IS <インフィニット・ストラトス> ヘカトンケイルの名を持つ者   作:一ノ原曲利

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実は両親には未だにハーメルンでも投稿もとい、小説の執筆を知られていません(ブログと勘違いしてるんですねわかります)
しかし「お前には人の心を動かす力なんてないから、小説家に成れるわけ無いじゃない」と爆弾発言
……否定が出来ないだけに結構考え込んだ……





第23話 希空 vs 無人機/ギガドリルブレイク

 

 

 箒は目の前の光景に眼を疑った。

 全身装甲(フル・スキン)のISからの砲撃を眼前にしていたが、その前に見慣れた後ろ姿が箒の前に立ち塞がり砲撃を()()()()()()()

 

「き……そ、ら……!?」

「まったくッ…ホントひやひやさせるよ箒ちゃんッ……!!」

 

 希空は焼け落ちたIS学園の制服から覗く、包帯に包まれていた筈の()()()()()を突き出しながら、肩越しに箒に向かって微笑んだ。

 

「その…腕はっ――!?」

「ごめんっ今はその話あとッ!! ―――ぐぅっ!!」

 

 受け止めていた灰色の左手が、少し押されていた。

 突き出した左手は不可視なエネルギーフィールドでも展開しているかのようにビームを打ち消す。だがその処理が追い付かないのか、希空は苦悶の表情だった。

 希空は喰い縛っていた口を解いて大きく息を吸い、

 

 

 

 

「――――さっさとやれェ一夏ああああああああああ!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 喉が潰れんばかりの大声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

「――――さっさとやれェ一夏ああああああああああ!!!!!!!!!!」

 

 聞いたことも無いような、希空の大声。それを聞いて箒は大丈夫だと一夏は察した。

 

「いっ、今の希空!?」

「速く撃て鈴っ!!」

「わかってるわよっ!! ………って、ちょっとバカ、アンタ何してんのよ!?」

「いいから撃て!!」

「ああもう!! どうなっても知らないわよ!」

 

 観念したのか、それとも馬鹿に見限りがついたのか、鈴は両腕を下げると肩を押しだすような格好で衝撃砲を構え、後部に力場展開翼の稼働を確認すると『龍砲』を撃った。

 

 ―ドンッッ!!!!

 

 衝撃砲が、一夏の背中を直撃する。シールドバリア貫通並のパワーを誇る『龍砲』の砲撃を受けて無事な筈も無く、背中から水面に叩き付けられたような激痛が一夏の全身に広がる。

 

「ぐっ……!! おおおおおおおおおお!!!!」

 

 衝撃砲のエネルギーが《白式》へと供給される。目の前のディスプレイのエネルギーグラフが90%を上回ると同時に《白式》全体からエネルギーが走り、『雪片弐型』の能力が発動した。

 

 ――零落白夜 使用可能――

 ―エネルギー転換率90%オーバー―

 

 バリア無効化攻撃【零落白夜】発動、白いエネルギー刃が『雪片弐型』から現れた。

 同時に『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』を作動。【零落白夜】を発動させた『雪片弐型』を構えて一直線に全身装甲のISに突っ込んだ。対して相手も片腕を振りかぶって殴りにかかる。

 だが一夏はそんな攻撃に脇目振ること無く、圧倒的なスピードで全身装甲のISに肉薄した。

 

「(俺は…千冬姉を、希空兄を、箒を、鈴を、関わる人全てを―――守る!!)」

 

 ―――斬!!!!

 

 必殺の一撃は全身装甲のISの右腕を切り落とした。だがそれだけに留まらず、バリア無効化攻撃による斬撃はアリーナの一部の遮断シールドさえも破壊した。

 人間で無いからか血液の変わりに夥しい量のオイルが噴出。だが人間で無いがゆえに痛みを感じるワケも無く、間髪入れずに全身装甲のISは残った左拳を一夏に叩き込む。

 

「ぐあっ!!」

 

 防御の体勢は愚か、受身を取ることも出来ず一夏は地面に叩き付けられた。そして再び目を開けた時には、眼前に熱源反応を察知。ゼロ距離でビームをぶち込む魂胆らしい。

 

「「一夏っ!」」

 

 箒と鈴の叫び。

 だが一夏はそんな状況の中でも極めて冷静だった。死を目前に諦めた訳では無い。彼女ならやってくれる、そう信じているから。

 

「……狙いは?」

 

 一夏は不敵な笑みを溢し、視線をずらして全身装甲のISの背後の観客席を見る。

 

『完璧ですわ!!』

 

 瞬間、【零落白夜】が切り裂いた遮断シールドから見慣れた青のBT兵器が飛来。いくつもの閃光が全身装甲のISを貫いた。

 

「セシリア!?」

「ナイスセッシリー……」

 

 砲撃が止んだからか、ビームの余波を受けていた希空達は満身創痍で瓦礫一杯のピットに転がっていた。

 

『アンタいつの間に!!』

「セシリア決めろ!!」

「了解ですわ!!」

 

 構えられた『スターライトmkⅢ』が青色のビームを放ち、それは全身装甲のISの中枢核を寸分違わず撃ち抜いた。

 撃ち抜かれた全身装甲のISはガシャンと音を立てて自らが作ったクレーターの最深部に倒れた。

 

『ギリギリのタイミングでしたわ』

「セシリアならやれると思っていたさ」

『な……と、当然ですわ!』

 

 ディスプレイのモニタに映っていたセシリアは顔を僅かに赤く染めてそっぽを向いた。その仕草が年齢分相応で、やけに可愛らしくて一夏は苦笑した。

 

「ふうっ、何にしてもこれでおわ―――――」

 

 ―――WARNING(警告)! 敵のIS再起動確認。ロックされています

 

『一夏! まだあいつ動いてる!!』

 

 悲鳴にも似た鈴の声。

 慌てて全身装甲のISの落下地点を視界に入れると、立ち上る土煙の奥で凶悪な五爪が覗いていた。そしてそれが拳を握り、砲口が桃色に輝く。

 この射角は不味い。仮に一夏が避ければ、後ろにまだ遮断シールドに閉じ込められている生徒達に間違い無く被害が及ぶ。

 

「うおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」

 

 躊躇いは無い。

 迷いも無い。

 【零落白夜】発動状態のまま、一夏は『雪片弐型』片手に光の奔流に突っ込んだ。

 

 ―――そこで、一夏の意識は途絶える。

 

 

 

 

 

 

 

 左腕が残った無人機のISが放ったビームが一夏を吹き飛ばす。アリーナの壁に衝突し気を失った一夏を見て、希空は呆然と立ち尽くしていた。

 

「一夏!! 一夏ああああああああああああ!!」

 

 傍らで幼なじみの箒が叫ぶ。だが希空の耳に、そんな声が届くことはなかった。

 

「一夏ぁ!! き、希空っ!! 一夏がっ……!!」

「………め……」

「希空!! ……希、空?」

「ごめん」

 

 希空は、だらりと項垂れた。まるで糸を切られた没人形(マリオネット)のように。

 無人機のISが放ったビームの影響で引きちぎられた制服なんかそっちのけ。

 自我を失った不死者(イモータル)のように、覚束無い足取りで無人機のISが半壊させたピットの出口へ向かう。

 

「……希空?」

 

 コツ、コツと希空の靴が破片を蹴る。そして、

 

 ―たんっ

 

 瓦礫が積み上げられた地へ、堕ちていった。

 

「――『百手機甲(ワンハンドレットガントレット)』」

 

 呼び出し(コール)した義手の2つが、宙を落下する希空の足元に展開した。

 希空の独自改造によるPICの機能を兼ね備えた義手は希空の足場となり、希空を乗せて翔ぶ。

 アリーナを覆う遮断シールドの辺りで止まると、空間投影ディスプレイを出して時計を見る。ディスプレイに映し出された銀時計の針がカチコチと音を鳴らし、短針と長針が12を指すと強制的にディスプレイが消えた。

 

「みんな、ありがとう」

 

 途端、アリーナを覆う遮断シールドに()()が生じた。限りなく透明に近い遮断シールドがオーロラの如く七色のグラデーションをうねらせて輝く。生じる波、うねる狭間に希空は機械の左手を叩き込んだ。

 

 ―バリィィィィィン…!

 

「「「!?」」」

[………]

 

 甲高い音に、箒、セシリア、鈴音は目を見開いた。

 唯一無人機のISは、無人が故に驚くことなくゆっくりと宙に浮かぶ希空を視界に捉える。

 

「なっ……希空!? なんでアイツいんの!?」

「遮断シールドは!? それに……希空さんのあの腕……!!」

「止めろ! 戻って来い希空!!」

 

 唐突な出来事に脳内処理が追い付かない。だが希空と無人機、そして気絶している一夏を除いて驚く皆を余所に、事態は動き出す。

 

「ごめん」

 

 そう呟いた希空は浮遊義手を走らせ、宙を並走する。

 無人機は残った左腕から大量のビームを希空へ放つ。流星のようなビームがアリーナの空を割いた。

 

「(見える)」

 

 希空には見えた。無人機が()()()()()()()()()を取るか。

 生身の左目が、脳へ直接情報を送る。希空はISのようにそのビームを、浮遊義手を出現させては飛び移り、最高速度で疾走した。

 

「速い……!!」

「希空さんはISを扱えないハズでは!?」

「いや……アレはISなんかじゃ無い……!!」

 

 鈴でさえ避けるのも精一杯だったビームを、希空は生身で空を駆け抜けて避ける。

 それも、アリーナの隅で気絶している一夏や空中にいるセシリア、鈴、閉じ込められている生徒達がいる観客席に当たらないよう上手く誘導して。

 

 ―ブオンッ

 

「(ここだ)」

 

 無人機の砲撃が大振りを見せた。義手の速度を速め、一瞬で無人機の背後へ回り込むと急接近。

 鋼鉄の左手が無人機の背中に()()()()触れた。

 パッと小さなキーボードが展開される。

 

[―――!!]

 

 接近に気付いた無人機が、砲撃を止めて希空目掛けて左腕を振り下ろした。

 

「ッ」

 

 希空は素早く体を捻り、右顔面を殴り飛ばそうとした狂気の魔手から逃れる。だが、腕の速さが一枚上手だったのか僅かに右側頭部を霞め、その風圧で地面に叩き付けられた。

 

「がっ!!」

「「希空!!」」

「希空さんっ!!」

『希空!! 何をやっている!? さっさとその場から離脱しろ!!』

 

 漸く通信システムが正常に作動したのか、アリーナ備え付けのマイクから千冬の怒鳴り声が響いた。

 その隙に希空は浮遊義手を操り無人機から抜け出し、アリーナの空へ飛び上がって停滞する。側頭部が、叩きつけられたせいで血濡れてしまっている。

 

「あーあ、もうシステムが回復しちゃったかー」

 

 希空は悪戯がばれた子供のような、軽い口調で言う。

 仕掛けた悪戯というのも、希空が箒を追い掛けるべくモニター室にあらかじめアリーナへの通信システムに障害を起こすウィルスをばらまいていたのだ。

 そして、希空が『百手機甲(ワンハンドレットガントレット)』を使った時を条件に、作動するようになっていた。

 

 それもこれも、千冬の言葉で心が揺らいでしまわないように。

 

 叩きつけられた衝撃によって、緩んだ右顔面の包帯が落ちていく。

 

「…なによ…アレ……!?」

「I…Sですの……?」

 

 露になった、希空の右目。

 そこに猫の引っ掻き傷があるはずも無く、灰色の歯車の瞳がゆっくり回っていた。

 流石にマズイ、と千冬は舌打ちしてマイクを引っ掴む。

 

『ッッッ!! お前のおかげでアリーナの遮断シールドシステムに障害が発生した!! そこを待機している教師陣に突入させれば鎮圧出来る!! だから生身のお前は早く退け!!』

「いやだ」

『なっ―――』

「千冬姉さん、男には…」

 

 ガチャリと無人機のISの左手の砲門がこちらを向く。

 同時に空中に展開した『百手機甲』を更に増やし、歯車の瞳で無人機をじろりと見下す。

 

「…やらなきゃならない時が、あるんだよ――!」

『!?』

 

 希空が咆哮する。

 同時に迫り来るビームを次々と躱し、複数の『百手機甲』を無人機へと放った。

 

[……!!]

 

 無人機は『百手機甲』を撃墜しようとビームを放ってはその巨大な腕を振るう。 

 だが希空はその『百手機甲』に乗って操作していた時点で回避に成功しているのだ。『百手機甲』のみの状態で迎撃される訳が無い。

 

「何よこの速度!? ハイパーセンサーが追い付くのがやっとじゃない!!」

「先ほどは希空さん自身が乗ってましたからあの速度でしたが…本体だけですとここまで…わたくしの『ブルー・ティアーズ』の限界速度を越えてますわ…!!」

「希空っ……!!」

 

 鈴、セシリア、箒は悟った。

 目の前で繰り広げられている激戦は、自分たちには遥か届かない領域なのだと。

 自分たちは、ただ指をくわえて見てるしか無いのだと。

 

「喰らえ」

[!!]

 

 無防備な無人機の背中に4つの拳を作った『百手機甲』が叩き込まれる。だがそれは無人機のシールドバリアーに阻まれ、決定打を与えるまでには至らなかった。

 

「(シールドバリアーの無効化範囲外だったか)」

 

 希空は小さく舌打ちし、迫り来るビームを避ける。

 ――シールドバリアーはよく万能と言われがちだが、希空独自の研究によりシールドバリアーの弱点とも言えることを発見した。

 現在シールドバリアーは絶対防御より更に上に重ねるようにして展開されている。しかし、IS操縦士同士の握手なんかを拒むようには作られていない。ちゃんと『防ぐべき攻撃』と『防ぐ必要の無い行為』を判別しているのだ。だから、ある程度近付いていればシールドバリアーは低確率ではあるが、無効化することが出来る。

 

「(……でもやっぱり()()のは強いか)」

「希空!!」

「んー?」

 

 ふと、隣に鈴が来た。かなり憤怒の形相になっている点が怖い。

 

「アンタ何やってんのよ!? バカなの!? 死ぬの!?」

「……『ルイスちゃんのセリフキタコレ』って、いつもの僕だったら言ってそうなんだけどね…いや死ぬ気はサラサラ無いけど」

「ISも持たない生身のアンタがISに立ち向かうって時点で自殺行為!! …っと!!」

 

 間髪入れずに放ってきたビームが2人の間を割く。希空も鈴も上手く躱し、再び空中で無人機を睨む。

 

「だから死ぬ気はサラサラ無いって……ほっ!」

「じゃあさっきからアンタ何やってんのよ? ……くっっ!!」

「まぁ見てなよリンリン、ちょっと遠くから」

 

 ―ガシッ

 

「へ?」

 

 鈴の両肩を掴む『百手機甲』。

 希空が指示すると鈴が何か言う間も無くセシリアがいるところへ飛ばされた。

 

「―き、希空ーッ!!」

「ごめんね」

 

 さぁ邪魔者はいなくなったな、と希空は1つのディスプレイを展開し、それに目を落とす。

 戦闘中に何をしてるんだと希空を見ていた全員が思った。その間にも、無人機の砲口が希空に狙いを付けて今にもビームを放とうとしている。

 だが、希空の口元がニヤリと歪んだ。

 

[………ッ!?]

 

 同時にガシャン、と音を立てて無人機は砲撃行動を止めた。間接に何かが詰まったみたいに止まり、動こうにも金属を擦り合わせるような音しか聞こえない。光輝いていた砲口も、次第に光が消えていく。

 

「ジャスト1分。いい夢見れた?」

 

 希空が見たディスプレイには、希空が放った対IS用ウィルスプログラムのナノマシンが機体伝導系のいくらかを掌握した知らせが届いていた。

 

「……何? 動きが止まった?」

「どういうことですの……?」

「………?」

 

 現状を把握出来た者は、ごく少数だった。

 

 

 

 

 

 

 

「無人機が止まった…?」

 

 総合管制室にいた山田先生は目を見開いてモニターに映る無人機を見ていた。それを見て千冬は苦々しい表情で口を開く。

 

「……アレは、以前希空が開発した『対IS用ウィルスプログラム』だ」

「ISのウィルスプログラム!? 何故そんな物を!?」

「奴の師匠……篠ノ乃束からの依頼だそうだ」

「………………え、」

「だから、ISの創始者篠ノ乃束からの依頼だ」

「…………えええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 吃驚した。

 仰天した。

 激震した。

 とにかく、山田先生には衝撃的事実だった。

 

()()篠ノ乃束ですか!?」

「どの篠ノ乃束かは分かりかねるが10割方山田先生の想像する通りだろう。日本に来る前にデコメールで送って来たそうだ」

「デコメールですか………ははぁなるほど、希空くんが何であんな若くして世界最高峰のIS整備士と言われるようになったかわかった気がします」

「いや、違う」

「えっ?」

 

 千冬はモニターに映る、笑顔の薄れた希空を睨む。

 

「……話が逸れてしまったな。希空のウィルスプログラムだが、恐らく無人機に触れた一瞬に付着させたのだろう」

「えっ、あの一瞬ですか?」

「そうだ」

 

 あの一瞬。

 次の瞬間、風圧で頭を叩きつけられる直前。

 

「あのナノマシンはまだ開発途中らしくてな、遠距離からの散布は周囲のIS関係無しに侵食するらしい」

「スゴいもの作りますね………でも、何で篠ノ乃博士はそんなモノを………えっ!?」

「どうした」

 

 思案顔になって唸っていた山田先生がいきなりモニターを食い入るように見つめて、流石の千冬も驚いた。山田先生は身体中を震わせて、歯をガチャガチャ鳴らしている。顔なんか真っ青だ。

 

「そんなっ……無人機がっ……!?」

「………!?」

 

 千冬もすぐ現状を把握し、乱雑にマイクを引っ掴む。そして叫んだ。

 

「逃げろ希空!! 無人機はまだ起動停止していない!!」

 

 希空のウィルスを喰らったハズの無人機が、再び動き出していた。

 

 

 

 

 

 

 

『逃げろ希空!! 無人機はまだ起動停止していない!!』

 

 希空には千冬の声がハッキリと聞こえていた。

 だが聞こえていた()()で、特に何のアクションを起こす訳でも無い。ただ、ゆっくりと鋼鉄の左手を前に突き出す。

 

「(わかってた。ISに乗った人間でも、アレは倒せないことくらい)」

 

 希空は一夏と鈴を信用し、信頼し、任せた。だがその判断ミスの結果が、今アリーナの隅で気絶している一夏。

 

「(わかってた。生身の僕なんかが無人機に敵わないことくらい)」

 

 ISを使っていた鈴や一夏ですらボロボロな有り様。いくらISに関する知識があったって、世界最高峰の整備師と謳われたって、所詮ISを前には無力だと。

 

「(わかってた。僕が作ったウィルスプログラムが()()()()くらい)」

 

 ―これは、少し事情が異なる。

 希空が扱う『百手機甲』は基本的に希空の脳波をキャッチして動く。

 脳から伝達された情報を希空の義眼――もとい、『天目一箇(あめのまひとつ)』から発信される仕組みになっているのだ。

 簡単に言えば、希空は右手50機左手50機、()()()()()()()50人分の動作を脳内で一気に演算している。

 それは『対IS用ウィルスプログラム』のナノマシンも同じで、ナノマシンから得た情報を受信し構造解析をし如何にすれば効果的にウィルス抽出、システムクラックが出来るかを演算し、脳波で再び指示している。

 常人ならば脳を焼き切られるような地獄の痛み。それを希空はやってのけていた。

 だがやはり全てを同時進行して並列演算していたからか、頭がガンガン痛む。

 オマケに()()1()()の演算も行っていたから、希空は既に心身共に限界を迎えていた。

 

「――時間だ」

 

 希空は小さく呟くと、左手に力を込める。キイィィィンと甲高い高周波の音がアリーナを支配する。

 量子化されていた()()が光の結晶に包まれて、姿を現す。

 

「(回避行動も、ウィルスプログラムも、全てはコレのダウンロードの為)」

 

 慣れない座標だからね、と希空は呟いた。呼び出し(コール)された武器が展開され、長く巨大な砲身が晒される。

 カラーリングはグリーン。

 前に直方体に長く、菱形の角を削ぎ落としたような砲口。

 前後6mにも達する大砲は、もはやミサイル砲に等しい。

 姿形こそ異なるが、大砲から発せられる威圧感は独国のドーラ列車砲のような巨大さを感じさせる。

 

 

 

 

「――『強制(コンパルション)武装横領(アームズインターセプト)』」

 

 

 

 

 

 

 

 北アメリカ大陸北西部。

 第十六国防戦略拠点。通称『地図にない基地(イレイズド)』。

 基地内部では、軍人達が慌ただしく走っていた。通信部から緊急放送が届く。

 

『緊急事態発生! 緊急事態発生! 至急第三装備庫へ! 繰り返す! 緊急事態発―――』

 

「……なぁに? このやかましい放送は」

「なんか装備庫に収納されていた大砲が丸ごと無くなったらしいぜ?」

 

 金髪の女性が鬱陶しげに呟いた。

 男勝りな話し方をする女性はカラカラ笑い、展開された虎模様(タイガー・ストライブ)のISを撫でる。

 

「丸ごと? 一体何が無くなったのかしらねイーリ」

「作業員の話を聞くに、少し前に貰った『ハープーンSSM』の改良型が消えたみたいだな、ナタル」

「『ハープーンSSM』? それって確か………」

 

 と金髪の女性ナターシャ・ファイルスは顎に手を当てて首を傾げる。

 

「(確か…一年くらい前に来た…)」

 

 右顔面に包帯を巻いた少年の姿が脳裏に浮かんで来た。東洋人系の顔、黒髪は首元で外側にピョンと跳ねた後ろ髪。

 ガラガラと銀のキャリーバックを引き摺って、隠れもせず真っ正面からここに乗り込んで来た不思議な少年。

 別名『ヘカトンケイル』。

 

「キソラがくれたヤツじゃない」

「ああそうだ。『対IS用推進式削岩弾』としてな」

「あれ当たれば凄いわよね。シールドバリアーの絶対破壊、使い勝手によればISに十分対抗しうるわ」

「当たれば、な。その為には複数の条件をクリアしなけりゃならねぇ」

「それでも凄いわ。もしかしたらいつか、生身の人間がISを撃墜するなんてこともあるかもしれないわよ?」

「流石にそりゃねぇだろ……言い過ぎだぜ。……つか、ありゃあ絶対対IS兵器じゃねぇよ。ISごと人殺すわ」

「………もしかしたら」

「あん?」

「もしかしたら、いつか無人のISが出現するのかも………その為の抑止力……?」

「はっ。そりゃ考え過ぎだ。現代にISの遠隔操作(リモートコントロール)独立駆動(スタンドアローン)は確立した技術じゃ無ぇ。早計だな」

「キソラは結構聡いわよ?」

「……やたらキソラに肩持つじゃねぇか。ああそーいやキソラからお手製の武器貰ったんだっけか」

 

 と、イーリ――イーリス・コーリングはちらりとISの武器が収納されている倉庫を見遣る。その向こうには機体用のハンガーに安置された巨大な鎚のようなものが固定されていた。鎚――というよりも、棍とでも言うべきだろうか。

 現存している鉱物でも引き出せるかわからないような、流線的な深い銀の光沢を放ち、持ち手から伸びる芯を中心に鍔から生えた六つのギザギザな柱が囲んでいる。わかりやすく言えば、傘の骨のイメージするだろう。

 

「『銀の戦棍《シルバー・メイス》』。私の翼《銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)》の追加装備。まだ試作段階だけど、調整次第では最高の武器に成り得るわ。近距離(ショートレンジ)武装でありながら全距離(オールレンジ)武装だなんて」

「くぁ~ナタルはいいよな愛しのキソラサマに武器作って貰えて」

「い、愛しって何よ!? 別にキソラとはそんな間柄じゃ―――」

「こっちの《ファング・クエイク》の専用追加装備も作って欲しかったぜまったく……」

「………からかったわね」

「おぉ怖ェ怖ェ。ナタルってキソラの話になるとすぐムキに―――」

「イーリ、今から模擬戦しましょう? もちろん本気で」

「いやぁナタルの本気ってマジで手加減な―――ってうぉあああああ!? いきなりビーム飛ばすなよ!? ここ格納庫だぞ!?」

「問答無用よ」

「イイ笑顔で言ってんじゃねぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ハープーンSSM。

 米海軍の対艦誘導弾。

 射程はおよそ90km、艦艇や航空機、装甲車や戦車など、多岐に渡り装備が可能。そして日本の自衛隊はそれを災害救助用兵器に改造した。地盤沈下、瓦礫、そういった『崩れやすい場所』に閉じ込められた人々を救出する為に作られたものだ。

 

 ―――ハイパーセンサー『天目一箇(アメノマヒトツ)』リンクシステムスタンバイ―――

 

 希空はそれを独自に改造し、『対IS用推進式削岩弾』として米軍に秘密裏に提供した。

 

 ―――対IS兵器『螺旋塊弾《ギガドリルブレイク》』とリンク完了

 ターゲットサークルを『天目一箇』に委譲します―――

 

 右目の義眼『天目一箇』の歯車のリングが回り出した。複数のリングはゆっくりと視界の中央でこちらに砲口を向ける無人機を捉える。

 

 ―――ターゲットロックオン完了―――

 

 3つのリングが中央で1つに重なり、ターゲットを捉えた。それを確認した希空は小さく息を吸い、引き金を引く。

 

 ―ドオォォン!!

 

 アリーナごと振動させるような轟音と共に、『螺旋塊弾』が放たれた。グリーンの大砲から放たれた2m程の長い弾身は一直線に無人機へ向かう。無人機は体内に犯されているウィルスに最後の抵抗を見せ、左手の砲口からビームを放った。

 

 ―ッパァン

 

 弾頭がビームと接触。

 しかし希空の『螺旋塊弾』は速度を緩めること無く突き進んだ。

 

[ッ………!!]

 

 ―ブァッ!!

 

 ビームの威力が上がった。無人機は今持てる全てのエネルギーを注ぎ込み、目の前に迫り来る弾を消す。

 すると、ボンッと小さな爆発音がして弾身が破裂した。

 

 

 

 

 

 

「やばっ…!! これじゃ希空に……!!」

「希空さんっ!!」

 

 上空にいた鈴とセシリアは推進機(スラスター)を吹かせ希空の元へ向かおうとする。だが、

 

「ウソッ!? 何で遮断シールドが再展開されてるのよ!?」

「まさか…あのISが再びアリーナのシステムに干渉して……!?」

 

 これで事実上、アリーナにいるのは気絶した一夏、希空、無人機のみとなる。僅かな時間だけでも突入出来といたのに、事を迅速に運べない教師陣に対し鈴はイラついていた。

 セシリアもセシリアで、不用意に『ブルー・ティアーズ』を回収していなければ援護出来たかもしれない、と自分の愚かさに歯噛みした。

 が、そこに―――

 

「………っどいてっ!!」

「「!?」」

 

 2人の背後に聞き覚えの無い、静かな怒声が走った。2人は反射的にその場を離れたが、その2人の頬を掠めるように飛んだ()()がいきなり爆炎を巻き起こした。

 そろーりと2人が背後を見ると、爆炎の向こうで無傷な遮断シールドが展開されていた。

 

「………ダメ…か…!」

「ちょ!? アンタいきなり現れて何すんのよ!? もうちょいで死ぬところだったじゃな……って、アンタ…誰?」

「貴女は一体……?」

 

 セシリアは不思議そうに出会い頭にミサイルをぶっ放して来た灰銀のISを見つめる。

 バイザーのような形をしたハイパーセンサーをつけた水色の少女は近接武器である対複合装甲用の超振動薙刀『蜻蛉(かげろう)』を振り被りながら、告げた。

 

「……日本代表候補生……1年4組のクラス代表の………更識、簪」

 

 ヒュンッと、風を切り裂く音と共にその刃先が遮断シールドに衝突した。バチバチッ!! という音とまるでチェーンソーが発するような音を響かせて遮断シールドを切り裂く。

 

「…なっ!? なんですのこの音はっ……!?」

「うわっ…耳が痛いっ…!!

(…コイツが、希空が言ってた4組のクラス代表……!?)」

 

 希空が生み出した『ビブラート機構』内臓型の『蜻蛉(かげろう)』が発する超音波は周囲に多大な影響を与える。そのせいで措置を取ってない2人の耳は張り裂けそうな痛みが襲った。

 それほどの機能を持った『蜻蛉(かげろう)』ならば…と簪は更に押し込めようとするが、

 

「!? っくッ……!!」

 

 バチィィィン…!! と音を響かせて、弾かれたように『蜻蛉(かげろう)』を引いた。以前、遮断シールドは無傷なままだ。

 今のは簪が諦めて止めた訳では無い。今になって、遮断シールドの向こう側にいる希空の姿に驚いた訳でも無い。こんな窮地の中で威風堂々と立ち、自信満々の表情でいる希空の姿を見て、思わず『蜻蛉(かげろう)』を押し込める力が緩んでしまったのだ。

 

「これでも傷1つつかないだなんて……レベルMaxに設定されてるんじゃないの!?」

「砲撃を一点に集中させれて突破口を…!!」

「………大丈夫」

「……っ!?」

「えっ…?」

 

 ぼそりと呟いた簪の言葉に、2人は耳を疑った。特に鈴は息を詰まらせたような、苦しい表情を浮かべている。

 

「……織斑君なら…大丈夫……」

 

 

 

 

 

 

 希空にとって、弾身が破壊されるのは予測済みだった。むしろそれくらいの被害無しに無人機は破壊出来ないだろうと踏んでいた。

 

「それくらいの熱量じゃ()()は壊れないよ?」

 

 弾身が破裂して立ち込めた土煙の中から新たな弾が飛び出す。

 ―実は破壊された弾は『螺旋塊弾』の外装部分であって、本来の長距離弾としての役割の為に外装部分と内装部分と2つに分けて推進機(スラスター)が備え付けられている。

 煙から飛び出した弾丸はドリルそのもの。

 螺旋状に作られた弾丸の至るところに鋭利な突起があり、それがより一層凶悪に見せていた。

 弾身は外装部分より一回り小さく1m程度。弾身の後ろ側にあるスラスターには反り返った3つの鍵爪が煌めく。

 

[!?]

 

 無人機は土煙から出てきた新たな弾丸に反応し再び砲口を構える。だがそれよりも先に『螺旋塊弾』が無人機に命中した。

 

 ―ギギギギギギギギギギッッッ!!!!

 

 勿論、シールドバリアーを突き破って。

 

[―――!!]

 

 ズドンッと大きな音を立てて『螺旋塊弾』の弾頭は無人機の左胸辺りに突き刺さった。

 

 ―ヒュン…ガキンッ!!

 

 すると推進機(スラスター)に沿って付いていた3つの鍵爪が振り下ろされ、弾身を無人機にがっちりと固定する。固定動作が済んだらあとは本来の『削岩弾』としての使命を果たすべく、高速回転した。

 

 ―ギュリリリリリリリリリリリリリリリッッッ!!!!

 

 スラスターを吹かしながら高速回転する『螺旋塊弾』。無人機は踏ん張るも、既にエネルギーは少ないのか、はたまた希空のウィルスプログラムのせいなのか、地面からふわりと離れると一瞬にしてアリーナの壁に激突した。『螺旋塊弾』はアリーナの壁に磔にして尚も無人機を抉り続ける。だが次第に出力が切れたのか、ゆっくり回転を止めると爆発した。

 

 ―ボンッ!!

 

 もくもくと黒煙が上がり、無人機は完全に沈黙。

 希空の『天目一箇』も完全な停止を確認していた。

 ずるり、と音を立ててアリーナの壁から落ち、大きな音と共に地に伏した。

 

「―――ごめん」

 

 『螺旋塊弾』の大砲を収納(クローズ)した希空は、地に伏し沈黙する無人機を見てそう告げ、希空も無人機のようにばったりと倒れた。

 ――そこで、希空の意識はふつりと途切れる。

 

 

 

 

 

 




今回は戦闘シーンを一つに纏めました
次は後日談、今回のちょっとした事情の解説です
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