IS <インフィニット・ストラトス> ヘカトンケイルの名を持つ者 作:一ノ原曲利
「!?」
鈴に追撃を加える瞬間、桃色の閃光と共に大きな衝撃がアリーナ全体に走った。
鈴の衝撃砲ではない。範囲も威力も、何もかも規格外の砲撃だ。
「な…何……!?」
アリーナ中央から立ち上る黒煙。ところどころに火の粉が混じり、自然と2人の脳裏にかつて希空と見た戦争映画のワンシーンを彷彿させる。
とても、嫌な予感。
突然の襲撃は総合管制室にいた全員の間にも衝撃が走った。
「何…? 何が起きましたの!?」
「一夏!!」
「システム破損!! 何かがアリーナの遮断シールドを貫通してきたみたいです!!」
緊張を隠さない口調で言う山田先生の目の前のモニターには緊急事態を告げる真っ赤なウィンドウが浮かび上がっていた。
それを後ろで見ていた希空は驚きに目を見張り、咄嗟に千冬と目を合わせる。いつもより厳しめの表情の千冬は僅かに頷くと、アリーナ全体へ放送を呼び掛ける。
「試合中止!! 織斑! 凰! 直ちに退避しろ!!」
「真耶先生、避難誘導システムは?」
「あっ!? はいただいまっ…!! ………え、」
希空の指摘でハッとした山田先生はキーボードに指を走らせるが、新たにモニターに浮かび上がったメッセージにギョッとした。
「えっ!? な、なんで!? どうしてですか!?」
「(遅かった………いや、)」
ポケットからマニピュレーターのグローブを右手に嵌めた希空は、モニターに映る黒煙を睨み付けながら、
「(これは逆に
「な、なんだ? 何が起こってるんだ……?」
『一夏、試合は中止よ!すぐピットに戻って!』
あまりにも唐突過ぎて事態を把握出来ていない一夏に、鈴からの
鈴のその言葉に頷こうとした瞬間、ISのハイパーセンサーが緊急通告を告げた。
―――
「所属不明のIS…?」
前に希空から聞いたことがある。世界にあるISのコアの総数は467個。しかし全世界に割り当てられているコアの合計はそれを満たしていない。つまり、どの国家にも属していない不明のISのコアが存在しているということだ。
アリーナの遮断シールドはISと同じものでできている。つまり、それを破壊若しくは貫通するだけの威力を持った機体が乱入し、こちらをロックしている。単純に言えば、いわゆる絶対絶命というやつ。
『一夏、早くピットに!』
「お前はどうするんだよ!」
「あたしが時間稼ぐから、その間に逃げなさいよ!」
「逃げるって…女置いてそんなことできるか!」
「馬鹿! アンタの方が弱いんだからしょうがないでしょ!」
うぐっ。
反論を言い掛けた口が震える。確かに、さっきの戦いも奇襲という戦法を取らなければ、自分は負けていただろう。奇襲とは詰まるところ、下克上のように弱者が強者を倒す為にある作戦なのだから。
「別にアタシも最後までやり合うつもりは無いわよ。この異常事態…学園の教員達が来てすぐに事態の収集を―――」
『―――リンリン危ないっ!!』
「ぇっ、」
ふと
『一夏!!』
「おうっ!」
一夏の方にも届き、
次の瞬間、さっきまで鈴がいた空間にアリーナのシールド大破レベルの熱線が空を裂いた。見覚えのある攻撃は一夏がクラス代表決定戦の時にセシリアが使っていた、
「ビーム兵器かよ……!! しかもセシリアのISより出力が上だ…!!」
ハイパーセンサーに映し出された情報に愕然した。この出力、セシリアが『スターライトmKⅢ』と6基のBT兵器を同時併用して一斉掃射しても叩き出せる数値では無い。
「ちょっ、ちょっとバカ、離しなさいよ!」
「ってうわあッ!? オイそんなトコで暴れんな!!」
『2人共!! 第二波来るよ!!』
「「!?」」
一夏にお姫様抱っこをされていることに(後になって)気付いた鈴は恥ずかしいさに耐えられず離れようと暴れ出した。爪の装甲が頬に突き刺さり鋼鉄の拳がガンガン頭に振り下ろされるというカオスな現状の中、再び希空からの
漸く幾分余裕のある距離を取れた2人は、ビームが放たれた中心地を見た。
「なんだこいつ……? これでもISなのか……?」
爆煙の中を屹立する元凶たるISの形状はかなり変わっていた。
色は深い灰。首が無く、手が異常に長い。何より際立ったのは『
通常ISは部分的にしか装甲を展開する必要がない。その理由として、防御はシールドエネルギーによって行われるからであり、防御特化ISで大型の物理シールドを装備することがあるが、肌を全く出していないISは今まで聞いたことがない。
しかも全長2mはある巨体。その巨大な体を支える多くの
腕部には恐らくアリーナのシールドを破壊したであろうビーム砲口、左右合計4門。
「お前、何者だ」
[…………]
「答えろ! お前は何者だ、何が目的だ!」
[…………]
語る口無し、というのだろうか。凄まじい熱風の中、全身装甲のISはただ佇んだままこちらに耳を傾けること無く、しかし攻撃を仕掛けない不気味さを漂わせていた。
そこに、山田先生からの通信が入る。
『織斑くん! 凰さん! 今すぐアリーナから脱出してください! すぐに先生達がISで制圧に行きます!』
「いや……みんなが逃げるまで、食い止めないと」
『それは…そうですけど……』
一夏が言うことは正しかった。
まだアリーナの観客達の避難誘導は完了していない現状、相手の目的が読めない以上下手に戦線離脱してはみすみす観客達を危険に晒す羽目になる。
するとまた
『一夏。こっちのことは僕に任せてその巨人兵モドキを足止めしてくれないかなー』
「巨人兵モドキって………ああ、任せろ」
『リンリンも、あんま無理しないでね?』
「だ、誰に言ってるのよ! ってそれよりアンタなんで
『そいつァ守秘義務ってことでさァー』
「なにそれ!? ……ハァ、わかったわ。じゃあまた今度話して貰うからね!!」
『ハイハイ。………じゃー最後に一夏』
「? 何だ?」
『いい加減リンリン離せアホ』
「……ああ、悪い」
若干不機嫌気味だったのは気のせいだろうか? また合理的に『そんな態勢じゃ格好の的だよー』的な指摘なのだろうか?
一夏はその真意を確かめ兼ねながら鈴を解放する。すると、
―キュイン!
「うおっ!?」
瞬間、全身装甲のISが砲身を傾け2人の間を裂くようにビームを放った。間一髪で2人は直撃を免れる。
回避を確認した全身装甲のISは2人と同じように空へ飛び上がり、両肩についたガトリングを放つ。
雨のような化け物レベルのビームを避けながら、2人は息をついた。
「ふん、向こうはやる気満々みたいね!!」
「みたいだな!!」
一夏と鈴は正眼で全身装甲のISを捉えると、己が得物を構えた。
「一夏! アタシが援護するから突っ込みなさいよ! 武器それしか無いんでしょ?」
「その通りだ。じゃあ、それでいくか」
脇を引き締め斬り込みに掛かる態勢を作った2人は、暴走列車を彷彿させるような突進をしてくる全身装甲のISに向けて駆け出した。
「先生! わたくしにIS使用許可を! すぐに出撃できますわ!」
「そうしたいところだが―――これを見ろ」
千冬はブック型端末の画面をトントンと叩き、セシリアと箒に見えるように画面を向けた。画面に映っていたのは第2アリーナの現状だった。
「遮断シールドがレベル4に設定……」
「しかも扉が全てロックされて………あのISの仕業……?」
「そのようだ。これでは避難することも救援に向かうことも出来ない」
落ち着いたように話す千冬だが、僅かに震える手は苛立ちが現れている。
するとそれを椅子越しから見ていた、いつの間にか復活した希空がちらりと見遣っていた。それを見ていつもとは違い、口を真一文に結んだ希空は『
―第2アリーナ観客席
現在そこは謎の爆発と共にシェルターが封鎖された上に遮断シールドも通常の数値を上回る設定に施されており、中にいる生徒達は事実上閉じ込められていた。
「かんちゃ~ん…一体どうなってるの~……?」
「………わからない」
わからない状況下で怯えた表情の本音の手を、簪は優しく握った。手は2人共冷たく、それだけ切迫した事態に不安を隠せないのだ。
自分たちだけでは無い。いや、倉持技研から専用機を託されるに辺りその辺りを指導された簪や、学園の厄介事を取り締まったりいわゆる
「ドアが開かない!」
「何で!? どうなってるの!?」
「ケータイも繋がらないよ!?」
「誰か助けて! ここから出してよ!!」
不安が息巻く中で生徒達の悲鳴が上がる。
電波障害が起きている辺り、何者かが侵入し学園に攻め入っていると2人は踏んだ。だとしたら、自分達も危ないのでは…? 最悪の場合を想定してしまった2人は顔面蒼白になり、恐怖のあまり気絶してしまいそうになる。
だが、
――カチッ。
『……あー、あーあ~』
「「「「「!?」」」」」
観客席の隅に設置されたスピーカーから誰かの声が響き、生徒達は一斉に身を強張らせた。
犯人からの放送だろうか。
もしや犯行声明?
気持ち悪いほどの嫌な知らせを想像した。だが、何か違う気がする。
「(………この、声は…)」
聞き覚えのあるような声。この声は確か、
『てすてす、マーイクてすてすー………よし、オッケー繋がった。ぴーんぽーんぱーんぽーん、総合管制室に勝手に侵入中の織斑希空でーす』
「「「「「……はい?」」」」」
簪達の周囲の生徒が、いや、観客席でシェルターに閉じ込められていた人全員が、揃ってバカみたいに呆けたような声を発した。
いや、こんなご時世にマイクテストって。しかもこんな時になんで放送を告げるチャイムも全部セルフサービスなんだ。
聞き覚えのある、余りにも気の抜けた声に一瞬で張り詰めた空気が緩んだ。
『えーオホンッ。ただいまIS学園を統括するマザーコンピューターに不備が発生してしまった為、アリーナの一部が勝手に作動してしまった上に外部との連絡が取れない……いわゆる事件が起きた絶海の孤島に閉じ込められちゃった的な状況に陥ってしまいました。ミャーミャー』
……いや、その表現はどうなんだろうか。
しかもミャーミャーって…………うみねこ? 魔女が住まう島みたいなものを想像してしまいそうだ。
『ですがご安心をー! 『IS学園のアルソック』こと機械については右に出る者無し、自称ISオタクことこの織斑希空にお任せあ…………―――』
……………?
いきなり、放送が止まってしまった。放送事故かと思ったが、まだスピーカーから周囲の音が聞こえているから繋がっているはず。
「(………なんか、心無しか織斑君の呻き声が…)」
そう、なんか声が聞こえるのだ。
押し殺しているような、何かに耐えているような。
そして次の瞬間、
『…ウブオェエエエエエエエエエエェェェェー…』
……(色んな意味で)耳を塞ぎたくなるような音が響いた。しかも、ビチャビチャと耳障りな音と一緒に。
『だっ大丈夫ですか希空君!? ってうわ!? これコーヒー!?』
『うぇぇ…むごたらしい味だ……胃液も混じってるよー…』
『希空さん……英国淑女として見てられませんわ…』
『希空!! エチケット袋あったぞ!!』
『ありがとー箒ちゃ……うげぇぇぇ…』
『ばっ馬鹿者!! 私の制服に掛けるな!!』
『げえぇ…掛けるなっつったって千冬姉さん、そもそも姉さんお手製塩入りコーヒー飲ませたからでしょー、しかも無理矢理』
『うっ……!!』
『……あれ? 希空さん、もしかしてまだ放送繋がって………?』
『『『『!?』』』』
―ブツッ。
「「「「「……………」」」」」
………何だか気まずい沈黙がした。何だろう、あの放送の後第一声に何てコメントすればいいのか、正直わからなかった。
だが、そんな空気の中で本音は、
「………塩入りコーヒーって、何?」
「………え?」
「だから、塩入りコーヒー。もしかして織斑センセーが砂糖と塩を間違えて入れちゃった……とか?」
ヒュフリ。
観客席にいた全員が吹いた。
有り得ない。あの完全無欠たるブリュンヒルデこと織斑先生に限って、それは無い。というか断じてあってはならない。
「まさかあの織斑先生がそんな初歩的なミスをするワケが……」
「いやいや、達人たる織斑先生だからこそ逆に簡単なところで失敗することもあるし!」
「普段は真面目な織斑先生だが意外に家事は出来なかったりして……」
「ギャップ萌えってあるわよね!!」
「ていうか山田先生、お兄さんのことを希空君って………!?」
「あー呼んでた呼んでた!!」
「先生もスミに置けないねぇ~。こりゃIS学園のCPはお兄さん×山田先生決定か!?」
「まさかのお兄さん受けもアリよね!?」
「いやここはお兄さん×織斑先生っていう姉弟の禁断の恋……!!」
「SMなら間違い無く織斑先生がSよね。あ、でも意外と言葉責めなお兄さんも……!!」
「でもお兄さん、放送途中で
「うわー、未だにお兄さんの悲鳴とあの音が耳に……!」
「やーストップ!! それ以上言わないでよ思い出しちゃうから!!」
「塩入りコーヒー…うわ、想像しただけで吐き気してきたわ………モノホン飲んだお兄さん御愁傷様だよ………」
いつの間にか、閉じ込められていた時の不安は消えていき、先程あったコント紛いの放送の話に皆一同は花を咲かせて談笑していた。
その空気の変わり様に簪は、
「(……もしかして織斑君…みんなの不安を紛らわせる為にさっきの放送を……?)」
内容云々はともかくとして、事態を伝えるというより精神的不安定な状況にあった生徒達の不安を紛らわせるのが目的だったのではないだろうか。だとしたら彼は―――
「かんちゃん」
「!」
目尻に涙を貯めた、しかしさっきとはうって変わって笑顔な本音が簪の手を握っていた。2人の手は、温もりを帯びていた。
「おりむー2号、すごいね!!」
「………うん、そうだね」
表情筋がだらしなく緩んでるのがわかる。彼が、希空がみんなにこんな安心感を与えてくれていることが凄くて、それが嬉しくて、誇らしくて。胸の奥が、心がポカポカ温まっていくのを感じたのだ。
―ピピッ
「「!」」
ふと、簪のISの待機状態である指輪が小さな電子音を発した。都合上低めの音量に設定されているからか、2人以外には聞こえてなかったらしい。
送信者の名前を見た2人は目を丸くし、観客席の隅に移動して回線を繋いだ。
『ハロハロ簪ちゃん?』
「……織斑君? どうしたの……って、なんで織斑君が
『もうそれさっきから言われてんだよね…詳しい話は後。これから簪ちゃんにちょっとやってもらいたいことがあるんだけどー………いいかな?』
さっきの放送でのはっちゃけ振りを微塵にも感じさせない声色。
有無を言わせないその真剣味ある問いに、簪は静かに頷いた。
「でしたら!! 緊急事態として政府に救援を!!」
「無論やっている。現在も3年の精鋭がシステムクラックを実行中だ。遮断シールドを解除できれば、すぐに部隊を突入させる」
そう言いながら千冬は横目でちらりと希空を見遣る。
現在希空は軽く20は越えているであろう『百手機甲』を操りながら、左手でテレフォンスタイルを作りながら何処かに連絡を取っていた。
「じゃ、よろしく。ふぃー」
テレフォンスタイルを解いた希空は小さく息を漏らす。しかしどの手も休まずキーボードをタイピングしているのだが。
「こんな緊急事態に電話か?」
「『外』と『中』」
「「「………?」」」
「アリーナの『外部』と、アリーナの『内部』にいた子に連絡取って、ISのシステム系統に内蔵されている『自己プログラム回復システム』を使い、アリーナのシステム異常を治すように指示した」
「「「………え?」」」
千冬以外の3人がポカンと口を開けて唖然としていた。だがそんなこと気付いていないのか、複数のディスプレイとにらめっこしながら希空は言う。
「この巨人兵モドキのISが放っている妨害電波は複数のルートからシステムクラックするのを完全に防いでる。実際僕1人の手じゃ『内部』だから無理だったし。だけど同じ穴に『内部』と『外部』の同時アタックを、しかも専用機持ちのISの機能を使えば遮断シールドの解除程度なら可能」
「………なるほど、な。その隙を突いて教師陣のIS部隊を突入させる算段か」
「おっ、わかってますなぁ織斑センセー」
いつもののんびりとした口調に戻った希空はケラケラ笑った。その横顔を千冬の鋭い視線が射抜く。
「……念のため確認しておくが、誰に指示をした?」
「1年4組更識簪さんとなぜか偶然アリーナの外にいた本校の生徒会長更識楯無さん」
「……ほぅ」
千冬が感慨深げに、息を漏らす。
「丁度簪ちゃんには本音ちゃん、生徒会長様には虚さんが着いてたんで、補助役としては十分じゃないですかねー」
「ふむ………因みに互いに協力し合う相手はわかっているのか?」
「まっさかぁ。
やれやれ、と希空はわざとらしく疲れたような溜息を吐いた。
「こんなところでバラして作業滞ったらバカになりませんからねー。……まったく、姉妹なんですから仲良くして欲しいものですよ、僕達みたいに」
ちらり、と希空は左目で箒を見つめた。その言葉と視線に思わずビクッ! と肩が跳ね、箒はどこか気まずそうに視線を落とす。
「まっ、気長にお待ち下さいよ。向こうもシステム調整出来たらシグナルを送ってくれる手筈になってますので。真耶先生」
「はっ!? はいぃぃ!?」
「え、いやぁ…そんなに驚かれても……」
「あっ! はいごめんなさい………」
突然、何の脈絡も無く名前を呼ばれた山田先生は半泣き状態だった。『何でそんなに怖がってるんですかー?』的な表情で希空は笑った。
「今の内に避難用放送マニュアル、準備しておいてくれませんー?」
「え…どうしてですか?」
「観客席のゲートまではまだ時間掛かりますし混乱を呼びそーですけど、通路の隔壁のせいで立ち往生している生徒の避難くらい大丈夫でしょーし、今隔壁を上げるようにしてますので」
「あ…なるほど………わかりました!」
頑張るぞと珍しく張り切って意気込んだ山田先生は早速放送範囲のコントロールパネルの操作に移った。どうやらこちらのシステムは生きているらしい。
各自個々の作業に移る中、セシリアは1人頭を押さえて溜息をつく。
「はぁ……結局、待っていることしかできないのですね」
「何、どちらにしてもお前は突入部隊に入れないから安心しろ」
「なっ……!? 何ですって!?」
「お前の《ブルー・ティアーズ》の装備は1対複数向きだ。お前が複数の側に入れば、むしろ邪魔になる」
「そ、そんな事ありませんわ!! このわたくしが邪魔などと……!!」
「――では、連携訓練はしたか? その時のお前の役割は? ビットの使用タイミングは? 味方の構成は? フォーメーションは? 敵のレベルはどれくらいを想定している? 連続稼働時間は? 味方機の――」
「充分に分かりましたわ! も、もう結構ですっ!! ……はぅう」
セシリアは降参だと不承不承手を上げてガックリと肩を落とした。
I Sの場合、連携戦闘は個人戦闘とはまた違う動きを要求されている。それは今千冬が言ったこと以上だろう。イギリスの代表候補生たる彼女はまだ一度もそういった訓練をしていないかった。
「ふん、分かれば良い」
「またまた、あんまり生徒苛めるのは良くないですよー。言い方ってものがあるでしょー、ま、それでこそ織斑センセーらしいっちゃぁらしいですけど」
「生憎、私はお前みたいな遠回しな言い方は嫌いでな」
「まぁ、ちゃんとそこんとこは考えて言ってるんですよねー。ハッキリ言うところ、セッシリーに対する優しさが伺えますよー」
「ばっ、馬鹿者っ! さっさと作業に集中しろ!!」
「はーい」
やれやれと言わんばかりに肩を揺らし、希空は肩越しにセシリアに微笑みながら口パクした。
「? ………!」
セシリアに読唇術は無い。だが極めて単純なその言葉にセシリアはハッとした。
『セッシリーにはセッシリーの出来ることをやれればそれでいいと、僕は思うよ?』
鈴の『龍砲』が火を噴く。
その内の一発が、アリーナを低空飛行していた全身装甲のISの背中に的中し火花を散らして地に墜ちた。
「一夏っ、今の内に!!」
「うおおおおおぉぉぉ!!」
動きが止まったところをすかさず一夏が『雪片弐型』で斬り掛かる。しかし全身装甲のISはその一閃を紙一重で躱し、懐に潜り込んだ一夏に
「くっ!」
苦悶の表情を浮かべた一夏は一時戦線離脱した。このお決まりのアタックも既に4回目。体力もそろそろ危ない。
「一夏の馬鹿! ちゃんと狙いなさいよ! これで4回目じゃない!!」
「狙ってるつーの!(……ヤバい…バリアー無効化攻撃は、あと1回しか使えない…)」
ハイパーセンサーに表示された『60』という決して多くない数値に一夏はギョッとした。前半鈴との戦闘があったにしても、エネルギーを消費し過ぎた。
それに比べて全身装甲のISはエネルギーが尽きることを知らないのか、ビームを連射しては
「……鈴、あとエネルギーはどれくらい残ってる?」
「180ってところね……」
燃費安定と触れ込みの《甲龍》でも残存エネルギーは少なかった。長期戦に向いている《甲龍》とはいえどこれ以上の戦闘はにエネルギーが足りない。
「――で、どうすんの?」
「逃げたけりゃ逃げてもいいぜ」
「誰が逃げるってのよ!! アタシはこれでも代表候補生よっ!!」
カチンッと一夏の挑戦的な発言にムカついた鈴は怒鳴った。2人で雨のようなビームを躱すと、ビームのせいでアリーナの地面が捲れ上がり砂埃が舞う。砂埃に紛れて砲撃を止めた全身装甲のISを見つめた一夏はポツリと漏らした。
「なぁ、鈴、あいつの動きなんつうか………機械じみていないか?」
『何言ってんのよ。ISは機械じゃない』
「そういうんじゃなくてだな…あれって………」
『本当に人が乗ってんのか? でしょー?』
「「!?」」
『ハロハロ一夏、リンリン。少し余裕出来たから回線傍受しちゃったー』
「そっちはどうなんだ?」
『半々。一応絶対的安全は保証出来ないけど扉のロックを解除して避難してるところはしてる。遮断シールドの解除ももう少しだろうから、そしたら教師陣を突入させられるよー』
「…オーケイ、流石は俺の兄だ」
『えへへー、それほどでもー』
「何ノロケてんのよ」
『リンリンに褒められたらもっと嬉しいけどねー』
「ッ!?」
ボンッ! と小さな爆発音と共に鈴の顔が茹で蛸みたいに真っ赤になった。相変わらず希空兄は天然だなぁと一夏は苦笑。
『で、さっきの一夏の推測だけど十中八九合ってるよ』
「……マジかよ…」
「ちょっとちょっと、アタシを仲間外れにしないでよ」
「ああ悪い。実はさ―――――あのIS、無人機なんじゃないかって思ってさ」
「は? 人が乗らなきゃISは動かな――」
そこまで言って鈴の言葉が不意に止まった。
「そういえばアレ、さっきからアタシ達が会話してるときってあんまり攻撃してこないわね。まるで興味があるみたいに聞いてるような………」
鈴は今までの戦闘での全身装甲のISの動きを振り返る。確かに会話をしているときに全身装甲(フル・スキン)のISの攻撃頻度は低下しているような………。
『君達が会話をしている時は動かない、もしくは砲撃を止めている。仮にあのISが独立のAIのようなもので動いているなら、ごくたまにAIには学習傾向があるものもあるから、君達の会話から学んでいるのかもしれないねー』
「……そんなこと有り得るの? そんな、ISの常識を根本から覆すようなことが………」
『事実は小説より奇なり、この世に有り得ないことなんてない』
「どうした?」
『………いや、なんでも無いよー』
心無しか向こう側で千冬の怒号が聞こえた気がするが……気のせいだろうか。
『確かに今公開されている世界の技術じゃ無理な領域かもしれない。というか無理。みんな第3世代の開発に手一杯だからねー。でも、一重に有り得ないとは言えないね、現物を目にしている僕達からすれば』
「……じゃあ、仮にあれが無人機だとしだら勝てるの?」
『多分ね』
「ああ」
鈴の問いかけに織斑兄弟はバラバラに肯定した。
「人が乗ってないなら容赦無く全力で攻撃しても大丈夫だしな」
『雪片弐型が持つ
「人聞き悪いなオイ!? って何の話だよ!?」
『んー……何でも無いよ。まぁ相手が生身の人間じゃないなら後は一夏の考えてる通りだよ………ハァ…』
「? どうした?」
何かに焦っているような。
何かを追い掛けているような。
「………希空兄?」
『何』
「…何やってんだ?」
『何って……どーもこーも無いよ、あの子ホンット足が早いん―――ザザザッ』
「え? 何言ってるの?」
『だから―――ザザザザザザザッ』
一夏と鈴は再三希空に呼び掛ける。だが
「どうしたんだ…?」
「……もしかして、またあの無人機の仕業じゃない? 妨害電波とか」
「そういうことか…! じゃあそろそろケリつけないとな……」
遂に2人のブレインたる希空との連絡も途絶えた。これ以上戦闘を長引かせる訳にはいかない。
鈴は苦い溜息を漏らして煙の中に映る無人機の影を睨んだ。
「零落白夜だなかんだか知らないけど…その攻撃自体が当たらないじゃない」
「次は当てる」
「ふぅ…言い切ったわね。じゃあそんなこと有り得ないけど、あれが無人機だと仮定して攻めましょうか」
「よし、じゃあ俺が合図したらアイツに向かって衝撃砲を撃ってくれ。最大威力で」
「いいけど当たらないわよ?」
「いいんだよ、当たらなくても。じゃあ早速―――」
と、一夏が合図をしようと口を開いたそのとき、
「一夏ぁ!」
アリーナのピットから、箒の叫びにも似た声が響いた。
「男なら…男なら! その程度の敵に勝てなくてなんとする!!」
必死に叫ぶ箒。叱咤激励されて一夏は『雪片弐型』を掴む手が震えていることに気付く。
カタカタと。
それはまるで、隠し切れない自分の怯えのようだった。
「(………ああ、)」
そうして、一夏は悟る。
自分は怖いのだと。
いくら無人機だろうと、いや無人機だからこそ通常の人間の倍は持つスペックによって自分が潰されてしまうかもしれないと、今更になって弱気になっていた。
「(ありがとな、箒)」
こんなに離れてるのに、箒にはバレちまうんだな、と一夏は弱気な気持ちを振り払うように『雪片弐型』を強く握り締めた。
[…………]
そこで、無人機の頭部に不規則に並んでいる剥き出しのセンサーレンズが箒を映す。巨大な右手にある砲口がゆっくりと箒に向けられた。
「箒! 逃げろ!!」
無人機の砲口に桃色の閃光が迸る。一夏が手を伸ばすが、この距離で間に合う筈が無い。
そして―――
――ガシャアアアアアアアン!!!!!!
「箒いいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
激しい音と共に、ピットが爆発した。
箒ちゃん死す…!! ファース党の方ごめんなさい(笑)
今回は場面切換が多くって読みにくかったかもしれませんね