IS <インフィニット・ストラトス> ヘカトンケイルの名を持つ者   作:一ノ原曲利

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第20話 《黒鋼(クロガネ)》

 

 クラス対抗戦まであと数日に控え、希空の忙しさは熾烈を極めた。

 平日は授業終了後すぐアリーナの確保、箒・セシリアと共に一夏の特訓。夕食を済ませれば簪・本音・薫子とISの製作及び調整。

 休日となれば「明日休みだから徹夜でも大丈夫だよね―」とのこと。この時彼女達から見た希空の笑みは悪魔そのものだった。希空に関わる全員ですら目の下に隈を作りそうなほどげっそりした顔なのに、希空は至って普通。

 

「(信じらんねぇ……)」

「(何故だ…)」

「(何でいつも通りなんですの……?)」

「(………チート…)」

「(反則だよぉ~…)」

「(ちょ…誰か助けて…)」

 

 そこは亀の甲より年の功と言うべきなのだろう。

 希空からすれば二徹三徹は当たり前、一時期は二週間程飲まず食わずで作業に没頭していた時もあった。その耐性がない彼女達の疲労は生まれて初めてと言ってもいいくらい蓄積されていった。だが、箒・セシリア組は結果的に「一夏が強くなる」訳なのだと頭で理解しているので骨身惜しむことなく一夏強化に費やした。簪・本音・薫子組も次第に完成していくISに感動を覚え、満たされていく充実感はかけがえの無いものだった。

 

 ただ、1人。

 

 希空の可愛い可愛い弟こと織斑一夏は、地獄の日々だった。その全容はこれから流れるアリーナで録音された一部始終で一目瞭然だろう。

 

 

 

『ホラホラ一夏、次行くよー』

『ちょ!? その砲台どっから出したんだよ!?』

『リンリンのISって結構特徴的な武装してあるからね、流石は中国4000年の歴史』

『関係無くね!? てか質問に応えろおおおぉぉ!!!! うごげっ!?』

『あ、それ衝撃砲って言ってね、要は空間圧兵器』

『そういう解説は要らねぇ………よっ!!』

 

 ―ズパッ! ボンッ!

 

『お。お見事。でもざーんねん、あと10機あるから』

(空間圧兵器×10、召喚!)

『もぐら叩きかっ!? あだっ!!』

『ホラホラ一夏、ハイパーセンサー使って砲撃避けなよー』

『やってるさ!! だけど見えない上に砲台が出現する場所がランダム過ぎっ……!! ごはあっ!! ………多過ぎるわ!!』

『相手は動く砲台なんだから、これぐらい動かさないと対策になんないってー』

『だとしてもフツーここまでやるか……? ってぇい!!』

 

 ―ズパッ、ボンッ!

 

『そうそう、空間圧兵器って割と砲撃の前兆ってのを肌で感じ取り易いから、まずはそっから特訓なんだねー、うん』

『だいたいわかってきた……喰らえっ!!』

 

 ―ズバズバッ!!

 

『むむむ、一気に2機も潰して来たねー………一夏のクセに生意気な』

『何か言ったかー!?』

『生意気だって言ったんだよドアホゥ』

(空間圧兵器×100、召喚!)

『うっげぇぇぇぇ!? ……ストップ、タンマ希空兄、話せばわか』

『……いっぺん死んでみる? てか喰らえー』

『………ぐぎゃあああああああああああああああ!!!!!!!!!!』

 

 ――ザザッ…ピーーーー…

 

 ※しばらくおまち下さい

 

 

 ――…ピッーーザザッー

 

『ふぅー全く、何ビビって雪片弐型しまっちゃうんだか……(あのまま雪片にぶち当てれば、理論上圧縮砲のエネルギーの吸収は可能なんだけどなぁー)』

『オ…オノレ希空兄…オレを殺す気か………』

『飴と鞭だと言って欲しいねー、飴は無いけど』

『そりゃただの鞭だろうがっ……ガクッ…』

 

 

 

 ……おかわり頂けただろうか?(誤字)

 こうして彼、織斑一夏はクラス対抗戦に至るまで、(色々な意味で)恐ろしい実兄こと織斑希空と箒・セシリアからの猛特訓を受けていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして時は流れて当日。

 つまりは、クラス対抗戦当日。希空は第3アリーナのBピットに来ていた。

 

「調子はど? 簪ちゃん」

「………大、丈夫」

 

 希空の言葉に簪は小さく頷きながら、漆黒の手を握って調子を確かめていた。

 そう、簪の第2世代型IS《打鉄弐式(うちがねにしき)》の後継機、《黒鋼(くろがね)》の。

 かつて倉持技研と簪が設計していたものを改良した機体。改良内容を倉持技研にのみ公開及び、稼働・性能データを提供することを条件に希空が改良した()()()3()()()()

 灰銀のカラーリングから《打鉄(うちがね)》よりも昏い黒のカラーリングに変わってはいるが、機体そのもののシルエットはあまり変化は無い。

 機動性重視の独立ウィングスカートを気に入った希空はそのウィングスカートの()()()を大幅に広げた。肩部ユニットの大型ウィングスラスターと小型の補佐ジェットブースターも小回りが効くよう調整し、ユーザーインターフェースによる細かい操作も可能となった。

 従来の《打鉄》、そして《打鉄弐式》に比べ防御を削ぎ落とし、機動力に特化しつつもバランスの良い機体だ。

 

「ハイパーセンサーはど? 試作段階で何度か着けたからだいぶ慣れたとは思うけど」

「……問題、無い」

 

 《黒鋼》のハイパーセンサーは、バイクのフルフェイスヘルメットのガラス部分のみを取り付けたバイザーのような形をしている。目の前に展開された透明なハイパーセンサーは《黒鋼》の武装において、かなり重要な役割を果たしているのだ。簪はISを戻して、空間投影ディスプレイで武装の確認をする。

 

 近接武器である対複合装甲用の超振動薙刀『夢現(ゆめうつつ)』の改良型『蜻蛉(かげろう)』。

 

 背中に搭載された2門の連射型荷電粒子砲『春雷(しゅんらい)』の改良型『篝火(かがりび)』。

 

 《打鉄弐式》の最大武装であった『山嵐(やまあらし)』の改良型『野分(のわき)』。

 

 最後に、《黒鋼》最大の目玉とも言える新武装『(まぼろし)』。

 

 ISの機動制御チェックの他に、この4つの武装の精密な管理、調整を行っている。どれもこれも、希空が生み出したクセのある武装だからかこまめな調整は必須。

 だが《黒鋼》の力を十二分に引き出せれば、1年生の代表候補生は勿論のこと、学園のトップに立つことも夢じゃないと希空は豪語していた。

 

「(………姉さん……)」

 

 学園トップという単語と共に、才色兼備な姉の後ろ姿が脳裏を過った。

 いつ、何をやっても姉である楯無に追い付くことは無い。いつも光輝く姉の背中を見て、追い続けて、それでもまだ遠い。手を伸ばすことさえ敵わない、絶対的な実力の差。

 

「……簪ちゃーん?」

「……! な、何……?」

「泣いてるよ?」

「………ぇっ…」

 

 頬に温かい何かが伝っていたのに気付く。それが、涙だと理解した時には希空が涙を拭っていた。

 

「……な、何でっ……」

「きっと、嬉しいんだよ、心の底から」

 

 ぽふりと希空の手が簪の頭を撫でた。太陽のような、温かい手が気持ち良い。

 

「やっと、キミはスタートラインに立てた。やっと、キミはこの子と共に空を翔べる。キミにはそれが、嬉しいんだよ」

「っ……織、斑ッくんっ…………!」

「胸を張って、お姉さんにぎゃふんと言わせてやろーよ。ね?」

「……う、うんっ…!!」

 

 よし、と希空は最後に軽く頭を叩いて満面の笑みを浮かべる。するとピットに掛けられた時計を見て「あ゛」と表情を歪めた。

 

「ヤバ、第2アリーナ行かないと」

「……えっ…? でもまだ一回戦が始まる時間じゃ……」

「リンリンにご指名されちゃってるからねー。何故か一夏は『来ないでくれ…』って言われちゃったけど。何でだろー?」

 

 ポリポリと頭を書きながら苦笑する希空。

 ―…なんだろう、これは。

 『鈴』の話が出ると、簪の心に変な痛みが走った。その言い知れない不快感を振り払うように頭を振った簪は、ピットから出ようと踵を返す希空の背中に向けて、叫ぶように言った。

 

「……と、途中までッ」

「へ?」

「途中までっ、一緒に行ってもいいっ……?」

「……? いーよー?」

 

 妙な気迫に圧された希空だったが、特に不思議に感じること無く簪と共に第2アリーナへ向かった。

 ピットの隣の部屋で、本音と薫子が顔を見合わせて妖しい笑みを浮かべていたことは、2人共知るよしもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ひっさしーぶリーン」

「…随分遅い到着ね、一発殴っていいかしら?」

「暴力はんたーい」

 

 簪と別れ、ピットへ続くドアを開けるなり、こめかみに怒りのマークを浮かべて鈴が仁王立ちしていた。怒っている証拠に自慢のツインテールがメデューサのようにごわごわ蠢いている。

 

「あ、リンリン」

「何よ」

「まだその髪留め、使ってくれてるんだー」

「ッ!」

 

 希空に指摘されて鈴はハッとそっぽを向いた。だが耳は朱に染まっている。

 ――今鈴が使っている髪留めは、希空が小学校時代にくれたものだ。当時転入したばかりだった鈴は、よく同級生に中国人だからって虐げられていたことが多々あった。当時から血の気盛んだった鈴はそんな小学生のいじめが我慢ならず、喧嘩へ発展するのは当然の流れと言えた。幼少期から使っていた髪留めのリボンはその時に無くしてしまい、「じゃあ、僕が買ってきてあげるよ」と屈託無い笑みを浮かべた希空が一対の髪留めを買ってきてくれたのだ。

 以来、鈴は1日たりともその髪留めを手放したことが無い。モデルの撮影で他の髪留めを薦められた時も、頑なに断った。

 

「よ、よくわかったわね…」

「そりゃ、プレゼントしたのが僕本人なんだから、忘れる訳無いっしょー。あ、久々に髪結わえてあげる」

「えっ!?」

「ほらほら後ろ向いて座ってー」

「~~~~!!」

 

 逃げようと身体を捩るも、不思議と希空の手から逃れることは叶わず、仕方無しにピットにある長椅子に座った。後ろに希空が座り、慣れた手つきで髪留めをほどく。

 

「相変わらずきれーな髪」

「そっ、そうっ?」

「うん。前より手触りもいーし、流石僕が惚れた髪だねー」

「惚れっ!?」

「あ、動かないで。ずれるからー」

「ッ……!」

 

 振り向こうとした頭を手で制されてしまう。いや、振り向かなかったのは鈴にとっては好都合だった。今振り向けば、多分真っ赤であろう自分の顔を見られてしまっただろうから。そんな鈴の心の内に気付くこと無く、希空は長い鈴の髪を指で梳かして整える。

 

「リンリンの髪ってホントきれーだよね。世界中を回った僕だけど、リンリンみたいなきれーな髪の持ち主はいなかったよー」

「……希空ってさ、もしかしなくても髪フェチよね」

「フェティシズム。略してフェチ、ねぇ。あんま好きな言葉じゃないかなー。何か発音がエロいし」

「………エロって…!?」

「んん? リンリン耳真っ赤だよー。もしかして…………」

 

 妖しい笑みを希空は、髪を持ち上げたおかげで露になった鈴の真っ赤な耳元に唇を寄せ、囁くように言う。

 

「今、何考えた?」

「ひゃっ!?」

 

 吐息が普段かからないところに掛けられ、背筋が震えた。

 

「リンリーン。何考えてたのか、白状しなさーい」

「バッ…な、何も考えてた無いわよっ…」

「ふーん……」

 

 必死に黙秘権を行使する鈴。そのいじらしさに希空のドSっ気に火がついた。

 何が何でも白状させてやりたい、あわよくば屈服させてやりたい。

 普段抱くことの無い感情が希空の心を刺激した。そして、

 

「かぷっ」

「っにゃぁッ!?」

 

 噛み付いた。その真っ赤な耳に。

 可愛らしい悲鳴を上げた鈴。希空はニヤリと笑いながら前歯で柔らかい耳を軽く噛む。

 

「ちょっ…希空ぁっ……や、やめっ……!!」

「じゃ、話してくれないかなーリンリンが考えてたコトー」

「ふぁっ……!!」

 

 耳を解放して振り向かせると、顔を真っ赤にした鈴が涙目で希空を見つめていた。

 普段のツインテールでは無く、ばらまかれたロングヘアーがいつもの鈴とはまた違うイメージを抱かせた。荒く吐く息が魅惑的な空気を誘う。そして口の端を釣り上げた希空は、今度は正面から鈴の耳を―――

 

 

『クラス対抗戦第1回戦、まもなく始まります。出場選手はアリーナ中央にて待機して下さい。繰り返します、クラス対抗戦―――』

 

 

「「…………」」

 

 暫く、2人の間に沈黙が流れる。

 繰り返される無機質な放送の音に、2人は同時に我に帰った。

 

「え…えーと……」

「……とりあえず、髪結わえよっかー…」

「あ、うん…ありがと…」

 

 その後、2人にしては珍しくテキパキとした流れで作業を終えた。幸いにも、放送で個人的に呼ばれることは無かった。

 

「希空っ」

「ん?」

 

 中国の第3世代型IS《甲龍(こうりゅう)》を身に纏った鈴は、いってらっしゃーいと手を振る希空に振り返った。

 

「私が優勝したら! 約束果たして貰うからねっ!!」

「あー、……まぁ、頑張って」

「キーッ!! ムカつくわね全く…!! 約束は守って貰うわよっ!!」

「はいはい、リンリンも1日メイドだからねー」

「ハッ!! 別にアタシが勝つから何の問題も無いわ!!」

「一夏に潰されちゃえ」

「冗談」

「ふっふっふ、結構一夏しごいてやったから簡単には倒せないよー?」

「それでも勝つのはアタシよ」

 

 勝利宣言をした鈴は挑戦的な笑みを浮かべて飛んでいった。アリーナの中央へ行ったのを見届けた希空は小さく溜息を漏らし、アリーナに特設されたモニタールールへ向かう。

 

「……いやー、しかしさっきは調子乗っちゃった」

 

 ポリポリと頭を掻く。左右非対称な苦笑を浮かべた希空は包帯に巻かれた左手を見て、乾いた笑いを漏らす。

 思わず、襲ってしまいそうになった。自分はここまで三大欲求に素直な人物だっただろうか。いやそれは今まで―――

 

「………いま、まで、?」

 

 記憶を遡ろうと額を指で小突いた矢先、ガクンッ! と頭が揺れた。

 瞳孔が開く。背中を流れる汗が気持ち悪い。呼吸が乱れる。手足が震えて力が入らない。視界がグラグラ揺れて、立っていられない。

 

 

【ダ■だよ、キミは■■■ボ■■■を■さなく■■■けないん■■ら】

 

 

 こえが、きこえた

 

 

 

 ような、きがした。

 

「……………あれ?」

 

 不快感が嘘のように拭われていく。何か、考えていたような気がするが。それに、

 

「…あれ、なんで僕ビットにいるんだろ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 




最後チョット本編と変更しました
この物語のキーになりますねたぶん
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