IS <インフィニット・ストラトス> ヘカトンケイルの名を持つ者 作:一ノ原曲利
取り敢えず寮備え付けの電話で今年担当する1年1組のクラスのSHRを、副担任である山田真耶にその旨を伝えて電話を切った。受話器を置いた千冬は深く、面倒臭そうに溜息をつき、テーブルで持ってきた(らしい)ポテチを箸で頬張る希空を睨む。
というか、箸でポテチを食べる辺りニート臭がしてならない。
「いやーごめんね事前に言って無くてー」
「当たり前だ馬鹿者」
まったく、とわかりやすい様に再び溜息をついた千冬は眼下で胡座をかいて寛ぐ希空を一瞥してテーブルの向かいに胡座をかく。
「一応一夏がIS学園に入学することが決まって、姉さんが担当する1組に割り込みで入れたんだけど、もしかして姉さん見てなかったりするー?」
「…生憎そういうのは極力見ない主義なのでな」
「とか言って、一夏が心配だからそのクラスの担任になったんでしょー? 卒業生とかの話を聞くに、過去例年は姉さん、最終学年を任されてるって言ってたよー」
「ぐっ……」
希空の情報ソースは的確だった。これには図星だったから唸るしか無い。
弟なのに何故かこういう論戦では負けてしまう。昔から希空の論戦では完敗だった。だから一夏共々暴政でなんとか黙らせていたが。図星を突かれた千冬は深く溜息を吐き、腕を組む。
「チッ」
「あ、今舌打ちした」
「五月蝿い。それより……そっちはどうなんだ」
千冬はちらりと希空の包帯だらけな左腕と右目を睨む。それはかつての千冬の罪そのもの。悔やんでも悔やみ切れない、暗闇の過去。だが今は見事にそれを埋めるようにそこに在る。
千冬の視線に希空はおどけて肩を揺らした。
「……まぁ、別段問題は無いよ。逆に“コレ”のお陰で今の僕があるって言ってもいい訳だし」
「……すまない…私があの時ッ」
「はいすとっぷ」
テーブルに乗り出した希空はテーブル越しに千冬の口を右手人差し指で封じた。
「僕は姉さんを恨んじゃいないよ。むしろ“コレ”で済んで助かったと思ってる。もし姉さんがあと少しでも遅かったら、僕や一夏はこの世にいなかったかもしれないからねー」
あっけらかんと軽快に笑いながら希空は千冬の頭を撫でた。絡み付く黒髪が心地好い。
「……一応私はお前の姉だぞ?」
「だって姉さん、泣きそうだったじゃん」
「泣いてはいない」
「悔し涙流しそうだったじゃん」
「泣いてない!」
「で、話は変わるけど」
「勝手に話を変えるな!!」
ごすっと希空の頭に千冬のチョップが炸裂。テーブルに乗り出していた希空は更にテーブルで顔面強打した。二倍ダメージを受けた希空はあまりの痛さに蛇のようにのたうち回った。だがこれほど動けるとなると痛いのかどうか怪しい。
「痛たたた……愛の篭ったムチだ……まぁさっき姉さんのセクシーなワイシャツ姿拝めたからアメとム」
「首を刎ねられたいか?」
「冗談です」
刀こそ持ってなかったが手刀を構える千冬の気迫は本物だったという。どこの虚刀流だそれは。いや若しくは真庭忍法・断罪円か相生忍法・不生不殺か。
相変わらずマイペースな弟に千冬は溜息をつく。
「さっきから千冬姉さん溜息ばっか吐いてー。あんま溜息つくと幸せ逃げるよー」
「大半はお前のせいだ」
「婚期遅れるよ」
「よし、そこに直れ」
「本当に冗談です」
Let'jumping DOGEZA!! orz=
今度はベッドの下から木刀を取り出して来た。今度は心王一鞘流か。
「ところで希空、お前も一夏同様にISを使えるようになったのか?」
「え、違うけどー?」
にこやかな笑顔で首を横に振る。姉の千冬に次いで男性である一夏がISを使えるようにはなったが、希空も同様に、とまではいかなかったらしい。
「じゃあ何でIS学園に来たんだ」
「IS整備師として入学だけど?」
「馬鹿者。IS学園にはISを使える者しか入学出来ん」
「それは――あれだよ、束さんのお弟子さんってことでさー」
「それでは通らんだろう」
「というのは建前でー、本当はみんなに会いたかった」
「………」
希空がIS整備師になると目指し束の弟子になってから、希空は一夏や千冬、箒と会うのが難しくなった。国際指名手配中の束と共に行動していれば各国が否応なしに狙って来る。
だがIS学園なら各国の手が届くことも無い不可侵条例がある。
「ま、そゆことでよろしく」
「ハァ……大体事情はわかった。そう言えば希空、制服は?」
「あるよー」
キャリーバックを開けると男性用IS学園の制服が入っていた。
いやおかしい。自発的強制入学しといて制服をちゃんと用意してるとは気前がいいが、どこから仕入れた?
「一夏の配達した時に予約個数増やしといて、配達時に掠め取った」
「金払え」
「えー」
「えーじゃない。取り敢えずさっさと着替えろ。もうSHRは始まっているぞ!」
「りょーかい」
「ああ、それと」
「?」
立ち上がった千冬は胡座をかく希空の頭にポンと頭を乗せ、
「おかえり、我が愚弟」
「…ただいま、姉さん」
IS学園廊下。
流石は国立、新築同然のように床が磨かれていて希空も驚いていた。
「希空…いや、織斑兄。学校では私は『千冬』では無く『織斑先生』と呼べ」
「え、何その冴えないネーミングセンス。一夏と重複してるんだし別に」
「だから織斑『兄』と付けたんだ。一夏のことは織斑弟だ」
「面倒臭いよー」
「従え」
ぺしんと出席簿で殴られた。
「…いえっさー織斑先生」
「よし」
千冬も満足したらしく出席簿を引いた。暫くすると1年1組に着いたが何を聞いたのか千冬は扉を開ける直前でぴくりと硬直した。
「どーかしたー?」
「シッ、静かに」
口に人差し指。静かにしろということか。千冬の指示に従い閉口し扉に聞き耳を立てる。
『え、えっとそれじゃあ織斑くん、自己紹介を………』
『あ、はい』
数年越しに扉越しから聞いた弟の声。最後に会った頃より声変わりで低くなってて、自分達も年を取ったなぁと実感した。
『えー……えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします』
「…………」
「…………」
「……え、これだけー?」
「愚弟め………」
どれだけ間を開けても聞こえてくる声は無い。千冬は目頭を抑えて溜息をつきながら出席簿を強く握った。
『以上です』
―――ぷちっ。
希空の傍らで、何かが切れる音がした。
鬼教師千冬は勢い良く扉を開けるとあっという間に間合いを詰めて愚かな弟その1、一夏の脳天に出席簿を炸裂させた。
おぉ、なんと流麗な足運び。
「げぇっ、関羽!?」
「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」
更にもう一発。
どうやら鬼気溢れる我が姉君は我が弟君から見たら関羽らしい。……何の三国志ゲームやってたの?
「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」
「ああ、山田君。クラスの挨拶を押し付けてすまなかったな。少々トラブルがあった」
「トラブル……?」
真耶は首を傾げるが思い当たる原因はわからない。その間に千冬は壇上に上がり1年1組のクラスメイトもとい、今年担当する生徒達に向き直る。
「諸君、私が担任の織斑千冬だ。君たち新人を1年で使い物にする操縦者に育てるのが仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。出来ない者は出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠15歳を16歳までに鍛え抜くことだ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな」
「(僕は16歳から17歳だけどね)」
ご覧の通り花の16歳でーすって言ってもまだ誰もご覧になってないけど。しかし相変わらずきっぱりしてるなぁ、こういうの威風堂々って言うんだったっけー? と感慨にふけていると、
「キャ――――――! 千冬様!! 本物の千冬様よ!」
凄い慕われようだった。
でも自分も数年前は似たような状態――というか、千冬姉さんの魅力に引かれた1人だから下手に何か言えない。
「(姉さん、カリスマ性凄いもんなぁー)」
「ずっとファンでした!」
「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです!! 北九州から!」
「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しいです!」
「私、千冬お姉様にだったら死ねます!」
前・言・撤・回!
流石にここまでは心酔してなかった。
「(嫌ぁもうここまで来ると熱狂的……いやいや狂信的というべきなのかなー?)」
「………毎年、よくもこれだけの馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それとも何か? 私のクラスに馬鹿者を集中させているのか?」
「(いやー多分どのクラスもこんな反応だと思うけどー)」
何せ第1回モンド・グロッソの優勝者『ブリュンヒルデ』の肩書きを持つ千冬のことだ。女性からは本人知らずして幅広く慕われていることだろう。
言わば女性の憧れの的。
モテモテで無自覚なのは織斑家の血なのか、千冬も一夏もハーレム状態に陥ってもそれに本人達が気付くことは無い。
「(ま、その点僕は“そういうの”は大丈夫だけどねー)」
自分にそれは無いだろうと深く感心する希空。既に2人の家族である時点でそうであることは本人はまだ知らない。
「で? 挨拶も満足に出来んのか、お前は」
「いや、千冬姉、俺は――」
―パアンッ。
一見銃声にも似た乾いた破裂音だが、それは一夏の頭を出席簿で叩いた音。
「織斑先生と呼べ」
「……はい、織斑先生」
痛みにはぐうの音も出ずあえなく、千冬による暴政に手も足も出ない一夏。するとこのやり取りでクラスメイト達も、2人が兄弟であることを察したらしい。
「え……? 織斑くんって、あの千冬様の弟……?」
「それじゃあ、世界で唯一男で『IS』が使えるっていうのも、それが関係して………」
「ああっ、いいなあっ。代わってほしいなあっ」
「(僕は違うだけどねー。って最後のキミ、代わってどうするんだー)」
本当に代わってどうするんだろうか。果てしなく最後に叫んだ女子の目的が知れない。
「フン、まあいい。お前の尻拭いくらいコイツがやってのけるだろう。入れ」
無・駄・に・ハ・ー・ド・ル・上・げ・て・キ・タ・ー・!
「(何たかが自己紹介でハードル上げてるのかなー姉さん? あ、もしかしてコレ今朝の仕返しかなー?)」
麗しいサービスショットを見たくらいで恨まれるとは、何とも滑稽な。姉弟なんだし小さい頃は裸で一緒にお風呂入ってたんだからいいじゃないかー…て、あれ? それってよく聞くセリフだったりする?
しかし「出てこい」と言うようにこちらを一睨みしてきたので、希空は仕方無く出てくることにした。
扉を開け、そのまま一直線に教卓へ向かう。
―――さぁ、数年振りの青春の謳歌だ。
一歩、また一歩と少し緊張しながら教室を闊歩する。
正面に向き直れば影に隠れていた右目を覆う包帯が否応なしに生徒達の目に飛び込み、何人かが驚きの声を上げるが慣れているので無視。視界に幼なじみと弟の驚いた表情を見ながら、深く息を吸った。
「はじめまして、諸事情で遅刻してきた織斑希空です。僕自身はISを弟のようには操縦出来ませんが、IS整備師として実地研修の為IS学園に入学することになりました。一応ISに関する知識はありますが、皆さんと平行して授業することになっています。それでは3年間、よろしくお願いします」
くるんくるーんと右手を振り振り。
「やっほー我が弟。ひっさしーぶりー」
「………希空兄、なのか?」
「そうだよー一夏のたった1人のお兄さんだよー」
驚愕に目を見開き訪ねる一夏に軽い口調で応えつつ、生徒達をチラリ盗み見。すると生徒達が口をぽかーんと開けて硬直していた。あぼーん?
「(あ、あれーもっと言わないと、ダメかなー?)えーっと好きな物はISと日本料理と酢豚。あと剣道とかかなー。見る方ね。得意な事はIS整備と射撃と家事。嫌いな物は雨と甘過ぎるもの、苦過ぎるもの。苦手なことは……なんだろー? 特にこれといったことは無いかなー。あ、因みにこの右目の包帯は昨日猫に引っ掻かれたから巻いただけだよー」
これだけ言っても教室内は沈黙。
流石に焦った希空は勢い良く首を左に60°旋回。ぎゅるるるるっ、シュバァッ!! 案の定千冬の出席簿が飛んできた。
「長い」
「すみません……みんな反応薄いから……」
「そうか?」
「えー?」
今度は首を右に60°旋回。ぎゅるるるるり。途端、
「「「「「きゃあああぁあぁあああああ!!!!」」」」」
「男子よ! 学園で2人目の男子がしかも同じ1組!!」
「それに織斑くんのお兄さん!! いやお兄様!!」
「一夏くんの方はカッコいい感じだけどお兄さんの方は何と無く和むわ〜!!」
「織斑希空って、世界的に有名なIS整備師じゃなかったっけ!?」
「確か渾名が……」
「「「「「『ヘカトンケイル』!!!!」」」」」
「(出たー…)」
出たよ出ましたよヘカトンケイル。と言うか何故IS学園の生徒がそれを御存知なんでせうか。
束姉さんと全国津々浦々回ってたり、国と国とを跨いでIS弄ってたり整備したりして、ついた渾名がヘカトンケイル。
ギリシャ神話の『天』を意味するウラノスと『大地』を意味するガイアの息子。50の頭と100の腕を持ってて意味はそのまんま『
なぜ『
断言しよう。名付けた人は絶対厨二病だ。
電源の切れた携帯電話に話し掛けたり、四六時中白衣着たり、「フゥハハハー!!」とか言って笑うヤツに見られたのだ。そうに違いない。
そして多分ソイツはタイムマシンとか偶然作りそうな気がする。
「静かにしろ。さあ、SHRは終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えて貰う。その後実習だが、基本動作は半月で体に染み込ませろ。いいか、いいなら返事をしろ。よくなくても返事をしろ、私の言葉には返事をしろ」
「(暴政を敷いたー…)」
「何か
「いいえー。あとフツーに呼んで下さいー」
千冬さんが悪ノリしてきました。嘲笑する希空に鼻を鳴らすと、山田先生に交代して1限目がすぐにスタートする。
用意された一夏の後ろの席に座った希空は「また後でねー」と一夏に言って授業教材を出す。ふと窓側を振り返えると幼なじみの箒が未だに驚いた顔を浮かべていた。そんな箒に笑顔を浮かべてくるんくるーんと右手を振ると一瞬赤面して直ぐ俯く。
箒の秘密を知る人が1人、織斑希空は照れ屋な幼なじみとは数年来の再会だが、変わらないその性格に笑いながらIS基礎理論授業に耳を傾けた。
やはりと言うべきか、目新しい修正は(気がつくひとはわかりますが)していません
これからなんとか最新話までなんとか挙げていこうと思います
……予約投稿機能付いたんDA…