IS <インフィニット・ストラトス> ヘカトンケイルの名を持つ者   作:一ノ原曲利

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第17話 放課後の邂逅/昔ノヤクソク

 

 

「え?」

「な、なんだその顔は……おかしいか?」

「いや、その、おかしいっていうか――」

「篠ノ之さんどういうことですの!? これは!?」

 

 一夏、箒、希空の前にいるセシリアは憤慨していた。何故なら箒がISを展開して一夏に相対していたからだ。

 純国産のIS《打鉄》。日本が生み出した第2世代の量産型ISである。安定した性能を誇るガード型で初心者には是非オススメの一品(キーソラ調べ)。日本の他に多くの国が採用しており、IS操縦士のタマゴが集う当IS学園にはうってつけ。箒からの要望であるが、何より希空は箒に対して武士としての印象が強いのも決め手だった。

 そして、希空は知っている。

 《打鉄》は自身の師匠が、箒をモデルにして作ったということを。

 

「どうしてもなにも、一夏に頼まれたからだ」

「《打鉄》……日本の量産機ですわね。まさかこんなにあっさりと訓練機の使用許可が下りるだなんて……」

「希空が手配してくれたのだ。感謝するぞ」

「どういたしましてー。《打鉄》もよろコンドルからオッケーです」

「なっ……なんですってえぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 セシリアは希空の右目が捕捉するよりも疾く、希空の胸ぐらを掴み上げた。その際「ぐぇっ」とカエルを潰したときの鳴き声がしたが。

 

「どっ、どういうことですの希空さん!?」

「い、いやぁ…箒ちゃんが《打鉄》貸してくれって言ったから貸したげただけだよ―――ゲホッ!」

「そんな!! せっかく一夏さんと2人きりになれると………」

「チッチッチ。それは違うよー」

「えッ……?」

 

 希空はマジックに成功したマジシャンのように指を振った。そして口元をセシリアの耳元へもっていき、2人に聞こえぬよう囁く。

 

「(これで専用機持ちのセッシリーと箒ちゃんの条件は同じ。更にライバルもいる。ということはー?)」

「(まさか……そこまで計算してですの!?)」

 

 驚愕の形相を浮かべるセシリアに、希空は小さくウィンクした。

 要はフェアな条件の上でかつ、想い人(一夏)の目の前でライバルに力の差を見せつけることが出来るということだ。まさかの一石二鳥。セシリアには美味しい話であった。

 それが希空が、()()()()()()()()()浅はかな計らいだなんて露知らず。希空が思い付いた話にセシリアは夢中になって聞き入っていると、その間に箒が刀を中段に構えた。

 

「では一夏、始めるとしよう。剣を抜け」

「お、おうっ」

「――参るっ!」

「お待ちなさい! 一夏さんのお相手をするのはこのわたくしでしてよ!」

「……さぁ一夏、練習開始だ」

「お相手しますわ! 一夏さん!」

 

 ISを展開した美少女2人に迫られ、一夏は口の端を引き攣らせながら後ろにいる希空(ことの元凶)を睨む。当の希空は戦闘被害の及ばないアリーナの端で壁に凭れ掛かり、一夏の視線に気付くとくすくす笑っていた。

 

『他人事だと思いやがって……! 後で覚悟しやがれ希空兄!!』

『煮るなり焼くなりお好きにどーぞ。あ、僕肉はレア派だからー。まっ、一夏はもっと女性に対して真摯になることだねー。今回はそのツケ。ホラ、余所見してたら』

「何をボーっと突っ立っている!」

「油断し過ぎでしてよ一夏さん!!」

「うわっ!?」

 

 慌てて希空への個人間秘匿回線(プライベート・チャンネル)を切り、一夏は推進機(スラスター)を駆使して後ろへ避けた。

 すると一夏が1秒前にいた地面は《打鉄》の刀が放った斬撃と《ブルー・ティアーズ》が放ったビームによって抉れていた。

 本気だ、色んな意味で。

 

『この僕が一夏にお灸を据える為に仕組んだんだ、感謝してよねー』

『そう言いつつ展開してる3つのディスプレイは何だよ!?』

『え? 《打鉄》と《ブルー・ティアーズ》と《白式》の稼働データ』

『おもいっきり個人目的じゃねぇかあああああぁぁぁぁ!!!!!!』

 

 魂の叫び虚しく、一夏は2機のISによってこってり絞られた。つくづく希空には敵わないと、心の底から実感して。

 

 

 

 

 

 

「今日は、この辺りで終わることにしましょう」

「……お、おぅ……」

 

 きっかり1時間。

 辺りが暗くなったアリーナの中央で、一夏は僕、セシリア、希空の前で大の字に寝転んでいた。やはり2対1のIS戦は予想以上にキツかったらしく、汗だく状態だった。

 

「ふん、鍛えてないからそうなるのだ」

「2対1じゃ、こうなるって………」

 

 一夏は肩で息をしながら、それを仕組んだ張本人をキッと睨む。それに対して希空はただ肩を竦めるだけだった。

 

「一夏さん、また後程。希空さんも今日はありがとうございます」

「いやいやトンデモ無い。いい稼働データとれたしー。セッシリーにも《ブルー・ティアーズ》のデータ回しとくよー」

「えぇ、ではこの端末にお願いします」

「ほいほい」

 

 そう言ってセシリアは小型USBを渡してピットに戻った。

 

「何をしている、我々も部屋へ戻るぞ」

「先に帰っててくれ。俺はまだ動けない……」

「……しょうがない奴だな。シャワーは先に使わせて貰うぞ」

「あぁ……」

「まったねー箒ちゃん。お疲れ様ー」

「ああ、希空もまたな。今日は助かった」

 

 そう言って箒もピットに戻り、アリーナにはぶっ倒れる一夏と希空だけが残った。希空はディスプレイを展開してキーボードをタイピングする。

 

「一夏もお疲れさーん。前より格段に《白式》とのリンクがいいよ。推進機(スラスター)の使い方もいいし。ただ《雪片弍型》が上手く扱い切れて無いかなー」

「…扱い切れて無い? どういうことだ?」

「……もしかしてもしかすると、一夏ってまだセッシリー戦での敗因わかって無い?」

「うっ………」

 

 いつもの表情、しかし若干希空のお仕置きモードの時に見る左目の不気味な光を見て一夏は息を詰まらせた。不味い、これでは先日の二の舞だ。

 

「あ、あ、いやー、わかってるさ」

「ダウト」

「バレた!?」

「一夏って嘘吐く時に視線を右側に移すクセあるんだよ。お兄さんの前で嘘はつけませーん」

「えっ、そうだったのか………」

 

 今度気をつけよう、と思ったがすぐさま希空に「クセってそうカンタンに治るモンじゃ無いよー」と言われて冷や汗をかいた。

 

「仕方無いねぇー。じゃあ、後で今日のと、前回の試合のデータあげるから自分で見て、ちゃんと研究しなさーい。自分の機体くらい把握しなよー?」

「了解………」

 

 ああまた課題が増えた…と一夏は頭を抱えた。

 そう思いつつも、希空がしていることは多少の嗜虐趣味があるかもしれないにせよ、一夏自身の為にやっているのだと実感する。仰向けの一夏は起き上がり、視線を真っ暗闇の夜空から希空に移した。

 

「……なぁ、希空兄」

「何?」

「……約束、覚えてるよな?」

「……………」

 

 パッと希空は黙ってディスプレイを消した。セシリアから貰った青のUSBをポケットに突っ込み、一夏を見つめる。

 

「………さて、なーんのことかなー」

「忘れたとは言わせねぇぞ。鈴にちゃんと言え」

「やだ」

「希空兄!!」

 

 一夏は起き上がると制服の裾を翻し踵を返す希空の肩を掴んだ。

 

「言えよ!! 訳を話せよ!! それが約束だっただろ!!」

「……ダメだって…一夏。コレは僕と一夏と千冬姉さん、そして束さん以外に知る必要の無いことだし関係も無いし、そもそも家族じゃ無い。そんな過去を話すまで深い関係なんて無いし、そんな関係になるつもり無い」

「希空兄っ……」

「……他人の過去を知るなんて、ただの重荷だよ。だから約束は無かったことにしよう」

「何だよ…それ……」

「………何なんだろうね。本当に何なんだろ。………あぁ…でも()()()よ」

 

 希空は肩を掴む一夏の手を払いのけ、包帯が巻かれた右目に触れる。

 

 

 

「僕は、怖いんだろうね」

 

 

 

 ―ビュオオオオォ……

 

 一陣の強い風が吹き、一夏は思わず目を瞑った。

 風が止み、目を開けた時には既にアリーナに希空の姿は無かった。

 

「……希空兄………」

 

 一夏は無意識に手を握り締めた。肌の色が白くなるほどに。

 

 

 

 

 

 

 

「(…うわ、暗っ)」

 

 アリーナから寮への帰り道、希空はぼやいた。時間が夜半を回っているから辺りが暗い、ではない。単純に自分の気分だ。

 希空の気分は比喩表現するならば海底2万マイルよりも遥かに深い暗さ。暗黒の奥の奥、更なる深淵に連れていかれたような、 そんな気分。

 

「(ごめん。自分で言って何だけどやっぱよくわかんない)」

 

 無駄話だった。

 

「(……あ゛ー…コーユー時は寮に戻ってシャワー浴びて、全て洗い流すのが一番ー)」

 

 希空は長風呂派ではない。

 昔から自分に興味の無いモノは短時間に済ませるに限る。普段から研究や機械弄りをしていた希空からすれば、風呂に入る時間も惜しい。そもそも世界を回った希空からすれば国によってはシャワーどころか水すら無い国もあったので、既にその生活が板に付いていた。

 だから、希空はシャワー派。昔一夏と論争を繰り広げたのはいい思い出だ。

 寮へ到着し、自室の前まで来た希空はふと真下を見る。そこにはよく人生ゲームで使う小さな駒が()()()いた。

 

「…………」

 

 希空は毎日この駒を、自室から出た後に置いている。そして僅かにある敷居より少し高い為、ドアを開ければ倒れる仕組みになっている。

 デジタルが普及している今だからこそ、こうしたアナログな仕掛けは役に立つ。希空は右目の『天目一箇(あめのまひとつ)』を起動させ、ドア越しに誰がいるか確認する。

 

「(……何故に?)」

 

 検索結果は意外な人物だった。というより、部屋を教えていない人間だった。

 そして、今一番会いたくない人物。

 希空はハァ、と溜息を吐くとドアを開けることなく背を預け、左手の親指を耳に、小指を口元に寄せてテレフォンスタイルを取る。

 

「………もしもし、1年生寮寮長織斑先生ですかー? 織斑希空です。実は僕の部屋に不法侵入している輩が―――」

「うわー!? 待った待ったストーップ!!」

 

 希空がひょい、とドアの前から退けるとバンッと勢い良くドアが開き、中から見慣れたツインテールが出てきた。

 

「……何でいんの?」

「……何よ、いちゃ悪い?」

「あ、織斑先生? 犯人は2組の凰 鈴イ――」

「ストップ!! ストーップ!! わかった私が悪かったわよゴメン!!」

『……お前等は何をやってるんだ………』

 

 飛び掛かる鈴を希空は右手で頭を抑えて制す。必死で止めようと抵抗する鈴がかわいーなーと思ったのは余談だ。

 

「いや、だからリンリンが不法侵入してたんだってー。こういうの…なんていうんだっけ、治外法権? 普通だったら罪重いよねーまさか中国が多ヶ国の機密を保持してるかもしれない僕の部屋に侵入してるなんてさー。帝国式拷問で言えば…そう釣が―――」

「いやあああ!! やめて希空!! 私が悪かったから!! 謝るから報告しないで電話しないで!! ってアンタどんな電話してんのよっ!?」

『……鈴か…おおよそ()()()の件だろうな。一夏から話は聞いている』

「……千冬姉さんも一夏と同じことを言うつもり?」

『…何?』

「僕は話さないよ。リンリンにも、箒ちゃんにもセッシリーにも話さない」

「……えっ…?」

 

 希空が言ったことが聞こえたのか、鈴はキョトンと目を丸くした。自然と動きも止まる。

 

『……希空…それはお前自身が結んだ約束だろう』

「…いいじゃん別に。切るよ、リンリンにはは・な・さ・な・いーだ」

『………それがお前の意思なら、私は何も言わない。』

「……僕の意思だよ。僕が自分で考えて、選んだ道だよ」

『そうか、わかった。では凰の処分は私が請け負う』

「どうもー」

 

 そう言って、希空は電話を切った。呆然と立ち尽くす鈴の隣を、希空は見えて無いように通り過ぎて部屋に入る。

 

「ちょ、待ってよ希空!! 話さないってどういうこと!?」

「どういうことって…何の話ー?」

「惚けないで!!」

 

 鈴はカーテンを閉めていた希空にずんずんと音をたてて迫ると睨み付けるように見上げた。

 

「一夏が言ってたのよ!! 本当に希空が日本に戻った理由は、希空が話してくれるって!!」

「(……愚弟め…余計なコトをー……)」

「アンタにはこの前上海にいたことも聞かなきゃだしね。あの黒服集団とか、爆撃とか。どうせIS関連なんだろうけどね」

「アレまで見たんだ……」

 

 希空はハハハと乾いた笑みを浮かべた。

 希空はロシアへ向かう前から各国の軍、暗部、傭兵、マフィアなどに狙われていた。その度爆弾やら銃弾やらバカスカ撃って来て色々と面倒だった。だが上海でのとある一件を節目に全軍共々()()()つもり。

 

「まぁおおよそリンリンの言ってることは合ってるよー」

「……やっぱりね」

 

 鈴は腕を組み小さく溜息をついた。

 希空の噂は鈴が代表候補生になった頃から聞いている。なんでも、『ISの創始者篠ノ乃束に次ぐ技術力を持つ少年』として世界中で噂されていたからだ。挙げ句の果てには、『ヘカトンケイル』なんて二つ名を付けられ、一時期『ISのコアを作ることができるのではないか』とまで言われていたほどだ。

 現在世界でISのコアの絶対量は467つ。

 1つ1つが国家の戦力を左右する今、『作れるかもしれない』とまで言われる希空はどの国も喉から手が出るほど欲しい逸材である。

 

「私の方にも指名手配書来てたわよ。見つけ次第捕まえたら金一封だったわ」

「ふうん、そう。……あれ? じゃあなんでリンリン捕まえなかったのー?」

「へ?」

「だって、僕を上海で見かけたんでしょー? リンリン代表候補生なんだし、専用機使えたんじゃないー?」

「……しないわよ。だってアンタは………」

「?」

 

 希空はタンスからタオルを取り出し、汗を拭いながら首を傾げる。鈴は水滴滴る肌を見て思わず顔を赤くした。

 

「どしたのー?」

「!? なっ、なんでも無いわよっ!! あーもうっ!! なんか眠くなってきたから今日は帰る!!」

「えー? あ、うんまたねー」

 

 顔を覗き込もうとする希空から逃げるように、鈴はIS並みの速度で希空の部屋から出た。こちらを見られないようにバタンとドアを閉めると、鈴は荒い息をゆっくり沈める。

 

「(ああぁっ……!! うっさいのよ私の心臓!!)」

 

 さっきから心臓の動悸が止まらない。

 ドアを閉めた手が熱い。

 鈴は深呼吸して先ほど希空がしたようにドアに背を預ける。するとシャワーの音が耳に入って来た。

 

「ッッ―――!?!?(ふ、普通女子が部屋から出た後すぐ風呂入る!?)」

 

 入ります。

 ただ鈴がいつまでもドアの前にいるのが普通では無いのだ。

 だが、色んな意味で混乱状態の鈴にとっては自分が自分で何を考えているのかすらわからなくなっていた。

 いわゆる『テンパり過ぎ』というやつ。退室前に見た希空の艶かしい肌が、頭から離れない。

 

「(……今なら…ちょっとだけ…ドアを開ければ…)」

「オイ」

「(わっ、忘れモノあったって言えば……大丈夫よね?)」

「………オイ」

「(………って何考えてんのよ私!? 希空のハ、ハ、ハダカを………!?!?)」

「…………………オイ」

「何よ!? さっきからうるさ…………………」

 

 そこで、鈴はピタリと固まる。体制は希空の寮室のドアを半開きにし、中を覗くという酷く滑稽な姿で。

 並々ならぬ覇気を纏う鬼教官千冬の姿を視界に捉えた瞬間、鈴の顔色は赤から直ぐ様真っ青へと変色した。

 

「……………」

「………二組の担任とは話をつけてやる。覚悟しておけ」

 

 恐ろしい死刑宣告だった。

 そして千冬の死刑執行直前、鈴はまた希空に本題をはぐらかされたと思い知るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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