IS <インフィニット・ストラトス> ヘカトンケイルの名を持つ者 作:一ノ原曲利
「じゃあ、また明日な」
「ああ」
「うん、また明日」
「…あれ……希空は…?」
「さっさと自室に入ってったわよ、調べたいことがあるってさ」
「一夏さん? 明日はわたくしがみっちり指導致しますわ!」
「はいはい、わかってるよ」
「ちょっと待て!! それは私が―――!!」
後ろでセシリアと箒が揉めているが、無視。ああいうのはわざわざ俺が単身で飛び込んでどうにかなるものではない。というより、
「(俺が入っても状況が悪化するような……)」
IS学園に入学して、少しは成長したんだぜ、俺。
俺は相変わらず廊下で口論する箒達と別れ、シャルと自室へ戻る。実はつい最近、希空以外の男子であるシャルが来たことによって部屋割りが若干変化したのだ。女子である箒は別の部屋に、そして俺の部屋にはシャルが来た。
そして希空はというと…そもそも、何故希空がずっと一人住まいなのかというと……山田先生、どうぞ。
―『えぇと、希空くんの部屋なんですが……部品とか、機材とか、パソコンとかサーバーとかがいつの間にかたくさん運び込まれて2人分が住めるスペースは無いんです……あぁごめんなさいっ!! 一夏くん凄い呆れた顔してますっ…!!』
―――以上、山田先生でした。
つまりは―――アレだ。希空兄のトンデモ科学力によって月から(?)大量に資材を持ち込んだが為にスペースが無くなってしまったらしい。それでなくともどちらかと言えば部屋にいる時間の方が少ないのに。
「(…まぁ……希空兄だしな)」
今更兄の特異性には慣れている。これでも生まれて10年以上希空兄の奇行に付き合っていた身だ、多少の付き合いには慣れている。しかし。
「……今日はヒドい目にあったな…」
そう…先ほど、俺はアリーナでドイツからの転校生であるラウラ・ボーデヴィッヒに絡まれた。
―『貴様がいなければ、教官の大会二連覇という偉業は容易に想像できる。だからこそ私は貴様の存在を認めない』
『っ……こんな所でやらなくても、『それだけではない』――!!』
『貴様がいなければ…希空の右眼と左腕は、失わずに済んだ。貴様に己の躯の一部を失う痛みが、苦しみがわかるか?』
『―――!?』
『そんな貴様が希空の実の弟だと……? 冗談も大概にしてほしいものだな。貴様がへらへら笑えるのは、希空の苦しみを理解していないだけだ』
『………』―
他人の痛みがわかる人間なんか、いるわけがない。それは相手の心を読むことができるようなSPEKでもあるような人間か、ESPぐらいだ。
それでも、兄の喪失を理解できない俺ではない。
俺が知らない3年間で吹っ切れたのか、それとも考え方を変えたのか、機械の腕と眼を得た希空兄は楽しそうにISを弄っている。だが、誰かと触れる時とか、ふとまじまじと自分の腕を見て苦笑する姿を見かける。俺ぐらいしかわからないだろうけど。
「……はぁ」
「どうしたの? 一夏」
「あぁいや…何でもない。先シャワー浴びててくれ」
「う、うん……」
ヤバい、シャルに心配掛けてしまったようだ。シャルは何か言いたそうに…だけど、俺のことを考慮してくれたのか黙ってバスルールへ入った。
そういう気遣いは、有り難い。
改めて同性が増えたことに、今更ながら感謝した。
俺は制服の上着を脱いで部屋着に着替えると、ベッドの上に大の字になった。見慣れた天井を眺めながら、“もう1つ”のことを考える。
「『第二回モンド・グロッソ』かぁ……」
俺達3人にとって人生の分岐点、契機とも言える大会。
千冬姉は『第一回モンド・グロッソ』優勝者であることは有名だ。当然、第2回大会でも勝つのは千冬姉だと思われていた。俺はちらりと隣の部屋と隔てる壁を見遣る。
「(………希空兄は…どう考えてんのかな…)」
ISの創始者である箒の姉、束さんからのお墨付きもあり、当時千冬姉のIS《暮桜》の整備担当していたチームの室長である希空兄。俺も希空兄も、信じて疑わなかった。
だが、千冬姉は決勝戦で棄権した。
理由は、俺が誘拐されたからだ。
そしてその事件で、希空兄は左腕と右眼を失った。
あの時は目隠しされていたせいで、耳に嫌でも聞こえた。
俺を呼ぶ声。
騒音。
銃声。
そして―――悲鳴。
2人揃って捕まった矢先に、ISを纏った千冬姉が来てくれた。その時に千冬姉はドイツ軍に借りができたらしく、1年間ドイツでIS部隊の教官をやっていた。希空は瀕死の重傷を負ってしまったため、しばらくドイツの病院で入院。そして行方不明――とされていた。
いや実際にはドイツ病院に入院中と言われていたらしいのだが、いつの間にかアメリカやらアフリカやらロシアやらに行っていたらしい。
――グローバル過ぎるだろ!
恐らくラウラはその時に千冬姉と希空兄に会ったのだろう。
「ん……? なんか忘れているような………」
ふと、耳に届くシャワーの音。
そうだ、昨晩でボディーソープ切らしてたんだった。後でやろう後でやろうと思って……結局後回しにしたんだった。こういうのは後からツケが回ってくる。わかってはいるのだが………仕方ない。それが愚かな人間の
シャルが困ってるかもしれないので即決即断。俺はベッドから起き上がりバスルームへ向かった。確か棚に詰め替え用のボディーソープのパックが…あったあった。
その時、ちょうどシャワールームの扉が開いた。
「ああシャル、ボディーソープ切れて………え?」
「へ? あ、え…い、いち、か……?」
シャワールームから出て来たのは、ブロンドの髪の女の子だった。
…………え?
俺とシャル(?)は、数秒間黙って見つめ合うしかできなかった。
………さて、そろそろ一夏の固有スキル『ラッキースケベ』が発動している頃だろうか。あれは某英霊の
僕は自室に籠もり、3台のパソコンに向かい合いながら6つのキーボードを同時に叩く。勿論『
「っと……無駄に多いよなー、プロテクト」
いまさぎょーんしているのは、ラウラの『シュバルツェア・レーゲン』の解析だ。
IS学園にあるアリーナも随分と高性能なもので、アリーナに入ったISの機体はアリーナに配置されている計器によって解析される仕組みになっている。
「(ゴーレムは上手くいかなかったみたいだけどね)」
この設備は他国の情報開示というアピールと、問題を起こしたISの製造元はシバくぞ的な意味合いも込められている。僕は、そのアリーナに記録された『シュバルツェア・レーゲン』のデータを解析している。だが無駄にプロテクトが掛かっていて解析が進まない。
そう、
「大方誰かに解析されるのを恐れてたんだろーけど、流石にこんなに合ったら怪しいって思うっしょー」
ブラックボックスになっている部分はISのコアに近いところに、寄生虫みたいにべったりついているところまではわかった。だがわかっただけで、そこから解析するにはプロテクトに掛けられたトラップをくぐり抜けていかなければならない。
つまり、正規の方法で深部まで到達しなければならない。
正規の方法を行うには完全にこのプロテクトを掛けた人間へとトレースする必要がある。
「(それくらい、わけないけどねー)」
希空の場合、『
犯人のトレース、それはプロテクトを掛けた存在を知ることができるということだ。
大概ドイツのIS部隊にいる研究者というのは明白。だが、
「(ドイツ……かぁ。
彼女。
僕ら家族3人の運命を螺子曲げた狼。
2年前ドイツを出てからも、各国で非常に面倒なことをしでかしてくれちゃってる女。彼女の手により消えた存在がどれだけいることか。直接相対したのは……ヨーロッパに再び寄った辺りが最後だった筈。
ヨーロッパ………そういえば、
Tururururururu……
「んぉ?」
ふと耳に細やかなコール音が響く。僕はさぎょーんする手を片手に変えてテレフォンスタイルを取る。
「もしもしー?」
『おぉ! 希空君私だよ私』
「ああー…ちーっすお久しぶりっす。元気っすかー?」
『バリバリだよ、あまり動けんがね。40時間ぶっ続けで働けん』
「あっはっは御冗談を。それで、何かご用でもー?」
『あぁそれなんだが………
指先から振動によって鼓膜に伝わる嗄れた声は、少し心配していた。なんだその話か、と思ったがこの人にとっては大事な案件だったっけ。
「ご安心をば。別に本人の有無を確認しておくだけですしねー、多少強引かもしれませんけどー」
『キミの安心はあんまり安心できないんだがな……』
「まぁ、向こうが
『わかった……だが、くれぐれも無理はせんでおくれよ? キミはまだ若い。あと彼女のことも。彼女は私にとって―――』
「ハイハイ、わかってますって。そんじゃそろそろ失礼しますねー」
耳から手を離し、軽く振って接続を切る。
まったく…相変わらず元気なオッサンだなぁー。高齢でありながらかなりフラスコから出るの早かったし。まぁナース部隊の手際が素晴らしいこともあるかもしれない。青黄さん麗しいよ青黄さん。
つくづく、人間の
さてさぎょーんの続きをば……
―コンコン
―――来た、か。
少し早過ぎ…いや、遅過ぎるか……?
どの道避けては通れないことであることは確かだ。そう、それは一夏みたいに。
―
「………希空君、いる?」
「どーぞー」
とりあえず見られたら面倒だからさぎょーん中のデータは別の場所に移してデスクトップから消す。そして代わりに《ラファール・リヴァイヴ》のデータを表示する。
さて、正念場だ。
「いつかは訪ねて来ると思ってたよー、シャルロット・デュノアちゃん?」
開口一番が、それだったことにぼくは半分驚いた。もう半分は――自然と、彼ならわかっているだろう、と思っていた。
この人は何でも知ってるし何だって出来る人間だ。そう、ISに乗ることが出来ないことを除いて―――。
ぼくは、後ろ手で気付かれないように部屋の鍵を閉める。横顔こそ見えるが彼の右顔面は包帯で覆われているから、音さえしなければバレない。
「……驚いたよ。なんでぼくの本名を知ってるの?」
「まず聞くのは名前かーい? 違うだろう? キミが聞きたいことはそんなことじゃないだろうー?」
息が、詰まった。
同時に、沸々と苛立ちがつのった。
――総てを、知っている。じゃあそれでいて何で、それでいて何でそんなヘラヘラしていられるんだ…?
「………席、立って貰ってもいいかな。夜景が見える窓際ででも話そう」
「ちょっとー…僕足折ってるからなるべくこの態勢の方が」
「黙って」
―チャキッ
その金属音に彼―織斑希空が振り返る。だがこちらのほうが動きは一手早かった。
振り向いた時には既に、ぼくの左手に握られたS&W M500が彼の眉間に狙いを定めている。
「……これは、何の冗談かなー?」
「ぼくは黙って、って言ったんだよ」
ぐりっ、と銃口を彼の額に押し付ける。希空の瞳は真っ直ぐぼくを貫くが、諦めがついたのか抵抗を露わにするような真似をしなかった。机に立てかけていた現代的な、細い黒塗りの松葉杖を手にすると右足を庇うように立ち上がる。そしてゆっくりとぼくに背を向け、松葉杖を突きながら窓際へ向かった。ぼくは、彼の後頭部に狙いを合わせたまま起動状態のパソコンの画面を盗み見る。
「……《ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ》のデータ…」
「あ、そうそうそれね。なかなかカスタムの仕方に見覚えがあったしラファールの中ではそれなりに有能な感じでねー」
右脇に松葉杖を挟んで体を支えながら、希空君は両手を上げて降参のポーズを取りながら呑気に言う。ISのハイパーセンサーを部分展開して武装を確認するが、特にこれといったものは無い。銃どころかナイフの1つすら所持していないとは…まぁ、本人もこんな学園で襲われるなんてことは無かっただろう。
「…さて、いくつか質問に答えてもらうよ」
「質問に答えたら解放してもらえるかなー?」
「……そうだね、
返答によるけど。
ぼくは腕が疲れないように手にISを部分展開して銃による腕の負担を減らす。安全装置を外し、ジャージのポケットに仕込んでいたモノのスイッチを押す。
「まず1つ目、今世界各国で起きている小規模多発失踪事件の黒幕はキミ?」
約3年前からここ最近、世界各国で失踪事件が相次いでいる。それは一家族単位だったり村単位だったり、いずれにせよテレビにギリギリ報道されるかされないか程度のものである。未だに各国の要人が誘拐されたという話は無いが、特に争った形跡が無いこともあれば、家屋まるまる無くなっていた、なんてこともある。単なる旅行か家出か真偽が不明なため報道するかどうかがあやふやらしい。その上、近隣の人たちからそのような記憶は削除されている。
そしてその疑いは、目の前にいる
フランス政府はエージェントや陸軍情報旅団情報編集グループを全国に派遣しており、特に織斑希空に関する動向は掴み次第すぐに本部へと送られる。それは派遣された国内での怪奇や怪異といった多少
そして、失踪事件と織斑希空の発見はほぼ同時期。
黒に近いグレーである。
「その答えにはイエスとノーのどちらとも言える…かなー」
「……どうして?」
「他人を失踪へと導いたことは罪になるんでしょーか? いーえそれはならない。何故なら同意の上だからー」
「同意?」
…つまり、失踪した本人達は彼と同意の上で失踪したとでも……?
だが、今の発言でわかった。
彼は、黒だ。
事件への関与性は、ある。
「次の質問だ。キミは各国のISを整備しているらしいね。本当にそれだけ?」
「……どういう質問の意味なのかなー…?」
「キミがISを整備している以外に何かしているんじゃないかな、って言ってるんだけど」
織斑希空は世界各国のIS研究施設、または整備施設に侵入し、国のみで内密に整備をしている。確かに性能も向上し、滞っていた研究が進んだところもある。それとは逆に――研究を強制的にストップさせられたところもある。あるいはISにウイルスらしきバグデータを寄生させていたという話も聞く。
「……ふーむ、キミはISがある部分において欠陥しているという話を聞いたことがないかなー?」
「………は?」
ISのある部分において、欠陥がある?
………初耳だ。
研究職ではなくテスターだからという訳では無い。そんな重大なことがあったら整備士の人が教えてくれるはず。
「僕はその欠陥を直すべく、全国を回りISを直している。それが整備以外にやっていることかなー…いや、一応これも整備なのかなー?」
――なんたって僕、整備
背を向けながら、彼は謳うように言った。
「―――もう、いいんじゃない?」
「……いや、まだだよ。まだぼくには聞きたいことが」
「山ほどある」
セリフを先回りするように、希空君は言った。
「そうだねぇ…キミには聞きたいことがある。それはいま各国で起きている失踪事件だったりISの不備だったり。でも本当に聞きたいのは違うだろう? たとえば
「―――ッ、」
思わず、息を呑んだ。
そのせいで銃を持つ手が揺れて、狙いが定まらなくなる。
「…あぁそういえば、一年ほど前にパリ郊外で奇妙な火事があったよねー」
1年前。
そう、ぼくがすべてを失い、復讐を決意した日。
「あの時はたしか…そうそう、ネットで知り合ったある人と会う約束をしてて……で、そのあと…そうそう、“たまたま”火事が起きちゃったんだよねー」
彼はペラペラと『あの日』のことを話す。
上機嫌に、まるで自分の英雄譚を話すように。
「奇跡的に僕は助かったけど、あの人は本当にお気の毒だったなぁー…名前はえーっと…………ああ、思い出した! 齢65歳のフランス・デュノア社に所属していたIS研究者、ISシールドエネルギー物理学の権威にして初めて世界で『ISを学ぶ』つまり『IS』そのものを学問として提唱させた
―――――ロバート・シュレーダー博士、だったよね?」
―パシュっ。
その音を聞いたときには、もう遅かった。
「ッッッッ……!!!!」
頬に、灼熱の痛みが走った。
だがこれくらいは慣れてる。後ろの気配が徐々に荒ぶっていくのを感じながら、頬を掠めた銃弾が窓の施錠部分を貫通する様を見届ける。割れた音は小さい。今はほとんどが寝ているから気付く人はほぼ皆無と言っていいと思う。
こりゃー、ちょい刺激が強かったかなー…?
「……キミが、あの人の名前を口にするな…」
「いきなり銃をブッ放すようなじゃじゃ馬ちゃんには言われたくないかな。それに事故死した故人の名を呼ぶのは個人の自由じゃないかい?」
「………事故死?」
ゆらり、と。
後ろを向いているせいで視界には入らないが、『
「事故死……? 主犯であるキミがよくヌケヌケと言えたものだね……!!」
「主犯ー? おいおい勝手に犯人扱いしないでくれるかなー……僕はどちらかと言えば被害者だよ、まったくお気に入りの服が一丁台無しに…」
「あの施設には、監視カメラが仕込まれてたんだよ」
「………」
「…あとは、わかるだろう」
あの家に、つまりロバート・シュレーダーの施設に、監視カメラが仕掛けられていた。それはつまり―――
「…キミが博士を撃ったところも、ちゃんとカメラには映っていたよ」
「………はぁ」
なるほど。
なるほど、ね。そういうことか。
シャルシャルの発言で、これまでの疑問が一気に晴れた。
シャルシャルがここ最近、というか転校当初からピリピリしていたことも。
シャルシャルが秘密裏に学園内からのみ閲覧できる個人データを、わざわざハッキングして見ていたことも。
いまこうやって、銃を向けていることも。
というか、解ってはいたんだけどね。ほら、やっぱり本人から聞かないと納得しないことって、あるじゃない?
……でも、まだいくつか氷解していない問題もある。
そしてその総てに対して、違和感を感じる。
恐らく仕掛けたのは
「それで、キミはこのIS学園に来たと」
「そうだよ、デュノア社からの情報で織斑一夏のISのデータを盗み、個人サンプルを入手すること。そして…」
ガチン、と銃を揺らして僕の後頭部に狙いを定めるのがわかる。
っとおいおい…このままバキュンとか…割と話にならないかもー……?
「織斑希空、キミの殺害も今回のミッションに含まれる」
「ちょーっと待ってよ、僕の殺害は世界規模で禁止されている筈でしょーよ。それがフランスの独断だなんて世界に知れたら、フランスは世界にとって目の敵にされちゃうよー?」
「IS学園は基本的に情報が漏れない。言葉は悪いかも知れないけど、学園で不利益な情報は流さないらしいからね」
「すとっぷすとっぷ、それじゃあなんで僕がここにいるってわかったんだい? それに対しても同様に流していない筈なんだけどー?」
「……数ヶ月前、デュノア社から匿名の情報が来たんだ。『現在行方不明の織斑希空は日本、IS学園にいる』ってね」
「…そんな信用の無い情報で動くなんて、ナンセンスだねぇー」
「勿論、はじめはデマなんじゃないかって社内で処分されてたよ。でも、ぼくは『行く価値はある』って社内で進言したんだ」
「………なるほどねー」
解る。
その理論は解る。
情報統制が敷かれたIS学園に行くだけでも各国のISを調査することも出来るし各国に対して牽制の意味合いとしてフランス第二世代の実力を見せつけ、あわよくば学内の生徒達へのアピールにも繋がる。それに、世界初にして唯一の男性IS操縦士である一夏のデータサンプルを入手出来るのは最大の魅力。
行っても無駄になることはない。
そしてそこにたまたま、
となれば国政府単位で僕がIS学園にいると仮説している国はフランスのみ………いや、
しかしバレるのが早い……もう少し時間を稼げると思ったんだけど……ふむ、案外フランスに泳がせたという線もある、かー。
今回のデュノア社及びフランスの決定はあまりにも無謀。でも、『織斑希空が自国の貴重な研究者を一人殺した』ことに関しての証拠を掴んだとなれば、それを口実に僕への殺害権限を世論的に得ることが出来る……ねー。
いささか強引ではあるけど、体面上動機としては十分か。
「まったく……ここまでストーカー並みに追いかけ回す一般人は初めてだよー」
「……まるでいままで追われていたみたいな言い方だね」
「
「……この状況でも、逃げることを考えてる?」
「勿論、だって」
さて、そろそろはじめよーか。
織斑希空の、手練の逃走劇を。
数ヶ月前の、再開だ。
僕は振り返りながら、脇に挟んでいた松葉杖の取っ手を右手で握り、構える。
そう、まるでマシンガンを構えるような持ち方で。
松葉杖の先を、S&W M500を構えるシャルシャルに―――――否、
敵 シャルロット・デュノアへと向ける。
「僕が、博士を殺したんだからね」
「――――!?」
怒りと驚愕を混ぜ合わせたような、端正な顔を歪めたシャルロットに向けて。
僕は引き金を引いた。
さて、いよいよシャルルVS希空の戦いです