IS <インフィニット・ストラトス> ヘカトンケイルの名を持つ者 作:一ノ原曲利
ぼくとラウラがここIS学園に来て5日、初めての土曜日を迎えた。
理論授業は昼まで行い、午後は自由時間でアリーナが全面解放されている。つまり、ISの使用時間すら少ない実力不足一夏にとっては絶好の練習日和。学年別トーナメント大会まで1ヶ月を切った今、アリーナには練習にきている生徒が多い。みんな練習意欲高いなぁ。このIS学園にある複数のアリーナでもここ以外は生徒達でいっぱいだった。学年によってトーナメントが開催される時期が異なるから今は1年生だけが練習に参加してるだけだけど……。
「だからこう、ズバッとやって、そのままグアッ! ガキンッ! という感じでだな」
「防御の時には、右半身を斜め上前方に5度に傾け、回避の時には後方へ20度反転するんです」
「ったく、こういうのは感覚よ? 何で分かんないのよ!?」
「わかるかっ!!!」
うん…ぼくでも流石に難しいかもしれない。実際ISには2年ほど乗っているからなんてなく言葉からどんな感じだか想定は出来るけど……。
箒、セシリア、鈴のいまいち要領を得ない説明に、《白式》を纏っていた一夏が叫んでいた。
「何故分からん!?」
「ちゃんと聞きなさいよ!!」
「もう一度、説明して差し上げますわ! いいですか?」
日本語で『船頭多くして船山に登る』って言葉あったよね……? 一応三人が言うのを全部纏めると『攻撃はズバッ、グァッ、ガキンッ。で、防御と回避は右半身を斜め上前方に5度に、回避の時には後方へ20度反転、そして全体は感覚で何となく』………うん、分からない。
「全く…こんなことするんだったら希空を意地でも引っ張って来るべきだったわ」
ぴくり。
鈴の言葉に意識が集中する。
「あら? 今日は希空さんいらっしゃらないんですの?」
「そーみたい…いつもなら嬉々として一夏を扱き…レッスンするのにね」
「珍しいな」
「あ、いやでも前に『僕はISに乗った事がないんだから教えられる訳無いじゃーん』とか言われたような……」
「あ~……つまり僻みね」
「「「え?」」」
「(僻み…?)」
鈴の言った言葉にぼくも含めみんなが首を傾げた。
「希空ってば、『僕は整備師だから乗らなくても楽しい』なんて言ってるけど実際私たちや一夏のことが羨ましいのよ。普段はそんな素振り見せないけどね」
「なるほど…考えにくいが、簪のことも考えるとそうかもしれんな」
「確かに……あれも操縦が出来る、コアもあるのに使ってすらいないことに憤りを感じていたのかもしれませんわね」
「今日は確か、あっちのピットの方で簪のISの調整をしてなかったっけ」
「…………」
簪……4組在籍の日本代表候補生の更識簪さんのこと…だね。確か1学年上にロシア代表の姉がいたはず……。
なるほど、
事前に今現在IS学園に在籍している代表候補生及び代表生、実力派の生徒達の調査は済ませている。しかしぼくと同じ日に転入することとなったドイツ代表候補生のラウラ・ボーデヴィッヒの正確な情報は掴めていなかった。昨晩の調査ではドイツ軍のIS配備特殊部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』の隊長だということがわかった。階級は少佐ときている。ぼくのターゲットである織斑希空との関係性は不明だ。
だが、アンダーグラウンドな面での情報を検索すれば検索するほど織斑希空が各国で行っている行動がわかった。目的こそ不明……でも、
でも、行動と
「一夏」
「ん? 何だ?」
取り留めのないコーチ達に囲まれてあわあわしている一夏を救済すべく、ぼくは声を掛けた。
「良かったら付き合ってくれる? 噂の《白式》と戦ってみたいんだ」
「あぁ良いぜ。という事だから、また後でな」
正直助かった、というような表情を浮かべる一夏を見てホントに大変なんだなぁ、とぼくはどことなく他人事のように思った。
後ろの三人も一応
「ところでそれ《ラファール・リヴァイヴ》……だよな?」
「うん。《ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ》……ラファール・リヴァイヴのカスタム機なんだ」
オレンジを基調とした配色のラファール・リヴァイヴ。
ぼくのは通常と違い、
……そう、これは博士が設計した機体。博士の、忘れ形見。
「…じゃあ、始めようか」
「おぅ…いくぞっ」
結果は俺の、完全敗北で終わった。
しかもシャルはノーダメで終わっていた……悔しいな、確かに悔しい。
「ええと、一夏が凰さんやオルコットさんに勝てないのは、射撃武器の特性を把握してないからだよ」
「そうなのか? 一応、理解しているつもりだったんだが」
「うーん、知識として知ってるって感じかな。さっきぼくと模擬戦した時も」
なるほど……確かに重火器に関する知識はほとんどが希空兄からの受け売りだからな。小さい頃によくゴム弾や豆とか、BB弾撃たれてたっけ……。
「一夏? 聞いてる?」
「ぅえ!? あ、あぁ聞いてるよ」
「なんか遠い目してたけど………」
ヤバい、俺そんな眼していたか? それほど希空兄との思い出がトラウマに近いってことか………最近、多いもんな、撃たれるの。
「……やっぱり射撃武器の特性かぁ。知識だけじゃどうにもならないんだな……」
「知っているのと理解しているのじゃ、雲泥の差だからね。特に一夏は接近戦オンリーの機体だし、しっかり特性を把握しないと簡単に動きが読めちゃうんだ。さっきも『
「う~ん……難しいもんだな」
「あ、でも瞬時加速中はあんまり無理に軌道変えたりしないほうがいいよ。空気抵抗とか圧力の関係で機体に負荷がかかると、最悪の場合骨折したりするからね」
「……なるほど」
ふむふむ、こうして聞くと思い当たる節も多々ある。でもそういうことって存外自分では気付かないモンなんだよなぁ………。
「いや、シャルルの説明はわかりやすいな……今までのは…こう、ひたすら感覚の話だったから」
「ふん。私のアドバイスをちゃんと聞かないからだ」
「あんなにわかりやすく教えてやったのに何よ…」
「わたくしの理路整然とした説明の何が不満だというのかしら」
「アハハハハ……」
うん、正直わかんねぇ。
まぁ鈴の『感覚』ってのはあながち間違いでもないみたいだしな。希空兄も『そういうことは数こなして自分で見つけて身につけろ』みたいなこと言われたし……って、アレこれ鈴のと似てないか?
「……なに?」
「いやぁ…似るものなんだなって」
「?」
鈴は言っている意味がわからず首を傾げた。やっぱ好きな人の考えって似るもんなんだな…希空兄がいつそれに気付くかわからないけど。
「一夏の白式って
「ああ。何度か調べてもらったんだけど
「
「あぁ。まったく出鱈目な能力だけどな。なんせシールドを含めた全エネルギーを攻撃に使うんだから……」
「それって、以前織斑先生の使っていたISと同じ能力だよね……姉弟だからって、同じ技が使えるものじゃないと思うんだけど……?」
バリア無効化攻撃【零落白夜】…
本来は
俺の《白式》は千冬姉の現役時代のIS《暮桜》と同じ能力を発現させていた。
「希空兄にもっと本格的に調べて貰えば、何かわかるかもしれないな…」
「一夏」
「ん?」
ふと嘯くように呟くとシャルルが少し暗い顔で俺を睨んでいた。
……え? なんか悪いこと言ったか?
するとシャルルは口を開いて、
「あまり、キミのお兄さんを信用しないほうがいいよ」
「………えっ…」
「…まぁ、無いものねだりの話は止めて実際に銃を撃ってみようか」
「えっ? あ、ああ…頼む」
シャルルはいつもの笑顔に戻っていた。
さっきのは……何だったんだ? 気のせいか? 希空兄を信用するなって……どういうことだ?
どうやらその言葉は鈴にも聞こえていたらしく、怪訝そうな瞳でジッとシャルルを見つめていた。
「(どういうことよ……?)」
箒とセシリアには聞こえなかったみたいだけど、私には聞こえた。
『あまり、キミのお兄さんを信用しないほうがいいよ』
ここでの兄、とは勿論一夏の兄である希空を指しているのは明白だ。
織斑希空は、現段階においてIS創始者である篠ノ乃束の次にISを熟知している人物である。世間では右目と左腕を失った『第2回モンド・グロッソ』を境にIS業界から姿を消し、行方不明の始末だ。ただ日本政府及びIS学園では秘密裏に希空自身告発して一部情報公開をしているとのこと。なぜ日本政府情報を流しているのかと聞けば『秘密主義のおじさんと魚顔おねーさんが助けてくれたからー』と言い、国際IS委員会には伝えなくていいのかと聞けば『あそこ情報すかすかだからねー』と言い返して来た。
とまぁ、基本的に他国は企業、組織の情報開示を拒んでいるIS学園から希空が在籍していることは漏れない筈。
なのに、シャルルは希空目的でこのIS学園に来たように思える。
当然、先日の希空とシャルルの態度からして色恋沙汰とは無縁、むしろ危険な感じがする。
ラウラのことは、希空からさらっと聞いたが特に悪い人間でも無いらしい。自分のことを棚に上げておくのも何だが…何しに来たんだ、一体。
さて話は戻すが、日増しにシャルルの視線と態度は希空に対してとげとげしくなっているのは事実。
そして、先程のあの言葉。
「(シャルルは……どうしてああも邪険にするわけ?)」
まるで希空が親の敵のような、そんな殺気を放っていた。
だが、希空はそんな視線を浴びながらもニコニコ笑って『待て』の指示だけ。今回こなかったのは単に目を合わせたくなかったのかもしれない。
「(……まぁ、しょっちゅう当てられていればそうなるわよね)」
今頃希空は簪と機体調整でもしているのだろう……いつも一夏の指導に来ていると思っていたが思惑が外れてしまった。
はぁ……と深いため息をつきながら眼下で射撃訓練をしている一夏とシャルルを見つめる。すると、
「――ねぇ、あれってドイツの第三世代ISじゃない?」
「ウソッ、本国でのトライアル段階って話じゃなかったっけ……!?」
周囲の生徒達の視線を追うと、ピットの上に黒色の機体があった。
右肩部に装備された巨大な砲が特徴的なそれを纏う少女。名は、
「ラウラ・ボーデヴィッヒ……」
希空の空白の3年の内1年を識る者。
そして(非常にどうでもいいことだが)やって来て早々、一夏を平手打ちしようとした者。
箒やセシリアからすれば目の敵ね……。
ピット上で悠然と立つラウラは、じっと一夏を睨み付けた。
「織斑一夏」
「……何だよ?」
「貴様も専用機持ちなのだろう……? ならば話が早い」
「………?」
「私と戦え」
随分とストレートに言ってきたわね、この衆人環視の中で。
まぁ今の発言から見るに、彼女は周りのことなどどうでもいいのだろう。そういう人間はたまにいる。
一応《甲龍》を展開できるようスタンバっとこう。
「嫌だね。戦う理由がねぇよ」
「貴様になくても、私にはある」
「………」
一夏が苦虫を噛み潰したような、表情を浮かべた。
…恐らく、ラウラが言っているのは『第2回モンド・グロッソ』のこと。優勝確実とされていた千冬さんが、決勝で棄権した大会。
「貴様がいなければ、教官の大会二連覇という偉業は容易に想像できる。だからこそ私は貴様の存在を認めない」
「っ……こんな所でやらなくても、「それだけではない」――!!」
あいつまさか。
ラウラは侮蔑と憎悪の視線で一夏を射貫く。その眼差しに一夏が一歩後ずさった。
「貴様がいなければ…希空の右眼と左腕は、失わずに済んだ。貴様に己の躯の一部を失う痛みが、苦しみがわかるか?」
「―――!?」
「そんな貴様が希空の実の弟だと……? 冗談も大概にしてほしいものだな。貴様がへらへら笑えるのは、希空の苦しみを理解していないだけだ」
「………」
俯く一夏。そんな姿に嘲るように鼻を鳴らしたラウラは右肩の大型レールカノンの標準を一夏へと定める。
ちょっと流石にこれはマズイ?
この距離なら新武装『双天神来』を目一杯伸ばせば、ラウラに届くかも知れない。そう思い私は《甲龍》を展開しようとした。が、
「……あ」
ラウラの真上に突然出現したISに、私の手が止まった。
「(フン……他愛ない)」
眼前で俯く
こんな――こんな男が、教官の栄光を穢し、あまつさえ希空の躯を奪った男が、生きていていいのか?
答えは、否。
レールカノンを放とうと起動を確認させる瞬間、3年前の病室での光景が思い出される。
『もう、触れないんだね』
消失した自分の左腕を見て、無感情に告げる希空。
『ごめんね、キミをちゃんと見れなくて』
残された左眼で私を見ながら、涙を流す希空。
あの頃、教官にさえ見せなかった唯一の希空の弱音。
それを聞いた時、私は誓った。
希空をこんな風にさせた
レールカノンのエネルギーは十分溜まった。標的は俯いたまま避けようともしない。あとは、トリガーを引けば終わる。その事実に、私の口角が吊り上がる。やっとだ、やっと二人を不幸にした男を―――
―――
「何っ……!!!?」
こんなタイミングで……!!
もう少しで二人の
――バチバチバチバチッッッッッッ!!!!!!!
「くうぅぅっ……!!!」
「ッ…!!!」
激しいスパークが目の前で飛び散る。しかしそれよりも反応したのは鼓膜を突き破るように響く音。
と、同時にISのエネルギーによって構成されたプラズマ刃が、日本古来に存在していたような、長い柄の先に付いた刃によって浸食されかかってる。
何者だ!? そしてこの武装は一体……!!?
このままではマズイ、と舌打ちして
歪んだ形成をしていたプラズマ刃が徐々に形を取り戻すのを確認し、目の前に立つ昏い黒色のISを駆る少女を見つめる。
「……貴様、何者だ?」
「………1年4組の…日本代表候補生……更識簪…」
簪と名乗った襲撃者は近接武器である対複合装甲用の超振動薙刀『
……あの武装、危険だな……見たことが無い。そして…。
自分の両手の甲を見た。黒のカラーリングで塗られた装甲の上に、幾つもの線が刻まれている。原理こそわからないが、目の前の武装によるものだろう。装備されているワイヤーブレードで、複数角度から一気に攻撃すれば―――
『はい、すとっぷ』
「「「「「!?」」」」」
『まったくキミタチ何派手にドンパチやらかそうとしてるのさー。注意する身にもなってよねー』
き…希空? また、なんでお前が?
『簪ちゃんの整備が終わって暇だから総合管制室の人と交代しましたー。まる』
…わかった。事情はわかったが純粋に人の思考を読まないでくれ……。
『はーい』
……もう、ダメだな。興が削がれてしまった。
元いたピットに戻ると、私は武装解除をしてアリーナに背を向けた。
…そういえば……。
私はふと振り向き、織斑一夏とよくいる者達がいるところを見つめた。ポニーテールの日本人や金髪ロールの英国人、共に転校してきたフランス人の視線を無視し、一人の人物に目を向ける。すると向こうもこちらが己を見つめているとわかったらしく、睨み返してきた。
……気に入らないな、さっきの簪という者もだが………。