IS <インフィニット・ストラトス> ヘカトンケイルの名を持つ者 作:一ノ原曲利
実は最近…というか、三月に入ってから将来のことでいろいろと立て込んでショック受けて…まぁ、本当にいろいろ大変でした。主に精神衛生上
発作…とまではいきませんが、この頃そんな「魔が差して」が頻繁にあります
せめて
「織斑くん、おはよー。ねえ、転校生の噂聞いた?」
朝教室に行くとクラスメイトに話しかけられた。既に入学から数週間が経過し、一夏もクラス全員と話せるようにはなっていた。流石にクラスでぼっちは悲しい。
「転校生? 今の時期に?」
今はまだ4月、入学ではなく転入。
ただの公立高校なら何も問題はないがここはIS学園。国の推薦が必要だったりとかなりの条件があった筈(希空の『猿でも分かるISに関する基礎知識講座』参照)。それが意味することとはつまり、
「そう、なんでも中国の代表候補生なんだって」
「ふーん」
一夏は中国と聞いて思い当たる節も縁も無い。唯一1人の少女の顔が脳裏を過るが、全力で否定した。
「(………いや、まさかな)」
しかし、代表候補生と言えば。
「ふん、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら」
Ms.セシリア嬢。
ほほほ、と上品に笑いながら今朝もまた腰に手を当てている。一夏の中ではそれが英国淑女の基本姿勢とインプットされてしまっていた。
「このクラスに転入してくるわけではないのだろう? 騒ぐ程のことでもあるまい」
一夏の背後に現れたのは箒だった。
一瞬心の中で忍者かよ、とツッコミを入れたが箒は忍者みたいにコソコソしないよなぁ、とすぐに否定した。言ってないけど前言撤回、箒はジャパニーズサムラーイだった。
「あら? そういえば希空さんは?」
「あ、あぁ。なんか千冬姉に呼ばれて職員室に行ってた」
「大方IS訓練へ向けての最終調整の打ち合わせだろうな」
「そうでしたの……」
セシリアは感慨深げに頷いた。
基本希空は実戦投入が可能な位の整備をしているのだが、如何せん希空の道楽で妙なプログラムを組み込むことがあったらしく(例えば一定距離に捉えたISを
しかし、
「どんなやつなんだろうな」
やはり代表候補生というだけあって強いんだろうな、と一夏はぼやいた。
「む……気になるのか?」
「ん? ああ、少しは」
中国の人口は凄まじい筈だが、万が一のことを考えると一夏は気が気でなかった。もしその代表候補生が
「ふん……。今のお前に女子を気にしている暇があるのか? 来月にはクラス対抗戦があるというのに」
「そう! そうですわ、一夏さん。クラス対抗戦に向けて、より実践的な訓練をしましょう。ああ、相手ならこのわたくし、セシリア・オルコットが務めさせていただきますわ。何せ、専用機をもっているのはまだクラスでわたくしと一夏さんだけなのですから」
「まあ、やれるだけやってみるよ」
「やれるだけでは困りますわ! 一夏さんには勝っていただきませんと!」
「そうだぞ。男子たるものそんな弱気でどうする」
「織斑くんが勝つとクラス皆が幸せだよー」
セシリアを筆頭にクラスメイトが一夏に期待を口にした。優勝商品が学食デザートの半年フリーパスというのは年頃の女子には堪らないのだろう。
「織斑くん、頑張ってねー」
「フリーパスの為にもね!」
「今のところ専用機持ってるクラス代表は一組と四組だから、余裕だよ」
一夏が女子達の声に「おう」とだけ返事をした。
「――その情報、古いよ」
唐突に、
「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」
そう言ってその女子は壁にもたれるのを止め、驚愕の表情を浮かべる一夏を見据える。
「鈴……? お前、鈴か?」
「そうよ。中国代表候補生、
かっこよく決めようとした鈴だったが、背後から伸びた手に自慢のツインテールの髪を捕まれて変な奇声をあげてしまい失敗に終わる。一夏達も突然の奇声にギョッとしたが、鈴の背後でツインテールを掴んで遊んでいる人物を見て目を丸くした。主犯である希空が、鈴のツインテールを鉄人28号のリモコンみたいにグイグイ動かして遊んでいる。
「ちょ、ヤダ離しなさいよっ!!」
「いやー、離せ離せと言われるほど離さないモノは無いよねー」
「こンのサディストが………!! って希空!?」
最終的に鈴の後ろ回し蹴りが希空に襲い掛かり、それを避けたハズミで希空はツインテールを解放した。すると改めて希空を確認した鈴は怒鳴る。
「アンタ…!! なんで上海にいたのよ!? っていうか、なんで連絡の1つも寄越さないのよ!? 心配したじゃない!!」
「リンリンひっさしーぶりー。でも再会して早々質問
「…スー…ハー……スー………じゃなくて!!」
思わず釣られるところだった。希空の話術はここが恐ろしい。
「旅行行ったかと思えばそのまま帰って来ないし、かと思えば上海にいるし!! いい加減にし――」
「いい加減にするのは貴様等だ」
―パァン、パァン!!
「イッ!?」
「あだっー」
希空の胸ぐらに掴み掛かろうとした鈴共々、撃鉄を鳴らしたような痛烈な一撃が入った。
「もうSHRの時間だ。教室に戻れ」
「ち、千冬さん…」
「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、入り口を塞ぐな、邪魔だ」
「ッ…す、すみません…」
並々ならぬ覇気に萎縮してしまう鈴。鈴は1年前まで一夏といたので、千冬とは面識がある。一方希空は毎度のことなので、「いててー…」と叩かれた後頭部を擦るだけだった。鈴は去り際にキッと希空を睨む。
「またあとで来るからね! 徹頭徹尾キッチリ話してもらうから逃げないでよ、希空!」
「さっさと戻れ」
「は、はいっ!」
千冬の
……どちらかと言えば、犬より猫か。
「っていうかアイツ、IS操縦者だったのか。初めて知った……」
「僕もだよー」
しきりに頭を擦りながらやって来る希空はケラケラ笑いながら言った。
本当か…? 一夏はそんな希空の横顔を、じいっと見つめている。
すると一夏の元に箒、セシリアが詰め寄って来た。
「……一夏、今のは誰だ? 知り合いか? えらく親しそうだったな?」
「い、一夏さん!? あの子とはどういう関係で――」
ああまた乙女達の混乱がー、と希空は2人に問い詰められる一夏を放置して席についた。何故ならば、
―パンパンパンパァン!!
「席に着け、馬鹿ども」
地獄送りの
「お前のせいだ!」
「あなたのせいですわ!」
「なんでだよ……」
「あっははははー」
昼食の時間となるなり開口一番、箒とセシリアは一夏を怒鳴り付けた。希空は数えて無いが(理由は寝てたから)2人は山田先生からの注意5回、千冬からの鉄槌3回を受けている。
「ありゃー痛いよね、ありゃー」
因みに希空は山田先生からの注意こそ無いものの、千冬からの鉄槌は7回だ。既に頭のコブは潰されて酷いことになっているらしい。
「まあ、話ならメシ食いながら聞くから。とりあえず学食行こうぜ」
「む……。ま、まあお前がそう言うのなら、いいだろう」
「そ、そうですわね。行って差し上げないこともなくってよ」
「(素直じゃないなぁー2人共)」
「「(シィー!!!!)」」
ぼそりと素直な感想を溢した希空は必死な2人にケラケラ笑う。そして
―ガシッ
「何処に行くんだ? 希空兄」
「……い、いやぁ、整備室にちょっとねー……」
「………いくぞ」
「うぎゃあああああー一夏の
「ちょ!? 何言ってんだよ希空兄!?」
ガッチリと襟首を捕まれた希空は駄々っ子みたいに叫ぶ。しかし元から観念していたのか、一夏に対する暴言を吐きながら、ずるずると食堂に連れて行かれた。箒達はそんな2人を見て首を傾げずにはいられなかった。
だが、希空が言っていることはほとんど的を射たものばかりで2人は口の端を引き攣らせ、一夏への暴言が響く方向へ歩んだ。
「待ってたわよ、一夏! 希空!」
食堂に着くなり、一夏達の前に鈴が立ち塞がった。ラーメンを乗せたお盆を携えて。
既に希空は事切れたようにぐったりしている。それは一夏が後ろ襟を掴んでいるせいで首が締まり、窒息状態を起こしているせいだろう。
「まあ、とりあえずそこどいてくれ。食券出せないし、普通に通行の邪魔だぞ」
「う、うるさいわね。わかってるわよ。………それより一夏」
「ん?」
「……希空のびてるわよ」
「お前のラーメンものびてるな」
「旨いこと言ったつもりかっ!」
鈴はげしっと一夏の脛を蹴った。一夏が痛みに悶えている間に希空は一夏の拘束から抜け出し、すーはーすーはーと呼吸を確保している。若干血色も良くなってきた。
「あ゛ー…死ぬかと思った……」
希空はケホケホッと喉を鳴らしながら(一夏から奪った)食券をおばちゃんに渡してランチを貰う。
「うぉっ!? いつの間に食券がっ!?」
「我が盗みの腕は天下一ナリ。どやぁ」
「希空兄!!」
「僕を引き摺った罰。報いは受けさせて貰うZE!」
HAHAHAHA!と哄笑した希空は先に席につく。そして焼き鯖のランチからふと正面に視線を移すと、ラーメンを載せたお盆を置いた鈴がいた。即時、お盆を持ち上げて回れ、右。
「……他の席にいこー」
「ハイちょっと待ちなさい」
「ぐへっ」
またも襟を掴まれる希空。今日は襟と縁があるのだろうか?焼き鯖が落下しなかったのはラッキーだった。
「希空、アンタにはたっぷり話して貰うことがあるんだけど」
「おーいいーちかー。こっち席空いてるよー」
「って人の話聞け!!」
完全無視。というより希空は故意的に鈴から避けるように接していた。
席こそ左から、希空、一夏、鈴の順番だが、距離以上に心理的な距離が感じられる。
「鈴、いつ日本に帰ってきたんだ? おばさん元気か? いつ代表候補生になったんだ?」
「質問ばっかしないでよ、こっちの方がしたかったのに。アンタこそ、何IS使ってるのよ、ニュースで見たときびっくりしたじゃない。……勿論、希空のことはよぉーく耳に入ったわよ? 『ヘカトンケイル』様?」
「リンリン、僕リンリンにその名であんま呼ばれたくないなぁー」
「ッッ……ごめん」
「わかればいーよ」
「……と、とりあえず! 鈴はこの1年どうだったんだ?」
テンションが下がってしまったと感じた一夏は場の雰囲気を紛らわそうと会話を進める。一夏からすれば約1年ぶりの再会であって、鈴との話はかなり弾んでいた。
ところどころ一夏が希空に会話を移したり、鈴がちょいちょい希空に視線を投げ掛けたりするが、本人は気付いているのか気付いていないのか、焼き鯖と格闘していた(「焼きそばだよ!!」とか叫んだり)。すると隣のテーブルにいた箒とセシリアが、3人の前に迫る。
「一夏、そろそろどういう関係か説明して欲しいのだが」
「そうですわ! 一夏さん、まさかこちらの方とつ、つつつつ付き合ってらっしゃるの!?」
一夏に尋ねて来た。しかしその質問に対し鈴は事も無げに答える。
「別に付き合ってるわけじゃないわよ。幼馴染みなだけ」
「そうだぞ。ただの幼馴染みだよ」
「幼馴染み………?」
「そうか、丁度お前とは入れ違いに転校して来たんだっけなぁ」
幼馴染み第1号こと箒は怪訝そうに首を傾げた。その顔に「訳を話せ」と書かれている。
「あー、えーっとだな。箒が転校したのが小4の終わりだろ? 鈴が転入してきたのが小5の頭だよ。で、中2の時に国に帰ったから、会うのは1年ちょっと振りだな」
希空は違うけど、とは言わなかった。一夏は希空を横目で盗み見るが、相変わらず希空は焼き鯖と格闘中(今度は「焼き鯖だろうがー!!」とか叫んでた)。
意味がわからない。
「で、こっちが箒。ほら、前に話したろ? 小学校からの幼馴染みで、俺の通っていた剣術道場の娘。いわゆるファースト幼馴染みだな。で、鈴はセカンド幼馴染みってトコだ」
「ファースト……」
「アホー。そんなネーミングする人、世界中のどこにもいなかったよ一夏ー」
「えっ、そうなのか?」
一夏のネーミングセンスには希空も呆れた。そしてファースト幼馴染みと呼ばれて目を輝かせる箒、眩しいよ、色んな意味で。
「ふうん、そうなんだ」
ズズーッとラーメンを啜りながら鈴は箒を見る。
「初めまして、これからよろしくね」
「ああ。こちらこそ」
そう言って2人の間に火花が散った。ついでに鈴の背後には眠れる獅子、箒の背後には龍の
「(……縁と剣心ー?)」
虎伏絶刀勢vs天翔龍閃。希空は右目で2人を見ながらそう思った。因みにその際、「実写映画化万歳!!」と思ったのは気のせいでは無い。
「ンンッ! わたくしの存在を忘れてもらっては困りますわ。中国代表候補生、凰鈴音さん?」
「……誰?」
ズズーッとラーメンを啜りながらセシリアを見つめる鈴。その際、希空を睨むことは忘れない。
「なっ!? わ、わたくしはイギリス代表候補生、セシリア・オルコットでしてよ!? まさかご存じないの?」
「うん。あたし他の国に興味ないし」
「な、な、なっ……!?」
キッパリと言いながらナルトを食べる鈴。対してセシリアは絶句していた。二の句が告げないとは正にこのことだろう。
「い、い、言っておきますけど、わたくし、あなたのような方に負けませんわ!」
「そ。戦ったらあたしが勝つよ。悪いけど強いもん」
「………………」
「い、言ってくれますわね……」
鈴の自信に満ちた言葉に箒は息を詰まらせ、セシリアは拳を握り締めた。
自分達を過小評価している訳では無い。
己を過大評価している訳でも無い。
鈴は鈴で、『絶対勝利』という確固たる自信があるからこそ、そう言い切れるのだ。
「一夏。アンタ、クラス代表なんだって?」
「お、おう。成り行きでな」
「なんならISの操縦、見てあげてもいいけど? あ、でも希空がいるか。ねぇ?」
鈴はじろりと希空を睨む。だが希空は全く反応すること無く白飯をパクパク食べていた。
―ピキッ。
鈴の額に怒りのマークが見えた一夏は流石にヤバい、と超直感。
「ああいや、希空兄はあんまやってないんだ。だから助か――」
「一夏に教えるのは私の役目だ。頼まれたのは、私だ」
「あなたは二組でしょう!? 敵の施しは受けませんわ」
「あたしは一夏と希空に言ってんの。関係ない人は引っ込んでてよ」
「か、関係ならあるぞ。私が一夏にどうしてもと頼まれているのだ」
「一組の代表ですから、一組の人間が教えるのは当然ですわ。あなたこそ、後から出てきて何を図々しいことを――!」
「後からじゃないけどねー。あたしのほうが付き合いは長いんだし」
グサッ。
セシリアの胸に『付き合い長い』と書かれた言葉の
知り合ってまだ1ヶ月というのは、セシリアにとってはディスアドバンテージだった。
「そ、それを言うなら私の方が早いぞ! それに、一夏は何度もうちで食事をしている間柄だ。付き合いはそれなりに深い」
「それならあたしもそうだけど」
「「!?」」
2人の間に衝撃が走る。
箒はまさか自分以外の人間、しかも女子の家に転がり込んで、あまつさえ食事までするなんて思わなかった。
「2人共しょっちゅう家に来て食事してたのよ。小学生の頃からね」
「いっ、一夏っ! どういうことだ!? 聞いていないぞ私は!」
「わたくしもですわ! 一夏さん、納得のいく説明を要求します!」
「そう言われても……なぁ希空兄?」
「リンリンの家が中華料理店なんだよー。酢豚おいしーよ酢豚」
「ッ、」
希空の言葉を聞いた鈴の肩が小さく跳ねる。その拍子に左右に垂れたツインテールが波打った。
「そういえば希空さん、自己紹介で酢豚が好きとおっしゃってましたわね」
「うん。正確にはリンリンの作ってくれた酢豚、だけどね」
「えッ……!」
鈴は驚きの声をあげた。みんなが注目するが、希空は味噌汁を飲みながら続ける。
「んでね、醤油の味付けが旨いんだよー。あとナッポーも砂糖かかってて美味しかったなぁー。中国にも酢豚扱ってる店はたくさんあったけど、やっぱリンリンの以外に食べる気起きなかったよー。みんなも後で食べたら?」
味噌汁が飲み終わり、ぷはぁ〜と胃に籠る熱い熱気を吐き出すと、希空はふと周りが静かなことに気付いた。テーブルを囲む自分以外を眺めるが、あちゃーという顔をした一夏と顔を真っ赤にした鈴、唖然としたその他数名しか見られなかった。
「………アレ? みんな酢豚嫌い派?」
「……いえ…希空さんがそうおっしゃるのでしたら…」
「…あの希空があんなに他人の料理を褒めた……」
「…お兄さんはやっぱり一夏くんのお兄さんだ………」
「うんうん、鈴さん後でお願いね」
「えっ!? あ、……あぁいいわよ、別に」
堰を切ったように話し出すみんな。希空はしきりに首を傾げて一夏を見るが、呆れたように肩を竦められてムカッとした。
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