IS <インフィニット・ストラトス> ヘカトンケイルの名を持つ者   作:一ノ原曲利

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第21話 一夏vs鈴音/クラス対抗戦《リーグマッチ》

 

『それでは両者、規定の位置まで移動してください』

 

 アナウンスに促されて、アリーナにいた一夏と鈴は空中で向かい合う。その距離は約5m。一夏と鈴は開放回線(オープン・チャネル)で言葉を交わした。

 

「一夏、本気で潰すわよ」

「なら、俺にも手加減なんて期待するなよ?」

「誰がアンタの手加減を期待するのよ……確かに希空の件はあるけど、今はそのことは忘れなさい」

「わかってるさ……」

 

 勝負の世界とは常に手加減不要の真剣勝負。掛け値無しの決闘。剣道をやっていた一夏にはよくそれがわかっていた。全力でやってこそ、意味があるのだと。本件において希空の賭けは関係無い。

 

「一応言っとくけど、ISの絶対防御も完璧じゃないのよ。シールドエネルギーを突破する攻撃力があれば、本体にダメージを貫通させられる」

 

 それは脅しではなく本当のことだった。

 希空の講義であった話によれば、IS操縦者に直接ダメージを与える為だけの装備も存在するらしい。もちろん競技規定違反だが、つまり『殺さない程度にいたぶることは可能』という意味にもなる。代表候補生クラスはそれができるのだろう。

 ―――そしてこの話について、希空はやたら饒舌だったのを一夏は覚えている。何しろ、割と最近まで研究していたテーマだったからだとか。

 

『それでは両者、試合を開始してください』

 

 試合開始のブザーと共に、一夏と鈴は動いた。

 

「うおおおおおおっ!!」

 

 咆哮する一夏。それを見て薄ら笑みを浮かべた鈴は重力に合わせて『双天牙月』を振り降ろす。

 ガギィンッ! と、展開した『雪片弐型』が弾かれた。真正面から『双天牙月』と『雪片弐型』の衝突により、激しい火花と金属音が起きる。『双天牙月』をなんとか押し退けて弾いた一夏は苦悶の表情を浮かべた。

 

「(シンプルなパワーバランスじゃ鈴の方が上だな………!)」

 

 流石は安定性一を誇る中国。4000年の時は伊達ではなかったな。女の子に力負けするのは、それはそれでまた込み上げて来るものがあるが。だが下手したら鈴の方が膂力は上かもしれない。

 片や近接格闘戦に重点を置いた《甲龍》は機動力を割いた代わりにパワーに強化を加えている。

 片や《白式》は近接格闘戦はもちろんのこと、機動力も重視されているため根比べなら《甲龍》が一枚上手。

 無闇に突っ込むのは危険と一夏は判断した。

 

「ふぅん、初撃を防ぐなんてやるじゃない」

「伊達に希空兄達のスパルタ受けて無いからな!」

「げ。その言葉なんとなく説得力あるわ……」

 

 希空の悪魔のような笑顔が思い出される度に背筋に悪寒が走る。『ここまでしごいてやったんだから、勝ちなよ?』的な殺人光線の如き視線が突き刺さっている気がするのは気のせいでは無いだろう。

 

「だけどっ!!」

 

 そう言う鈴の左手の手のひらが一瞬発光する。光が消えるとそこに、二振り目の『双天牙月』が現れていた。鈴はそれをバトンのようにくるくると弄ぶと、弾かれたように再び一夏に向かって突進して『双天牙月』を乱暴に叩き付けた。

 

「ぐぅっ!!」

 

 一夏は『雪片弐型』を横に構えてなんとか防御。だがそれでも鈴の攻撃は止まらない。

 鈴は推進機(スラスター)を巧みに使い上手く体勢を変え、もう片方の『双天牙月』を横殴りに振るい、一夏の横腹を狙う。

 

「―――ぐおっ!!」

 

 一夏は咄嗟に『雪片弐型』を縦にスライドし、刀の持ち手に当たる部分で防いだ。それを見兼ねた鈴は余裕の表情見せ、力で捻じ伏せようとする。

 再び距離をとり、鈴は互いの『双天牙月』を連結させバトンでも扱うかのように回しながら縦横斜めと多角的に斬り込んで来た。しかも大きさに見合ない俊敏な回転に、流石の一夏も苦戦した。オマケに持ち方によって間合いが絶えず変化しているのだ。

 剣道とは、また明らかに違う戦い方。

 

「ちぃっ……!(このままじゃ消耗戦になるだけだ。一度距離を取って―――)」

「―――甘い!」

 

後退しようと推進機(スラスター)を吹かせようとした直後、ばかっという効果音と共に鈴の肩アーマーがスライドして開き、中心の球体が光った。

 瞬間、一夏は本能的に危機を悟り、無理矢理身体に教え込まれた反応を駆使して加速。

 しかしその場凌ぎの反応に間に合わず、《白式》の左推進機(レフトスラスター)()()が掠めた。突然の襲撃にバランスを崩した一夏が慌てて体勢を立て直せば、一夏の後方にあったアリーナ客席の天井の一部が爆音と共に火花を散らす。

 

「今のはジャブだからね?」

「(やばっ―――!?)」

 

 にやり、と不敵な笑みを浮かべる鈴。その言葉に呼応するように、今度は両肩のアーマーの中心が発光した。

 

 ――ドォンッ!

 

「ぐあっ!!」

 

 目に見えない拳が一夏の身体を直撃、モロに喰らってしまった一夏は地面に打ち付けられた。

 

「(しまった……希空兄の訓練を思い出せ……)」

 

 結局実戦レベルまでの実用にまでは到りませんでした(てへぺろ☆)なんてしたら殺されるよなぁ、と叩きつけられた痛みに耐えながら苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 総合管制室のリアルタイムモニターを見た箒は驚きの声を上げた。

 

「何だ!? 今の攻撃は!?」

「『衝撃砲』ですね。空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰で生じる衝撃それ自体を砲弾化して撃ち出す」

「わたくしのブルー・ティアーズと同じ第3世代型兵器ですわね……」

「あったりーん」

「「「!?」」」

 

 ぴょこんと、総合管制室にいた千冬以外の全員が希空の声に驚いた。ドアをスライドした機動音も無く、しかも誰に気付かれること無く山田先生の頭の上に顎を乗っけながら、希空は気儘にモニターを見ていた。

 

「正確には第3世代型空間圧作用兵器。名を『龍咆(りゅうほう)』。第3世代型兵器の特筆すべき搭乗者の意思による操作装置(イメージ・インターフェース)内蔵の兵装だねー。おまけに砲身も砲弾も眼に見えないから、砲身斜角がほぼ制限なしで撃てる。まぁ、死角がないって言ってもいいと思うよー?」

「突然出てくるな」

「あでっ」

「きゃっ!」

 

 ぐいんっと後ろから希空の襟首を掴み引っ張る千冬。乗っていた顎が離れたせいで先ほどより驚いた山田先生は小さな悲鳴を上げた。

 

「先生には常に敬意を払え。そしてお困り中の山田先生に言うことは、何だ?」

「真耶先生、思ったより髪の毛柔らかいですねー」

 

 ドゴッ。

 追加料金は希空の頭への鉄拳で支払われました。

 

「謝れ。あと名字で呼べ」

「スミマセンデシタ山田先生」

「あっ!? え、あ、はい……ありがとうございます?」

「………なんでお礼言ってるんだ」

 

 

 

 

 瓦礫に埋もれた一夏は未だに揺れる脳で上手く体勢を立て直せなかった。

 正面から食らったせいか機体以前に自分自身へのダメージもでかい。なるほど、バリアー貫通とはこれほどのものだったのか。ふらつく身体に鞭を打ち、鈴を視角に捉えようとするが、そんな暇を与えるほど鈴は甘い性格ではない。

 咄嗟に空気の僅かな乱れを肌で感じ取った一夏は地上を滑るように移動しながら必死に見えない砲撃を避ける。

 『龍咆』の砲撃は正確な上に二門あるからか速射性が高い。次から次へと、衝撃砲の弾丸がアリーナの地面を抉り取っていく。

 

「くっ……!(希空兄の訓練が無かったら芥子粒になってた自信があるなっ……!)」

「よく躱すわね。この『龍咆』は砲身も砲弾も目に見えないのが特徴なのに。………ああ…なーるほど、希空がまた下らない入れ知恵でもしたでんしょ?」

 

 初撃以降ギリギリで回避を続ける一夏に少なからず驚いた鈴は、脳裏に浮かび上がった子憎たらしい希空の笑顔に口角を上げた。

 

 

 

 

「弱点を挙げるなら、真後ろから砲撃及び超長距離射撃が不可能なことかなー。でもリンリンに限ってよほどのことが無い限り誰かに背後を取られることは無いだろーし、そもそもアリーナの範囲は端から端までもリンリンの衝撃砲の射程範囲内だから」

「何故、超長距離射撃が出来ないんだ?」

「確固とした固体としての弾丸じゃ無いからね。要は空気の弾丸だから、距離が広がれば圧力は段々弱まってくし、威力も減る。でもまぁ………」

 

 希空は展開したディスプレイに映された衝撃砲の弾丸がスローモーションで徐々に弱まっていく映像を見せながら、呟く。

 

「リンリンの技量なら、着かず離れず衝撃砲でバリアー貫通並の攻撃力は叩き出せるんじゃないかなー?」

 

 近付けば龍の爪牙たる『双天牙月』。

 遠ざかれば龍の咆哮たる『龍砲』。

 遥か遠距離への逃亡は不可(というより離れてしまえば近接ブレードしかない一夏は鈴にダメージすら入れられない)。

 まるで飛天御剣流奥義のような戦闘スタイルだ。

 

「(……あれ? でも飛天御剣流は日本だよねー? 中国側のは確か倭刀術だったよーな……)」

 

 

 

 

 

「(どこかで先手を打たないと…このままやられちまう………!!)」

 

 止まること無く響く『龍咆』の砲撃。

 一夏が目に見えない衝撃砲の一撃を躱せるのは単純な技量だけではない。

 一夏はISのハイパーセンサーに『龍咆』が射出する瞬間に、空間の歪みと大気の流れを探らせることによって紙一重で砲弾をかわしていたのだ。 

 加えて、希空の訓練でハイパーセンサーの活用の他に肌で感じ取る技術も活用していた。衝撃砲も言ってしまえば所詮は空気。ならば来る前兆というものは感覚でも第六感でもなんとかなる。

 だが希空はそれを一夏に()()()()感じ取れるよう訓練した。

 人間、第六感や感覚ほど自由に扱えないものは無い。だから希空は完璧なマスターとまではいかずとも、()()()()()()()()()()()()()()()()ということを一夏の本能に植え付けた。

 その為に、『霧雨の魔法使い』も顔負けの弾幕を身に受けたのはまた別の話だ。

 しかし、これでは攻撃に転化することが出来ずジリジリとエネルギーが消費していくだけだ。

 

「(しっかりしろ! 俺は……千冬姉と同じ武器を持っているんだぞ!)」

 

 自身の右手に握られている近接特化ブレード『雪片弐型』を強めに握り締め、迫り来る雨のような『龍咆』の弾丸を躱した一夏の脳裏に、アリーナでの千冬と希空の会話が過る。

 

 

 

 

 

 

 

 一度、学校の放課後一夏の訓練に千冬と希空が居合わせた時があった。そのとき聞いてみようとしたことがあったのだが、せっかくなら2人いた時の方が好都合かと思ったのだ。

 

 ジャージに竹刀と教官スタイルバリバリの千冬。

 右目左手に包帯、制服に数機の浮遊技術と空間投影ディスプレイを操作する希空。

 

 一夏は《雪片弐型》の調子を確かめながら、なるべくさりげなく聞いてみた。

 

『《白式》の武器って、この『雪片弐型』だけなのか?』

『? そうだよー。拡張領域(バススロット)に空きが無いからねー』

『私も、それだけで優勝した。その一振りで十分だ』

『世界大会優勝者と一緒にされても困るんだけどなぁ……』

『あはは、確かに』

 

 ―パシィン!!

 

 直後、それ以上の戯れ言は許さんと言わんばかりに千冬がその手に持っている竹刀で地面を強く叩いた。

 

『大体、お前のような素人が射撃戦ができるものか。……反動制御、弾道予測から距離の取り方、一零停止、特殊無反動旋回(アブソリュート・ターン)、それ以外にも弾丸の特性、大気の状態、相手武装による相互影響を含めた思考戦闘――――他にもあるぞ。出来るのか? お前に』

『出来るのだろうか? いいや出来ない反語』

『ううぅぅぅ…ゴメンなさい…』

 

 千冬の言葉と希空の鬼畜の如きダメ出しを受け、頭が痛くなった一夏は頭を抱えながら謝る。

一夏の感情に応えているのか《白式》のウイングスラスターが僅かに(かし)いだ。

 

『(むむっ、搭乗者の感情に合わせて反応するISの特殊機能を確認。どうやら搭乗者は()()()()()()()らしい)』

『変な実況中継すな』

『ぎゃいーん』

 

 ドスッと千冬の竹刀の先端が希空の脇腹に食い込んだ。杭に打たれたような衝撃に希空は奇妙な悲鳴をあげながら転げ回る。割とクリーンヒットだったらしい。

 相も変わらずマイペースな希空の姿を見て苦笑しながら、千冬はもう1人の弟たる一夏に語り掛ける。

 

『まぁ何にせよ、ひとつの事を極めるほうがお前には向いているのさ。―――何せ、私の弟だ』

『僕達の可愛い弟だもんねー』

『一言多い』

『ぎゃぴっ!?』

 

 あ、今度は左胸に刺さった。

 

 

 

 

 

 

「(バリア無効化攻撃…使えるか……)」

 

 鈴から距離を取った一夏は、互いに剣を構え向かい合ったまま話し掛けた。

 

「鈴」

「何よ」

「―――本気で行くからな」

「何よ! そんなこと当たり前じゃない!! ―――とにかく、格の違いってものを見せてあげるわ!!」

 

 吐き捨てるように言うと、鈴は連結させた『双天牙月』を大振りに構え、一夏に斬り込む。初期よりだいぶ見慣れたその一撃を躱した一夏は再びハイスピードで旋回する。鈴からの追撃を縦横無尽に駆け巡る。

 希空の訓練のお陰で『龍咆』の砲撃によるダメージは最小限に抑えられ、『双天牙月』で斬りかかるも、『雪片弐型』でいなして直撃を防ぐ。勝負を諦めた訳でも無い、なのに攻め込まない一夏の姿勢に鈴の中で苛立ちが生まれる。

 

「(ああもうっ…!! 何なのよ一体…!)」

 

 希空の約束が、鈴の脳裏を掠めた。

 

 

『一夏に勝ったらだって? ははは、冗談が過ぎるってー。仮にもリンリンは中国代表候補生、1年生のトーナメントくらい頂点に立って貰わないとねー』

『トーナメントも勝ち抜くんなら、一夏とその子に勝つこと。そしたら教えたげるよー』

 

 

「(私は負ける訳にはいかない……!! 負けられないのよっ!! だからさっさと撃墜(おと)されなさいよ!! 一夏!!)」

 

 

 

 

 

「織斑君…何かするつもりですね……?」

 

 ただひたすら鈴からの追撃から逃れようとアリーナを東奔西走する一夏をモニター越しに見ながら、真耶が小さく呟く。一夏と血の繋がりを持つ兄たる希空、そして姉たる千冬にはその狙いがわかっていた。

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)だろう。私が教えた」

「イグニッションブースト…?」

 

 聞きなれない単語を耳にした箒とセシリアは首を傾げる。

 複数の異なる視点からモニタリングされているディスプレイを覗いていた希空が千冬とアイコンタクトを取ると、希空は口の端を釣り上げた。

 

「一瞬でトップスピードを出し、敵に接近する奇襲攻撃だ。出しどころさえ間違わなければ、あいつでも代表候補生と渡り合える。しかし―――」

 

 そこで千冬は一旦言葉を区切り、鋭い表情を浮かべたまま吐くように短く言う。

 

「―――通用するのは、一回だけだ」

 

 奇襲戦法。

 状況によって、奇襲1つで圧倒的戦力差を持つ相手に勝てたという昔話が存在するのは、誰もが知っているだろう。

 

「だが所詮奇襲は奇襲。二度目は無い」

 

 某獣人の決め台詞を吐いた希空は浮遊義手を操作し新たな空間投影ディスプレイを出す。そこには《白式》モデルのISがコンピューターグラフィックで映し出されていた。

 

翼推進機(ウィングスラスター)から全面放出したエネルギーを一度取り込んでギュッと圧縮。で、一気に全面開放! そんときの慣性エネルギーを、膨大な推進力に利用するって感じかな」

 

 瞬時加速による瞬間的加速。そして《白式》の単一使用能力たる『零落白夜(れいらくびゃくや)』。

 数少ない武装と作戦は、時として眠れる獅子の喉笛に食らい付く歯牙に成り得るのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 一夏の作戦はこうだ。

 一夏の《白式》が鈴の《甲龍》を唯一上回るスペック『機動力』を駆使して鈴を撹乱。生じた隙から死角を見つけ、そこを瞬時加速で斬り込むというものだ。一夏は鈴からの追撃から逃れつつ、過去受けてきた訓練を思い出す。

 対空戦では十八番だと豪語するセシリアの手解きを受け、複雑な飛行も自在に推進機(スラスター)を駆使することで『龍砲』からの回避が可能。

 対『双天牙月』は言わずもがな、箒との剣道の練習や模擬戦で斬り結んだ感覚を思い出し、間合いの取り方でこちらの流れへ持ち込みつつ鈴からの決定的一撃必殺から逃れる。

 そして最後に、千冬と希空に突貫作業で教え込まれた瞬時加速で勝負を決める。

 あともう1つ、間近な一夏だからなのか目まぐるしく変化したことがある。

 

「(攻撃が単調になって来てやがる……あいつ、まさか)」

 

 ……俺じゃなくて、希空を見てないだろうか?

 

 冷静にみれば、『双天牙月』の斬り込みが甘い。力量の配分が疎かで、あまつさえ直撃コースでも本来の二割にも満たないダメージで済むであろうと読める。

 衝撃砲だって、ハイパーセンサーのロックオンシステムこそ正常作動しているのだろうが、如何せん撃ち込み過ぎだ。

 今の鈴の目には希空しか映ってないのかもしれない。いや、実際そうなのだろうと一夏は確信する。

 …自分から『関係無い』とか言ったのに何だよ、一番気にしてるのはお前じゃないか。

 鈴の中で、希空の存在はあまりにも大きすぎた。それが、戦闘において決定的な隙を生むまでに。

 そして遂に、その時は訪れる。

 推進機(スラスター)を噴かした一夏が鈴の死角を狙って突っ込み、一瞬だけ鈴の許容範囲から一夏の姿を見失ってしまった。ハイパーセンサーからの恩恵はあれど、人間としての死角は存在する。

 ハイエナのように隙を狙っていた一夏は当然これを逃すわけが無い。

 

「(その幻想をぶち殺す!! とまでは言わねぇけど……これで目ェ覚ませよ!!)」

 

 不意に3年前、日本から帰ってきて希空の海外留学という嘘をついた時の記憶が蘇る。

 ―――正直、一夏は迷っていた。

 ワザと負けて希空の真相を知ってもらうか、全力で勝負をして勝つか。

 一夏は最初は、前者だった。

 希空が日本に戻ったら全て話してもらう約束だった上に、希空はどうだかわからないが鈴は希空のことを想っているのだろう。

 だが、言いたくないという意地以前に希空との訓練の中で希空が鈴に教えない理由が次第に読めてきた。これに関して一夏は何も言えないし、一夏1人の一存ではどうにもならない。 

 それに、クラス対抗戦までの日々、一夏に指導や訓練をした人達の思いも無駄にしたくない。意を決して『雪片弐型』の柄を力強く握れば、一夏の思いに応えるように刃から眩い煌きを放つ。

 《白式》の2基の翼推進機(ウイングスラスター)がエネルギーを解放し、すかさず内部に取り込んで圧縮。

 次の瞬間、圧縮されたエネルギーが全面に解放され《白式》に膨大な推進力が生み出される。

 目標、《甲龍》。そして鈴。

 

「ぅぉおおおおおおぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」

 

 一夏の咆哮と共に、瞬時加速によって生み出された驚異的推進力で《白式》が《甲龍》へ飛んだ。

 

「!?」

 

 急接近に気付いた鈴だが、もう遅い。

 これが、最初で最後の、今日限りのチャンス。

 そして、最初で最後の一撃。

 眩い輝きを放った『雪片弐型』の一閃が、《甲龍》のボディに―――、

 

 ――バリィィィン……!!

 

 何かが、砕ける音がした。

 そして次の瞬間、アリーナの中央を轟音と爆炎が埋め尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

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