IS <インフィニット・ストラトス> ヘカトンケイルの名を持つ者   作:一ノ原曲利

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閑話1 希空の禁断症状

 

「(……あぁ)」

 

 保健室で、希空は喘いでいた。その顔に笑顔などあるはずも無く、珍しく、かなり珍しく苦痛に歪んでいた。

 

「(……あぎっ…がぁッ……ああああああ……うぐぅっ……………!!)」

 

 生理的な嫌悪感が全身を駆け巡る。脳髄は腐ったように爛れ、身体が焼かれたように痛む。感覚の無い左腕にも伝播している。

 

「(うあ゛っ……あ、あ、あ、あぐああぁぁッ!!)」

 

 苦しみが血流を流れるように浸透する。吐き気がした。だが最近点滴で済ませているから胃はからっぽなはず。ならば吐き出されるのは胃液か。確かに口元からは酸の香りがする。

 ………気持ち悪い。

 

「(……嗚呼、ヤバい………これはヤバい、ヤバすぎる……もうムリ……!!)」

 

 汗からくる不快感なんてもはや気にならない。己の内から呼び掛けられる衝動が、希空に訴え掛ける。

 ハラワタが痛い。今なら切腹したところで大した痛みも感じることは無いだろう。そんな自信がある。

 関節が逆に折れてもいい。内臓全てを潰しても構わない。そんな痛みと引き換えにしてもまだ足りない。

 何でもしよう、この願いが叶うなら何だってしよう。

 だから、だから―――

 

 

 

 

 

 

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああいえすに触らせてええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」

「希空兄五月蝿い」

 

 どうか、一瞬でもいいからISに触らせてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「禁断症状?」

「ああぁぁあぁそうだよー…禁断症状。今になって死神リュークの気持ち、わかった気がするー…」

 

 部分展開してもらった鈴のISに触りながらやっと落ち着いた希空が、げっそりした顔で言う。

 先刻、絶叫を聞き付けて激怒した千冬に泣く泣く事情を話し、あまりにもの馬鹿らしさと見たことの無い希空の必死さに呆れた結果、保健室内での部分展開を許可してもらったのである。

 希空はリクライニング機能で身体を起こし、目の前に差し出された鈴のIS(右手)に触れている。だいぶ顔色も良くなった。 現在保健室には一夏と希空、鈴の他に箒、セシリア、簪、千冬、真弥が同席していた。

 

「その……つまり、希空くんは一定期間ISに触れて無いと苦しむって訳ですか?」

「…認めたくもないがそうらしいな」

「呆れてものが言えない……」

「な、難儀な体質ですわね……」

「いいさ…いいさいいさ何と言われようとも! 僕はISが大好きなんだよー! 文句あるなら言ってみろー!!」

「耳元で五月蝿いわね…」

 

 ひょい、と鈴が耳を抑えるべく部分展開を解いた。途端、

 

「があああああああぁぁぁajmtpgadzjhadjgtp0WD,m.amgptbdokulfovzisr•\(∴)/!!!!!!」

「あーもううっさいわねぇ!!」

 

 絶叫が現代のヘッダで表せない。

 呆れた鈴は再び部分展開して希空に触れさせようとしたが、その前に希空の自棄の如き絶叫が止んだ。ふと見れば黒色の部分展開したISが希空に触れていたのだ。

 正体は《黒鋼(くろがね)》ということは―――

 

「あー…癒される、幸せ。もう死んでもいいやー」

「………死んだら、ダメ…」

 

 更識 簪その人である。

 希空の右側、つまり窓側のベッドの端に腰掛け、部分展開した左手を差し出している状態。

 

「ちょ、アンタ何やってんのよ!?」

「……鈴が…油断してたから希空が苦しんだ…」

「ムッ」

 

 かちん、鈴の頭の中で何かがキレた。

 今、簪は何と言った? 『織斑くん』ではなく、『希空』と……しかも、呼び捨て。

 

「あら、その発言は頂けないわね」

「……希空から…プレゼントすら貰ってないのに……」

「なっ…!? ……ふ、ふんっ、そう言えばアタシの髪留め、希空がちっちゃい頃くれたのよねぇ〜」

「ッッ…! ………《黒鋼》は…希空お手製…つまり手作り……」

 

 つーんとしたまま若干勝ち誇ったような表情で、しかし真っ赤に染めて一言。

 

「……あ、愛が、籠ってる……」

 

 ―ブチッ。

 

「キイィイィィィイィイィィィィィィ―!!!!」

「わ、リンリンがブチキレたー」

「と、止めなくていいんですか織斑先生」

「山田先生、相手にするだけ無駄だ。このままこの馬鹿共は放置しておけ、幸い今日は午前放課だからな」

「じゃ、じゃあ一夏! また来るからな!」

「そうですわ! えぇとー……静かになったらまた…」

「オ、オイちょっと待ってくれ! この騒動誰も片付け無いのか!?」

「今すぐアリーナに来なさい!! 格の違いってやつを見せてやるわ!!」

「…ふふふ……もし鈴が希空が作った《黒鋼》壊したら……」

「ひ、卑怯者ー!!!!」

「ああああああいえすううぅぅぅadgtpjtW0/jtwйpmdpjbgdmwtjaeMG%Jg•\(∴)/awgжdAwgajwpыoadч•┏(┏^O^)┓tw!!!!!!」

「あーっ、もう眠らせてくれよォォォォ!!!!」

 

 この事件において一番の被害者である一夏は、この後約4時間後にようやく眠りにつけたそうな。

 

 

 

 

 

 

 

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