル写真よりも新しい画像。それを選択し、決定ボタンを押して拡大させた。
人混み溢れる中国の街。
魔都・上海。
中国人の雑踏に紛れ、右顔面に包帯を巻いた男が見える。
「希空……」
織斑希空本人の写真だった。
総合事務受付はアリーナの後ろにあった。アリーナから本校舎は近く、唯一深夜でも灯りが見えたので受付だとわかった。
「ええと、それじゃあ手続きは以上で終わりです。IS学園へようこそ、
入学手続きこそ本国で済ませたものの、入学シーズンはすっかり逃してしまっていたこともあり受付での手続きはやたら面倒だった。少女――鈴音は飛びそうな意識をなんとか保ちながら事務員に聞く。
「織斑一夏って、何組ですか?」
「ああ、噂の子? 1組よ。鳳さんは2組だから、お隣ね。そうそう、あの子1組のクラス代表になったんですって。やっぱり織斑先生の弟さんなだけはあるわね」
「2組のクラス代表って、もう決まってますか?」
「決まってるわよ」
「名前は?」
「え? ええと……聞いてどうするの?」
「お願いしようかと思って。代表、あたしに譲ってって」
鈴音はそれはもう、清々しい笑顔でそう告げた。その言葉に事務員はひくりと口の端を震わせ、ぎこちない動きで1年の生徒名簿が記録されたバインダーを取り出す。
「あと織斑希空って知らない?」
「………織斑希空? いいえ、いないわよそんな生徒」
「ふぅん……
しまった、と事務員が気付いた時にはもう遅い。焦った形相で振り返るがその隙に鈴音はバインダーを奪い取っていた。
「ちょっと! それは一般生徒に見せていいものじゃ……!」
「アンタ、嘘言ったわよね。やっぱり本人の情報操作? それとも学園側からの口止め?」
「ッッ………!」
ペロリと舐めた指でページを捲る。数ページ捲った所で、鈴音の視線が一点に止まった。
「―――ビンゴ」
鈴音の視線の先には、携帯電話にあった写真と同じく右顔面に包帯を巻いた少年――希空がダブルピースで笑顔を浮かべて映っていた。
「というわけでっ! 織斑くんクラス代表決定おめでとう!」
「おめでと〜!」
「ひゅーひゅー!」
―ぱん、ぱんぱーん。
クラッカーが全方位から乱射され、一夏の頭に紙テープが乗った。特に前方にいた希空の特製巨大3連クラッカー砲は『量』と『質』が段違い。一夏に着弾すると共に大量の紙テープが顔面にヒットした。
ちなみに今は夕食後の自由時間。場所は寮の食堂、1組メンバーは希空を筆頭に全員集合。
「…………」
「どうかした一夏ー?」
「希空兄…先に帰ってたのって……コレか…」
「おぉ大正解。ほら、僕の『
見て見て、と希空が壁を指差した。そこにはデカデカと『織斑一夏クラス代表就任パーティー』と達筆で書かれた紙が掛かっていた。希空が一足先に寮に戻り、筆でささっと書いていたのだ。
希空は書道もレベルが高い。小学校時代の夏休み、冬休みの課題では毎回賞を受賞していたこともある。
他にも装飾をクラスメイトが作り、『百手機甲』で高い所に飾っていた。『百手機甲』にクラスメイト達は驚いていたが、『お兄さんなら別に不思議じゃないか』と勝手に納得していたので問題無し。
「いやー、これでクラス対抗戦も盛り上がるねえ」
「ほんとほんと」
「ラッキーだったよねー。同じクラスになれて」
「ほんとほんと」
―実際相槌を打ってるのは2組の生徒である。希空が授業終わって早々隣のクラスである2組まで駆け込み、一夏にバレないように誘っていたのだ。
勿論断る理由は無い。
満場一致にして一致団結した1年勢は希空と共にパーティーを計画した。
「人気者だな、一夏」
「……いや、大半は希空兄のせいだと思うんだが…」
「……ふん」
箒は鼻を鳴らしてお茶を飲んだ。その視線の先で希空が幹事を務めているかのように祝杯をあげてみんなを盛り上げていた。
「はいはーい、新聞部でーす。話題の新入生、織斑兄弟に特別インタビューをしに来ました〜!」
「あ、かおるんじゃん。新聞部だったのー?」
一同盛り上がる中、オレンジジュースを飲んでいた希空が首を傾げた。希空は以前遊び半分で整備室を訪問し、勝手に整備指導をしていた。その中にも薫子が含まれていて、中々話がわかる2人は仲良くなっていた。
「あ、希空君じゃん久し振り。一夏君の方ははじめましてだよね、私は2年の黛薫子。よろしくね。新聞部副部長やってまーす。はいこれ名刺」
「こりゃこりゃーご丁寧にどうもー」
「って、希空君はもう私知ってるから名刺いらないじゃん!」
「いやー、そこは空気読んでの行動でー」
今や『かおるん』とか『希空君』とか呼ばれる間柄になっている。 そもそも希空は正確には2年生なのだから、ある意味これが普通なのかもしれない。
「ではではずばり一夏君! クラス代表になった感想を、どうぞ!」
「えーと……」
ずいっとボイスレコーダーを向けられ、一夏は困ったような顔で苦笑した。特に薫子の隣で薫子と同じように期待した目で見つめる希空に対しプレッシャーを感じる。
「まあ、なんというか、がんばります」
「つまんない」
「うっせ!」
希空のつまんない宣言にムカッときた一夏。だが希空は本当につまらなかったのか、もうインタビューに興味ありませんーというようにオレンジジュースをイッキ飲みしていた。
「えー。もっといいコメントちょうだいよ〜。俺に触るとヤケドするぜ、とか!」
「いやいや、そこは『IS王に、俺はなる!!』って兄の死を乗り越えたゴム人間の言葉をー」
「縁起悪いなオイ!?」
今の希空の発言はヤバかった。確かに某ジャンプスターの麦わら帽子を被った青年は兄の死を乗り越え、2年の歳月を経て再び冒険の海へ旅立ったが、これでは希空の死を乗り越えてISの世界王者になろうとしているではないか。
死んでもいないのに縁起でもない。
「自分、不器用ですから」
「うわ、前時代的!」
「一夏、あの名優はあのイケメン顔だからこそ似合うんだよー」
「そ、そうなのか…」
「じゃあまあ、適当に希空君と捏造しておくからいいとして。ああ、セシリアちゃんもコメントちょうだい」
「わたくし、こういったコメントはあまり好きではありませんが、仕方ないですわね」
と口では言っても、セシリアは既に希空と一夏の近くで待機していた。
「コホン。ではまず、どうしてわたくしがクラス代表を辞退したかというと、それはつまり――」
「ああ、長そうだからいいや。写真だけちょうだい」
「さ、最後まで聞きなさい!」
「いいよ、適当に捏造しておくから。よし、一夏君に惚れたからってことにしよう」
「なっ、な、ななっ………!?」
「おっ、かおりん鋭いねー」
「馬鹿な…それは無いだろ」
「え、そうかなー?」
「そ、そうですわ! 何をもって馬鹿としているのかしら!?」
残念にも怒られてしまう一夏。海よりも高く山よりも深い女心は一夏にはわからないようだった。セシリアの鋭い視線を受けて怯む一夏に希空ははぁ、と小さく嘆息。
するとポンと薫子に肩を叩かれた。
「ん?」
「あ、いや次希空君のインタビューだから」
「―――へー?」
面喰らった、とはまさにこのことだった。
「ほら、一夏君みたいにISを動かせる訳でも無いのにこのIS学園に入学してるって、ある意味注目なんだよね」
「……あー、そうなんだー」
「ね、だからそこをなんとかっ」
「んー……いーよー」
「ホントっ!? ありがとー!!」
薫子は希空の手をがっちり掴んでブンブン振った。心の底から『整備室で仲良くなってよかった〜!!』と感謝していた。
「希空君宛の質問が学園中からドサドサ舞い込んできちゃってねー困ってたのよ」
「なるほどー、舞い込んで来ててんてこ舞いなわけかー」
「『舞い』の使い回しギャグ!! それ結構ウケるよ!!」
「ありがとー。でも僕宛にそんな質問とかあんのー?」
「あるある。100通くらい」
「「「100通!?」」」
「わぉー」
一夏、箒、セシリアが口を揃えて言った。そして当の本人はすごいなーと他人事のように関心している。
「でも新聞部の方で纏めて厳選したから結構減らしたから安心してね」
「おぉ、流石は新聞部副部長ー」
「当然」
えっへんと笑う薫子。周りでは小さな拍手が起こっている。
Q1,簡単なプロフィールをお願いします。
「えーまたー? これ自己紹介の時のみたいなんでいーんだよねー?」
「うん。でも出来れば詳しくね」
「わかった。名前は織斑希空、年は16。今年で17歳になりまーす、キラリン。好きな物はISと日本料理と酢豚。と、剣道見学。得意な事はIS整備と射撃と家事。嫌いな物は雨と甘過ぎるもの、苦過ぎるもの。苦手なことは……いいや別に。あっ苦手な人は生徒会長」
「生徒会長って…更識さん?」
「うん。この前会った。スッゴい苦手なタイプな人種だよー」
「へぇ…希空君にも苦手な人がいるのね」
「そりゃー人間だもの」
「その発言イタダキ!!」
ボイスレコーダーとは別に手帳にメモってた。結構ツボらしい。
Q2,何故IS学園へ入学したんですか?
「もう『何故IS学園に入学出来たか』という質問では無いのですわね……」
「最早今更、という感じだからな」
「えっと、IS学園に来た理由は1年遅れで高校生活という名の青春を謳歌したかったからー」
「おっ、某銀河美少年みたいなこと言うね。因みに希空君の青春謳歌とはズバリ?」
「校則違反万歳!!!!」
「それはかなり間違った方向だぞ希空兄!?」
一夏のツッコミは最もである。
Q3,何故いつも顔と左手に包帯を巻いているんですか?
「禁則事項でーす」
「えー? ホラ、そこをなんとか!」
「うーん………」
希空はチラリと一夏を伺う。一夏は一夏で質問の内容に若干動揺が隠せない。何か言うべきか、しかし言ったら怪しまれるのではないか。そんな一夏に箒とセシリアは首を傾げた。
「どうした一夏?」
「どうかなさいましたの?」
「あ゛っ……いや…特に何でもない……」
「………ハァ」
何だかんだで一夏はこういう時に誤魔化しが下手なタイプだ。10年以上兄をやっていればそれくらい希空にもわかる。
「目の方は木から降りられなかった猫を助けた時に引っ掻かれちゃったんだよー」
「そうなんだ…希空君、もしかして猫派?」
「あったりー。犬はダメだね犬は。アレ咬むから」
「「……あー」」
嫌そうな顔をする希空に一夏と箒は納得した。
あれは小学生の頃。
好奇心豊かな年頃で、ある日近所の犬を見て弄っていたら偶然鎖が外れてしまい、街の端まで恐怖の鬼ごっこが始まっていた。途中希空が犬を引き付けたはいいが、数時間後頭からバックリと喰われて気絶していたのが発見された。それ以来希空は犬に対して絶大な嫌悪を抱いている。
「もうアレだね、犬なんて唾棄すべき象徴だよー」
「希空兄、世界中の犬派に謝れ」
「だが断る」
「はいはい兄弟喧嘩は後にして。それで左手の方は?」
「左手の方はねー、IS学園っつーか、日本に来る前に中国で黄砂にあっちゃってかせちゃったんだー」
「「「………は?」」」
「…希空さん中国に行っていたんですの?」
「そ。あいれふとちゃいなー。チャイナに行っチャイナーって、今一夏思ったでしょ」
「ギクッ……じゃなくて!」
図星こと百点満点な一夏だが危うく流されそうになりハッとする。
「え、何希空兄中国に行ってたのか?」
「そーだよー。モスクワからシベリア鉄道でウラジオストクまでがたんごとーんってね。で、そっから徒歩で中国行って、上海辺りで蟹食べてた。旨かったよー」
「……ちょっと待って」
薫子はボイスレコーダーを置き、混乱する頭に手を当てて唸る。
「えっと、要するに希空君はロシア、中国経由で
「だからさっきからそー言ってるじゃん。いやー、中々ハードな大陸横断だったよ。ミサイル来たからね」
「「「ミサイル!?」」」
「なんかわからないけど凄い大変な旅だったらしいわね……! 出来ればもっと聞きたいネタだけど時間押してるからまた今度にするわ!」
Q4,彼女はいますか?
「いませーん。ついでに言うなら募集もしてませーん」
「えー? これこそ正に青春の謳歌ってヤツじゃない?」
「それとこれとはまた別ー」
頑なに首を横に振る希空。以前一夏と千冬に見せた、哀愁と諦めを感じさせるその表情を見て、一夏は1人拳を握り締めた。
Q5,このIS学園での抱負を教えて下さい。
「一応これで最後よ。今日のところはね」
「…質問の仕方が年末年始の日本みたいだが……」
「もしかして箒が書いたのか?」
「断じて違う! お前は私をどんな目で見ているんだ!!」
「えっと……幼馴染み」
「…ッッ!」
本当なら『神社のイメージあるから』とか言おうとしていたのだが、何故か話が面倒臭そうな気配を感じ一夏は言い方を変えた。しかし、
「ば、バカっ! わ、わ、わ、わかればよいのだ!!」
「………一夏さん! わたくしというものがありながら!!」
「えっ!? 何でセシリアが怒るんだよ!?」
天然。故に痛い目を見る。一夏の天然スキルはナチュラルに意中の女性を巻き込む程高くなっていた。
「あ〜また始まっちゃったわね〜、痴話喧嘩」
「複数の女性を無意識に玩ぶのが一夏のスキルだからねー」
「おや、いつにも増して辛口だね。まぁ痴話喧嘩はあっちでやってもらうとして」
「抱負でしたっけー。抱負ー抱負ー……」
希空は空になったグラスを置き、食堂をぐるりと眺めた。
ワイワイ楽しげに騒ぐクラスメイト達。
近くで一夏を挟んで喧嘩する箒、セシリア。
それらを見て希空はふっと笑顔を浮かべた。
「誰1人悲しむこと無く、平和にのんびり学園生活を送ることかなー」
「あはは、なにそれ。もっと『IS整備師の天下を獲るっ!』とか言うと思ったけど。………でもまぁ」
薫子はテーブルに置かれたボイスレコーダーを拾い、カチリと録音停止ボタンを押すとニコリと笑った。
「うん、それが希空君らしいね」
「でしょー」
2人揃ってにかっと笑う。すると薫子はインタビューが終わったので立ち上がった。
「じゃーこれから写真撮影するよー!」
「写真撮影!? いっ、一夏さん一緒に撮りましょう!!」
「えええっ!?」
「はいはい取り敢えず注目の専用機持ちから順に撮ってくから焦らない焦らない」
「待て!! ならば私は一夏の
「ほ、箒まで!? 何セシリアと張り合ってるんだよ!?」
「なっ、私と写真を撮りたく無いのか!?」
「そりゃあ撮りたいけど」
「ッ!!」
「一夏さああああん!!!!」
「何なんだよこの状況はぁ!?」
頭を抱える一夏。
食堂も賑わい、セシリア、箒はボルテージが目下急上昇中。相変わらずだなぁと希空は笑いながら、オレンジジュースを呷った。
「全く、困ったわねぇ」
「ねーねー」
「あら本音ちゃん? どうしたの?」
カメラ片手に困り果てた薫子の袖を引っ張ったのは、より一層袖を垂らす生徒会書記の布仏本音。名は体を表すと言うのだろうか、のほほんとした笑みを浮かべて告げる。
「私ね〜、おりむー2号と写真撮りたい〜」
「へ? 僕?」
突然ご指名され首を傾げる希空。すると本音はとてとてと希空に歩み寄り、その手を掴むと引っ張った。
「わ、わわわっ」
「ね〜、い〜でしょ〜?」
「そうねー…まだあっちはあっちで揉めてるようだし」
女2人に挟まれる一夏に呆れ半分に溜息を吐きつつ、薫子はカメラを希空と本音に向ける。
「あれ、ひょっとして僕に拒否権とか無いー?」
「おりむー2号は嫌なの〜?」
「本音ちゃん、まずはそのニックネームから変えよーか。それじゃ僕がロボットか人造人間みたいだよ」
「え〜」
―パシャッ
「(あ、)」
なんとなくシャッターを切ってしまった薫子。だがカメラに映る2人を見てハッとした。
「(………この2人、何か似てる)」
学園七不思議の如き秘密を発見した薫子であった。