IS <インフィニット・ストラトス> ヘカトンケイルの名を持つ者   作:一ノ原曲利

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第28話 昼食/ノックアウト

 

 

「さて、教員の実力を分かってもらった所で早速実習に入る。専用機持ちをリーダーにして出席番号順に織斑弟、オルコット、デュノア、凰、ボーデヴィッヒに着け」

 

 教官の指示が飛び、1組と2組の生徒達が動き始めた。当然、私もドイツの代表候補生だからか教官に指名されたことにより生徒達が集まる………が。

 

「(………なんだ、これは)」

 

 本当に何だ、何なのだか、皆目見当もつかない。何だ、この緩んだ空気は。まさかこれが訓練だとでも―――?

 

「いよっし、織斑君と一緒だ!!!」

「うわ……あと一番ズレていれば~っ!」

「セシリアさんか……えーっと………さっきはドンマイ~!」

「凰さんさっきの何!? 新技!? もしくは新兵器!?」

 

 ―――くだらない。こんな連中に時間を割くこと自体が無駄だ。

 それより私には重要な任務があるのだ。まずは希空に……その、何だ…何か、しなければなるまい。恐らく、私は希空に何か不愉快な態度を取ってしまったのだろう。だが、希空の弟である奴(織斑一夏)を、赦す気は無い。……正直、あんな女共に囲まれて世界で一人だけの男性IS操縦士とか持て囃されるなど……虫酸が走る。貴様より希空がその才能を受け継いでいればいいものの、あまつさえ希空が体を犠牲にしてまで助けた人間が、こんな奴だなんて……赦せない。

しかし―――。

 

「(…3年前失った筈の……左腕が…)」

 

 在る。

 無論、義手の類いなのだとは推測出来る。だが矢張り2年も音信不通でいればお互い変わってしまうのは必然的だ。私も彼も、もうあの頃(3年前)には戻れない――――。

 

 

 

 

 ― 「ラウラちゃーん、ジャムったー」―

 ―「まったく…貸せ。治してやる」―

 

 ―「見て見てラウラちゃん! 弾当たったよー!」―

 ―「ば、馬鹿っ!! 銃振り回しながら来るな!! まだ弾が入ってるだろう!!」―

 

 

 

 

 

 何もかもが一新した1年。教官からスパルタで鍛え込まれ、希空のリハビリと訓練に付き合った1年。当時欠陥品として軍の下働きだった私をどん底から救い上げ、あまつさえ自信をつけてくれたあの1年が、どれほど有り難かっただろうか。

 織斑千冬と織斑希空。この2人は、この私を、ラウラ・ボーデヴィッヒの人生を劇的に変える切欠となった。だから―――

 

「はいはーい、みんな《打鉄》と《ラファール・リヴァイヴ》どっち持ってきたー?」

「《打鉄》取れたよお兄さん!」

「よーし、じゃとりあえず出席番号順に早い人からやっちゃってー」

「…………は?」

 

 オイ、待て。

 

「………何でお前がいるんだ………?」

 

 何で希空が、さっき凄く怒ってて、織斑教官に吹き飛ばされて骨折した筈の希空が、私の代わりに生徒達を纏めているんだ?

 まるで始めからそこにいることが当たり前と言うように生徒達に指示を飛ばす希空に、私は動揺と疑問が隠せなかった。

あらかた指示が終わりまず一人目の生徒をISに搭乗させ機器のセッティングを終えると漸く希空は呆然と立ち尽くす私に気付いたのか、松葉杖を突きながら包帯で倍に太った足を引き摺ってこちらに来た。

 

「や。久し振りー」

「ひ、久し振りもなにも無いだろう。何をやっているんだお前は?」

「えー。だってラウラちゃん専用機持ちの中でも一番やる気無さそうっていうか教える気無いっていうかー」

 

 当然だ。ISの搭乗すらまともにこなせぬ小娘など有象無象の雑種に過ぎん! それよりもっと戦場を想定した軍隊式訓練でなければ話にならない! ……まぁ、そんなことが出来る程の逸材がいるとも思えんがな。すると希空は私の意図を読み取ったのか―――やれやれと呆れるように首を振った。

 

「それがいけないんだよラウラちゃん。いい? ここはIS学園なの。ISを学ぶ為の学園なんだよー? ラウラちゃんがいた軍隊じゃないんだから、そこんとこ理解してもらわないと困っちゃうんだよー」

「……前にお前が言っていた『郷に入っては郷に従え』というヤツか」

「そ。ラウラちゃん花丸」

 

 いい子いい子、というように希空が私の頭を撫でる。…くうぅ……この温もりも久々だ……こ、こそばゆい……!

 

「ま、織斑せんせーが『ラウラの補助をしとけ』って言ったのもあるんだけどねー」

「………何?」

 

 ………つまり、教官が希空を私に就かせた? 何故――?

 それに、希空の態度おかしくないか? さっきはその……凄く怒っていたのに、先ほどの怒気など微塵にも感じさせないほど穏やかだ。………まるで、祖国の嵐と嵐の間の凪のように………。

 

「はいはーい。碓氷ちゃん乗れたならまず歩いてみてー」

「うっ、うんっ!」

「で、機体の調子に慣れたらちょっとしたアクロバットやってみよーか」

「わかった―――って、えぇぇ!? 私アクロバットなんか生身ですら出来ないよ!?」

「ダイジョーブ、ISには無限の可能性があるから!」

「うううぅ……そう言われると私がやんなきゃいけないんだけどなぁ…」

「んー、やっぱり生身で出来ないことがISで出来ちゃうって頭が追っ付かないんだよねー」

「そうそう、ISって飛べるでしょ? 私も最初は戸惑ったんだ」

「IS搭乗の初期は身体のスペックと機体のスペックの差を否応無しに感じちゃうから。ま、そこは慣れだよ慣れー。これからこってり絞ってあげるから覚悟しろよー」

「……お兄さん、松葉杖突いて凄んでも迫力0だよ……」

 

 希空(とその他)の会話など、思考中の私の耳に入ることは無かった。しかしそれほど思考の渦に入っていてもなお、教官と希空の意図が読めなかった。

 

 ただ。

 

 考えれば考えるほど、暗闇に呑まれていくような気がしたのは確かだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「では午前の実習はここまでだ。午後は今日使った訓練機の整備を行うので各人格納庫で班別に集合すること。実習は特別講師見習いとして織斑兄が担当する。専用機持ちは訓練機と自機の両方を見るように。では解散!」

 

 無茶振りがキマシタワー。でも大丈夫!! 得意分野だからー!!(足折れてるけど)

 午前実習の終了時間となり起動テストを終え、僕は相変わらず……というか、すっごい考え込んでるラウラちゃんのフォローをしつつみんなで格納庫に《打鉄》を移動させた。

 さてお昼だ。きゅるきゅると鳴るお腹を抑えながら松葉杖を突きつつ、僕は食堂へ向かう。すると後ろから聞き慣れた快活な声が掛かった。

 

「希空っ」

「んぅ? どーかしたかいリンリンー?」

 

 あ、ダメダヨーリンリン。頭で頭で。

 トントン、と包帯に包まれた左手の指先で頭をノックすると、一瞬疑問の表情を浮かべていたリンリンだったが、僕が言わんとしてることがわかったのか()()()

 

『えーっとっ…!! さっきの!! さっきの戦闘のどうだった!? なかなか上手くいったでしょ!!』

『ああ、アレねー。うん、初実戦での起動にしては上出来だったよー』

 

 言わずもがな、個人間秘匿通信(プライベートチャンネル)での会話であーる。一応中国側が開発したってあるから無闇に出せる話題じゃない。

 因みにさっきのとは、無論対真耶先生戦で使った『双天神来』である。

 勿論大衆その他大勢に加えシャルシャルもいたから、口ではああ言ったが前回リンリンと火星のラボに行ったときに持ってきたものだ。

 

『本来僕が設計した〈柔金〉造りの『双天神来』は、ワザワザ「伸びろ」とか「曲がれ」とか言わなくても変化出来る設計なんだけどなぁー』

『えっ……そ、そうなの?』

『そうだよ?』

 

 ホントウです。

 

『月及び火星に存在が確認された新鉱物〈柔金〉―――アレ、僕風に加工してアレンジ加えたんだけど本来持ち主の感情や気持ち、意志によって形状を変化出来るんだよー』

『……前にも思ったけど、〈柔金〉ってホント未知過ぎるわ……』

『まぁ地上には存在しない物質だからねー』

 

 〈柔金(じゅうきん)〉―――僕が束姉さんと月、そして火星に行った時に見つけた……『生きた金属』である。『生きた金属』と言われれば即座にエネルゴンとやらで動くコンボイもといオプティマスを思い浮かべるだろうけど、どちらかと言うとターミネーターの女性版ターミネーター…ターミネーチャンに近い。

 つまり、アレは生きていた。

 最初は束姉さん共々僕らを襲ってきて初めに月に行った時はいろんな意味で焦った。というか宇宙行って早速宇宙人に熱烈歓迎(ころしあい)とか笑えねー。ま、その話についてはまた今度。

 

『それよりリンリン最後の「曲がれ」、振り回されたでしょー?』

『うっ……よくわかったわね』

『そりゃ僕だし』

 

 そう、()()()()()()

 もしリンリンの「曲がれ」が制御出来ていれば真耶先生も肩の装甲程度では済まなかったハズ。恐らく…串刺しレベルのダメージを受けていただろう。それがかなわなかったのは(ひとえ)にリンリンが『双天神来』の制御がままならなかったからに他ならない。

 

『ひとまず地上では普通に使えるから、リンリンは『双天神来』を8割方使いこなせるよーに。あと他の武装との連携もね。今度の学年別トーナメントとかで満足に使えれば儲けものかなー』

『そうね…セシリアや簪を誘ってみるわ。あ……』

 

 ふと、リンリンが思い付いたような表情を浮かべたかと思うと―――急に、僕の右腕に絡んできた。

 おーいリンリン? 松葉杖を突けないよー?

 そんなことお構い無しにリンリンはグイグイ腕を引っ張りながら、

 

「ね、ねぇっ!! 今日お昼、一緒に食べない!?」

 

 若干鼻息が荒かったです。あと掴んだ手に汗が。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

「……どう言うことよ…」

「え、何が?」

「いやぁ~……なんかごめんね?」

 

 昼休み――屋上。

 そこには私こと更識簪と希空……と、その他諸々が椅子に座っていた。因みに何故椅子なのかは、希空が右足を骨折している(らしい)から、それを考慮に入れたのである。

 

「(私としたことが……!)」

「(折角一夏さんと()()()()()で昼食をご一緒出来ると思いましたのに……!!)」

「(…抜け駆けは…許さない……!!)」

「(ちぃっ…!! あそこまで迫ったのに作戦失敗っ……!!)」

「(…あの、僕ここにいてもいいのかな……?)」

 

 一夏君を箒さんとセシリアさんが、デュノア君と希空を一夏が、そして希空を……鈴が。そして私を、きっ希空が(ここ重要……!!)本日の昼食に誘って、こうなった。

 大まかに言えば、こんなところ。

 箒さんとセシリアさんは…言わずもがな一夏君が好きだから誘ったのはわかる。というか一目瞭然だ。一夏君がデュノアさんを誘ったのは……同じ男性として、かな…? (多分)一夏君なりの優しさが発揮されてしまった……んだと、思う…。

 そして…鈴が、抜け駆けしようとした。

 眼鏡の奥でキッと強めに視線を送ると、鈴は慌てて顔を逸らした。本来ならここで『蜻蛉(かげろう)』で斬り捨て御免、なのだけど……。

 

「(…希空が私を誘ってくれたからもうどーでもいい……!!)」

「(簪の笑顔がムカつく……!!!!)」

「(二人とも何百人相してんだろー? あ、百面相か。怪盗百面相)」

 

 なんか希空が失礼なことを言ったような……気のせいかな。ちなみに席順は、私の右隣に希空、左隣にデュノア君。向かいにセシリアさんがいて、右隣に箒さん、一夏君が並んでて、左隣に鈴。

 

「えーっと……誘ってくれてありがとう。でも本当に僕が同席して良かったの?」

「シャルルは転校したばっかりで右も左も分かんないだろ? せっかく知り合ったんだから仲良くしようぜ。わからないこととか困ったことがあったら、何でも聞いてくれよ……IS以外でさ」

「アンタはもう少し勉強しなさいよ」

「同感……」

「愚鈍。かっこわる。それでも頂点目指す男の言葉かー」

「うるせ!!」

 

 私達から非難囂々。でも一夏君ももう少し…いやもっと、ISについては知識面についてもだけど、実戦も鍛えた方がいい…と思う。そんな私の考えをよそに、デュノア君は一夏君に頭を下げた。

 

「――ありがとう一夏。気を使ってくれて」

「あ…あぁ」

 

 そう言って、デュノア君は顔を上げながら――――――一瞬。

 

 

 希空を、()()()

 

 

「(―――!?)」

 

 幸い、というべきなのか…気づいていたのは私だけだった。当の本人である希空でさえも、手元の端末を片手間に操作しつつみんなと談笑していた。だが、今の、デュノア君の目には―――

 

「(……さ、)」

「かーんーざーしーちゃん?」

「…えっ……!?」

 

 ふと見ると、希空が、私を見て笑ってた。

 

「どしたのー?」『ちょっとタンマ』

 

 個人間秘匿通信(プライベート・チャネル)により一瞬だけ希空の声が重なって聞こえた。

 すぐに切ったということは……拒否権とか無しというより、幾分か焦ってる……?

 原因はわからない……けど、仕方ない。私は一応自己完結させると、いよいよ昼食タイムとなった。

 

「と、いうわけでまずは早速アタシね!! はい希空!!」

「わーんリンリンの酢豚じゃーん!! いっただっきまーす!!」

「感謝しなさいよね!! ()()()が大好きな酢豚なんだから」

「むっ………!」

 

 …ちょっと鈴、近すぎじゃない……!?

 私の視線に気づいた鈴は得意満面な笑みを浮かべてこちらを見てニヤリと笑った。

 確信犯……!! しかも希空、何目をキラキラさせて食べてるの……!? あ、でも希空って確か酢豚が好物って……じゃなくて!!

 

「…き、希空っ……!?」

 

 私は緊張でがくがく震える弁当箱を握り締めながら、希空の目の前に差し出す。ううぅっ……顔があっつい………!!

 この弁当は私が今日の朝早起きして作ったものだ。今までISのことだけに集中してたからか、勿論弁当を作るのは……初めて。本音に前々から何度か教えて貰い(その際何度もニヤけ顔を浮かべられたが)何とか料理本に書かれているモノくらいは…作れるようになった。

 …じ、自信作だからっ……!!

 

「ん? 簪ちゃんも手作りー? アリガトー♪ あ、簪ちゃんも酢豚食べる? んまいよ」

「んむ……む…?」

 

 ぱくっと。希空は私から弁当を受け取るのと引き替えにスマイル笑顔で私の口の中に酢豚を摘んだ箸を突っ込んだ。

 ん……おいしい。

 悔しいが、流石という他ない……。やはり料理店の娘とここ数日で練習した私とじゃ、掛けた時間が違う……。成る程、希空が美味しいというのも頷ける…悔しいが。

 

 ――がたんっ!!

 

「あ…あ……ああぁぁっ……!!!???」

「「「「「!?」」」」」

 

 いきなり、鈴が真っ青というか、唖然とした表情で私達を指していた。その指はぷるぷると震えていて……その、かなり驚いてるということがわかった。

 ……でも一体何に驚いているの……?

 

「あ…あんたぁ……簪!! 狙ってやったの!?」

「……へっ?」

 

 ………え、何を?

 

「あれ…これって間接キスだよね?」

 

 デュノア君のセリフにしばしば硬直する私。

 ……え、………と……………………………………………………………………………ぇぇぇえっぇええええええええええええ!!!!!!!!????????

 

「あ、確かに」

「は…破廉恥なっ…!!(そうか…この手があったか……!!)」

「(なるほど…その手がありましたわね!!)一夏さん!! 私が作ってきたサンドイッチを食べてください!! 勿論一口でもかまいませんので!!!!!」

「お、簪ちゃんのベントも美味いー」

「か~ん~ざ~し~~~!!!???」

 

 き、キスって!? キス!? 希空が私にキスを………!!!???

 キスっていうのは…恋人同士がするもの……!! えと……じゃあつまり私と希空はっ……!!!

 

「……きゅう…」

「ちょ、簪!? 何真っ赤になって倒れてんのよ!?」

「きっと熱中症なんだね~。んむ、おいしー」

 

 ………そこで私の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 追記。

 あとから箸による間接キスだと思い至り我に帰ったが、それでもやはりキスであるのだと再認識し、再び私は気絶した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 転校日当日夜。

 シャルロット・デュノア……否、シャルル・デュノアは寮の外の設置されたベンチに座っていた。

 一夏が部屋から外出している間に夜の学校に忍び込み、つい先程までIS学園内にある『織斑希空』に関する個人データを盗んだ帰りである。

 

「(………結局、今日一日じゃあまりわからなかったな)」

 

 購買で買ったフランス産の紅茶を呷りながら、今日のこと―――希空のことについて考えた。

 

 

 

 彼―――織斑希空は、犯罪者だ。悪人だ。

 

 

 

 ()()()だ。

 

 

 

「………博士っ………!!」

 

 あの日のことは、今でも脳裏に蘇る。

 忘れたことは一日たりとも、一秒たりとも忘れた覚えなど無い。

 一年ほど前。フランスにあるデュノア社のとある研究所が紅蓮の炎に包まれたあの日。一人の死亡者が確認された。

 ぼくは、二年前母を失いいきなり顕れた父親によってデュノア社でテストパイロットを一任された。唯一生まれてから一緒だった母を失ったぼくは、研究員に言われた通りのことをただ淡々とこなすだけの、伽藍堂で空虚な毎日だった。そんな時―――

 

 

『おや、キミかいその―――シャルルちゃんてお嬢さんは』

『……誰ですか?』

『これはこれは、私のことを知らないIS関係者がいるだなんて驚きだよ。あー、いや別に怒ってなんかいないよ』

 

 

 馴れ馴れしく、カリフラワーみたいな白髪の壮年の研究者。

 

 

『私の名前はロバート・シュレーダー。ドイツ人とイギリス人の血が流れていながらフランス側についた変人、とか言われてるけどねぇ』

 

 

 快活と笑ったあの声は、もう聞けない。

 今や博士の忘れ形見はこの《ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ》だけ。

 

 

 

 あの日、博士の研究所から一人の人物の出入りを確認されていて―――異変に気づいたぼくが向かった時にはもう遅かった。

 

「………まだダメだ…」

 

 フラッシュバックする光景を振り払い、缶に残っていた紅茶を飲み干すと僕は立ち上がった。

 

「もっと…情報収集しないと……」

 

 そう、まだ本当に()と決まった訳じゃない。現に、今日一日で()()したけど特に危険性があるようにも見えないし、仮に人一人を殺した人間があんな風に笑ってるだなんてとても―――。

 だが、近年の現実は残酷だ。昔とは異なり最近の犯罪では虫も殺せないような人畜無害そうに見える優しい人が、犯罪者として暗躍している世の中である。油断はいけない。

 

「……そろそろ、寮に戻ろう」

 

 一人満天の星空を眺めながら、ベンチの横にあったゴミ捨て場に缶を捨てると、ぼくは帰路に着く。帰り道の行く先にある寮。ぼくらが泊まっている部屋を目測で確認し、その隣に視界をスクロールさせる。その部屋は光々と明かりが漏れ、人間大の人影がカーテンに映っていた。無論、その部屋の住人の名前は、

 

「織斑…希空……!!」

 

 ギリッ…!!

 奥歯が砕けてしまう程噛み締めたぼくの口の中に、じわりと血の味が浸透した。

 

 

 

 

 

 

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