IS <インフィニット・ストラトス> ヘカトンケイルの名を持つ者   作:一ノ原曲利

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今回は二つを一つに纏めましたのでちょっと長い
あと、やっぱりクセなのか場面切換が急すぎて読者に不快感与えてるかもと反省


閑話2 織斑希空と秘密の研究室(ラボ)

 

「そうだ、研究室(ラボ)に行こう」

「「は?」」

 

 相も変わらず鈴が部分展開しているIS《甲龍(こうりゅう)》にペタペタ触れながら、簪から切って貰った林檎を頬張りつつ言った。

 現在保健室にいる筈の一夏はリハビリで箒とセシリアに連れ去られている。御愁傷様。つまり、今行けば希空と二人っきりになれる絶好のチャンスと言わんばかりに保健室に駆け込んだ2人はお互い顔を見合わせて、

 

「「(ちっ)」」

 

 と心の中で舌打ちしたそうな。

 しかしタッチの差なのか身体能力の差なのか一足速かった鈴は現在希空にISを触らせている。それを激しく悔しがった簪は、

 

「病院のシチュエーションってよく付き添いの子が林檎剥いてくれるよね〜」

 

 との希空の呟きに反応して直ぐ様購買に駆け込み林檎二つ購入、寮長たる千冬から包丁を借りて―――現在に至る。

 希空は生身の右手でしゃりしゃりと兎の形に切られた林檎を美味しそうに食べながら、某CMとなんら変わらない口調でそう言った。

 

「そうだ、研究室(ラボ)に行こう」

「いや、2回も同じこと言わなくてもいいんだけどさ……」

「大切なことだから2回言いましたー」

「…研究室(ラボ)って……希空の…?」

 

 鈴と簪は希空にナチュラルに林檎をあーんして貰いながら首を傾げた。口の中で林檎の甘い果汁が充満する。

 

「そだよ、僕専用の研究室(ラボ)。束姉さんがくれたんだけどねー、後から僕好みに改良したんだー」

「へぇ…そう言えば希空って束さんの弟子なのよね」

「教え子って言ってよー」

 

 なにその師弟関係ー、と笑いながら希空はも1つとばかりに林檎を頬張る。因みに今の状況、フォークは2つなのだが希空にはなぜか強制的に2つ使うのを2人に強要されていた。理由は本人にはさっぱりわからないが、2人がご満悦なのだからいいだろう。うん。

 

「……希空って、束さんのことも姉さんって呼ぶんだ………」

「うん。確かに血は繋がってないけど、千冬姉さんとおんなじくらい世話になったからねーいろいろ」

 

 これとかこれとか? と希空は自分の右目と左腕、そして鈴と簪のISを指す。

 篠ノ乃束。

 彼女は篠ノ之箒の姉であり、この世にISを広めた張本人でもある。1人でISの基礎理論を考案、実証し、計476のISのコアを造った自他共に認める天才科学者。ISを開発したことから政府の監視下に置かれていたが、3年前に突如行方をくらませる。

 3年前。

 そう、希空が右目と左腕を失ったのも3年前。ここに奇妙な符合が存在するが、まずそれはおいといても何ら問題は無いだろう。

 失踪後、全世界において唯一コアの製造方法を知っているから今現在も希空同様に各国から追われている。希空の場合は『誰よりも篠ノ乃束と共にいたならばコアを造れるのではないか』と勝手に推測された学者の宣言によって……以下略。

 

「じゃー、リンリンに簪ちゃんは僕の部屋行って、銀のキャリーバッグ持ってきてくんないー?」

「え、なんでよ?」

「これから行くからー」

「………? そんなすぐ行ける場所なの…?」

「うーん、その問いかけは難しいなぁー」

 

 なんて答えよっかー、と希空は賞味10秒ほど唸り、

 

 

「遠いって言ったら遠いけど、近いって言ったら近い」

 

 

 希空にしては、やたら抽象的な言い回しだった。

 

 

 

 

 

 

「はい、持ってきたわよー」

「……そこまで、重くなかった………」

「おおーう、サンキュー」

 

 2人掛かりで行くには軽かったというのが鈴と簪の感想だった。

 鈴も中国からIS学園までボストンバック1つで来れたにしてももう少し重かった。その上希空は鈴とは違い世界中を旅して来たのだ、本来こんなに軽いハズが無いのだが―――。

 

「勝手に開けちゃだめだよー」

 

 と簪共々注意を受けたので開けるのは憚られた。それに幼なじみたる鈴の経験が告げていた、コレを開けたらヤバいと。

 障らぬ神に祟り無し。

 

「じゃ、行こっか」

「ちょ、ちょっと待ってよ。私達まだ準備してないわよ?」

「それに……担任に公欠届け出して無い………」

「あー大丈夫大丈夫。すぐだから」

 

 すぐすぐ、と暢気に言う希空を見て2人は揃って肩を竦めた。どうやら、実際行かなければわからないようだ。希空が意気揚々とキャリーバッグを弄ると、

 

「じゃー行くよー」

「「へ?」」

「カモン、ドラッキー」

 

 ―パカッ!!

 

 途端、銀のキャリーバッグが弾かれたように開いてその漆黒の空間からぬっと怪獣が出て来た。

 いや、怪獣というのはあくまでも現物を目の当たりにした2人の感想だ。実際は日本に生息しているあの―――。

 

[ばくんっ]

 

 そのまま、2人は何の反応も出来ずソレに喰われた。ソレは続けて希空をも呑み込む。しかも貪欲かつ俊敏な動きで。頭から、がぶりと。

 食事(しょくじ)を終えたソレはゴクンと喉を鳴らし大きく欠伸をする。すると、

 

「あー……疲れた。やっぱ体動かすのキツいなぁ」

「ま、まぁ仕方ことですわ。昨日までまだ全身の痛みが残っていたんですもの」

「確かにな……ま、明日から剣道するぞ剣道。鈍った身体をほぐすには一番だ」

「ハハハ、流石にそれは勘弁して………」

[………]

 

 目が、合った。

 目が合ってしまった。

 丁度箒、セシリアと共にランニングのリハビリから帰って来て我先にと保健室のドアを開けた一夏と、ソレの目が合ってしまった。

 

 ―――ばたんっ。

 

「?」

「なんだ一夏、保健室に入らないのか?」

「……なんか今……特大サイズの脊索動物門脊椎動物亜門両生綱有尾目サンショウウオ上科オオサンショウウオ科オオサンショウウオ属的なモノがいた気が…………」

「「…………は?」」

「気、気のせいだよなー。まさかそんなモノがいるわけ無い。そうそうあれは錯覚錯覚超錯覚。そうだよな、そうだよなー!! いいかこれは振りじゃないぞ誰が言っても振りなんんかじゃないから出てくるなよ!!」

 

 ―――ガチャッ!!

 

 半ばやけくそ気味に開けた。これで希空の奇抜な発明品にでも殺されたら一生呪ってやると、そう心に決めて。だが実際は、

 

「………あれ?」

「ん? 希空がいないな」

「あら、鈴さんに簪さんもおりませんわ」

 

 人気の無い、伽藍とした保健室だった。ただ1つ違うのは、希空のベッドの傍らに銀のキャリーバッグが無造作に転がっていることだった。

 

 

 

 

 

 

 ──ゴバァ。

 

「ぐへぇあ」

「あたっ」

「きゃっ……!」

 

 奇妙な呻き声を下敷きに鈴、簪が地面に落ちた。 一瞬の浮遊感の後に堅い地面の感触を受けて2人は顔をしかめた。

 

「いたたたた……ここ何処よ?」

「……腰打った………」

 

 ──ザッ。

 

「「!?」」

 

 人影が現れ、2人は代表候補生持ち前の反射神経ですぐに身構えた。既に片手にはISの装甲を部分展開している。だが2人を待ち構えていたのは、

 

 

 

「「「「「「ようこそ! マルス繁嫁街『天国か地獄』番地へ―――!!!!」」」」」」

 

 

 

 そこにいたのは6人の女性。しかもナース服を身につけて、腕には『看護する課』と書かれた腕章がある。そしてその6人が6人、聴診器や体温計に包帯など様々な医療道具を持っていた。

 

「あらあら、なんと可愛らしい娘達なんでしょうか」

「特に目立った外傷は無さそうですわね」

「でしたら病気でしょうか? 新種のゾンビウィルス?」

「頭が痛いのかしら? それとも頭が悪いのかしら?」

「いいえ、きっともっと深刻な病ですわ」

「そう、例えば………」

 

 突然迫られてあたふたする2人を、ナース6名は舐めるように全身を隈無く診察する。そして最終的に、6人の視線はある一点に止まった。そう、主に首から下、腰から上辺りの一点に。

 

「「「「「「年齢の割に身体のある部分が成長しない難病!!」」」」」」

「やっかましいわー!!」

「…しゃーらっぷ……!」

 

 流石の2人も初対面相手に怒りが芽生えたらしい。背後に炎を従えた幻影を見せる2人はがるるる…と唸った。貧乳同盟は某呪われた道具達よりも固く締結されているようだ。

 

「……お〜い…」

「……希空?」

「さっさと姿見せなさいよ希空!! こんな失礼なコスプレ女達なんかを……っていうかまずここ何処よ!?」

「と…とりあえず、降りてよー……」

「「………?」」

 

 降りる? どこから?

 その疑問が頭に浮かんだ時、2人はふと足元の柔らかい感覚にハッとした。しかも声の発生元も足元だったような……。

 

「「あ」」

「やっと気付いてくれたかぁー」

 

 2人の足元で、うつ伏せになって踏まれていた希空が苦笑しながらそういった。なんとか脱出した希空は体についたホコリを払い、軽く笑みをこぼす。

 

「いやー、僕にはあいにく踏まれて喜ぶ性癖は持ち合わせて無いんだけどねー。あ、でもリンリン達に踏まれちゃうんだったら仰向けならいいなー、見えるから」

「「……このHENTAI!!!」」

 

 すぐさま2人は希空のみぞおちに拳を叩き込んだ。ぐぼォ…! という声にならない悲鳴と共に希空が吹き飛ぶ。それを6人のナース達が受け止めた。

 

「あらあら、我等が御主人様(マスター)が重傷ですわ」

「す、すぐに集中治療室に!!」

「細心の注意を払い振動数0で護送しろ! 一刻を争うぞ!!」

「そうよ、既成事実を作るなら今しかないわ! 最近御主人様(マスター)とんと来ないんですもの!」

「しかも気絶してる今ならきっと御主人様(マスター)も7Pくらいやぶさかではありません! きっと!」

「「待ったあああァァァァ!!!!!!」」

 

 この混沌(カオス)な状況に流石の簪も鈴と共に大声で待ったをかけた。生まれて初めてなくらいの声量だ。本音辺りがいたら目を丸くしていただろう。

 それくらい、ヤバい。倫理的に。

 

「まずツッコミたいところ満載なんだけどあんたら誰よ!?」

「あら失礼、まだ名乗っておりませんでしたわね」

「私達」

「マルス繁嫁街」

「『天国か地獄』番地担当」

「『看護する課』代表」

「その名も」

「星流し看護団!」

「ここマルスで唯一ナース属性に特化したチームなのよ!! 女しか集まって無いからね!」

 

 なるほど。最後の人だけセリフ長かったけど大体わかった。

 あまりに個性的で派手な紹介に二人は感心してしまった。が、本題はそうではない。

 

「だから!! そのマルス繁嫁街ってどこよ!? 日本じゃないの!?」

「………? あぁ、もしかして何も聞かされずにいらっしゃったんですか? まぁ大概の方がそうなんですけどね」

 

 フゥ、と6人の中でも一際冷静そうな(先ほどはインフルエンザの如く赤面してハァハァ言ってたが)ナースが溜め息をつくと、異様に伸びた右手の爪をぷすりと希空の頬に突き刺した。

 

「いぎゃ―――――!?」

「お早うございます、御主人様(マスター)

「もちょっと起こし方優しくしてよ青黄ちゃん……」

「7Pされてもよろしいのでしたら」

「僕死んじゃうー…」

 

 と、もし起きなかったらどうされてたかと軽く想像して真っ青になりながら、希空はよいしょと身体を起こす。

 

「あー、繁嫁街の方に落ちちゃったかー。ま、ここなら研究室(ラボ)に近いか。ほら2人共行くよー」

「「「「「逝ってらっしゃいませ、御主人様(マスター)」」」」」

「字が違う………」

「ちょ、ちょっと置いてかないでよ!!」

 

 鈴はスタスタと歩き始めた希空とそれについて行く簪の背中を追った。

 

「ねぇ、本当にここどこ?」

「んー、まぁ一番見易いのは研究室(ラボ)からだから、行けば分かるよ。今日ならちょうど見えるだろうし」

「…見易い……?」

 

 空を仰ぎながら言う希空の言葉に簪は首を傾げ、希空に習って空を仰いだ。空は満天の星空が瞬いているのだが、どこか違和感がある。

 星空、ということだからもちろん夜。それによく見れば周りは病院やら診療所みたいな建物が沢山ある上に肌の色や明らかに国が違う人達が見られる。ということはここは………。

 

「さっきIS学園にいたのが昼頃だから…まさか南米?」

「ぶっぶー。リンリンはっずれー」

 

 ばってん。不正解。

 希空は歩きながら頭の上で手を交差してバツを作った。

 そのまま希空はレンガで組み立てられた階段を上り、灰色の鉄扉に手を掛ける。そこはまるで地下ライブハウスの入り口のような扉だった。両サイドにだだっ広い家屋の入り口になっている。

 

「はいはい入って入ってー」

「わ、わ、わ……」

「ちょ、あんまり強く押さないでよ!」

 

 ぐいぐいと押されて2人は扉の向こうの暗闇が塗りつぶす空間へ入った。トンネルのような長い道を、足元の円形のライトパネルが導き道を示した。かなり進んで広い広場のような場所へ出たが、真っ暗で視界は最悪。

 

「ちょっと、なんにも見えないじゃないの」

「すぐ見えるよーになるよー」

 

 希空が後ろ手で扉を締める。するとフッ、と周囲が静まり返ったかと思えば辺りで奇妙な電子音が走り、徐々に周囲の視界が開けた。次々に機械達が唸り声を上げて、希空を待っていたとでもいうようにちかちかまたたく。

 

「上見てうーえ」

 

 その神秘的な光景に夢中になっていた2人は希空の声に我に返って言われた通りに上を見た。

 

「……えッ…!?」

「ちょっとコレって………!?」

 

 真っ暗の中に、ぽっかり覗く青。

 丸い、まーるい青。ところどころに白が混じったそれは、自分達がよく知る―――否、自分達が住んでいる太陽系第3惑星。『Earth』と呼ばれたその名は、

 

「はい、ご覧の通り地球でーっす。そして、」

 

 驚きを露わにする2人の肩をぽんと叩き、希空はにっこりと笑みを浮かべた。

 

 

 

「ようこそマルス九番街『希空’Sラボ』………別名『火星秘密研究室』へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そもそもIS…インフィニット・ストラトスは何が目的で創られたか、知ってるよねー?」

「………宇宙空間での活動を想定し開発されたマルチフォーム・スーツ………」

「…要は、宇宙へ行く為でしょ?」

「うん、そのとーり。教科書通りの答えをありがとー」

 

 希空は機械に囲まれた部屋の中央にある椅子に腰掛け、スルスルと右目の包帯を解きながらにこやかに言う。希空の目の前では未だにここが火星だと信じられないといった表情で、簪と鈴はソファーに腰掛け窓に輝く地球を仰ぎながら希空の質問に答えた。

 

「そうだね、束姉さんは宇宙に行きたかった。なのに世界はISを『宇宙進出の機械』ではなく『軍事兵器』として捉えた。そんなことを、まだ目的を完遂していない束姉さんが許すと思うー? 僕は思わないね。束姉さん、ああ見えて怒りっぽいからさー」

 

 希空はあっはっはと快活に笑いながら、希空は完全に包帯を解いて機械の歯車の右目を露わにする。保健室で見た時と違い、その右目には不思議と淡く光が灯っていた。

 途端、周囲の機械達もまるで電気信号でも送るようにチカチカとまたたきを繰り返す。

 

「じゃあ何故束姉さんが怒らないのか。そりゃモチロン、もう束姉さんが目的を完遂してるからだよ」

 

 ポウッと希空と鈴、簪の間に立体映像が映し出され、太陽系全体の映像が現れた。そこに束の似顔絵がついた人参の立体映像が生まれ、地球から月、火星、金星……と、次々にジャンプしていっている。

 

「で、束姉さんはIS開発直後から太陽系の惑星の探索を行い環境を整え、こーして僕に火星をくれたんだー」

 

 ポンポンと立体映像の火星をクリックすると、拡大された火星の映像がアップされた。そこにミニマムサイズの希空の映像が出されていた。

 

「………でも待って…」

「ん?」

 

 異議を唱えたのは簪だった。

 ショックあまりにズレ落ちそうな眼鏡を抑え、少し控えめに挙手している。

 

「……NASAの確認で、火星探索こそ行っていないけど…観測は行ってて、ちゃんと写真もあるハズ………」

「ああ、コレとかー?」

 

 希空はマニピュレータグローブを嵌めて空間投影ディスプレイを立ち上げ、イメージボックスにある写真をクリックする。すると当然見慣れた赤い惑星たる火星の姿が映し出された。火星が赤く見えるのは地表に酸化鉄(赤さび)が大量に含まれているためである。右下に書いてある撮影された年は去年の末、つまりごく最近。

 

「そうよ、ついさっき街を見ただけだからわからないけど、火星にあるんなら写真とかでバレちゃうんじゃないの? それにどんくらい開発してんのよ?」

 

 確かに。

 先ほど見た感じだとまるで地球にいるのと変わらないような空。人工的に映された地球の映像ならまだいいが、火星を人工の空で覆うなんて無理に等しい。すると希空が再び立体映像の火星をクリックした。よくよく見ると、火星を薄い膜のようなもので覆っている。

 

「束さんが開発した惑星規模の光学迷彩カモフラージュ。これで無人の惑星に見せかけてるんだー」

「なんかもう何でもアリね……ツッコミを入れるのも面倒になってきたわ……」

「ま、一応クリスちゃんがいるから地上から彼女にも手回ししてもらってもいるんだけどねー」

「あー…この前言ってた子だっけ? アメリカの赤毛研究員。名前は……」

「………牧瀬紅莉栖…」

「そうそう牧瀬紅莉栖」

 

 牧瀬紅莉栖。

 アメリカのヴィクトル・コンドリア大学脳科学研究所所属研究員。専攻こそ脳科学であるものの他の理系分野に於いても博識で、希空と関わる以前からISに対しても深い関心と研究意欲を持っており主に人とIS、そしてISのコアとの相互関連性について研究している。

 彼女は日本出身だが昔母親と共にアメリカに移住。若くして飛び級で同大学を卒業し、17歳にして学術雑誌で名高い『サイエンス』に自らの論文が掲載される程の才媛。

 

「どっかで聞いたことあるかと思えばよくテレビに出てたわね」

「……倉持技研でも、開発スタッフがよく噂してた……」

「あっはっは、まぁクリスちゃんは本当に頭がいいからねー。一晩中IS関係の知識問題を出し合ったのはいい思い出だよー」

 

 出来れば参加したくない企画である。希空のことだ、恐らく重箱の隅をつつくような細かい問題でも出して苦しめたのであろう。牧瀬紅莉栖、ご愁傷様。

 一通り話した希空は車輪付の椅子を走らせながら冷蔵庫並みの大きさの機械を弄っていた。

 この部屋は火星においてかなり重要な役割を果たしているようで、最近来てなかったからか全体的なチェックをしているらしい。一応別室に『火星を管理する課』もいるのだが、それでもやるに越したことは無いとのこと。

 

「あと束姉さんのラボがある月にも似たよーなことしてるから」

「………あれ…? でも、月より火星の方が…」

「そうよ、大きいのになんで希空がこっちなのよ?」

 

 そう、月の大きさは半径1738kmなのに対し火星は地球の約半分の3397km。火星の方が大きいのだ。すると希空は困ったように唸り、

 

「うーん、ちゃんとした理由はわかんないけど、ほら、束姉さんって兎じゃん?」

「「?」」

「あ…そっか、まだ2人共会ったこと無いんだっけー」

 

 ならわからない。彼女という、篠ノ乃束という人物は実際に目の当たりにしなければわからない。

 逆に言えば一度会うだけで理解出来るのだから、わかりやすいといえばわかりやすい。

 

「でも今は月にはいないっぽいから無駄足だしなー…」

 

 どーしよっかー、と希空がまたもぐるぐる回りながら唸っていると、部屋にある扉の1つがスライドして開いた。

 

「「!!!」」

 

 突然の来訪者に鈴と簪は思わずビクッとした。だが暗闇の向こうからは誰も来ない。

 そう、誰も。

 

 

「……にゃあ」

 

 

 猫だった。

 真っ黒い猫。首元に真っ赤なスカーフを巻いた猫。鳴き声が可愛い。

 その猫はちょこちょこと歩いて来てはふりふりと尻尾を振っている。

 

「………ネコ…」

「ネコね…どこから入ってきたのかしら」

 

 ここは仮にも火星。普通なら入ってこれるはずが無い………否、それは少し違うかもしれない。

 さっきも見た通り、この火星にはどういう訳が希空以外にも人がいる。恐らく、かなりの数。ならばその人達のペットなのかもしれない。鈴は徐々にここが火星なのだと理解しつつ、黒猫を抱っこした。

 

「か、かわいい……!(…そう言えば、この火星にいる人達はなんでいるのかしら……?)」

「そりゃ、みーんな小僧に助けられた連中だからさ」

「「………え」」

 

 鈴と簪はお互い顔を見合わせた。だがお互いさっきの発言には驚いているようで当然二人が言ったわけではない。そもそもあんなオジサンのような渋い声は決して少女達の声帯から出るものでは無い。とすれば、

 

「あぁお前等新入りか? なら先輩である俺のことは『阪本さん』と呼べよ。年上を敬う気持ちは常に忘れないようにな」

「「………しゃ」」

「ん?」

「「喋ったあああああぁぁぁぁ!?!?!?」」

「うおっ」

「あー阪本じゃん。なに、人生の道にでも迷ったのー?」

「違ぇよ!! そもそも俺は猫だから人生じゃねーだろーが!! つーかこの小娘共はなんだよ、俺が喋るなり大声で喚きやがって……耳超痛ぇ!! 謝ったらどうなんだ!」

「ご、ごめんなさい……」

「………す、すみませんでした………」

 

 じゃなくて、と2人は阪本の手を鷲掴みして希空に詰め寄る。

 

「なんで猫が喋ってるのよ!?」

「……しかも謝れとか何年上ぶってるの……!!」

「やーめーろーお前等!? 腕が千切れる!! 千切れちまう!!」

 

 びよーんと左右に伸ばされた阪本の両手(正確には両前足)。両足をバタバタさせているが所詮人と猫、上下関係は歴然だ。希空は作業する手を止めてやれやれ、と溜息をついて阪本を受け取った。

 

「またどーせマルスG県I市街『東雲研究所』から逃げてきたんでしょー? 恐らく原因ははかせとみた」

「ビンゴだ、まったく小僧には恐れ入」

「さかもとー!!」

「さかもとさーん!!」

「来たー!!??」

 

 バタンッと阪本が入ってきた扉が今度は観音開きに開き、 そこから大きめの白衣を着た碧目オレンジのロングヘアーの小さな女の子と、黒髪のセミロングに背中に大きなネジ回しが付いた同い年くらいの女の子が走って来た。

 

「もー逃げられないぞさかもとー!!」

「さかもとさーん! あと捕まってないのさかもとさんだけですよー! しかもなんで希空さんのラボ区域まで来ちゃうんですか!?」

「うるせー!! たかが鬼ごっこ、されど鬼ごっこ、本気でやって何が悪い!!」

「大人気ないですよー! ってうわぁ希空さん!? 来てたんですか!?」

「あ、きそらだやっほー」

「おー、なのちゃんにはかせ。ひっさしーぶりーん」

 

 おっす、と希空が手を上げるとその手にはかせと呼ばれた小さい女の子が捕まった。丁度二の腕にぶら下がりブランコみたいになってる。

 

「きそらだきそら♪ おみやげは〜?」

「買ってきたよー、はいIS学園限定『サメかすてら』」

「さめ〜!!」

 

 希空が虚空から呼び出し(コール)したサメの形をしたカステラをぎゅうぎゅうに詰めたビニール袋を出すとはかせは目を輝かせてそれに飛び付いた。

 

「あ〜もうはかせったら…希空さん本当にいつもすみません」

「いーのいーの。はかせには無理言ってここに居させてるよーなもんだし」

「あぅ…そー言われますと何も言えないんですが。まぁいつも持って来てくれるのはいいんですけど、量も考えて下さいね?」

「善処するよー。それよりさ、ねじ回してもいいよねー?」

「ダッ、ダメですってばそれは!! というかまた新しい人来てますし!!」

 

 と、なのと呼ばれた少女は背中に付いたねじを精一杯手で隠しながら、鈴と簪を見て口をパクパクさせる。

 

「あ、あのですねこれは飾りなんです!! ですからこう…ロボ的なものでは無くてですね!!」

「なのはロボットなんだよ」

「はかせが作ったAI搭載の自己独立機能を持ったロボット。まだ1歳だったっけー?」

「あああああああぁぁぁぁ………」

 

 カステラを頬張りながら本人の努力なんてそっちのけに言う二人。なのはショックのあまりに泣きながら崩れ落ちた。

 

「(ど、どうしよう〜せっかく新しい子達が来たのに会ってすぐロボってバレた……嫌われちゃうよ〜)」

 

 突然振られた鈴と簪は顔を見合わせて頷くとうずくまるなのの肩にポンと手を置いた。涙目のなのが二人を見上げる。

 

「えと……よくわかんないけど、ロボでもなんでも関係無いわよ。いいわよ友達」

「……うん…友達、なろう………」

「うぅっ…あ、ありがとう〜!! えっと…名前……」

「あ、アタシは凰鈴音。鈴でいいわよ」

「……更識簪……簪で………」

「東雲なのです! よろしくお願いします、鈴さん簪さん!!」

 

 ガシッと握手する三人。その後方で希空と阪本は微笑ましげに三人を眺めていた。

 

「ケッ。女々しいヤツだな小娘は」

「まぁいーんじゃない? 女の子の友情は大事だよ。それより……」

「ん?」

 

 希空は阪本の後ろを見てにやにやしていた。笑い声をこらえているようだが聞こえてしまう。その態度にムッとした阪本は後ろを振り向き、そして―――

 

 

 

「さかもと、つかまーえた!」

 

 

 

カステラまみれのベタベタな手が、阪本の身体を捉えた。ラボに絶叫が鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

「何か…今日はいろいろあったわね……」

「…うん……疲れた」

 

 あれから超ハイテンションのなのに付き合わされた二人は更にウッドキューブの紐でツインテールに結わえた水色髪の少女や笑顔の天才少女、仏像大好き少女達に振り回されていた。三人共同じ学校の制服らしきものを着ていたことから火星にも学校があるのだろうか。

 

「それより希空」

「んー?」

「行きの時のあの…なんだったかしら、よくわかんなかったけど怪獣っぽいのに喰われたじゃない?」

「……食べられちゃった………」

「アレ、結局なんだったの? キャリーバッグから出てきてたけど」

「あぁ、ドラッキーね」

「……ドラッキー…?」

「聞くより見る方が早いんじゃない?」

 

 カモンドラッキー、と希空が言うと室内の複数ある扉のシェルターらしきモノがガラガラと開き、中からヌッとキャリーバッグから出てきたあの巨大生物が出てきた。ペタペタと足音を立て、時折尻尾を床に打ち鳴らす姿はまさに怪獣。しかしコレは―――

 

「………山椒魚…!?」

「でかっ……!!」

 

 サンショウウオだった。ただしただのサンショウウオではない。全長2mは軽く越えるオオサンショウウオだった。

 

「その通り、オオサンショウウオ。オオサンショウウオ型ロボット【サラマンドラ】。通称ドラッキー」

 

 希空はのそのそと歩いて来たオオサンショウウオの頭を撫でる。するとオオサンショウウオはくすぐったそうに首を回した。

 

「二年前に日本に来た時にね、トトロでも出そうな山の中で死に体で見つけたんだー。そのオオサンショウウオの骨に残留していた骨髄間質細胞を使用した、いわゆる生体ロボットだねー。コイツは弐号だけど」

「生体……」

「……ロボット…」

 

 ロボットと言われると先ほど仲良くしていたなのの笑顔が頭に浮かんだ。

 

「伝達システムにはDNAコンピュータを利用、皮膚はフッ素コートで防水加工やセラミックス性の防弾加工もバッチリ。地中、水中を自由に行動することが出来るし、前足の削岩機能とオオサンショウウオ独特の柔軟性により地盤を変形させること無く地中を移動出来るんだー。しかも再生能力もあるからスゴいよー。まぁ、壱号と違ってコイツは点と点の移動しか出来ないんだけどねー」

「点と点?」

 

 うん、と頷くと希空は再び3Dの立体映像を出した。今度は地球と火星の図だ。その上に『壱』と書かれたサラマンドラと『弐』と書かれたサラマンドラが乗っている。

 

「地球にある壱号は口に作られたワープトンネルから何処でも行けるんだけど、ここにある弐号は壱号の口からしか飛べないんだー。だから火星からの帰宅用みたいなモンかな」

「なるほど……ってワープ!?」

「…ワープって……実際出来たの……!?」

 

 解説中にさりげなく言われた単語に二人は愕然とした。

 ワープ。

 それは20世紀代からSF小説に出てくるような夢の兵器。タイムマシンに勝るとも劣らない、というより原理で言えばタイムマシンに近いものである。要は、時間と空間を跳躍する兵器。それが、希空が開発したサラマンドラの口にあるというのだ。

 

「ワープっつっても、結局はISの武装情報化機能を応用したに過ぎないんだけどねー」

「武装情報化機能…?」

「リンリンや簪ちゃん達がよく使うアレだよ、『双天牙月』とか『蜻蛉』とか出してるでしょー?」

「量子変換機能のこと!?」

 

 第二世代型ISに導入された主武装。それにはISに決められた拡張領域(バススロット)に武装を量子変換(インストール)するというものである。武装には初期装備(プリセット)後付装備(イコライザ)の二種類があり、拡張領域(バススロット)が空いていれば武装を量子変換(インストール)し戦闘のときに展開(オープン)収納(クローズ))ができる。これがいわゆる量子変換機能だ。

 

「あぁ、地球じゃそーいってるんだった。要は『モノを情報に変換し、更に情報をモノに再構築する』ってことだよー」

「そうだけど……まさか!?」

「…え……ウソ………」

 

 ようやく希空の言葉を理解したのか、二人はハッとした。

 有り得ない。だがこれしかない。いや確かに気付けば誰もが出来るかもしれないが、そもそも実現可能な確率は低いだろうし、しかもそれを人間にするなんて論外だ。

 だが、これしかない。

 

「そ」

 

 希空は、ぐぱぁとサラマンドラの口を目一杯開けるとそこに腕を伸ばす。すると、

 

 ―パシイィィィ……

 

 指先から肘辺りまでが、粉々になっていた。いや正確には、肘から先が()()()されていた。

 

「入ったモノを情報化し転送。そして再構築させる。これがワープの正体だよー」

 

 錬金術みたいだよね、と言いつつ呆然とする二人を『百手機甲(ワンハンドレットガントレット)』で引き寄せるとサラマンドラの口に放り込んだ。

 

「アデュー火星。また近い内に来るよー」

 

 希空も二人に続くようにサラマンドラに喰われた。ごくんっと呑み込んだサラマンドラ弐号は大きく欠伸をすると、誰もいない研究室を横断しゆっくりと出てきたシェルターへ戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 ──ゴバァ。

 

「んぎゃっ」

「ひあっ!」

「わ……!!」

「え」

「……は?」

「んなっ!?」

 

 上から順に、希空、鈴、簪、一夏、箒、セシリア。

 鈴と簪の鼻には保健室独特の消毒液の匂いがした。つまり、希空の理論通り火星から地球へ、正確にはサラマンドラ壱号へ戻って来たのだろう。また何か柔らかいモノに座ってしまったような違和感があるが打った頭を抑えて後ろを振り返ると、あの浅黒い巨大オオサンショウウオ型ロボット―――サラマンドラ、通称ドラッキーが大口開けてこちらを見下ろしていた。

サラマンドラは用が済んだとでも言うように踵を返すと、明らかにサイズ違いな銀のキャリーバッグの中に帰って行った。

あのキャリーバッグも何か仕掛けているのか……。

 ふと窓を見ると夕日が差していた。夕方ということは地球ではまだ2〜3時間しか経過していない計算になる。火星にいた時間と変わらない、つまり地球→火星と火星→地球の移動時間はほぼ0に近い。流石はワープ。

 

「えーと、」

「あ、一夏」

「さっきの何だったんだ? いきなりキャリーバッグが開いたかと思えばサンショウウオっぽいのが出てきて、そしたらお前達が出てきて……」

「……さっきのは夢、なのか?」

白昼夢(デイドリーム)でも見た気分なのですが……」

「「………」」

 

 鈴と簪は今日何度目か顔を見合わせ、お互い困ったような表情を浮かべて、

 

「「日帰り旅行」」

 

 苦笑しながら、そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ? 希空は?」

「……本当だ…いない…」

「あー、オホン。……希空兄、いい加減にしろ」

「いやー、今回は仰向けだったね大成功♪ 幸せことこの上な」

「アタシ流・火華カカト落とし!!」

「簪流・エンドオブアース!!」

「ぎゃああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「……この世に悪は栄えない」

「……記憶は跡形も無く消し去った……」

「………希空兄、因果応報ってヤツだ」

 

 

 

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